第680話 ゲイル逝く

「元に戻しなさいよーーー!」


「やめろっうっとおしいっ! こんな事をしても無駄なのは解ってるだろうがっ」


エネルギー体であるめぐみ達は首を絞められて死ぬどころか苦しくさえない。星を作りしもの自身はめぐみ達のように人間の姿をしておらず、ヒトっぽい形をしたエネルギーの塊のままであった。


「めぐみっ、それよりも早くゲイルくんの所に行かないとっ。魂の洗浄を自動にしたままでしょ。もし今死んだら記憶消えちゃうわよっ」


「解ったっ。すぐ行くっ。ゼウちゃんも付いて来てっ」


めぐみとゼウはここを飛び出てめぐみの世界に飛んで行った。


「ふう、やっと居なくなった。あんな危険なイレギュラーな奴はリセットしてしまうに限る」


めぐみ達が出て行った後に、魂のリセットを試みる星を作りしもの。


「ん? なぜデリートを受付んのだ?  あっ、魂が変化してるじゃないかっ。なんだこの魂は・・・ くそっ、こうなったらあいつの世界に魂を戻して記憶のリセットをしてみるしかない」


星を作りし者はめぐみの星の時間をピピピピピピッと進めていく。


「よしっ死んだっ。ふぅ、なんとか間に合ったな。もう少しで俺達と同じような存在に変化してもおかしくなかったぞ。なぜこうなった?」


星を作りし者はゲイルのログを見ていく。


「なんだ・・・ これは・・・?」


ゲイルがやった記録を見て愕然とする。


「テストケースの俺の星の者を1体だけ除いて全部連れて行っただと・・・? なぜそんなことが出来るっ!!」


「他には何を・・・ 他の魂を消滅してやがる。後はなんだよこれ・・・」




「めぐみ早くっ!」


「解ってるっ、解ってるから黙っててっ!」


めぐみは自分の世界へと急ぐ。早くしないとぶちょーの記憶がリセットされてしまうかもしれない。そうすれば自分の事を忘れてしまう。


「嫌っ! そんなの絶対嫌っ!」


自分の世界に到着して電話をみるとたくさんの着信履歴が。


こんなに何回も連絡を・・・ ごめんね、ぶちょー、今行くからっ!


めぐみは急いでぶちょーの元に向かった。電話に残されたメッセージに気付かないまま。


「お預かりしたメッセージが1件あります」


ピー


「め、めぐみ、お前と・・会え・・・サヨ・・ナ・・ラ・・・・・・・」


ツー ツー ツー


「お預かりしたメッセージは以上です」





「ダンっ。無事だったか?」


「おう、チャンプが来てくれて助かったわ・・・ ぼっちゃんまたすげぇことになってんな」


「緊急事態で指輪外したらどっか行っちゃたんだよ。これ以上出力下げられなくてさ。チャンプ、ちゃんと間に合ったんだな。良くやった」


「いや、もっと早くやっても良かったのだが、ダン達がまぐわっていたのでな。地上の奴らをどうして良いものかわからなかったのだ」


「まぐわってた? ダン、何も戦場でやることねーだろ?」


「まぐわってなんかねぇっ! チャンプも余計な事を言うなっ!」


ったく、こいつら人が心配してやってたのに何やってんだよっ。


まぁ、生死が掛かった極限状態だと子孫を残そうとする生物的本能がそうさせるとか言うけど・・・


そう思いながらもゲイルはラムザとまぐわり掛けた事を棚に上げてダンをジト目で見ていた。


「ラムザ・・・ お前のその姿は・・・なんだ?」


「うむ、ゲイルが綺麗だと言ってくれたのでな。もうこのままでいようかと思っているのだ? ダンは怖いか?」


「え・・・・ あ、すまん。少しな」


「ハッハッハッハ。普通はそうだからな。気にしなくて良いぞ」


ん? この姿を魅力的に思ってしまうのは俺だけなのか? 俺はアブノーマルだったのか?


「しかし・・・ ゲイル、もう前の姿になれるが良いか? この姿はこの世界では魔力の消費も激しいみたいでな・・・ 少し疲れたっちゃ・・・」


<疲れたっちゃ>じゃねぇ。<疲れちゃった>だ。高橋○美子先生からも訴えられたらどうすんだよ?


なんか可愛い口調になってフラッと俺にしなだれかかるラムザ。


やめろ。


慌ててラムザに魔力を補充する。もうこれ以上はヤバい。俺への精神攻撃が半端無いのだ。その顔立ちと口調は幼心に打ち込まれたくさびをゴンゴンと刺激する。


指輪を外したゲイルの魔力が一気にラムザに流し込まれ、ラムザはビクンと震えた後に復活した。そして今までの姿へと戻った。



ザッとドラゴンシティを見回すと怪我人はいないようだ。ダンとミケから血が出ているので治癒をした。


「王都に行ってくるよ。ここはもう大丈夫そうだね」


「あ、ドアの魔力を補充してってや。もう無いねん」



ここのドアは魔金で作ってあると言っても過言ではないぐらい大量に使ってる。それがほぼ空になるとはかなり長い時間開けてたんだな。女性子供、年寄りを中心に避難させたのだろう。


