第695話 そしてまた始まる

「そんな事になってたのか。お前の事だからてっきりこっちの時間のことなんか気にしてないと思ってたわ」


めぐみの説明ではどうにも理解出来ず、ゼウちゃんにも来てもらって詳細を説明してもらったのだ。


今の俺はシルフィードとラムザとめぐみに取り合いをされている最中だ。


女神ズにはミグルとアルの魂を触って見えるようにしてもらった。アルはめぐみを見ていっぺんに機嫌が直ってしまった。やっぱりエイブリックの息子だな。


「でも良かったわ。めぐみが壊れちゃうんじゃないかと心配してたの。ゲイルくんが留守電に残したメッセージを何回も何回も聞いてずっと泣いていたのよ」


「ゼウちゃん言わないでっ」


そうだったのか。めぐみが悲しがってくれた事が少し嬉しかった。「あっ、いつの間にか死んでる」とかだけで終るかと思ってたからな。


「ゲイル、めぐみさんに死ぬ間際にメッセージ残してたの?」


「えっ? あぁ、まぁな。こいつが居たら俺の記憶を消さないかもとは思ってたけど居なかったら消えると思って最期の挨拶をしただけだ」


「ふーん」


なぜ女の勘は鋭いのだろう?


「ねぇ、ぶちょー。あれ良く聞き取れなかった所があるんだけどなんて言ってくれてたの?」


「あー、なんかその辺の記憶が曖昧なんだよね。全部記憶が甦ってる訳じゃないみたい」


記憶が消えてたのは事実だから実に都合の良い言い訳が出来る。お告げと同じ使い方をしよう。


「我は横で聞いてたからな、ゲイルはあの時・・・」


「だぁっ! 止めろっラムザっ。こうして再会したのに、最期の言葉なんてどうでもいいだろっ」


「ねぇ、ゲイル。どうしてあの時にラムザが居たの? 兄弟だけで飲みに行ったんだよね?」


「いや・・あの、ジョンとベントがラムザに会いたいと言ってね・・・」


俺は何にも悪いことをしていないのに、同僚にキャバクラへ無理矢理連れて行かれた時の事を思い出す。挙げ句にそいつら嫁さんにバラしやがったからな。


「ラムザへの最期の言葉はなんだったの?」


「来世でまぐわう約束の確認だ。それを楽しみに死ぬから大丈夫だとな」


止めろっ!


「あーーっ、そうだっ。なんて約束をしてるのよーーーっ!」


あー、生まれ変わるんじゃなかったかも・・・


さんざんシルフィードに詰め寄られた後、俺は記憶喪失を演じるしかなかった。アーノルド譲りの大根役者だからバレてるとは思うけど。


ラムザは良く出来た女性で、怒るシルフィードを見て、そうか忘れてしまったのなら仕方がないと引いてくれた。後でこそっと次でも良いぞだって。


ちょっと皆に席を外してもらってめぐみとゼウちゃんにシルフィードの魂の確認をする。


「なぁ、シルフィードの魂って、俺の嫁さんの魂だよな?」


「そうなの? 知らないわよ」


「気になるならちょっと履歴を見てきてあげるわ」


そう言ってゼウちゃんはシルフィードの魂を見に行った。キャッとかシルフィードの声が聞こえたから無言で見たのだろう。


「本当ね、私の所に居た履歴が残ってたわ」


「エルフの魂はエルフにしか入らないんだろ? なんで人に入れたんだ?」


「それは昔の話よ。バージョンアップして入れるようになってるの」


「バージョンアップ?」


「何か修正とかあると星のバージョンアップをしないといけないのよ」


「何よそれ?」


「めぐみはやってないでしょほら、あれだから」


「あー、あれだしね」


「そうそう。でも別に問題ないみたいだからいいのよ」


「だから何よっ?」


「問題無いそうだから大丈夫だ」


「そっか、問題無いのね♪」


うん、お前はそれでいい。


「あと、時間軸ってどうなってんの?」


「基本は同じように流れてるんだけど、バージョンアップの時に止まったりしてそれを埋める為に後で進めたりしているみたいだから、ズレたりするみたいよ。今回みたいにゲイルくんの魂を消す為に時間を早送りしたりとか。なんか色々勝手にやるみたいだけど、よっぽど毎日ずっと見ていないと数十年ぐらいのズレは私達気付かないしね」


