第684話 もう止めたら?

翌日からも汚魂の駆除を行う。すでに噂は広まり、汚魂達は隠れているようだがヤギ達は確実に見つけて咀嚼していく。


「小さな村とかは汚れてる奴はおらんな」


しかし、小さな村は貧乏だな。食べる物とかあるのだろうか?


北は戦禍の跡が残っているところが多く、家も壊れてたり見るからに食べてなさそうな人も多い。


怯える母親と泣き叫ぶ子供の前で父親の魂を滅したところの村は限界寸前だった。


「お前達、小麦や野菜の種はあるか?」


「こ、これを持って行かれては・・・」


「それを蒔け」


「こ、こんな時期に蒔けとは・・・ どうかご慈悲をっ」


「いいからさっさと蒔け。育ててやる」


「え?」


「さっさとしろ。あそこで寝ている老人はいつからだ?」


「もう何ヵ月も・・・」


やはりな、腐敗臭がしているから褥瘡ができているのだろう。


寝たきりの原因は不明。痩せこけているから体力がないのかもしれない。


治癒魔法と回復魔法をかけてやる。


老人のうめきが止まりスースーと寝始めた。痛みで全然寝れていなかったのだろう。他にも怪我人を治癒する。


しかし、この家で冬を越すのか・・・


「ここには誰か住んでいるのか?」


「ここは空き家です」


誰も使ってないと聞いたので全部壊して瓦礫を避けて土魔法の部屋を作る。大部屋と小部屋をできるだけ作る。


「こ、これは・・・」


「幾分か寒さをしのげるだろ。種は蒔けたか?」


「は、はい」


植物魔法で小麦や野菜を育てる。


「刈り取りは自分達でやれよ。あとこれを水瓶の中に入れておけ。育ちの悪い野菜に少し掛けてやるとよく育つはずだ」


これで少しの間はこの村は耐えられるだろう。それがずっと続く訳ではないが。


この村には盗賊が逃げ込んだから追いかけて入った村だ。魂を滅する前の記憶で初めは飢えを凌ぐのに食料を運ぶ馬車から奪い、盗賊行為に慣れるにつれて金品を奪うようになり、やがて金品を出し渋った商人を殺すようになっていた。


貧しさから始まった犯罪。それがエスカレートして魂がこっさりへと汚れていった。村が豊ならこんな事にはならなかったのかもしれない。



「ゲイルよ、これは全部の村で行うのか?」


「いや、俺の心を守るためにやっただけだよ」


敵意を持って向かって来る汚魂は気が楽でいい。しかし、嫁や子供を守ろうとする汚魂を滅するのはゲイルの精神をガリガリと削っていく。


怪我人の治癒や作物を育てるのはゲイルの心への言い訳であった。



週一で開発地に帰る時にはヒトに戻るゲイル。しかし、心は同じもの。帰る度に釣りに行ったり、遊んだりはしているが親の魂を消滅させられた子供達の泣き声が消えるわけではない。


「ゲイル、どうしたの?」


「ごめん、少しだけこうさせてて」


ゲイルは帰る度にシルフィードを後ろから抱き締めるようになっていた。



ラムザがこのままだと終わらんぞと言い、魂を滅するのは自分とヤギがやるから俺には治癒や作物を育てる方が早いと役割分担をしてくれるようになった。本当に優しいな、ラムザ。


盗賊団のような所はゲイルも魂を処理するが、村のようなところではラムザが中心にやってくれていた。



帝国の首都に近付いたので今度は東に移動して同じように慈悲と裁きを繰り返し、2年の月日が流れた。


初めの1年ぐらいはヒトとして開発地に戻ってきたゲイルは段々とほぼカミかスーパー坊っちゃんのまま戻ってくるようになった。その時はシルフィードに近付かないというか誰も近寄らせない雰囲気を出していた。


