第681話 ハンバーガーセット

「そうか、それは怒鳴って悪かった。礼を言わねばならんのだったのだな」


「そうそう、危なかったんだよ本当に。感謝してよね」


「すまん・・」


いきなり怒鳴られた仕返しに恩に着せてやろう。


時間を掛けてエイブリックに各地で発生した事態と現状を説明した。



「北の帝国か・・・ また攻めてくるかもしれんな」


「いや、もうちょっとしたら殲滅しに行くよ」


「皆殺しにするのか?」


「まさか。汚魂の駆除だよ。北側の端から順番に汚魂駆除していく。最後は帝国本体だ。首謀者は最後にやるからどんどん自分に迫ってくる恐怖を味わわせてから消滅する」


「えげつない事をするなぁ」


「この事は伝説になって欲しいからね。悪いことをしたらこうなるよというのを魂に刻み込んでおけば100年ぐらいは悪いことしなくなるんじゃないかなって?」


「なるほど。しかし、これでもうどこも襲ってくるような国は無くなったな」


「いや、大陸というか土地はここだけじゃないと思うんだよ。海の向こう側にはたくさん国があると思うよ。だから海から船とか空からとか侵略してくる可能性は否定できないんだ」


「そうなのか?」


「だから北が終わったら海の向こうで国を探して同じ事をしていくよ」


「そうか、それは羨ましいな。見知らぬ所を見れるのだろ?」


「面白いところがあれば皆でツアーとかして行けばいいじゃん。めぼしい所には座標置いて来るから」


「ほう、それは楽しみだ。俺も用意しておく」


これ、アルが王になるのも近そうだな・・・



エイブリックに説明を終えた後にディノスレイヤ領に行って、ギルマスに相談しにいく。


「おう、久しぶりだな坊主」


「本当に。今日は相談なんだけどね」


元瘴気の森をどうするかを聞いてみる。


「そうか、魔力を吸わないと魔物が溢れて、魔力を吸い続けてると魔物が極端に減って冒険者への生活に影響が出るのか。難しい問題だな」


「そうなんだ。魔力スポットはあそこだけじゃないから居なくなることはないんだけどね」


「魔力を吸うのを止めたら魔物が増えるだけか?」


「いや、強い魔物が増えると言った方が正しいね」


「冒険者どもが倒せる程度の魔物はどうなる?」


「ディノとかから取れる大きな魔石は取れなくなるけど、そこそこのは変わらないかもしれない」


「あんな化け物そうそういるかよっ」


「いや、生まれてくるけどこっちに来ないだけなんだよ。魔物にとって魔力が溢れ出る所は特等地でね、強いものが優先してそこに残り、それに勝てない魔物が他の場所を探して移動するって感じかな」


「なるほどな・・・ しかし、魔石が減るのはまずいしなぁ」


「それなら開発地から輸出するよ。冒険者に払うのと同じ金額でいいよ」


「そんな事が出来るのか?」


「もちろん。じゃ、魔石の輸出をするから魔力スポットの魔力を吸う方向でいこうか?」


「あぁ、そうしてくれ」



屋敷に戻るとすでに皆は開発地に移動したようで誰もいなかった。


「ドラゴンシティ」


そう唱えてドア開ける。


「あれ? 一人なん?」


「そう、ラムザは一度帰した。次の汚魂駆除まで休んでて貰うよ。ここの住人達は帰って来たか?」


「だいたいな。そやけど、向こうに残りたいやつらはそのまま帰って来てへんわ」


「いいのか?」


「ええんちゃう? みんな好きにしたらええねん」


ドラゴンシティも将来の発展を見越して開発してあるから住みやすいんだけどね。


「それより、あれなんとかしたってぇな」


「あれ?」


「汚魂ホイホイに掛かったやつらや。えらいことになってんで。ウチはもう見たないわ」


と言うことなので汚魂牢へ一人でいく事に。


うわっ・・・ 確かにこれは酷い。


牢がいっぱいになっても強制的に送られてきた汚魂たち。逃げられないように強固な土魔法にしてあるからすべての肉が圧縮されて鉄格子からミンチ状になって絞り出されていた。しばらくハンバーグが食べられんかもしれん・・・。


息の有るものがいるとは思えんが、いちおう温玉してみるといくつか残っていた。魂を消滅させるにはほぼシリーズになる必要がある。しかし、あの中に手を突っ込みたくない。ヤギ達もまだお腹いっぱいだろうしな。


汚魂駆除が終わった後の死体をスライムに食べさせてた係りの奴もこの塊の中にいるだろう。


スライ槽からスライムを出してテイムして食わせるか。魔力を与えてでかくしたら全部食うかな?


取りあえずスライムを出して魔力を与えていく。でかくなってきてるけどどうなるんだろ?


魔力を流しながら名前を付ける。ドラゴンシティのスライムだからドライムでいいか。



「お前の名前はドライムだ」


ポウと光ってテイム状態に。そのままプルプルっと大きくなっていく。ソーダゼリーみたいだな。そういやソーダ味ってどうやって作るんだろ? コーラも自分ではあの味が再現できないんだよね。あー、コーラ飲みたいな。思い出しちゃったよ。瓶のがっつり炭酸のか、ハンバーガー屋の薄いやつも好きだったんだよね。


そんな事を考えながら魔力を注いでいくとドライムが黒く変色していく。ん?


【種族】ビッグスライム(コーラ味)


スライムにコーラ味なんて付けるなよっ!



ドライムがぽよっと震えたと思ったらポチョと液体を出した。え?


コップを出してもう一度入れてくれと言うとポチョと出した。


そこに氷と炭酸を入れて飲んでみる。


うぉぉぉぉぉぉっーーー!


