第690話 バチ

今までの分を取り返すかの様に遊びに誘うシルフィード。しばらくそれが続いた後にゲイルは話を切り出した。


「俺、もう一度世界を回って来るわ」


「えっ?」


「ずっと気になっててさ」


「またほとんど帰って来なくなるの・・・」


「いや、座標を置いてあるから前みたいな事はないよ」


「何をするの?」


「世界中の孤児や他人種で希望する人はここに連れて来ようかと思って」


「どうして?」


「貧困の差が激しかったり、争いが多い所は魂が汚れやすいんだよ。餓えをしのぐのに盗みをしたりしているうちに段々とエスカレートしたりして人を殺してしまったりとかね。他人種は迫害されてたりするし。だからここに連れて来たら魂が汚れていくのが少しマシになるかなって」


特にエルフ達。もう二度とグリムナの兄、アルディナみたいにしてはいけないのだ。


「そう・・・ 大切なことなんだね」


「うん」


「それにここは年寄りが多いだろ? 子供の面倒見てくれる人がたくさん必要だと思うんだ」


「わかった。頑張って!」


「ごめんね」



こうしてゲイルは気になっていた場所にドアで行き、ぼっちゃんのままより信じられるだろうとほぼカミに変身して孤児達をエデンへと導いていく。一人一人に言語をインストールしては送り、インストールしては送りを繰り返していく。獣人やエルフ、そのハーフ達も。


その国の人を全員連れていくのは不可能なので、作物を育てたり水をだしたり、植物魔法の魔石や水を浄化する魔石を与えていった。


エデンには異なる種族、肌の色、世界中から集められた様々な者達が共に生活を始める。


年寄り達は子供達を孫の様に可愛がり、子供達も初めて貰う愛に戸惑いながらも成長していく。そしてその愛をお返しする様に年寄り達を世話し見送るようになっていくのである。


様々な文化や生活習慣の違いでもちろん問題は発生する。しかし、判断基準は<魂が汚れるような事をするな>だ。今やった行いはやがてこういうことに繋がり、魂が汚れると皆が諭すようになる。細かい法律で縛るのではなく、エデンでは自浄作用に期待する。もし、魂が汚れてしまったら裁きが下るのを知っているから。