「ゲイル、段々と戻れなくなってるんじゃないのかしら?」


「そんなことないよ母さん。またすぐにいかないといけないからね。この方が楽なんだよ」


「ゲイル」


「何?」


「あなた壊れるわよ」


「かもしんないね。壊れたら母さん治してくれる?」


「心は私でも治せないわよ」


「そっかー、そうだよね」


「でも癒してあげることは出来るわよ。こっちにいらっしゃい」


アイナはそういって抱き締めて頭を撫でてくれた。


「ゲイル」


「何?」


「もう止めたら? 辛いんでしょ?」


「あぁ、そうだね。汚魂であっても人は人。ゴブリンとは違うのが理解出来たよ」


「盗賊はゴブリンと一緒。この言葉はね、自分の心を守る為の言い訳なのよ。中にはゴブリンより酷い人もいるけれど」


「うん、俺も言い訳をたくさん作ってるよ。まだ他にも国はあるはずだからまだまだ壊れる訳にいかないんだよ」


「なんの為にやってるの?」


「なんの為だろうね・・・ 自分の為かな?」


「心が壊れそうな思いをしてまでのことが自分の為なのかしら?」


「もし、チルチルやマリアの子供に汚魂が入れば俺は死んでも死にきれない。なぜあの時に挫けたのかとね。だからやるんだよ。その時に後悔しないために」


「シルフィードは? シルフィードの子供は心配してあげないのかしら?」


「あ、そうだね。シルフィードの子供もだよ・・・」


・・・

・・・・

・・・・・


「ゲイル」


「何?」


「今生きてる人と亡くなった人、あなたはどちらを優先すべきだと思うの?」


「そりゃあ生きてる人さ」


「そうね、母さんもそう思うわ。でね、あなたは前世の記憶があろうとなかろうと今を生きているのよ。優先事項を間違えないようにね」


「母さん・・・・ ありがとうね」


「良いのよ。あなたの人生はあなたが選ぶの。好きに生きなさい」


「うん」



アイナはやはり母親だ。もし、地獄というものがあって、俺の魂がそこに行ったら、一緒に謝ってあげるわとか付いて来てくれそうだな。


ありがとうアイナ母さん



ゲイルはそれ以降開発地に戻って来るときにちゃんとヒトになって帰って来た。



「もうっ、嗅がないでっ」


「いや、ちょっとね・・・」


ゲイルは世界の汚魂処理が終わったらシルフィードに聞いてみようかなと思い始めていた。



「ゲイル、もう話を聞くのは止めたのか?」


「それやってたら間にあわないからね」


汚魂はヤギとラムザが着々と消滅させていき、ゲイルは怪我人がいるかどうかを確認もせず治癒魔法を村全体に掛け、持ってきた種を育てて次々移動するようになった。個の事情を聞いてもやることは同じ。治癒も作物を育てるのも感謝されたくてしているわけではない。単に心を守る為の言い訳だ。それなら話を聞く必要はない。俺達は裁きと慈悲を与える存在。そう、神の代行者なのだから。



ラムザはもう汚魂を食べることはない。俺の作る飯の方が良いらしい。汚魂を引き摺り出してヤギにポイっと与える。ラムザもヤギもこの世界の魔力の薄さに慣れたようであまり帰らなくても大丈夫なように適正化が進んだ。


「さ、残すところは首都だけだね。ここは人も多いから全ヤギに来てもらうよ」


「そうか、では我も全開でやろう」


「皇帝とあの機械を作った奴等は俺に任せてね」


「了解した。前祝いにまぐわうか? 全開でやると思ったら身体が滾る」


「それは魅力的な提案だね。是非お願いしたいところだけど、生まれ変わってからのお楽しみにしておくわ」


「なぜ生まれ変わるまで待たねばならん?」


「死んで生まれ変わるの楽しみになるだろ? 死ぬ時にワクワクして死ねそうじゃん」


「記憶がリセットされるのではないのか?」


「あー、そうだね。次に生まれて来るときに記憶が無かったらここまで魔力伸びないね」


「ふむ、まぁそれでも構わん。我は必ずゲイルの魂を見つけ出してみせよう。しかし、その時に我の姿を見たら恐れるのではないか?」


「大丈夫だって、俺の魂にはラムザに欲情するように楔が打ち込まれてるから」


「ふっ、ではより深く楔を打ち込んでおくか」


ラムザはそう言って火照った艶かしい肌を俺に押し付けた後に唇を重ねじゅるるるるるるるっとやった。


これ、まぐわってる事と変わらんよな・・・


お礼に大量の魔力を注ぎトントンして寝かしつけた。さて、明日の準備をしますかね。



大きな魔金を魔力0にして元瘴気の森に移動し、チャンプにもたれて仮眠。


早朝にチャンプを起こして魔金を置いておく。これで何日間か持つだろう。


「さ、チャンプ。目指すは帝国の首都だ。ラムザが起きる前に到着するぞ」


「御意」


チャンプはワープしたかのように全力で飛び、まだスヤスヤと子供のように眠るラムザのそばに到着したのであった。






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