第686話 いい歳をしてもこういうのは楽しい
「ラムザ、明日宴会するから。何か食べたいものがあるか?」
「ゲイルの・・・」
「それは来世だ」
「ではこってりしたものを頼む」
「了解」
「ゲイルっ!」
「ただいま、シルフィ」
チュッ
「私もいるんだけど?」
「ハイハイ、ただいまチルチル」
チュッ
「お帰りなさいぼっちゃま」
「ただいま、ミーシャ」
チュッ
あっ、ついやってしまった・・・
「へへへへっ」
まぁ、親子のスキンシップみたいなもんだからいいか。
「マリアもー」
「テディにもしたってや」
もう俺のキスはただの挨拶と化している。
「お帰りゲイル、終わったの?」
アイナも近付いてお帰りと言ってくれる。
「北はね。まぁ、また汚れるかもしれないけど」
「それならまた行けば良いわ」
チュッ
「おう、お疲れだったな。しばらくここでゆっくりするんだろ?」
そしてアーノルドも。
「そうだね。管理下に置いた科学者達の事もあるからね」
ぶちゅーーーーー
・・・またアイナを取り返されてしまった。この歳で父親とキスするとは思わなかったけど、まぁいいか。
「ジョンとベントを呼んであるから、飲みながらダーツするぞ。何を賭ける?」
「じゃあ、母さんのキスでも賭ける? 父さん絶対に負けられないよ?」
「アイナが賭かって俺が負ける訳がないだろうが」
アイナは自分のキスが賭けられて嬉しそうだ。家族なら誰が勝っても問題ないしな。
皆もダーツをしたいと言い出してダーツ大会になってしまった。
「なんじゃ? 勝ったらアイナのキスじゃと?」
「そうそう、おやっさんも母さんとキスするチャンスがあるよ」
「ばかもんっ! なぜワシがアイナのキスを欲しがらにゃならんのだっ」
今日のダーツ大会はもうおっさんオバハンの同窓会のノリだ。若いときはいい歳食った奴等が何をはしゃいでんだ? いい加減枯れろよと思ってたが、こういうのに歳は関係ないのだなと自分が歳を食った時に理解した。強制的に参加させられたジョンとベントは親のこういう姿を見せられて嫌そうだけど。
「坊主、ラムザは呼んでやらんのか?」
「明日の飯には誘ってあるんだけどね、呼ぼうか?」
ラムザに声を掛けてみると、ちゃんと服を来て巻き角の姿でやって来た。
「本来の姿じゃないんだな?」
「あの姿で来たらゲイルが焼きもちを焼くんじゃないかと思ってな。他の奴等に見られたくないのだろう?」
嫌な図星を付いてきやがる。
「そうだな、あの姿は俺だけのものだ」
そう言うと真っ赤になるラムザ。仕返しだ。
「ほう、アイナのキスが懸かっているのか面白い。我も参戦しよう」
勝ってもアイナの生気は吸っちゃダメだぞ。
「くそっまた人数が増えやがった」
めっちゃ真剣なエイブリック。まぁ、エイブリックには勝たさないけどね。
「ねぇ、何でアイナさんのキスが賭かってるの?」
「いや、家族だけで賭けたつもりだったんだけどね、なんか皆参加になっちゃって。母さんも嫌じゃないみたいだからいいかなって」
「私のキスが賭けられたらどうする?」
「シルフィの? そんなの賭けにするわけないじゃないか」
「どうして?」
「嫌だからじゃん」
「どうして嫌なの?」
嵌められた・・・
「それはね・・・」
「そっ、それは?」
「お前の事が好きだからだアバババババっ」
昔マリアのイヤイヤ期にやったようにシルフィをくすぐってやった。
「キャハハハハハッ。もうっ、ゲイルの意地悪っ!」
「何をやっとるんじゃお前らは・・・」
その様子を呆れて見るドワン。
酒も入ってダーツ大会は盛り上がりを見せるなか、ラムザは皆がいるときには俺にあまり近寄らない。シルフィードがいるからだろう。なんか社内不倫してたらこんな感じなのかと思ってしまう。
いや、不倫も何もないのだけれど。
「勝ち残りは父さん、エイブリックさん、ベントだね」
