第682話 修羅場

「ぼっちゃん、戻らなくていいのか?皆心配してっぞ?」


「いや、ちょっと疲れちゃってね・・・ ここに居たらお邪魔かな?」


戦場でまぐわろうとしてたぐらいだからな。


「いや、そんなんじゃねーけどよ」


「ゲイルは帰りたないんか?」


「あっはっはっは・・・・・ うん」


「何があったんだよ?」


ゲイルはダンとミケにシェアラとの事を話した。



ー開発地ー


「で、砂の国のお姫様がゲイルとどういう関係なのっ?」


チルチルはシェアラに詰問していた。


「どういう関係って、ウチと結婚して砂の国の王様になってくれたらええなぁと思ってるで。ウチの事まんざらやないと思うし」


「なんですってぇぇぇぇっ!」


「チル、そう興奮しないで。で、シェアラさんはゲイルとどこまでいったのよ?」


「どこまでて、そんな恥ずかしいこと言わしなや・・・」


シェアラはゲイルにご馳走してもらってお腹いっぱいになったことを思い出してお腹をさする。


「なっ・・・・」


「あんた達っ! 何やってんのよっ! 私なんてチューもしてもらったこともないのにっ」


シルフィードは激怒した。


「だって、あんたエルフの姫かなんか知らんけどまだ子供やん。その点ウチは食べ頃の・・・」


「あんたより歳上よっ!」


「そら年齢はそうかも知らんけど、肉体的には子供やろ? ゲイルはもっと熟れた方が好きなんちゃうか? 一緒におった魔王様やっけ? あの人も色気ムンムンやん。肌の色もウチとおんなし感じやし。ゲイルはウチらみたいな健康的な熟れたんが好きやと思うで。あんたみたいに真っ白なんよりな」


「なっ・・・ ゲッ、ゲイルの好みはっ」


シルフィードはゲイルの理想はめぐみだと言い掛けて止めた。それはそれで悔しいからだ。


めぐみの肌は透明感のある色白だ。それはシルフィードと同じ。絶対にゲイルはこっちの方が好きなはず。


「ゲイルは私みたいなのが好きなのっ」


「そやろか? まぁ、肌の色はどうでもええわ。そやけど乳はちゃうやろ? そっちの獣人の娘の方がまだええんちゃうか?」


「ハーフ獣人ですっ!」


チルチルはふと気付いた。このシェアラって人の臭いに嗅ぎ覚えがある。


スンスン


「なっ、なんや?」


「シルフィ」


「何チル?」


「この人の言うことは嘘じゃないかもしれない・・・」


「ど、どういうこと?」


「昔、この人の臭いをさせて帰って来たことがあった・・・」


「えっ? 嘘っ・・・」


開発地はますます修羅場になっていく。



ードラゴンシティー


「そないなことやってたんか? そらもめんで」


「やってたとか言うなよ。俺は何にも悪いことしてないんだから」


「ぼっちゃんのこったからそうだとは思うけどよ、それならそれで逃げずに帰って誤解解いた方がいいんじゃねぇか?」


ダンの正論が胸に刺さる。しかし、帰りたくないのだ。


「あんたがここでずっとウチらと暮らすんやったらそれでもええけどな。そんなん無理やろ? そやから早よ帰り。あんたが昔やってくれたようにウチがみんなの誤解を解いたるよって」


「ミケ、お前やっぱり良いやつだな・・・」


「その代わり、そのドライムも連れてってや。なんぼ大丈夫や旨いと言われたかて死体を食うてた奴の汁は飲みたないねん。ダンに他の捕まえて来てもらうからそいつを同じようにしてくれたらええわ」


