第697話 めぐみはそんなのに気付かない

「めぐみ、いつまでゲイルくんの魂を持ってるの? いい加減腐るわよ」


「だって、だって・・・ 嫌なんだもん」


「それはわかるけど、腐っちゃったら元もこもないでしょ? 記憶が消えても前みたいに思い出してくれるかもしれないじゃないの」


「だって、あの時もどうして思い出してくれたのか解んなかったじゃない」


「ゲイルくんなら大丈夫よ」


「今度は違う気がする」


「どうして?」


「だって、最後まで呼んでくれなかったじゃない。私に見せた最後の顔があんなに辛そうな顔だったじゃないっ! もう絶対に思い出してくれないのよきっと。うわぁーーーーん」


めぐみはゲイルの魂をずっと手に持ったまま離さなかった。めぐみはゼウちゃんに怒られるからこっそり調べて人間と同じ身体になり、ゲイルにいつ求められてもいいようにしていた。それはゼウちゃんも知らない。


ゲイルは汚魂駆除の時を除き、ずっとシルフィードと一緒にいたからそうなることはなかったのだ。



「おいっ、あいつは次にいつ生まれ変わらせるんだ? もう死んでからずいぶんと時間が経ってるだろっ」


いきなり星を作りしものがめぐみの世界にやって来た。


「何勝手に人の所に来てんのよ、カス」


「カス? なんだそれは?」


「あんたの名前よ」


「それよりいつ・・・・ あーっ、何持ってんだよそれ。あいつの魂だろうが。さっさと生まれ変わらせろっ。腐っちまうだろうがっ」


「嫌っ! 記憶を消さっ消さないと・・・  うわぁーーーーん、どうしてもいやーーー!」


ぐすっぐすっ


泣き叫ぶめぐみに意味がわからない星を作りしものカス


代わりにゼウちゃんが事情を説明する。


「なら、一回消して、必要事項だけ再インストールしてやるからさっさと生まれ変わらせろ。あいつには俺の所のやつを増やしてもらわにゃならんのだ。何回生まれ変わってもうちのと子供を作らんと思ってたら、他の魂とがっちり繋がってたのか。今時珍しいぞ」


「どういうことかしら?」


めぐみとゼウちゃんは前にゲイルの記憶が戻った真相を初めて聞かされる。


「そんな事していたの?」


「あぁ。あと、あいつの関わった魂は壊れずに昇華しやすい。もう少しで俺達の仲間が生まれるぞ。だからこいつにはまだ生まれ変わって貰わないとダメなんだよっ」


「でも、繋がってた魂が昇華したことで魂が壊れ掛かってるの。記憶を持ったまま生まれ変わらせたら本当に壊れちゃうかもよ」


「まだいけるだろ?」


「いえ、ゲイルくんなら自分で壊すかもしれないわ。約束をしたのに守ってくれなくてめぐみを恨んだりしたらどうしてくれるのよっ」


「ぶちょーが私を恨む・・・?」


「あんなに必死にあなたに願ったのよ」


「嫌っ、恨んでなんか欲しくないっ」


「でしょ? だから、約束通り記憶を消してあげなさい」


「それも嫌ーーーつ」


また泣きじゃくるめぐみ。


「ちっ、その繋がってた魂と離れたのが原因だろ? じゃあ、その魂と関わってた履歴だけ消してやる」


「ダメよっ、ぶちょーがあんなに大切にしてた物を消したらぶちょーがぶちょーでなくなっちゃうかもしれないじゃないっ」


「じゃ、何か良い方法あんのかよ?」


「細かく消せたりするのかしら?」


「どんなのだ?」


「繋がってた魂を失った辛さだけ消す事は出来るのかしら?」


「多分な。少し時間が掛かるから持って帰ってからやる。但し、条件がある。うちのやつと子供を産ませろ」


「えっ? ラムザと?」


「ラムザかどうかは知らんが魔王と呼ばれてるやつだ」


「ラムザとぶちょーが営むの?」


「そうだ。それが条件だ」


「嫌っ」


「何でだよっ」


「わっ、私が営んでないのにっ、ラムザと営むなんて嫌っ」


「はぁーーー?  何言ってんだおまえ。生物と俺らが営めるわけないだろっ」


「ちゃんと出来るようにしてあるもんっ」


「ちょっとめぐみ、あんたまさかっ・・・・ あーーーーーっ、あんた何やってんのよっ! 私達性別ないのよっ。そんな事をしてどうにかなったらどうすんのよっ」


「あーーーーっ、わかった。全部なんとかしてやるっ。だがな、うちの星とのやつに子供が出来てからだ。それまで待て」


「えっ? 出来るの?」


「今の条件を守るならな」


「わかった!」


「ちょっとちょっと、めぐみっ」


「はい、じゃ宜しくね♪」


めぐみはニコニコしながらゲイルの魂を渡した。


「おい、お前はゼウちゃんでいいんだな?」


「そうよカス」


なんか嫌な響きだな・・・


「お前の星がやり直しになるがいいか?」


「どういうことかしら?」


「こいつは他の魂と結び付きが強いから壊れかけてんだよな?」


「そうよ」


「じゃ、リセットの代わりに魂の結び付きがない世界に一度送ってそれを絶ち切る必要がある。そうしないと記憶の一部を消してもまた育つ迄に繋がりが出来るかもしれんからな」


