第689話 未来の話と過去の話

ー星を作りしものの世界ー


「いったいこいつは何をやっているのだ?」


星を作りしものはゲイルの過去ログを見て呟く。


初めは無差別に魂を滅しているのかと思ったが滅してたのは全て自動洗浄では落としきれないような汚れた魂だけ。星の管理者が自動で運営していたら発展に支障をきたすようにしてあったシステムだ。


ほとんどのヤツが自動でやって、発展と滅びを繰り返している。汚れていても育った魂を滅するのは管理者は躊躇う。しかしそれは滅びを生む。それを知っているのか? いや、若くても汚れてたら滅しているな。


なぜこれをしている?


まさか運営者がいない間はそれをやるつもりなのか・・・?


俺の星のやつらもなぜ命令に従う? あいつの原初の1体も俺の星の原初のやつとなぜやつと共に行動する? しかも嬉しそうに。


わからん・・・


あいつはこちら側になる1歩手前だ。ログに残されている潜在ステータスを見るともうそれも可能・・・。しかし、常にその1歩手前でそれを止める。こちら側に来るのが目的ではないのか・・・?


「あっ!」


星を作りしものは思わず声を上げる。


全く汚れずに昇華した魂が2つも・・・。しかも混ざりあっただと? これが続くとどんどん混ざりあってここのどこかに誕生するかもしれん。初めてだ。初めてこれをクリアするヤツが現れた。


やった! 俺のシステムが成功したんだ!


ん? これは奴と関係がある奴ではないか・・・


これは勿体ない事をしたかもしれん。ここへの新しい仲間を産み出す可能性を残し、何をやってもダメだった俺の星に新しい者を産み出してくれたかもしれんかったな。


はぁー、早まったか・・・



ーめぐみの世界ー


「ラムザ、これで終わりだな。今までありがとう」


「いや、こちらこそ礼を言う。生まれてきて初めてこんなに充実して楽しい時間を過ごせたのだ」


「ずっとこれをやってたから終るとなると少し寂しくもあるね」


「そうだな・・・ ゲイルはあと100年ぐらいしか生きられぬのか?」


「まさか、長くてもあと10年とかだと思うよ。だいぶ身体もくたびれてきたしね」


「10年っ? あと10年程でいなくなってしまうのか?」


「長くてな。前世と同じぐらいなら4年くらいじゃないか?」


「何っ! 嫌だっ! 死ぬなゲイルっ」


「まだ死んでないよ」


「よ、4年なんてあっという間ではないか・・・」


ポロポロとなくラムザ。


「死んでないうちから泣くなよ」


「だって・・・」


こいつ時々可愛らしい口調になるよな。


「大丈夫だ。来世の楽しみがあるんだ。死ぬのが楽しみなぐらいだよ」


「本当か?」


「本当だ」


「絶対だぞ」


「絶対だ」


「また我を呼んでくれるか?」


「それは出来るかどうかわからないから見つけ出してくれよ」


「わかった。必ず見つけ出す。しかし、その時に怖がりでもされたら・・・」


「大丈夫だ。お前の事は魂に楔として打ち込まれているからな。記憶が無くてもお前に魅かれるはずだ」


「ほ、本当だな?」


「本当だ」


俺とラムザの関係って不思議だな。ラムザも俺とずっと一緒にいる間にどんどん人族の感覚に近付いて来ているような気がする。


以前は人の短い時間ぐらい付き合ってやろうとかだったのにな。人はすぐに死んで当たり前だったのがだんだんとそれが嫌だと言い出した。


ペットってすぐ死んじゃうだろ? だったのが、いざペットを飼い出して別れを惜しむような感覚なのだろうか?


