第685話 裁きは自己満足
「お、チャンプも来たのか」
「お迎えに来てもらったのだ」
お迎えて、幼稚園児かお前は。
さて、行きましょうかね。
ラムザとチャンプに乗り帝都に向かう
「ド、ドラゴンだぁぁぁっ!」
チャンプを見て逃げ惑う人々。
「ぶちょー、ブレスを吐けばいいのか?」
「いや、汚魂を見付けたら一つずつ握り潰せ。汚魂以外の奴から攻撃されても気にするな。どうせ効かないだろ?」
ラムザも全開、俺も身体強化で攻撃されても効きはしない。
「門から行こうか。壁とか家とか壊すと修復が面倒だから汚魂だけ殲滅する」
「解っている。もう残ってるのはここだけだからゆっくりしても構わんな?」
「いいよ」
門は硬く閉ざされ、塀の上から矢と銃で俺達を攻撃してくるが気にせず門の扉をチャンプが開ける。チャンプでもくぐれるばかでかい扉を。
「うわぁぁぁ門を突破されたぞー、兵をもっと集めろっ」
「ヤギ達よおやつの時間だ。出てこい」
めぇ~ めぇ~ めぇ~
おびただしい数のヤギが魔法陣から呼び出されてくると一斉に俺にウインクしてから汚魂達へ襲い掛かった。悲鳴を上げて逃げ惑う住民達。
「お前達は何者だっ」
「
やはり兵士の中には汚魂が多い。他国を攻めた時に汚れたのだろう。兵士同士で戦って殺す分にはさほど汚れはしない。防衛戦なら尚更だ。しかし、侵略側は例え相手が兵士であっても汚れていく。一般市民に手を出せば一気にその汚れ具合がます。今まで見てきた汚魂の記憶でそれは証明されている。
だいたい勝てぬと解って真っ先に逃げ出す兵士は汚れ具合が激しい。
一人の兵士が家に逃げ込んだので追い詰める。
「やめてっ! パパを殺さないでっ」
「こ、この人が何をしたって言うのっ」
「たっ、頼むっ殺さないでくれっ」
汚魂をむんずと掴む。
「お前に殺された男もそうお前に懇願したな? なぜ殺した?」
「そっ、それは戦争だから・・・」
「相手は無抵抗の市民だろ? 殺す必要があったのか?」
「へ、兵士になるかもしれないからだ」
「ではなぜその妻を強姦し殺した?」
「えっ?」
汚魂の妻は俺の言ったことを理解出来ていない。
「嘘だっ! そんな事はしていないっ」
「◯月◯日、◯◯村、市民を殺し、妻を強姦の上殺害。◯◯村、逃げる子供を後ろから斬り殺害。◯◯村、住居に押し入り金品を奪い老夫婦を殺害。そのネックレスは今奥さんが着けている。まだまだあるな」
「あ、アワアワ・・・」
「あなたっ、本当なのっ。これは活躍した報奨で貰ったものだと・・・」
「す、すまんっ。つい出来心で」
「神は慈悲深い。つい出来心で犯した罪、飢えを凌ぐ為に犯してしまった罪ではここまで魂を汚したりはしない。その罪を後悔し懺悔し続ければやがて少し汚れた魂も浄化される」
「しますっ、しますっ。一生懺悔し続けますっ。だから命だけはっ」
「遅い。お前の魂はこの世界に不要だ」
グシャ
「うぎゃぁぁぁぁあっ」
「パパっ、パパっ。いやーーーーっ、人殺しぃぃぃっ!」
俺はこの子供に目の前で父を殺されるという衝撃を与えてしまった。シルフィードの様に記憶が飛ぶかもしれない。しかし、俺は汚魂駆除をすると決めたのだ。
「子供よ。お前の父は今お前が受けた悲しみや辛さを他の者達に与えたのだ。お前の父は今その裁きを受けた。亡骸にもう罪は無い。弔ってやると良い」
「あんたはっ、あんたはなんの権利があってそんな事をしてるのよっ」