いや、他のスライムもゴブリンとかの死体を食ってたかもしれんぞとは言わない。ここはミケの援護射撃にすがるしかないのだ。


「解った」


「ほならダン、行こか」


「俺も行くのかよ?」


「当たり前やん。ウチらもちゃんとお互いの誤解を解いてもろたからこうして一緒におれるんやろ? ちゃんと借りは返さなあかんねん。ほら行くで」


俺はダンとミケに付いて来て貰って開発地に戻った。


<一緒に謝ってあげるから>


小さな頃、そう母親に言われて喧嘩した友達の所に連れていかれた事を思い出す。俺は何にも悪いことしていないのに・・・



「あーっ! ゲイルが帰って来たっ!」


チルチルがそう大声を出す。


「ゲイルっ! ちゃんと説明してっ!」


シルフィードも興奮している。


「あんたらそんなほたえなっ! そんなんやからゲイルはここに帰りたがらへんかってんやろっ。あんたらゲイルを追い出したいんかっ!」


ミケおかんは素晴らしい。


その後、ここでシルフィードとシェアラ達の話がどんなんだったか聞かされる。


「で、ゲイルはどうするつもりなのっ」


チルチルは俺に詰め寄る。


「いや、あのね・・・ 俺からは何もしてなくて・・・」


ごもごも言い訳がましい説明になってしまうゲイル。


「はっきり説明してよっ」


「あんたらええ加減にせぇ言うたやろ。ゲイルが誰とチューしたかて自由や。ウチかてしたことあるからな」


シルフィードがそれを聞いて目を見開く。


「いっ、いつの間にっ! ダンさんがいる癖にっ」


「ウチのはお礼のチューや。男女のチューちゃう。それにゲイルはもうヒトちゃうねんから問題あらへん。ダンも知っとる」


ヒトちゃうとか言うなよ・・・


「だって、だって、私には何にも・・・」


「ほならしてもろたらええねん」


「え?」


「してもろたらええ言うてんねん。して欲しいんやろ? チュー」


「おいおいミケっ」


「ゲイルも気にせんとして欲しい奴にやったったらええねん。ヒトちゃうねんから慈悲みたいなもんやろ? チューで子供出来たりせんから安心し」


それは知ってるけどさぁ・・・


「わ、私が一番だからね・・・」


シルフィードはそれは譲れないといった態度を取る。


「じゃ、私がその次」


「ウチは別に何番でもええねん。王様には何人も女がおって当たり前やからな」


「王様?」


「ほら、ウチのおとんが砂の国の王様になったやろ? ゲイルがウチと結婚したら次の王様になるやん。ウチのこの食べ頃の身体好きに出来んで。悪い話ちゃうやろ?」


確かに・・・ じゃないっ。


「俺は誰とも結婚しないんだよっ。それにやることがあるからな。王様なんてやってる暇はないっ」


「やること?」


シルフィード達が口々に俺の事を説明する。


「はー、そやったんかいな。やっぱりあんたは凄いなぁ。ほなら結婚は諦めるけど子種だけくれたらええで。ウチがちゃんと育てるし。あんたの子供やったら砂の国も将来安泰や」


子種をくれと言われてまたぎゃーぎゃー騒ぎ出すシルフィード達。


あー、ここに居たくねー・・・


「俺、汚魂処理に行ってくるわ・・・」


「何でこんな時間から行くのよっ」


「そやかてチルチル・・・」


「ええ加減にせんかっ!」


ドワン参戦。


「お前らがいっつもいっつもそんなんじゃから、坊主が困るんじゃろがっ。お前らも好きにしたらええが、坊主も好きにさせてやれっと前にも言うたじゃろ。坊主がここに戻りたくなくなったらどうするんじゃっ!」


「おやっさん・・・」


「坊主が帰って来なんだらあの船の操縦が出来んようになるじゃろがっ」


あ、はい。そうでしたね。週一で帰って来て船を出せと言ってましたね。


しかし、ドワンの一喝で皆も落ち着き、俺からのチューは祝福として扱われる事になった。もうヒトでなくていいわ・・・



まずはシルフィード。


チュッ


真っ赤になる。けど、なんかこういうの懐かしいな。嫁さんと付き合って初めてしたキスがこんなんだったな


次にチルチル。


顔を近付けると俺の顔をスンスンする。俺の顔は脂くさいのだろうか?