「まだまだ時間かかるの?」


「止めようと思えばやめられるし、やろうと思えば延々と続くよ。まぁ、ライフワークみたいなものだね」


「ふーん。じゃ、しばらく休んでも問題ないでしょ。おやっさんが大物釣りに行きたいみたいだよ」


「じゃ、釣りに行こうか。俺も食べたいヤツがいるんだよね」


「ダンはどうする?」


「あぁ、行くぞ」


「ワシも連れていくのじゃー」


「ミグル来てたのかよ?」


「汚魂洗浄が終わったら暇になるからいつでも来いと言うたじゃろうが。いつ来ても留守ばっかりしおって! この嘘つきめっ」


「しょうがないだろ? 世界中に孤児がいるんだから」


時差の関係もあって毎日戻って来る訳じゃなかったからな。


「まぁ、そうじゃの・・・ ワシもあんなんじゃったから、こうして救いの手を出してくれる者を待っておったからな」


「まぁ、お前は誰からも手を出してもらえなかったけどな」


「う、うるさいっ! なぜそのような事を言うのじゃーっ」


ミグルは相変わらずからかうと面白い。


「ゲイルがいない時にミグルとアルはしょっちゅうここへ来てるよ」


そうなのか。ずっとスレ違ってたんだな。


「アルもおじいさんみたいになってきたけど、ミグルとは昔のまんまだよ。喧嘩してるのかイチャイチャしてるのか解らないけど」


「シルフィードよっ! ゲイルにいらぬことを言うでないっ!」


「だって、この前も海岸でキスしてたじゃない」


「だーーーーっ! 貴様っ何を覗いておるのじゃーーっ!」


「あ、本当にしてたんだ」


ワナワナワナワナワナ


「嵌めたなーーっ!」


クスクスクス


「アルはジョンと同じ歳なのに若いわね。これは妻の差かしら? ねぇ、ゲイル。どう思う?」


「マリさんは昔と変わらず、ずっと綺麗だよ。ジョンが悪いんだ」


「まぁっ。ゲイルはいつも優しいわね。嬉しいから祝福して下さらない?」


嬉しいと祝福がどう繋がるのかわからんが・・・


チュッ


「なっ、なっ、なっ、何をしておるか貴様らーーーーっ。マルグリッドもなんじゃっ? ジョンがいながらゲイルとキッキッキッスをするとはっ。シルフィードも怒らぬかっ」


「あら? ミグルは知らなかったの?これはキスではなくて祝福ですのよ」


「は?」


シルフィードがやれやれと昔からゲイルのキスは祝福と呼ばれ、老若男女関わらずされていると聞かされる。


「ではジョンも知っておるのか?」


「当然ですわ。ジョンも祝福してもらったことありますしね」


そう、俺は酔ってた時に男兄弟ともキスをしたのだ。頑なに断ったのはダンとドワンとグリムナ、ミゲルのみ。バンデス夫妻とは強烈な祝福だったのがちょっとしたトラウマだ。


「で、では何かっ、ワシがゲイルにしゅっ、しゅっ、祝福して貰っても何も問題がないのじゃな?」


「ミグルはダメ」


「なぜじゃーーーーっ! 皆は良くてなぜワシだけダメなのじゃっ」


「なんか嫌なのっ」


あー、シルフィードはなんか感知してるのかもしれないな。俺がミグルにすると祝福でなくキスになるかもとか。


「だ、そうだ。シルフィの許しがないからお前には無理だ」


「ずるいのじゃーーーーっ!」


ぶちゅーーーっ


「あーっ! 何やってんのよミグルっ!」


「これは祝福じゃーーーっ! 文句は無かろうっ。それっもう一発じゃっ」


ぶちゅーーーっ


「ミグルはここに来て・・・ 何やってんだぁぁぁぁぁっ! ミグルを返せぇぇぇぇっ」


ぶちゅーーーっ


俺はミグルの感触をアルで上書きされてしまった。初恋に似た人とのキスを想像してしまい1回目で顔が少し赤くなりかけてたので助かったとも思う。


「こっ、これは祝福なのじゃっ! マルグリッドもやっておったじゃろうがっ!」


「祝福はあんなんじゃないっ!」


アルはミグルをズルズルと引き連れて帰っていった。これでまたここに来れなくなるだろう。残念だったなミグル。



「ねぇ、ミグルにキスされて嬉しかった?」


ドキッ


どうして女性はこういうことに鋭いのだろう?