「それが私の星と何か関係あるのかしら?」


「お前の星に生まれ変わらせて育った所で俺の星に召喚する。その時に一部を消した過去ログをこいつに再ダウンロードするのが一番上手くいくはずだ」


「私の所でも繋がり出来るんじゃないかしら?」


「だからお前の星の時間を進める。この前滅びた星と同じ発展をするはずなんだ」


「え?」


「お前の星の発展は今がピークだ。この前滅びたところと全く同じ道をすすんでるからな。お前がうんと言えば今すぐにやる」


「よく解らないけど別に良いわよ。そんなに未練もないし、お供えとかはゲイルくんの所から届くから」


「じゃ、やるぞ」


ピピピピピピ・・・・・・・・・




「ふぁーーぁ、この星を作ろうってのは結構面白かったな。次はあのエイブリックって奴を選んでもう一回プレイしてみるか。あのゲイルってやつはしんどそうだからパスだな」


こんな事を呟きながらポリボリと栄養剤をかじる青年。



ここは元啓太の居たゼウちゃんの星。


時間を進められ、滅びの一歩手前の世界。


生物同士の営みはなく、全て人工授精で選りすぐられた遺伝子を持つものだけが子孫を残す。食事は全て完全栄養剤。自ら努力して勉強をする必要はなく、全てがインストールされていく。美味しい食事や楽しいイベント、気の合う仲間などは全てバーチャルですませられる。親子関係や他人と触れあうことはない。


ゲイルの魂はここに転生させられていた。



「何これ?」


「あぁ、魂が汚れる事もないが何にも面白味のない世界だ。俺達の所と変わらんな。ただ存在するだけの世界だ」


「もうこれぐらい育ったら召喚していいな」


「うんっ。なんとなく初代ぶちょーに似てるし♪」


「じゃ、俺の星の奴に召喚魔法を使うように伝えろ。あいつなら一人で使える。俺はここでちゃんと召喚されるか確認しながら過去ログを再インストールする。ちゃんと昇華されたのは悲しみや辛さでなく、祝福という感情に変えてあるから心配すんな」


「前の時には2年以上掛かったんでしょ?今度はもっと掛かるんじゃないかしら?」


「あいつの星がクソだから時間が掛かったんだ。俺の所のなら一瞬で終わる。あいつの所と一緒にすんなっ」



「あーだりっ。何が運動も必要だ。これも自動でやってくれりゃ歩くなんて不効率な事をしなくて済むのによっ」


バーチャル世界から戻った青年は少し歩くだけで不満を持っていた。


「星を作ろうみたいな所だと歩いたり走ったりするの平気なのに、現実は面倒だな」


ブオン


(えっ?バーチャルで見た魔法陣? 俺セット外した・・・・)


「うわぁぁぁぁぁぁっ」


「おぉーーっ、これが新しいゲイルか。ずいぶんとひ弱になったな。しかし、匂いはゲイルだ」


「やったーーーっ! 成功よ。ラムザえらい♪」


(なんだ? 魔王・・・・?  ダメだっ。怖いっ足が震えるっ)


ラムザを見てガタガタと震える青年。


「むっ、やはり記憶が無いと我を恐れるのか・・・ 少し寂しいぞ。魂に楔があるんじゃなかった・・・のか?」


こいつは何を言っているが解らないが、なぜ俺を見てそんな悲しそうな顔をする?


キュッ


えっ? 俺はなぜ胸が痛む? こんな悪魔みたいな奴に・・・


「楔があるのに忘れたっちゃ?」


ズキュン


はうっ・・・


(なんだ? 何を言っているか解らないがみょうにこいつが可愛く・・・)


恐怖で震えていた青年の顔がポーと不抜けた顔に変わっていく。



「ぶちょー、ぶちょー、ねー、もう記憶が戻ったの?」


「まだではないか? めぐみの事は見えておらんみたいだぞ。それにやはり魂は我を覚えておったようだな。あの顔は我に発情した顔だ」


ラムザは勝ち誇ったように笑い出す。


「ちょっとーぶちょー、えいっ」


ぺろん


「わっ、いきなり可愛い娘が・・・」


めぐみを見た青年は訳もわからず涙をほろほろと流し出した。


あれ? 俺は何で泣いてんだ?


「ちょっとぶちょー、何で私を見ていきなり泣き出すのよっ」


「お前どこ行ってたんだよっ。最後の言葉も直接伝えられなかったじゃないかっ」


「え? ぶちょー、記憶戻ってんの? 戻ってないのどっち?」


青年はめぐみを抱き締める。


「俺は俺はっ お前と会えて・・・」


ガクン


突如として意識を失う青年ぶちょー


「えっ? 何? どーしたのぶちょー?」


ピコン


「ダウンロードが完了しました」



「はーーーっ、ヤバかったぜ。あいつ自力で記憶を呼び覚ましやがった」


「え? どういうことかしら?」


「あのアホを見て自分で記憶を掘り起こしやがったんだよっ。どこまで深く魂にあのアホの事を刻み込んでやがったんだ」


「え? 記憶のダウンロードは成功したのかしら?」


「わからん・・・ ダウンロードで上書き出来たのか出来なかったのかこれから解る」



しばらくして青年ぶちょーは目を覚ます。



「おい、めぐみ。これはどういうことだ?」


「あっ、ぶちょー。俺はお前と会えての後なんて言ったの♪」


「そんな事は聞いてない。俺は記憶を消してくれと頼んだよな? なぜ記憶がある? ここはラムザの星だろ? それにこの身体はなんだ? 見覚えが無いぞ」


怒りを抑えて淡々とめぐみに詰め寄る元ゲイル。めぐみには怒鳴る前に一呼吸おくと決めていたのだ。


しかし、めぐみがそんな事に気付くハズもなく、元ゲイルが怒ってないと判断して嬉しそうに何をしたかべらべら話し出した。


「ほう、それで俺はここにいるんだな? 記憶を持ったまま」


「そう♪」


「アホかっーーーー!!! 何勝手に人の記憶をいじくってくれてんだてめーはっ」


魔界に青年ぶちょーの怒鳴り声が響き渡ったのであった。


もちろんめぐみは正座だった。




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