第694話 再び

しかしなんだあいつの星は?一度もアップデートしてないじゃないか。どうりで時間が掛かると思った。


あとなんだこれは? ずっとローディングしたままのスキルが引っ掛かって他のも引き継げてないじゃないか。何をやったんだ?


えーっと・・・


あっ、召喚特典スキルを奪ってやがる。しかも改変して・・・ これが原因だな。デリー・・・ いや、これを改変して奪ったのは何かしようとした理由があるのかもしれん。ちっ、仕方がない。プログラムを組み換えてやるか。


だーーーっ! なんであいつの星は何をするのにもこんなに時間がかかるんだっ。いっその事こっちで勝手にアップデートをして・・・ いや、アップデートしてないからこそこんな状態になっている可能性も否定出来ん。バグの修正バッチを当てたら他星と同じになるかもしれんから迂闊にやるのはまずい。ちっ、このままやるしかない。


だーーっ!さっさとダウンロード終われよっ。


星を作りしものはめぐみの星の処理能力の遅さにイライラが爆発していた。



「ねぇ、授乳期間ってとっくに過ぎてるよね?」


「ん?そうじゃな」


「なんでまだおっぱいあげてるの?」


「うはははは。ゲイルはワシの乳が好きなのじゃ。最近では吸う以外にも舐めるのじゃぞ。これがまたなかなか・・・」


「なんか嫌っ! おっぱいあげながらゲイルとか呼ばないでっ」


「シルフィードに嫌という権利はなかろう。これはワシの子なんじゃからの」


「貸してっ! 私が抱く番なのっ」


ミグル達がエデンに引っ越して来たあと、ミグルとシルフィードはケイタをよく取り合っていた。


「懐かしい光景だな」


「あぁ、昔もずっとこんなんじゃったな。ほれみろ、ケイタがうんざりした顔をしておるわい」


「まったくだな」


カッカッカッカ




「あーーっ! またおっぱいあげてるっ」


「仕方がなかろう。ケイタが欲しがるのじゃ」


「ほう、ケイタは乳が好きなのか。どれ我の乳も好きか試してみようか」


「ダメっ! なんでラムザのおっぱいを吸わせるのよっ」


「少しぐらいいいではないか。ミグルの寂しい乳より喜ぶかもしれんぞ。ケイタはゲイルと良く似ているからな。これはゲイルなのだろ? 同じ匂いがするからすぐにわかったぞ」


「なんで俺とミグルの子供がゲイルに似てるんだっ! それにゲイルの匂いなんてせんっ」


アルは自分の子供がゲイルと似ていると言われて憤慨していた。


「貴様の種かもしれんが、ケイタの魂はゲイルだ。シルフィードもそう思ってるのだろ?」


「う、うん・・・」


「お前らはまだそんな事を言っておるのか?」


「だって・・・」


「それならばそれでもよい。ほれ、ゲイルがワシの乳を嬉しそうに揉みながら吸うておるわ」


「止めてよーーーっ! もう断乳しなさいよっ」


2歳を過ぎてもミグルのおっぱいを嬉しそうに吸うケイタを見て、シルフィードの嫉妬心が燃え上がる。


「おっ! ケイタはテクニシャンじゃのぅ」


「やめてって言ってるでしょーーーっ!」


「ほう、ゲイルはテクニシャンなのか。どれ我にも貸してみよ」


「ラムザっ! こんな所でおっぱいを出そうとしないでっ!」


「ふふんっ、我はゲイルと約束をしたのだ」


「なんの約束?」


「生まれ変わったら我とまぐわう約束をしたのだ」


「なっなっなっなんですってえぇぇぇぇ」


「そう怒るな。結婚してくれとか言わんから安心せよ。我はゲイルの慈悲と子を持てればそれで良い。結婚はシルフィードとすれば良いではないか」


「そんな問題じゃなーーーいっ!!!!!!」



「坊主はなんちゅう約束をして死んで逝きおったんじゃ?」


「ぼっちゃんは前世の記憶があったからずっと我慢して誰ともそんな関係にならなかったろ? 次はもういいかと思ってたんじゃねーか? ラムザの本来の姿を見て綺麗だと言ったらしいからな。だからそんな約束したんだろ」


「本来の姿?」


「あぁ、角と牙が伸びてコウモリかドラゴンみたいな羽があるんだ。まさに魔王って感じで俺はブルッちまった。でもぼっちゃんはそっちの本来の姿の方が好きなんだとよ」


「あいつは変態じゃったからの」


「カッカッカッカ。そうだな。人の嫁さんになったミケの匂いを嗅いでたぐらいだからな」


「そんな事までしておったのか? 呆れたやつじゃ・・・」



「めぐみ、あんたよくそんなに泣き続けられるわね?」


「め、めぐみ、お前と・・会え・・・サヨ・・ナ・・ラ・・・・・・・」


ピーーーー


めぐみはゲイルの残した留守電に気付き、それを毎日毎日再生していた。


声が途切れ途切れになって、自分と会えてどうだったのか聞き取れない。でも死ぬ直前に自分にメッセージを残してくれたのがとても嬉しかった。でもこの声を聞くのは悲しい。嬉しいと悲しいがめぐみを交互に襲う。


「ぶちょー、ぶちょー うわぁーーーーん」


留守電を聞いてはめぐみは泣いていた。


(もう、ゲイルくんも罪な事するわよね・・・ さっさと思い出してあげないとめぐみが壊れちゃうわよ)




ピッ ダウンロードが完了しました。


ふぅ、ようやくか。まさかログを再インストールするのに2年以上掛かるとは思わんかったぞ。


しかし、これで問題無しだ。ようやく俺の星の原初の一体と子を生ませてくれるだろう。こいつはあいつの星で子孫を残そうとしなかったから、ちょいとこっちに合わせていじくったけど問題ないだろうしな。


ゲイルの魂は星を作りしものに少し改良された上で元のログを再インストールされたのであった。



「ほれ、ゲイルよ。ワシの乳を好きにすれば良いぞ」


「だからやめてって言ってるのにっ!」


ん? ・・・なんだこの口の中にあるふにゅふにゅした物は・・・? なんか懐かしいような それでいて嬉しいような・・・


ハッ。 こ、これは・・・・ もしや?


