第679話 激戦
クックックック
「脆い、脆すぎるぞお前らっ」
ラムザはゲイルの飛行機を離れた場所に停め自力で飛んでドローンタイプの有人爆撃機を素手で叩き落としていた。
能力を解放したラムザは背中から小さなドラゴンのような翼を伸ばし、巻いていた角がうねりを伴って上に伸び、2本の牙が伸びていた。
「なっ、なんだあれは・・・ あんなのがいるとは聞いてないぞっ」
「あ、悪魔・・・ いやあれは魔王!?」
「魔王だとっ! そんな物がいてたまるかっ。おのれぇ、俺のロマンを台無しにしやがってっ」
ラムザは叩き落としたドローンから汚魂が天に帰って行くのを見て、小さな子供が飛ばしてしまった風船を取ってやるかの如く捕まえていく。
すでに肉体から離れた魂が喰われる時に物理的に断末魔を上げる訳ではないが魂に直接伝わるような叫びをあげる。
「お前が最後だな」
爆撃機から離れた所にいたカメラ付きドローンを覗き込んでラムザはそう言った。
「ひぃぃぃぃぃぃっ!」
生きた人間から魂を引き摺り出すラムザ。あまりの苦しさにこの世の者とは思えない形相を浮かべて断末魔を上げた。
ブツン
モニターに写る映像はそこで消えた。
「ひぃぃぃぃぃぃ、なんじゃ、なんじゃ今のはっ!」
皇帝はあまりの恐ろしさに顔面蒼白になる。
「クソッ 中央に切り替えろっ」
そこには巨大な怪物が全てを溶かすかのような炎を吐き、ドローンが消滅していくのが写っていた。
カメラ付きドローンがその大きな口を開けた所を撮影した所でブツッと映像が途切れた。
「で、伝説のドラゴンじゃっ! まさか本当に存在しておるとはっ」
「ドラゴン? 空想上のものではないのかっ」
皇帝は恐ろしさのあまりのガタガタ震えて返事が出来ない。
「西だっ! 本命は西だ。戦車部隊と空からの・・・ なんだあれは?」
「父さん逃げろっ! そいつは戦車・・・」
グリムナが参戦し、戦車を蔦で絡め取っていく。砲身は固められて攻撃出来ない。
その戦車をアーノルドが斬り裂き、アイナは殴って壊す。ドワンのハンマーはドガガガッと数台まとめて破壊する。
なんだよあれ?
しかし、歩兵の数も膨大だ。いくら冒険者達を従えているとはいえ、あの歩兵達は銃まで持っている。絶対にこちら側にも犠牲者が出る。
それにシルフィードに人殺しをさせたくない。
ゲイルはアーノルド達の所に飛んだ。
「父さん、後は俺がやる。皆を下がらせて。母さんとシルフィは怪我人の治療を」
「お、ゲイル。お前ヒト辞めてんな。神々しいぞ」
アーノルドはいつもの調子でそんな事を言う。いい父親だ。今の俺を見ていつも通りとは。
歩兵団は次々とやってくる。
「ヤギ達よ! おやつの時間だっ」
ゲイルは無数のヤギ召喚ゲートを開いた。
メェ~ メェ~ メェ~
次々とヤギが顕れ、汚魂にむしゃぶりつき、咀嚼されていく。銃などいくら撃っても効かず、次々と仲間の兵士達が断末魔を上げて食われていく。
その異様な光景を目の当たりにした兵士達はパニックをおこし逃げだす。
あっ、冒険者も食われた。防衛に参戦して食われるとは哀れな・・・ まぁ、汚魂だったのだろうから仕方がない。