ダンは最後にわざと惜しい所に外したな。まぁ、俺から見たらバレバレだ。勝ったエイブリックはめちゃくちゃ喜んでるし。
ルールは単純なカウントアップ。3投げ1スロー×8で一番点数の多い人が勝ち。個人的にはゼロワンの301が好きなのだが、当てたのに点数が減るというのがこの世界の奪ったもの勝ち精神には馴染まなかったのだ。取った点数が自分の物になるルールが一番分かりやすいみたい。
「うぉぉぉぉぉお!」
決勝戦の8スロー目を投げたアーノルドがトップに立つ。ベントは150点以上取れば勝ち、エイブリックは171点以上取れば逆転だな。まぁ安泰な点数差だ。
「さ、ベントの番だぞ」
既に勝ち誇ったような顔をしてアーノルドはベントに言う。
チュドン チュドン チュドン
ブル3連発。さすがベントだ。同じことを延々と繰り返す事が出来る能力をここで発揮した。
「なっ・・・・」
アーノルドの優勝の目が消えた。
エイブリックが優勝するには60×3を狙わなければならない。
まぁ無理だろ。
1投目
ドン +60
「よっしゃぁぁぁぁっ」
エイブリック、アイナに惚れてるの隠す気なくなってんぞ・・・
2投目
ドン +60
もうエイブリックは頭の血管が切れるんじゃないかと思うぐらいはしゃいでんな。しかし、ここ一番の集中力はさすがだ。このままでは本当に180点出すかもしれん。アーノルドが後なら同じように集中力が高まっただろうけど、俺が一番だ! とか言い出したのがアダになったな。
遊びとはいえ、アーノルドの前でアイナがエイブリックとキスするのは見せたくないな・・・
仕方がない。
集中するエイブリックの手にあるダーツの羽を魔法でそっと曲げてやる。
ドン +3
微妙に軌道が変わったダーツは1のトリプルに刺さった。
「くっそおぉぉぉぉぉぉっ」
床に拳を殴り続けて悔しがるエイブリック。あんた王だよね? 元仲間で友達の奥さんとキス出来なかったことでそんなんしたらあかんやつやん。
「優勝ベント!」
「さ、ベント。いらっしゃい」
「い、いやこの歳で母さんとキスなんていいよ」
ブチュッ
「ベントっ! 返せっ!」
ぶちゅーーーーー
「ひっ、酷い目にあった・・・」
「状況を見極めずに勝つからだ。時には勇気ある撤退というのも必要だ」
ジョンは俺がアーノルドにぶちゅーーーーーとやられているのを知っているので早々に撤退していた。
「坊主、なんかしたじゃろ?」
「なんのことかな?」
ドワンは見抜いた様だがエイブリックは気付いていなかった。
その後は各々でダーツを楽しんでいる。
エイブリックはまだクソッと不機嫌だ。
「あら、エイブリック。そんなに私とキスしたかったの?」
「えっ? あぁ、そう言うわけでは・・・」
何オッサンがオバハン相手に真っ赤になっ いででででで
「じゃ、これで我慢してねっ」
アイナは酔ってるのかエイブリックのほっぺたにチュッとした。
「あーーーーーっ! 何やってるんだアイナっ!」
「やーねー、ほっぺたでしょ。それにこれは祝福よ」
ワナワナワナワナワナワナ
震えるアーノルド。
「エイブリックっ! てめーっアイナを返せぇぇぇぇつ」
ぶちゅーーーーーっ
「やめろっ! 口にされてねぇっ! ほっぺただほっぺたっ!」
「ここかっ!」
ぶちゅーーーーーっ
哀れエイブリック。昔から好きだったアイナにほっぺたチュッをされて天にも昇るような感触をアーノルドに上書きされてしまった。
しかし、アイナも罪作りだよな。ちょっとアーノルドに焼きもちを焼いてもらいたかったのかもしれないけど。
「ゲイル、ああいうの良いわね。いくつになっても仲が良くて」
「本当だね」
まだぎゃーぎゃー言い合うアーノルドとエイブリックは木剣を持って外に出ていった。そろそろ決着を付けようかだって。いくつになっても元気なこって。