ほれほれっ、もっと吸うが良いぞとか言ってるこの声は・・・


ミグル?


まさか、こ、これはミグルのおっぱいか?


ちらっとふにゅふにゅした物を口から離して恐る恐る上を見上げて見るとやっぱりミグル・・・


「ミグル貸せっ! お前までケイタをゲイルとか呼ぶなっ!」


アルはケイタをミグルから取り上げた。


(もしかして俺はアルとミグルの子供として生まれ変わったのか? 身体も小さいし・・・。しかし、生まれたての赤ちゃんではなさそうだ。アルってもう爺さんだったよな? これどんな状況なんだ?)


「なー、ケイタ。お前はケイタでゲイルなんかじゃないよなぁ?」


ちらっと辺りを見渡すとシルフィード、ダン、ドワン、ラムザまでいる。


なんかシルフィードがめっちゃ怒ってるけど・・・。


「ケイタはケイタだ。なっ?」


なんとなく状況が理解出来て来た。シルフィードやラムザは俺の魂が生まれ変わったのに気付いて俺をゲイルと呼んだ。アルはそれを信じずに俺をケイタと呼ぶ。啓太の事を知っているのはミグルだけ。俺は間違いなくアルとミグルの子供として生まれ変わったのだろう。


なぜ記憶が残ってるのか、なぜそれが今になって甦ったのかわからんが・・・ いつまでも隠し通せるもんじゃなさそうだな・・・ 俺をケイタと何度も呼ぶアルには申し訳ないが・・・


「なー、ケイタだよなぁ?」


「すまん、アル。俺だ」


ごとん。


アルは俺がそう言ったら青ざめて俺を床に落っことした。その際に頭をしこたま打って気を失ってしまった。


「きゃーーーっ。ゲイルううぅ」


シルフィードが慌てて治癒魔法を掛けた。



「まさか本当にぼっちゃんだったとは・・・」


俺は泣きじゃくるシルフィードにぎゅうぎゅうと抱き締められながらダンに事情を聞く。


「ダン、俺が死んでからどれぐらい経ってる?」


「2年ちょっとだ」


「俺の歳はいくつだ?」


「2年ちょっとだな」


死んですぐに生まれ変わってたのか・・・


「ぼっちゃん、生まれ変わって記憶があったならすぐに知らせろよ。そしたら皆あんな思いせずに済んだのによ。ったく。ミグルのおっぱい吸いたいから黙ってたんじゃねーだろうな?」


俺はミグルのおっぱいを授乳期間を過ぎても嬉しそうに吸ったり揉んだり舐めてたそうだ。さっきはその最中だったのか・・・


「とんだ変態じゃの」


「今、記憶が甦ったんだよっ」


「ケイタっ!」


「なんだよアル?」


「ミグルを返せぇぇぇぇっ」


むぐっ・・・


俺はミグルの感触をアルの乳で上書きをされてしまう。


べっべっ


「やめろアルっ! 加齢臭のする爺の乳を押し付けるなっ」


「かっ、加齢臭・・・」


ごとんっ。


痛ってぇぇぇ。子供を落っことすなよっ。


年寄りの匂いは嫌いではない。なんかほっとするからな。しかし、こう言っておかないとまたやるかもしれん。


頭に出来たたんこぶを自分で治癒魔法で治す。


「きゃあっ、ゲイルっ。ブツブツ」


「大丈夫だシルフィ。もう自分で治した」


「えっ? もう魔法使えるの?」


「あぁ、身体以外元通りだからな」


「ケイタ・・・ いやゲイルよ。一体何がどうなっておるのじゃ?」


「俺にもさっぱりわからないんだよね」


「女神さんに聞いてみればいいんじゃねぇか?」


「あいつはまだ戻ってないだろ?」


戻ってたら生まれたての俺にだし巻き玉子作れとか言いに来るだろうからな。


「めぐみさん、ゲイルが死んだ一週間ぐらい後に来たよ」


なに?


「おい、めぐみっ。どういうことか説明してくれ」



「うわぁーーーーん、ぶちょーーーー」



「おい、めぐみっ。どういうことか説明してくれ」


「えっ?」


「めぐみ。戻ってんだろ?」


「ぶちょー・・・ ぶちょーが呼んでるっ!」


「ちょっ、ちょっとめぐみっ。あんた本当に壊れちゃったんじゃないの?」


「行って来るっ!」



ポン


「めぐみ、どういうことか説明して・・・」


「うわぁーーーーん。ぶちょーーーーっ 」


めぐみは俺をシルフィードから奪いさり抱き締めて泣きじゃくった。


なんか、ずいぶんと久しぶりなのにそんな気がしないのはなぜだろう?


ふっ、まだリンスの匂いさせてんのか。


ゲイルは泣きじゃくるめぐみをよしよしして落ち着くのを待ってやったのであった。

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