「ラムザの臭いがする。それも発情した臭い・・・」


ゲッ・・・


「ラムザと一緒に戦ってたからじゃ、な、ないかな?」


「なんで顔から一番臭いがするのっ」


汗で艶かしくなった胸でグリグリされたとか言えない・・・


「これっ! いらぬ事を言うなといったじゃろがっ」


ドワンに怒られて黙るチルチル。そのままチュッとしてから俺の顔を胸でグリグリした。


「あっ、チル。何やってんのよっ」


「上書き」


俺はチルチルにマーキングされたようだ。風呂上がりに飼い犬が髪の毛に身体を擦り付けて来るのと同じ感覚だ。チルチルは義娘だし、いくら胸があるといっても色気耐性(強)の俺はなんとも思わない。


「じゃ、次はウチね。濃厚なんでもええん?」


「ダメです」


「ケチッ」


「ケチで結構コケコッコーだ」


「なんなんそれ?」


「いや、別に」


そしてシェアラにもチュッとしておいた。


「マリアも」


ハイハイ


「ぼっちゃま、私にも」


「ダメです」


「ゲイル、祝福なら私にも・・・」


「デーレン、君もダメです。ポット君に祝福してもらいなさい」


「母さんもしてもらおうかな?」


「え?」


「親子なんだからいいわよね?」


アイナにもチュッとしておいた。こらっアーノルド、剣に手を掛けるな。


「ゲイル、今のは祝福なんだよな?」


「そうだよ」


「なら、俺にも祝福してもらおうじゃないか」


ぶちゅーーーっ


アーノルドは取り返してやったぜと満足気だった。それを見ていたマルグリッドは真っ赤になっていた。そういやそっち系の話好きだったよね義姉さん。しかし、オッサンとキスするはめになるとは思わなかった。いちおうダンとドワンにもする? と聞いたけど断られた。ありがとう断ってくれて。



その後は大人数でバーベキュー。


「ウチもここに住みたいっ! めっちゃご飯旨いっ」


「お前、砂の国の姫だろ? ダメだよ。歳食って引退したら来てもいいけど」


「えー、そんなんまだまだ先やん」


そう思ってるのは今だからだ。40歳越えたあたりからあっという間に月日が過ぎるぞ。あれ? このドラマ昨日も見たよね?とか思うぐらいにな。


「砂の国の飯もなかなかのもんだぞ。こっちではこんな使い方してるけどな」


と、カレー粉をみせてやる。


「最初っから全部混ぜてあるん?」


「そう、万能スパイス。カレー粉ってやつだ。素人が下手にスパイスを使ったら不味くなったりするだろ? これは全部同じ味にはなるが、なかなか旨いんだぞ」


「どないして食べるん?」


という事でちゃちゃっとチキンカレーを作ってやる。


「うわっ、旨っ・・・」


「お前ん所でこういう調合スパイスを作って売ればいいんじゃないか? 他国で売れると思うぞ」


「ほんまやな。帰ったらおとんと相談するわ」


サンプルとして、缶に入れたカレー粉を渡しておいた。専門家達がどんなカレーを作ってくれるか楽しみだ。



さんざん食った後に皆にコーラを振る舞ってみる。ダンとミケは死体の汁と言って飲まなかったが。


砂の国でも飲めるように、サーバーを作ってやると約束。シロップはスパイスの支払いに使ってもらうことに。


砂の国にもドアを作って欲しいと頼まれたので作ってあげる事にしたけど、魔力補充が問題だ。汚魂ホイホイの回路から魔力線を繋げるけど魔金に充填されて使うとしても、2~3ヶ月に1回ぐらいしか開けないだろうな。



数日後に北地域の汚魂駆除に出ることになった。それが決まった夜にシルフィードと二人きりになる。


「ゲイル」


「なに?」


「祝福じゃなくてちゃんとして欲しいな」


初めてはこれからの好きになるであろう人に取っておいた方がいいとは思ってたけど、もう今さらだな。


俺はシルフィードを抱き締めてちゃんとキスをした。


トクンと自分の魂が脈を打ったのはシルフィードに内緒にしておいたゲイルであった。

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