「凄いよお前、これコーラだよっ」


俺がそう褒めるとスライムはプルプルと震えた。


ゲイルは人間ミンチが絞り出されてる横で美味しくコーラを頂いた。


今日の晩飯はハンバーガーセットだな。


ゲイルの思考はすでにヒトの思考とは思えなかった。


ヤギを呼び出してまだ食えるかと聞いたら4つの目のうちの1つをウインクしてみせる。器用だなお前・・・


牢の屋根の上でスタンバイさせ、ドライムにゆっくりと食えと言って、死体を食わせる。残ってた身体をドライムが食うと魂が天に帰ろうと出てくる所をヤギに食ってもらう。ワンコ魂方式だ。食ったら次、食ったら次と咀嚼していく。魂の断末魔が俺には聞こえるけどもう慣れた。椅子に座ってコーラを飲みながらそれを見る。


知らない人からみたら悪魔の所業だろう。



全て処理が終わってヤギを帰してからクリーン魔法を掛ける。


よし、綺麗になった。



「終わった・・・?  なんやその真っ黒なスライムは?」


「テイムしたスライムのドライムだよ。こいつ面白くてね。晩飯の時に面白い物を見せてやるよ」


「ここで飯食って行くんか?」


「ダメか?」


「いや、かまへんねけど戻らんで大丈夫なんか?」


「大丈夫、大丈夫。もう安全だから。ちょっと魔道具作るわ。後、俺が飯作ってやるからパンだけくれ」


「え? 作ってくれるん? ヤッタっ!」


「ダンはどこに行ってるんだ?」


「あんたんとこやで。ここの住人が向こうに住みたい言うてるて言うたやろ。その調整や」


俺がエイブリックの所に行ってる間にすれ違ったのか。


「テディは?」


「皆が逃げた時に向こうに連れてってもろたからな。ダンと一緒に帰ってくるんちゃう?」


「お前、テディだけ逃がして、自分は残ったのか? なんかあったらどうするつもりだったんだよ?」


「あんたがおるやん。世話もちゃんと見てくれるやろし、また生まれ変わったら会わせてくれるやろ思てん」


こいつ・・・


しかし、ここまで信頼してくれてるのかと思うと少し嬉しい。


「よし、ミケの為に2種類作るわ。楽しみにしとけっ」


「ヤッタ!」



まずは魔道具作り。魔法陣は簡単だ。こうしてこうしてと。で、氷入り、氷無し、炭酸のみのボタン付けてと。コーラシロップはここに補充。洗えるように取り外し式にして魔金をセットして完成!


次はハンバーグだな。牛100%にしてやるか。チーズあったけな?  おっ、あったあった。それとレタスとベーコン、オニオンスライスを用意。


次はミケ用の魚フライっと。あ、照り焼きチキンも作っちゃお。


ゲイルは次々と定番メニューを作っていく。そろそろ晩飯だな。



「戻ったぜ」


「お帰りっ! ゲイルが来て飯作ってくれてんで」


「こんな所に居たのか。エイブリック様に報告に行ったきり戻って来ないからてっきり捕まってんのかと思ってたぜ」


ダンはテディをミケに渡してそう言ってドライムをスルーしていた。


ドライムスルーだ。


「よっ、ちょうど飯出来たぞ。エールを飲む前に先にこれを飲んで試してくれ」


ゲイルはハンバーガーセットを出してきた。


「ヤッタ! 魚フライのやつやん。見たらわかる、旨いやつやんっ!」


「おっ! この黒いジュース旨ぇな。新作か?」


「そうそう! これ飲みたかったんだよね。いつでも飲めるように魔道具作ってあるから好きに飲んで」


俺も懐かしきセットをテディをかまいながら楽しむ。


「ダン、酒も飲みたいだろ? そこにラム酒入れても旨いぞ」


「おっ、本当だな。甘い酒はいまいち好きじゃねーが、これはこれでなかなかいけるな。女神様達もこういうの好きなんじゃねーか?」


「そうかもね」


先に自分の分をお供えはしたけど味は薄くならなかった。


「このコーラってどうやって作ったんだ?」


「いや、そいつがこれの原液を出してくれるんだよ」


「これ、スライムだよな?」


「そうそう、テイムしたら黒くなったんだよ。そしたらこれを出せるようになってさ、ミケの言うアタリやってやつだよ」


「へぇ、どこで捕まえて来たんだ?」


「捕まえたんじゃないよ」


「へ?」


「ここにいた奴だよ」


「も、もしかして・・・ 汚魂牢の奴やつか・・・?」


「そうだよ」


「なぁ、ゲイル。あの牢は処理してくれたんやんな? もしかしてこいつが・・・」


「そう。綺麗さっぱり食ってくれたよ」


俺がそう言うと二人とも口に含んでいたコーラをダーッとこぼした。


「なっ! なんちゅうもん飲ましてくれんねんっ。まさかこの肉はあいつらの・・・」


「肉は牛肉だって。さすがに俺も人のミンチなんて料理に使う訳ないだろ?」


「そ、そやかて・・・ 死体を食った汁飲ませたやんかっ」


死体の汁とか言うなよ・・・


「スライムは魔力を食うのに色々な物を食ってるだけだ。それにこれは死体の汁じゃねぇっ。魔力水みたいなもんだよっ。甘く感じるのは魔力! 砂糖も入ってないからねっ」


「そやかて・・・」


「嫌ならこれから餌は魔石でもやれよ。同じ物が出来るから」


「ここにこいつを置いていくつもりかよ?」


「そうだよ。俺は汚魂駆除旅に出るから宜しくね」


・・・・・・


ダン達はドライムとコーラを交互にチラ見していた。

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