「ほら、泣き止め。戻ってなんか食おう」


「うん」


エデンに戻った後、チャンプは寝心地の良いところを探すと言って飛んで行こうとする。世界各地を回っている時にめぼしい場所を見つけていたのだろう。


「チャンプ、またな!」


「? ああ。また・・・」


チャンプは気付いていないだろう。お前が寝ている間に俺がいなくなることを。この数十年ずっと一緒だったから今度の眠りはかなり長いはずだ。俺が何度も生まれ変わっても会えないかもしれないな。でも、またなと言っておく。別れはこれぐらいでいい。



「ゲイルお帰りっ! 終わった?」


「あぁ、何とかな」


「じゃ、これからはたくさん遊べるねっ」


「そうだね」


「じゃーねぇ、明日泳ぎに行こうっ。皆新しい水着新調したんだよ」


シルフィードは高校生ぐらいの感じに成長している。俺がとても不思議なのが見た目の年齢と精神年齢がイコールな事だ。自分の想像では精神年齢は経験と共に成長し、新しい経験がないとくたびれるというか、段々と新鮮な気持ちが保てないものだと思っていた。それが違うのだ。シルフィードは常に見た目通りの若い娘の感覚でいられる。やはり精神は肉体に引っ張られるんだろうな。


老いて来た自分に比べて青春真っ只中がもう20年ぐらい続いているシルフィード。めぐみに凄く焼きもちを焼いてた時期は反抗期とかだったのかな?


俺が色んなヒトとキスするのも祝福として皆が受け入れ、シルフィードもそれを受け入れた。まぁ、ここでは俺は神扱いなので、老若男女問わず祝福をと言われてチュッとするのでいちいち怒ってたら頭の血管がいくつあっても足りないだろう。酷いときには唇が腫れ上がるぐらいさせられるからな。もう相手がオッサンでも何とも思わない。もう俺も年寄りに片足突っ込んでるのに向こうも良く嫌じゃないよな?


自分では老いを感じるが魔力が異常な分、見た目に老いを感じるほどではないが老化は自分では解るのだ。一度経験しているし。


汚魂駆除を始めた時はもう男盛りの身体にラムザの魅了が効きまくり、色気耐性(強)でもモンモンとしていた。ラムザはその都度じゅるるるるるっとしてくれたので、シルフィードにおいたする事もなくここまで来れた。何度か「結婚してくれなくてもいいの」とか言われた時は理性が吹き飛びそうだったがこれだけはと耐えたものだ。今は将軍もなかなか馬に乗ろうとはしない。


シルフィードには色気というものは感じない。まだ高校生ぐらいだしな。ただ、それを越えた物がある。やっぱり匂いなんだろう。普通何十年もスンスンやられたら心底嫌になるか、慣れて、はいどうぞみたいな感じになると思うのだが、都度「嗅がないでっ」と言う。まぁ、そういうコミュニケーションを楽しんでいたというのもあるけど。


シルフィードへのスンスンは俺の精神安定剤みたいな所があったのを知っていたのかもしれない。


ヤギに任せてたとはいえ、100%そうだった訳ではない。やはり精神ダメージを食らう時は幾度とあったからな。



「あら、明日泳ぎに行くの? ご一緒していいかしら?」


「いいよ」


「私もすっごい水着を新調しましたわ」


「すっごいの?」


「えぇ、もうすっごいのですわ」


クスクス


「ラムザも行くだろ?」


「お、泳ぐのか?」


「ん? もしかして泳げないのか?」


「そそそそんな事はっ」


分かりやすく目を逸らすラムザ。


「教えてやるよ」



で翌日希望者で海で泳ぐ事に。


「どうゲイル?」


マルグリッドは俺より歳上だ。


「相変わらずプロポーションいいねぇ。すっごく似合ってるよ」


「昔ゲイルが言った通りになりましたわね。こんな裸同然の水着を着るなんて思いませんでしたわ。それにゲイルは歳を取ってもずっとそんな目で見てくれますし」


そんな目ってどんな目だよ・・・


真っ赤なビキニ姿のマルグリッド。エステとか美容に気を付けてんだろな。本当に若いわ。


ジョンも引退したから来ればいいのに疲れるとか言って来なかった。もう枯れたのかもしれんな。ダンは来たけどすでに年寄りだ。泳がすのやめておこう。熊毛も白くなったからな。