ドローンはこちらに向かって爆弾を落として来たので風魔法で敵の方に落とす。ドローンを殲滅するのは可能だがそれでは魂が天に汚れたまま帰ってしまう。
チャンプがここに来るまで足止めしなければ。多少の汚魂が天に帰るのは仕方がない。今は生きている皆を守るのが最優先だ。
「マリアっ!」
「チルチルっ?」
「何が起こってるのっ」
「ぼっちゃまがマリアをここへ投げたのっ」
ゲイルがマリアにそんな事をするなんて異常事態。
「お母さん達は?」
「家にいると思うっ」
「探しにいくよっ」
チルチルはマリアの手を引いてロドリゲス商会のドア開けようとするとミーシャがドゥーンを抱いてザックに投げ込まれてきた。
「ミーシャっ、マリアは俺が探してくるから先に行けっ!」
「かーさまっ!」
「マリアっ。ザックさん、ザックさん! マリアはここにいるっ」
「何だってっ」
その時、ドラゴンシティからのドアが開き人が雪崩れこんで来た。
「早よ、こっちや! 皆こっちに逃げぇ!」
ミケがどんどん人を避難させる。
「チルチル、皆をここに溜まらせんとどんどん向こうへやるんやっ」
「わかった」
チルチルはテディを受け取り、皆を誘導していく。
「くそっ、何だよあいつらっ」
セントラルは爆撃を受け、ドラゴンシティにはパラシュート部隊が舞い降りて銃を構えていた。
壁に阻まれたドラゴンシティはその壁を乗り越えると汚魂ホイホイが仕掛けられてるとも知らずに乗り越えて来た。
「軍隊すすめぇ!」
汚魂ホイホイで転送されなかった敵兵士はウエストランド兵士の剣や槍の餌食になっていく。
ダンは剣に炎を纏わせ、塀の外の兵士達に突っ込んでいった。
「うぉぉおおおっ」
ダンは昔ゲイルがミスリル銃で土魔法を撃つのを見ていたので銃が何かを理解してた。
魔力が切れないようにギリギリに身体を強化し、撃たれた弾を熊腕で受け、炎を纏わせた剣で敵を殲滅していく。
(ちっ、数が多過ぎだぜ。ミケ、お前はちゃんと逃げてくれよ・・・)
ダンはゲイルに渡されているSOSのボタンを押さなかった。ここに戻って来ないのは他で戦っているのだと確信していたからだ。膨大な数の敵の前に死を覚悟して敵のど真ん中に突っ込んでいった。領民達、ミケや子供を守る為に。
「な、何が起こっている・・・? なんだあの兵士に襲いかかっている不気味な生物は・・・ こちら側と生態系が違うのか? なっ・・・」
召喚されし者は自分の目を疑った。
スドドドドドドっ
地面から槍が伸びドローンタイプの爆撃機を貫いていく。
よし、これで捕獲しておけば大丈夫。ゲイルは捕獲したパイロットの所まで行き怯えるのを気にせず魂に指を突っ込む。どこから来たのか、何をしてきたのか記憶を見た。
帝国か。北側には他の国々もあるんだな。酷いことをしやがって・・・
魂に指を突っ込まれて悲鳴を上げるパイロット。ゲイルはそのまま魂を引き裂いた。こんな汚れた魂はいらん。
上空まで飛んだゲイルは歩兵団が旧エルフの里の方へ向かってるのが見えた。
あっちはエイプの森に向かうから問題が・・・
守神っ!?