「権利などない。ただの自己満足だ」
「えっ? それだけの為にパパを殺したって言うの・・・」
「そうだ。これから先、この汚れた魂が他にも不幸を振り撒かないで欲しいという自己満足だ。俺を恨むなら恨めばいい。お前にはその権利がある。お前にとってはいい父親だったのだろうからな。ただ俺を恨むなら事実を知れ。先ほど言った村を訪れて現実を見ろ。それからどうするかは自分で決めろ」
子供には難しいだろうが魂が汚れたら裁きが下るというのを理解させておこう。俺への恨みでこの子の魂が濁って汚れないように・・・
それからも家族の前で魂を滅する時は汚魂が何をしたのか説明してから滅していった。ヤギ達は問答無用で食ってるけど。
「きっ来たっ、とうとう奴等が来たっ。しまいじゃ、もう全てがおしまいじゃっ!お、お前が世界を制する事が出来るとそそのかしたせいじゃっ!」
「ちっ! お前らの情報不足を棚に上げて何を抜かしやがるっ。それにここは安全だろ? 何せミスリルという不思議な素材で囲ってあるのだからな」
まぁ、ここの奴等が死のうが生きようがどうでもいい。俺の教えたことを実行する人間と自分がいればまたやり直せるからな。しばらくここで耐えたら奴等もどこかへ行くだろう。
帝都内の様子をモニターで見ていた召喚されし者。ロマンを実現できるのなら別に誰が死のう知ったことではないと思っていた。
全開のラムザは牙を剥き出しにし、眼を赤く光らせて暴れ、無慈悲に魄を引き千切ってヤギに与えていく。その姿は魔王そのものであり、人々から見たら恐怖の塊に見えるだろう。しかし、ラムザの優しさを知っている俺はそれを美しいと思ってしまった。俺はやっぱりヒトではないのかもしれない。
「ゲイルよ、魔力を頼む」
「もうヤギ達を帰そうか。市民にはあまり汚魂がいなかったしね」
「そうだな。ほとんど兵士だったな」
帝国が他の国を攻める時に汚れた奴が多かったんだろうな。侵略戦争を仕掛けた皇帝が一番の悪だ。やはり力を持った汚魂が一番タチが悪い。いくら経験を積んで能力のある魂でも汚れていたら世界の発展には繋がらん。発展どころか滅びに繋がる。だから世界は発展と滅びを繰り返すのだ。
ヤギ達がうたた寝する前に魔界へと帰し、チャンプは空中で待機。さっきチクチク攻撃をされ続けてブレスを吐きかけやがったからな。アッパー食らわして上向かしたから大丈夫だったけど。
大きな城に乗り込んでいく。ここにも汚魂がいるな。
「皇帝はどこにいる?」
「そんな事を教える訳がないだろうがっ」
「あっそ」
魂をむんずと掴んで記憶を読む。
「地下か。てっきり上かと思ってたから助かったわ」
グシャっ
地下に向かうとミスリル製の扉があった。まぁ、問題無しだ。ボタボタっと溶かして中に入る。
「ど、どうやって中に入ってこれたっ。ミスリルはどんな攻撃も」
「うるさいお前は後だ」
ざっと見回すと偉そうなのが1人、白衣を来た科学者らしきものが30人ぐらいいるな。今話し掛けて来た奴は魂が汚れているというより既に何か分からんぐらいになっている。本当に魂か? と思って温玉オフ魂をして確認。やっぱり魂だな。
先ずは皇帝らしきやつから。なんかギャンギャン泣き叫んでいるけど、無視して魂を掴む。酷い事を命令してやがる。何が南の薄汚いやつらだ。ラムザやシェアラやドワーフ達の何処が薄汚いっていうんだよっ!