だーーーっと魔力を満タンにしてからチャンプに乗ってラムザと王都へ向かう。北の鉱山都市は少し爆撃をくらったかもしれないな。


王都のドームを解除して中を確認して攻撃を食らってないことが解って安心するゲイル。


鉱山都市に向かって治癒魔法を掛けた後にセントラルに向かう。復興しかけていたところに爆撃を食らったようでなかなかに酷い。


「ゲ、ゲイル様・・・ ですよね?」


「おう、久しぶり。今から取りあえず全体に治癒魔法を掛けるわ」


チャンプに浮かび上がらせて爆撃を食らった所に治癒魔法を掛けていく。


「これで怪我人は治ってるはずだ。まだ他にもやり残してる事があるから処理してくる。作物とかヤバそうだが種はあるか?」


「は、はい。食料として確保したものを使えば・・・」


「なら、それを蒔いておいてくれ。後で育てにくるから」


俺はそう言い残してディノスレイヤ領に向かう。



アーノルド達と冒険者はまだ魔物と戦っている。


「父さん、魔物多いね」


「おお、シン・ゲイルか」


なんだよシンて・・・


「延々と沸いて出て来やがるからな、キリがねぇ。ヤギも寝ちまってるしな。敵はほぼ殲滅されたみたいだ。ヤギが食わなかった奴らも魔物にやられたぞ」


取りあえずチャンプにゴゥと魔物を殲滅させて一息付く、


「ラムザ、ヤギが寝ちゃったみたいなんだけど」


「魔力が減ってるのだろう。一度帰してやらんといかんかもしれん」


俺にはおやつの食べ過ぎで腹ごなしに昼寝してるようにしか見えんけどな。


「おーい、寝るなら自分の部屋で寝ろ」


そう言ってゲートを開けてやると、もうせっかく気持ち良くうたた寝してたのに、みたいな目でこっちをみながら帰っていった。俺の種族がマルグリッドかサラになってないだろな?


そう思って自分を鑑定てみる。


【種族】ほぼカミ


なんだよほぼカミって・・・


人を勝手にほぼシリーズに加えんなっ!


「おい、かねてっちゃん。この後はどうするのだ?」


誰がかねてっちゃんだ。豆しぼり頭に巻くぞコラッ。



魔物は昔の瘴気の森から出て来ているようだ。魔力の出方が活発化しているかもしれん。


「チャンプ、あそこに魔力スポットがあるからちょっと吸っててくれ。あ、その前にあそこに串刺しになってる奴らを魂ごと消滅させろ」


「おぉ、あそこはさっきまで昼寝をしていたところだ。なかなか良い魔力が出てるのだ」


こいつ、ここで魔力を吸いながら寝ていたのか・・・


チャンプはゴゥと串刺しドローンを消滅させたあとに元瘴気の森に寝にいった。


俺はセントラルとイーストランドの作物を一気に育て、指輪を再作成した。


身体強化は止めているので、種族がほぼ神からスーパーぼっちゃん、ぼっちゃんへと戻っていったので一安心する。



そして守神を迎えに行った。あ、ちゃんと神獣から元に戻ってる。もしかしたら俺とリンクしてほぼカミになったらこいつも神獣になるのかもしれん。守神はほぼテイム状態だからな。


シルバーが生きてたらペガサスとかになったのだろうか。コボルト達はどうだったのかな?


色々と試したいがほぼカミから神になったら嫌なので実験は止めておく。


「守神、おまえうちに来ないか? あそこなら食い物も豊富だし、安全だと思うぞ。俺はもうここへ来ることもほとんどないだろうしおまえも寂しいだろ?」


そう言うと俺に飛び乗ってザリザリと舐めはいだ。痛い痛い痛いっ!


「これはお前のシモベか?」


「いや、友達というか仲間だね。綺麗な模様してるだろ? 触り心地もめっちゃいいんだよ」


どれどれとラムザが触ると硬直する守神。本能的に魂が恐怖しているのかもしれない。


エルフの集落近くにドアを開けて守神にこっちへ行けと促す。


「そこにいる人間は全員仲間だから倒しちゃダメだよ」


守神は頷いたような仕草を見せてタッとドアの向こうへ消えて行った。俺達も拠点に戻って皆の無事な姿を確認しよう。


皆の事が心配ではあったが、あれからSOSも来なかったので、優先事項を決めて処理をしていたのだ。



「皆大丈夫だった?」


「ゲイルっ! 無事やったんやねっ!」


ブチューーーっ


シェアラから熱烈歓迎を受けるゲイル。ここにシルフィードがいなくて本当に良かったと思う。


「やめなさいっ」


「だって・・・ どこも危なかったみたいやのに一番初めにウチの所に来てくれたんやろ?」


そう言ってうるっとした目で俺を見つめる。


チルチルは毛を逆立て、マリアは冷たい目をして、デーレンは呆れ返っていた。


俺、何にも悪いことしてないのに・・・


「エイブリックさんの所に報告に行ってくる」


皆から待てぇっ! どういう事か説明しろーっと叫ばれたが、ドアをガチャバタンと素早く開け締めして逃げた。



「ゲイル、俺に説明することあるよな?」


「だから今その報告を・・・」


「どれだけ王都の人間がパニックになったと思ってんだーーーっ! 早く説明しろー」


様々なものを守りきったゲイルに安住の地はなかった。


また、かねてっちゃんになろうかな・・・


そうすれば誰も文句を言えないのではと心に逃げ場を作ったのであった。




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