「たまにおっちゃんでもあんな人がいるからね。慣れたよ」


「じゃ、私とは?」


「う、嬉しいよっ」


「じゃ、してっ」


チュッ


「こらっ、いつまで人前でイチャイチャしとるのじゃ。早くポイントに行かんかっ」


ドワンにイチャイチャしてると言われて歳甲斐も無く赤くなってしまった。俺もまだ若いのかもしれない。


「じゃ、まずイカを釣りに行こう」


「イカ? 大物を釣りに行くんじゃないのか?」


「イカは餌だよ」


という事でイカを釣り、ポイントを移動。この時期のオーマなあいつは旬だからな。食べるのが楽しみで仕方がない。



「釣れんの・・・」


「狙ってるのは賢いし、数も少ないからね。小さいのでも良ければ他の場所に行くけど」


「いや、大物を狙う」


半日程当たりが無いまま過ぎたその時・・・



じゃーーーーーっ


けたたましく大型リールのドラグが鳴った。


「おやっさん、来たよっ」


「ふんっ! フウンッ!」


ドワンが大物と格闘を始める。かなりでかそうだな。



1時間ぐらい格闘した末に上がって来たのは500キロオーバーの本マグロだ。


魔法で宙に浮かべ急いで血抜きをしてから内臓を出してから凍る手前まで冷やしていく。


その後は海水氷へ。


「ふぅー、やってやったわい。こいつはなんじゃ?」


「マグロだよ」


「アイツがこんなにでかくなるのか?」


「前に釣ったのはビン長マグロ。これは本マグロ。種類が違うんだよ。こいつの方が旨いから食べるの楽しみだね」


ジャーーーーーっ


「坊主のも来おったぞ!」


俺はロッドを持ち、ラインを通じてバンっと電撃を食らわす。そうすると重いだけでなんの抵抗もなく上がってきた。


「なぜ、魚との戦いを楽しまんのじゃ?」


「食う方を優先したんだよ」


ドワン達には意味がわからないようだった。


俺のはドワンより小さかったけど、それでも500キロ近くあった。ワシの勝ちじゃとドワンは自慢したが、食った時にその評価は変わるだろう。


戻ってマグロを解体する。包丁では無理なので魔剣でと。


「そんな使い方をするなと言うたじゃろうがっ」


「しょうがないだろ? 今はこれしか使い道がないんだから」


と答えたらめっちゃ怒ってた。


各部位に分けて1週間程度熟成させる。大きいからもう少し掛かるかもな。


「今日は食べんのか?」


「1週間から10日後ぐらいかな。今食べてもそんなに美味しくないよ」


ドワンにひとキレ食べさせたら納得した。



1週間後に赤身に保存魔法を掛け、中トロは10日後、大トロは2週間熟成させた。


その間にヒラメや鯛、寒サバ、アジ、うなぎとか色々釣っては仕込んで保存魔法を掛けて準備した。当日作りながらだと食べられない恐れがあるので、作っては保存魔法を掛けておく。



「今日は寿司パーティーだよっ」


うまーーーっ


大勢呼んで、皆で寿司を楽しむ。


「坊主、こいつとこいつの味の違いはなんじゃ?」


「そっちはおやっさんが釣ったの。こっちは俺の釣ったやつ」


「なぜ坊主の方が旨いのじゃ?」


「俺は魚と格闘しなかっただろ ?魚と格闘すると自分の熱で味が落ちるんだよ」


「それで坊主は電撃を食らわしたのか」


「そういうこと。だからこっちは俺のね」


「ぐぬぬぬっ」


「はい、ラムザはこれが好きだと思うぞ」


とカマ下の大トロ、ブリトロ、カンパチのトロをやる。


「うむっ、旨いっ」


「だろ?」


「私はどれがいいかな?」


「じゃ、中トロで」


「ぼっちゃん、このヅケっての旨いな」


「だろ? おれもヅケ好きなんだよね」


大トロは炙って脂を落として食べたら凄く甘味があって旨かった。が、ヅケと赤身の方が旨いと思う。これは昔からだ。


たくさん食べたいので、寿司ではなく刺身で食べていたら、ミグルが騒ぎだす。


「んふーーーっ! なんじゃ。げほっ、げほっ、なんじゃこれはっ」


「当たりのわさびマシマシ寿司だ」


「なぜそんな物を混ぜてあるのじゃーーっ!」


「お前が自分で選んだんだろ? ちょっとしたゲームみたいで楽しいじゃないか。2つしか入れてないから安心しろ」


またゴホゴホして涙を流すミグル。2個しか入れてないのに2個とも引くとはさすがだ。


さ、もういいかな。お供えしてあった赤身、ズケ、中トロ、大トロセットのお下がりを食べる。


旨いなぁ・・・


「おっ、ぼっちゃんのも当たりか?」


「そうだったみたい。自分で作って自分に当たるとは思わなかったよ」


「そういうのをバチって言うんだ」


カッカッカッカ



そうか、これはバチなのか・・・


大義名分の為に多くの人を悲しませたからな。バチが当たっても仕方がないな。







せめてお別れぐらい言わせろバカ野郎・・・


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