第692話 お別れの挨拶

くっ、身体が動かん・・・ しかし、諦めるな。めぐみは言った。前の時は死を受け入れたから予定より早く死んだのだと。諦めなかったらまだ持つ。せめてシルフィードにちゃんと伝えないと・・・


ラムザは何度も揺さぶるが全く反応が無くなってしまったゲイルを抱き上げて皆の元に歩き出した。


あー、ラムザの匂いだ。俺の顔にポトポト落ちてんのは涙か? 凄く苦くてしょっぱいぞ。そんなに悲しむなよ・・・



「ゲイルーーーっ!」


シルフィードが半狂乱で叫んでいるのが聞こえる。


ラムザはゲイルをベッドに寝かした。


シルフィードは懸命に治癒魔法を掛ける。まだゲイルは息をしているから死んでない。しかし、治癒魔法が効かないのは昔の感覚で理解してしまった。


「めぐみさんっ!  めぐみさんっ! 助けてよっ。ねぇーっ、ゲイルを助けてよーーーーっ!」


しかし、めぐみからの反応は無かった。


「ゲイルっ」

「ぼっちゃん」

「坊主っ」


仲間達が次々とゲイルの元に駆け込んでくる。ジョンとベントが皆に知らせに行ってくれたのだ。


「起きろよっ! 俺に見送らせんじゃねーーっ」


「ぼっちゃまっ。ミーシャより先に逝くなんて許しませんっ。目を、目を覚まして下さいっ」


「坊主っ! 何を寝くさっておるのじゃ!はよ起きんかっ」


皆が早すぎるゲイルの死を受け入れずに懸命に呼ぶ。


くそっ、声は・・・ 声は聞こえてるんだっ 動けっ!  頼むからもう少しでいいからっ!


自分を鑑定すると魔力は残り魔力はまだ0000だ。絶対に1万以上残っているはず。


ゲイルはこのまま魔力が自然に減って死ぬより、残りの魔力を身体強化に使うことを選んだ。強化すれば動くかもしれないから。


身体強化をすることで少し身体に力が入る。が、まだ足りない。


そうだっ、魔法で指輪を外せば・・・


ゲイルは念動魔法で指輪を外していく。


「ゲイルっ?  ゆ、指輪が・・・」


ゲイルの指輪が外れた事により一気にゲイルの身体が強化されていく。


「うおっ」


ほんの少し爆風のような物が皆に降りかかる。


どんどん皆にも分かるぐらいに光輝いていくゲイル。


「シ、シルフィ 」


「ゲイルっ! 意識が戻ったのねっ 良かっ・・・」


「ごめん もうこれが ・・最後のち からなんだ・・・。みな にちゃんとお別れを・・・話せる間に」


「わかった ・・」


「お、おやっさん・・・ 俺を息子のように 可愛いがって くれてありがとう。それにわがままをたくさん聞いて くれて」


「何を言っておるんじゃっ。まだまだ聞いてやるからどんどんわがままを言えっ。ワシが何でも作って・・ やるわい」


「ダン・・・ 見送ってやれ ずにすまん でも俺が 居なくてもミケを ちゃんと見つけ ろよ」


「任しとけっ。ぼっちゃんも必ず見つけてやるからよ」


「チルチル・・・」


「ゲイルっ 逝っちゃいやーーーっ」


「そんな目をする な。 お・・前は まん丸な 瞳が似合う その方が可愛・・いいからな」


「ミーシャ」


「はい、ぼっちゃま」


「もっと 長生きを してくれ たら 生まれ変わ って 見送ってやれるかもしれん 今回 は父さん として先に逝く から」


「はい、が、頑張ります」


その後もここ来た皆に別れを告げていくゲイル。


「すまん、みん な シルフィと二人にさせて・・・くれないか」


ゲイルがそうお願いすると皆は泣きながら部屋から離れた。


「ゲイルっ」


「す  すまなかった 」


「何で謝るのよっ!」


「今まで 縛り続けて ごめん・・」


「私が好きでずっと一緒に居たのっ。謝らないでっ」


「シルフィ・・・」


「何?」


「ちょっと 嗅いで・・いいかな」


「もうっ」


そういってシルフィードはゲイルを抱き締めた。


「シルフィ・・・」


「何?」


「俺、シルフィの 匂い好きなんだ よね・・・」


「知ってる」


「だろう ね。あははは」


「ずっと嗅いでていいよ」


「 嗅がない でっ とは 言わない んだね」


「本当は嫌じゃないの。恥ずかしかっただけ。私もゲイルの匂い好きよ」


「嗅がな いでっ」


「何よそれズルーい」


シルフィードは涙を流しながら笑顔で答える。ゲイルには最後まで笑顔を見せたいと。


「はははっ 仕返 しだよ」


「ゲイル」


「な に 」


「私の事は好きだった?」


「もちろん だ れにも 渡したくなかっ たよ」


本当は愛してると言ってやりたかった。しかし、前世に愛を置いて来た俺にはそれを言う資格はない。


「絶対?」


「そう 絶対 に」


「だったら約束ね」


「な んの ?」


ゲイルを包んでいた光がどんどん収まっていく。最期の時が近付いているのだ。


ゲイルを包む光が消えた時にシルフィードは手を握って呟いた。





「あなたっ」


ギュ・ギュ・ギュ・ギュ・ギュ


ギュ・ギュ・ギュ・ギュ・ギュ



えっ?