魂を握る手に思わず力が入る。
「うぎゃぁぁぁぁあっ」
おっと、危うく握り潰すところだった。こいつには他の人間を汚魂にした苦しみも味わってもらわねばならんからな。そう簡単に消滅させてはならない。
苦しみをと念を込めて土魔法の楔を作り魂に打ち込む。うるさくて暴れるのでそのまま土魔法で閉じ込めて闇の中へ。肉体が死んでもその楔はその魂をこの世に止まらせるだろう。その中で永遠に苦しめ。
「さて、お前があの爆弾とドローンタイプの爆撃機や戦車を作った奴だな」
「なっ、なぜドローンや戦車を知っている・・・? まさか俺以外にも召喚者が・・・」
「召喚じゃない。転生だ」
そう言って魂を掴む。やはり俺と同時期を生きてきたやつだ。爆発はロマンか・・・
「爆発がロマンなのは認めるよ。だがな、それは映画やアニメの中の話だ。現実にやればロマンではない」
「こんなに人の命が軽い世界なんだっ。何をしても問題はないっ」
「そうだな。じゃ俺もお前に何をしても問題ないな。せっかくだからこの世界の先輩としてファンタジーな事をお前にしてやるよ」
魂をグリッとしてやる。
「うぎゃぁぁぁぁあっ」
「な、魂を掴まれるなんてファンタジーだろ? そのファンタジーを永遠に味わってくれ」
こいつも皇帝と同じ目に合わせておいた。説教を食らわせてやろうかと思ったけど無駄だしな。
記憶を読んだついでにスキルを頂いておいた。【スキル】マッドサイエンス。マッドは不要なのでサイエンスのみ頂く。ほぼ
一気に知識が流れ込んで来るかと思ったけど、脳内にnow loadingのイメージが流れ込んで来た。さすがめぐみの世界。ダウンロードするのに時間が掛かるようだ。ISDN回線かお前は。
さて、この怯える科学者達はどうするかな?
タチの悪いことに魂が汚れていない。念のために全員の魂を掴んで記憶を確認する。
石油精製やら爆弾の開発、戦車、ドローンなど科学知識をロマン野郎に教えてもらってたんだな。元々その分野に長けているエリート達を使って実行していたのか。こいつらは純粋に新しい知識を喜び、作り出しただけ。人を殺すとか迄の考えに至ってない。もう少しここに来るのが遅かったら核開発までやるところだったみたいだ。
この世界でこいつらは危険分子。滅した方がいいのかもしれない。
が、判断基準は魂の汚れ具合だ。汚れてないのを滅するのは・・・
ゲイルは悩み、ある映画を思い出す。デデデンデンデデン♪ の映画だ。
素晴らしい開発だったはずなのにやがて進化しすぎて人類を滅ぼす。だから開発をする前にそいつを殺すと救世主のリーダーになる人物の母が殺しに行くが殺せなかったシーンだ。
未来に起こすかもしれない行為の為に汚れてないものを滅するのは違うのかもしれない。しかし・・・
ゲイルは悩んだ挙げ句に科学者達にこう伝えた。
「お前達に選択権を与える。1死ぬ、2魂の消滅、3俺の管理下に入る。選べ。無言の場合は自動的に2を選択したものとする。質問は受け付けない」
当然皆3を選んだ。
その後にここの部屋にあった実験記録や石油精製方法、プラントの設計図、ドローンや戦車の設計図等を焼き尽くす。科学者達の身柄はバンデスに引き渡すことに。家族ごと行くのを希望したものには許可した。
「チャンプ、今から施設を破壊しに行く。存分に暴れていいぞ」
石油から作られる製品で欲しいものはたくさんある。が、この世界では不要だ。無くてもなんとかなる。
施設を破壊したあとに土魔法でがっちり固めておく。この世界の技術では破壊出来ないだろう。皇帝と召喚者の箱詰めもそこに埋めておいた。
ここに近寄ると聞こえはしないがうめき声が聞こえてくるような気もするから誰も近寄らないだろう。
「あれは滅しなくて良かったのか?」
「そのうち勝手に壊れるだろ。それまで苦しんで罪を償えばいい」
帝国に戻って皇帝の息子を探す。長男と次男は既にラムザが魂を引き裂いたみたいなので、三男にやらせるか。
「おい、お前ここの復興と攻めて配下にした国の復興をしろ」
「えっ?」
「国が混乱して争いになったらまた魂の汚れた奴が出てくる。次は面倒だから全てを消し去るからな。そうならないようにやれ」
こうしてゲイルは北側の浄化を終了したのだった。
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