「シルフィードよ、ゲイルを掛けて勝負をせぬか?」
「なっ、何でゲイルを賭けなきゃなんないのよっ」
「あっはっはっは。アーノルド達を見ていたら羨ましくなってな。我もああいうのをしてみたいのだ。やらぬというのなら今ゲイルからの祝福を・・・」
「絶対に負けないからっ!」
「私もやるっ!」
「よーし、チルチルも入れてやるか」
ラムザもお酒が入ってご機嫌だ。しかし、俺を巻き込まないで欲しい。
「おやっさん、夜釣りに行こうか?」
「今からか?」
「夜釣りで大サバ釣れるんじゃないかと思うんだよね」
「あいつらは放って置いていいのか?」
「嫌な予感するからね」
「しょうがない。付き合ってやるわい」
「おっ、サバ釣りに行くのか?」
「ダンも行く?」
「おぉ、ミケに土産持って帰らないといけないからな」
俺達3人は大騒ぎする皆からこっそり抜け出して大サバを釣りに出掛けた。
「いやぁ、エイブリック様のあの悔しがりようはすげぇな」
「アイナも罪な事をしよるのぅ。叶わなかった恋をまた掘り起こしよるとは」
叶わなかった恋は甘いからな。
アイナはSっ気があるし、アーノルド以外からも女として見られたかったのもあるかもしれん。俺からしたらまだ若いけど、既に孫のいるおばあちゃんだからな。自分が歳を取った事を受け入れたら一気に老けたりするからあれぐらいでいいのかもしれん。
「おっ、坊主なんか来たぞっ!」
「ぐるぐる回ってるからサバだよきっと!」
「どりゃっ!」
「こっちも来たぞっ!」
「俺が処理するからどんどん釣って!」
ドワンとダンが大きなサバをどんどん釣り、俺は首を折ってクリーン魔法を掛けて海水氷に浸けていく。
大漁だ。
塩をして一夜干しや〆鯖用にするものとか色々と加工していく。
「戻ってこいつの刺身で日本酒でも飲む?」
「おっ! いいねぇ。俺は熱燗で頼むわ」
「ワシは冷やじゃな」
ダーツの所に戻るとシルフィード達が待ち構えてた。
「ゲイルー、私が一番だったの」
甘えた声で抱き付いて上目遣いで俺を見るチルチル。実にあざどい。普通の男なら一撃でノックアウトだ。どこでこんな事を覚えたんだ?
「じゃ、今から良いもの食わせてやろうか?」
「良いもの?」
「サバの刺身でいっぱいやるんだ。いいだろ?」
「サバっ? 食べるっ」
「少し時間掛かるから先に風呂に入ってこい。その間に作っておいてやるから」
「わかった!」
しっぽをピンと立てたチルチルはいそいそと風呂にいった。ダーツのソファーには屍と化したアーノルドとエイブリックが横たわっていた。
「決着は付いておらんようじゃの」
治すとまた騒ぐのだろう。アーノルドはアイナに治療を求めていたが、上機嫌でアーノルドのたんこぶを押していた。
やめたれ。
まだ食べられる人はどうぞと刺身を出す。九州出張で食べたサバより旨いなこれ。
「あー、先に食べてるっ! ズルいっ」
「チルはお腹いっぱいになったらすぐに寝ちゃうから風呂に入らされたんでしょ?」
「そんな事ないもんっ」
いや、あるから先に風呂に行かせたのだ。もう寝たお前を風呂に入れてやる訳にはいかんからな。
チルチルは俺の横にちょこんと座る。勝者の権利らしい。ちなみにラムザは豪快に投げすぎてダーツが弾かれるのが連発して最下位だったらしい。
「ゲイルっ サバ美味しいねっ♪」
「そうだな生のサバって旨いよな」
「あれ? どうしたの?」
「何が?」
「泣いてるよ?」
えっ?
「あ、あれ?本当だ。目にワサビがはいったのかな?」
「自分で気付かないなんてへんなのー」
「本当だね。なんでだろ?」
風呂上がりのチルチルはリンスの香りを纏い、美味しいね♪ といってサバを食べていた。
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