「ゲイルっ♪ どうかな?」


おー、もうCカップぐらいあるのだろうか? それとも水着マジックなのだろうか? 白い肌が目に眩しい。髪の毛に合わせた淡いグリーンの水着がよく似合ってる。


「ゲイル、おかしくないか?」


白ビキニのラムザ。褐色の肌に白ビキニは水着の跡が残る日焼け姿を想像させる。こら、将軍、馬に乗ろうとするんじゃないっ。いい歳こいてるくせに人前でっ!


「いやよく似合ってるよ」



「坊主、こいっ競争じゃ」


「おやっさん、俺はもう50越えてんだぜ」


「ワシは100越えとる」


いや150歳ぐらいだよね?


ドワンは出会ったときから全く歳を取ってないような気がする。寿命あるよね?


ドワンと競泳させられてヘトヘトだ。やっぱり歳だな。海で泳ぐのは疲れる。


お昼は当然バーベキュー。俺は昔ほど食べられないけどシルフィードは食べ盛り。良く食ってるわ。


「はぁー、お腹いっぱい。少し甘いお酒飲もうかな?」


「リンゴのお酒か?」


「うーん、久しぶりにあのパイナップルとオレンジのヤツがいいな」


マイタイか・・・


「ダン、パイナップル搾ってくれ」


「おいおい、年寄りにやらせんのかよ?」


「なんだよじじむさいな。出来んだろ?」


「ぼっちゃんなら魔法でやれんだろ?」


「ダンが搾った方が旨いんだよ」


「ったく」


これは思い出込みの味だからな。


「フン」


ボタボタ


昔より勢いが無いけどちゃんと搾れて良かった。


「んー、美味しい」


「また泳ぐならあんまり飲むなよ」


「解ってるって」



ゲイルはあれからマイタイもどきを飲む事はなかった。だし巻き玉子も焼くことがなかった。誰かに焼いてくれと言われない限り。


「パイナップルも久しぶりに搾ったな」


「そうだね」


「ぼっちゃん、あれからこれ飲まなくなったよな」


「そうだね」


「会いたいんだろ?」


「ダンがミケに会いたいほどじゃないよ」


「そうか? 女神さんが好んで食ってたもの全部作らなくなったろ? 思い出さないようにしてんじゃねぇのか?」


「あー、そうなのかもしれないね」


「ぼっちゃんにとって女神さんてなんだったんだ?」


「俺もよくわかんないんだよね。まぁ、嬉しそうに飯食ってる姿を見るのは好きだったな。あいつ本当に嬉しそうに食うだろ?」


「そうだったな。ミケも焼きサバ食ってる時はあんなんだったわ」


「確かにミケもそうだったな。人が食ってる物が旨そうだっら勝手に取り替えたりしたしな」


「ありゃフランもやってたからな。魂に刻み込まれてんだよ」


「そうだったんだ。めぐみは取り替えじゃなくて両方食ったけどな」


「それで良く取り合いやってたよな」


「いつも俺が食おうとしてるやつから食われるからね。それはダンとおやっさんも一緒だ」


「一人で食おうとするからだろ?」


「希望者聞いても俺の分まで食ってたじゃねーか」


「そうだったか?」


「そうだったんだよ」



俺とダンは昔を懐かしむように話をした。これは歳を取った証拠だ。若いと未来の話をし、歳を取ると過去の話をする。


俺もダンも歳を取ったのだなと実感する。



「ゲイルっ! 明日は何して遊ぶ?」


「今遊んでんのに明日の遊びの話か?」


「そう! バイクでどこか連れてってよ」


もう明日の話か・・・


「そうだ、守神に会いに行こうか」


「うんっ」


シルフィードは未来の話しかしないよなとゲイルは実感していた。


俺の未来はあとどれぐらいなんだろな・・・


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