まぁ、ゲームみたいな世界だとそういうことも出来るんだな。


「で、ここから持って行った魂がまた戻ってきた事になるんだね?」


「勝手に持っていくのは禁止だからバレないように誤魔化したやつかもしれないわ。うちから行った魂の数合わせで貰ったりしてたから。それがどれかはわからないのごめんなさいね」


「いや、向こうに行ってた事が解っただけで十分だよ」


まぁ、間違いなくシルフィードの魂は風香かおりだ。それが確認出来ただけで十分だ。



皆の元に戻ったらゲイル復活の知らせをする事に決まったようだ。チルチルやミーシャ達も呼んで来られてたので、次々に泣きながら抱き締められた。


チルチルは俺が死んだ後にすぐに元の旦那と再婚し、自分が俺の生まれ変わりを産めるんじゃないかと子供を作ったらしい。


「産むんじゃなかった・・・」


それダムリンのオカンの言う台詞だ


「お前なぁ、そんな事を言ってやるなっ!」


「嘘よ。子供は可愛いから。それに親子より血の繋がりが無い方が私が甘えられるもんっ」


「冗談でも言って良いことと悪いことがあるんだっ」


俺がそう叱るとチルチルは泣き出した。


「本当にゲイルだっ。お帰りなさいっ」


昔俺に叱られたのを思い返したのだろう。よしよししてやろうと思ったらよしよしされてしまった。



アルとミグルには悪いことをしたと思う。自分達の子供が可愛いい盛りにいなくなってしまったんだからな。


「ねぇぶちょー」


「なんだ?」


「だし巻き玉子作って♪」


「まだこの身体じゃ無理だ。あと3年くらい待て」


「えーっ。じゃあ頭は?」


「それも無理だ」


「ケチッ」


こいつ・・・



夜になるとアルが寝たのを確認してミグルが乳を与えようとする。


「やめろっ、もうとっくに断乳している歳だろ?」


「良いではないか。お主はケイタでもあるのじゃぞ。記憶が戻らなんだら3歳ぐらいまでは乳を吸うておったはずじゃ。今の王がそうじゃったからの」


そんな事をしてたからのほほん王になったんじゃねーのか?


「ワシはの、嬉しくもあり、誇らしくもあり、悲しくもあるのじゃ」


あー、悲しいのは申し訳ないな。突然子供が子供じゃなくなったからな。


「嬉しいのはちゃんと愛する人との子供がここにおることじゃ。誇らしいのはそれがゲイルの生まれ変わりであったことじゃ。悲しいのは・・・」


むぐっ


ミグルは服を開いて俺を胸に押し付ける。


「悲しいのは初恋が永遠に実らぬことじゃ。こうして乳を吸われても子供に吸われてるとしか感じん。お主がゲイルと解っていても親子とは不思議なもんじゃの」


それはこうして初恋に似た人の胸を押し付けられてても何も感じない俺にも分かる。意識として恥ずかしくは感じるが興奮するとかはない。これは母の胸なのだ。まぁ、身体も2歳児だからムラムラするとかはない。ラムザも俺を胸に押し付けても発情しない俺に愕然としていたからな。