これって・・・・



「ゲイルっ? ゲイルっ!! ゲイルーーーーーっ!!!!!」




外で待ってる皆はシルフィードの叫びと泣き声で理解した。


今ゲイルが逝ったのだと。





皆はもしかしたら前みたいに生き返るんじゃないかとゲイルの遺体を焼くのを躊躇った。




「シルフィード、これ以上はもう・・・」


「うん。解ってる」


ゲイルは生き返る事はなく、少し身体から腐敗臭が漂いだした。


シルフィードが好きだったゲイルの匂いはもうここにはない。シルフィードはそれで踏ん切りが付いた。


「ゲイルをアンデッドにさせたらダメだからね」



皆はゲイルが好きだった防波堤に遺体を置き、シルフィード、ドワン、マリアが死体を焼いていく。ダンは炎の魔剣を振りゲイルと再び会える事を願った。



その後ろには国葬と呼んで良いほどの人が集まりゲイルを見送る。仲間は勿論の事、各地から集められた孤児達は救いをくれたゲイルに祈りを捧げる。



シルフィードは最後まで涙を流しながらも笑顔でゲイルを送ったのであった。



ゲイルの肉体が灰と化し、海に溶け込んでいった時にそれは突如として訪れる。


「ぶちょーっ! ぶちょーはどこなのっ!」


「めぐみさん・・・?」


「ぶちょーはどこっ」


「遅いよ・・・」


「えっ?」


「来るの遅いよ・・・。ゲイルはずっと・・・ずっと・・・」


遅すぎるめぐみの登場にシルフィードが叫んだ。


「今まで何やってたのよーーっ! ずっと ずっと ゲイルは待ってたのにーーーっ!」




「めぐみっ!  あんた自動洗浄止めて来た?」


「止めてない・・・」


さーーっと青ざめるめぐみ。


「もうゲイルくんの魂は帰ってる。早くしないと消えるわよっ」


シルフィードがめぐみに叫ぶ中、めぐみはゼウちゃんに早く戻れと言われる。


「ぶちょーが死んだのはいつっ」


「一週間前よっ!」


「めぐみっ! 早くっ!!」



ゲイルが死んだのは一週間前。通常なら全然間に合うっ。


「先に自動を止めなさいっ」


めぐみが先に魂を探そうとした時にゼウちゃんが叫ぶ。慌てて手動に切り替えて魂をゴロゴロ探すめぐみ。



ゼウちゃんはここの魂を見て愕然とする。汚れた魂がほとんど無い・・・ しかも今追加されてるのはガチャから出てくる新しい魂ばかり。


ゲイルとラムザ達が行っていた汚魂駆除とその後の慈悲で魂が汚れる事が減り、洗浄に時間が掛からずどんどん地上へと魂が供給されていたのだ。



「ぶちょー! ぶちょーの魂はどこにあるのよっ。ゼウちゃんも探してーーーーっ」


「めぐみ・・・ 残念だけどここにはもう・・・」


「嘘・・・・ 嘘よね? 嘘だと言ってよーーーっ!」





なんだよ・・・ おかしいと思ってたんだよ。シルフィードって名前なのに風魔法使えないなんてな。


それにあの匂い。お前と一緒だったのがずっと不思議だったんだ。こんなに似るものなのかとな。


最期のあの合図。あんなのよく覚えてたな。


ブレーキランプ5回点滅・・・・


お前だったんなら早く言えよっ。死んじまったじゃねーか俺。死ぬ間際に伝えんなっての。


俺はまた会えてたのか・・・ お前の魂がエルフだったなんて知らなかったぞ・・・


なぁ、風香かおり


また生まれ変わってもお互い解んないかも知れないぞ。


どう考えても時間軸おかしいし、俺の魂は向こうに戻るかもしれないんだから・・・


こんな事なら寿命なんて気にせずに結婚すればよかったな。シルフィードには可哀想な事をしてしまった。風香かおりにもな。


誰かと幸せになって欲しいけど他の男の者になるなんて複雑だな・・・ アーノルドやダンなら託せるんだけど、無理だしな。



なんかゴロゴロされてるけど、今俺は魂を洗われているのだろか? きっとめぐみの事だから芋洗い機みたいなやつなんだろうな。


あー、なんか風呂入ってるみたいだわ。


もしかしたらめぐみがまた記憶を消さないかもとか思ったけど、結局来なかったから、記憶も消えるだろう。その時にシルフィードを見たら舞い上がるだろうか? ラムザを見たら怖いと思うのだろうか?


まぁ、今さらあれこれ考えても仕方ない。今はこの風呂みたいなのを楽しもう。結構疲れてたみたいだしな。



ゴロゴロされたゲイルの魂は自動で記憶をリセットされて再び生まれ変わっていくのであった。



後にめぐみが半狂乱になってゲイルの魂を探すとも知らずに。



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