それ以降ミグルは俺に胸を押し付て来ることはなかった。チルチルに口からミグルの臭いがすると言われて焦ったのはシルフィードとアルには内緒だ。


マリアがやって来てひとしきり泣いた後、「まだぼっちゃま、おっぱい吸うんだよね? はい」とぺろんと出された時は焦った。


「もうそんな歳じゃないからね。けっこうです」


と断っておいた。


チルチルも対抗して出すのやめなさい。


シルフィード、君とはそのうちそういう関係になるんだから張り合わないのっ。



3歳になったらダンに「鍛え直しだ」と言われて身体を昔のように鍛えさせられていく。爺さんなのにゆっくりしろよ。


ドワンは船の操縦だけすればええと大物釣りに釣れまわす。酷い話だ。


ミーシャはニコニコしながら日向ぼっこをするおばあちゃんになっていく。ほっとする匂いだ。ミーシャの所に来てはお互いに甘え合うような関係になっている。


5歳になって昔みたいに鍛えられた時にダンが逝った。


「ぼっちゃん、後は自分でてきんだろ?ずいぶんとミケを待たせちまったからそろそろ逝くわ」


ダンの最期の言葉はこれだった。俺をある程度鍛えるまで頑張ってくれたのかと思うと涙が止まらなかった。


めぐみが魂をポケットに突っ込んで持っていってくれたから大丈夫だろう。あいつのポケットは大事な物をいれる場所だと納得するしかない。


俺の記憶が戻ってからめぐみはほとんどここにいる。


「ねぇ、まだ作れないの?」


と俺の首に手を回してくっつき日々聞いてくるのだ。


シルフィードは俺が甦った時にめぐみが泣きじゃくって抱き締めるもんだから焼きもちを焼いてたみたいだが、目的が飯や洗髪だと解って気にしなくなった。


俺は日々めぐみに憑かれてるのをうっとおしいから離れろとは言っていたが嫌ではなかった。不思議なもんだ。



そしてまた見送る日々がくる。


アルがミグルを頼むけどお前にはやらんと言い残して逝き、ジョンとマルグリッドはアーノルド達のように仲良く逝った。アーノルドと同じくマルグリッドを待ってやったようだ。お前を守ると言った約束をちゃんと果たしたのだ。


ベントは最期の言葉がラムザに「ちょっと触っていいかな?」だった。俺の送りの言葉は「触わんなっ」だった。俺を悲しませない配慮だったのか本気だったのか解らないけど。



そして・・・


「ミーシャ、お前、俺の子供見るんじゃなかったのかよっ」


「ぼっちゃま、頑張ったんですけどね、もう無理みたいです。エヘヘヘ」


そう言い残して俺の腕の中で逝った。


「おやっさん。おやっさんはずっとこんな思いを繰り返してきたんだね・・・」


「仕方があるまい。人族とドワーフは寿命が違うんじゃからの」


それは解ってても辛いのは変わらない。

俺はあと何回生まれ変わったらドワンをお返しに見送ってやれるだろうか。



俺は成人してすぐにシルフィードと結婚した。


「ゲイル、なんだか照れ臭いね」


「本当だな」


もう何度したかわからない祝福でなく、ちゃんとキスをして、初めての夜をシルフィードと迎えた。


めっちゃドキドキする。


「な、なんか怖いな・・・」


初々しいシルフィードがもう可愛くて仕方がない。若い将軍が暴れまくっている。


タタターン タッタッタターン♪


いざ!出陣っ!



「ねぇ、ぶちょー、何してんの?」


「きゃぁぁぁっ!」


ワナワナワナワナワナワナワ


「めぐみーーーっ! てめぇ何してくれてんだっ! そこに座れっ」


将軍が落馬した後、正座するめぐみにこんこんと説教をした。



「うわぁーーーーん、ゼウちゃん、ぶちょーが怒ったーーっ! 甦ってからずっと優しかったのにーーーっ」


「あんたねぇ・・・ ゲイルくんが怒るの当たり前でしょ?」


ゼウちゃんは生物の営みの事をめぐみに教えていく。


「別に私が居たってすればいいじゃない」


ブスッとむくれてそう言うめぐみ。


「そういうもんじゃないのっ。あの二人が一緒にいる時はおじゃましたらダメよ」


「だってそんなことしたらぜんぜん行けなくなるじゃない。ずっと一緒にいるんだから」


「じゃ、呼ばれた時だけ行きなさい。ずっとあっちに居すぎなのよ」


「たって、また死んじゃうかもしれないじゃない」


「ここで待ってたらそれも分かるでしょ?」


「それはそうだけど・・・ ぶちょーはその営みをしたいんだよね?」


「そうよ」


「前の時はそんなのなかったじゃない」


「もう踏ん切りが付いたんでしょ」


「ラムザもするって言ってたような気がする。なんの事か今聞いて解った」


「別にゲイルくんが誰としようと良いでしょ。ラムザも星は違うけど生物なんだし」


「じゃ、私もする」


「無理よ。私達のこの身体はそんな風になってないでしょ?」


「変えたらいいじゃない」


「変えてもダメよ。星の生物とそんな事をするのは禁止なの。星にどんな影響が出るかわからないわ。前みたいにゲイルくんが消えちゃうかもしれないわよ」


めぐみはゼウちゃんに諭されてもむくれたままだった。









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