チラっと下を見るとヤギが汚魂を咀嚼し、逃げた兵士は溢れ出てくる魔物達に襲われていく。アーノルド達はディノスレイヤ領に向かう魔物を冒険者達と倒していた。もうここは任せておいて問題無いな。
俺は守神のいる場所へ飛んでいく。
おびただしい死体の側に守神はうずくまっていた。
「守神っ!」
血を流し倒れて意識が無い。だが息がある。
くそっ、銃で撃たれているから体内に弾が残っているはず。まずは魔力と回復魔法をかけて念動魔法で弾を摘出・・・。
ズババババンっ
傷口から一気に弾が打ち出される。しまった指輪が無い。
取りあえず治癒魔法を掛けると一瞬で傷が完治する。
俺にあり得ないぐらいの魔力と回復魔法を掛けられた守神は光に包まれて変化していく。
【種族】神獣
ブッ、守神を本当に神化させてしまった・・・
光輝く透明感のあるシルバー地にゴールドの模様。手触りが物凄くよい。うっとりと撫でているときにエイプの森の方から悲鳴が聞こえて来て我に返る。
「ガゥッ」
と一鳴きした森神は森に消えていく。残党は任せろってことかな。
「ダーーーンっ」
「バカヤロー! 逃げろって言っただろうがっ」
ミケはダンが切り開いた屍の上を猫が走って来るが如くダンに走り寄った。
「弱そうなやつは全部逃がしたで」
ダンは強化した熊腕でミケを抱き、攻撃から守る。
「馬鹿かお前は。テディをおいて死ぬ気かっ」
「大丈夫やて、ゲイルが面倒見てくれるって。ウチらは今度は逝く時一緒やないとまた探さなアカンやん」
「ったく、母親なら子供の事を一番に考えろよっ」
「ゲイルがおるから安心や。また見付けてくれてテディと合わせてくれるって」
そう言ったミケにダンは抱き締めてキスをする。
「後悔すんなよ」
「するかアホッ」
敵の真ん中で抱き合ってキスをする二人。ダンはミケを抱き締めて光輝くぐらい残りの魔力で身体強化をした。
最後までお前を守る・・・・
「ダン、こいつらも消滅させるのか?」
「あ・・・ 頼むチャンプ・・・」
チャンプは問題ないだろう。イーストランドはラムザに任せてしまったがあいつの実力を俺は知らない。危なくなったら魔界へ転移するとは思うが心配だ。
ラムザと唱えてドアを開ける。
ガチャ
「無事かっ」
「ゲイルか。凄まじいな今のお前は」
ゲイルはラムザの本来の姿を初めて見て固まった。小さなドラゴンのような羽に悪魔の様な角。口からは牙が見えている。
「我の姿は怖いか? すまんな久々の戦いで興奮してていつもの姿に戻るのにはもう少しかかる」
「いや、綺麗だよ・・・」
ゲイルは恐怖で固まったのではなく、見惚れてしまったのだ。
興奮したラムザから出る香りと艶かしく汗で濡れた肌。色気耐性があっても身体が反応する。
(まるでサキュバスじゃん・・・)
子供の頃大好きだったあのキャラクターに似た綺麗さと可愛さを備えた顔立ちに色気たっぷりのワガママボディ。それがサキュバスのコスプレをしているようだ・・・
「我のこの姿を見て綺麗か・・・ ダムリンは恐れおののくというのに」
そう言ってラムザがスッとゲイルに近付き唇を重ねる。
ゲイルはそれに抗えなかった。
ジュルルルルルルゥ。
すっ、吸われるっ! 違うっ! 違うっ! それ幼馴染のキャラクターがやるやつっ!
「プハッ なっ、何を吸ってくれてんだよっ!」
「いや、魔力と精力を少々な。うむ、お前の魔力はやはり良い。精力は直接我に注いでくれてもいいのだぞ?」
「いや、今吸われたから大丈夫・・・」
若さも吸われてないだろうな?
しかし、精力を吸われてなかったら危なかった。ラムザにあんな能力があったとは。気を付けよう・・・
「もう発情は終わってしまったのか?」
【スキル】色気耐性(強)
うん、スキルが進化したのは良いけどちょっと残念な気がする。心のどこかに溺れてしまいたいとの願望があるのだろう。
「それより怪我とかしてないか?」
「我を心配してくれるとはな。嬉しいぞゲイル」
ムギュと抱き締められて胸に顔を埋められる。もう一段スキルが進化してくれないと耐えられそうにない・・・
「ラムザ、俺はここの人に治癒魔法を掛けてくるから」
理性が飛ぶ前にラムザから離れ。イーストランドの上空へ浮かぶ。ドラゴンシティも気になるし、王都は大丈夫だと思うけど、皆ちゃんと逃げてくれたか気になる。さっさと終わらせて戻らなければ。
イーストランドの上空へ浮かび全体に治癒魔法を掛けていく。部位欠損した者もいるだろうからちゃんと元に戻りますように。
イーストランドがまばゆいピンクの光に包まれていく。
「あ、あの光は・・・」
住民達も光に気付いて上を見上げる。
「痛いよー、痛いよーっ、 痛・・・くないっ」
すでに死んでしまった者も多いが、怪我で済んだ者は皆治っていく。
「お、おお・・・あれは神様だ」
一人がそう呟くと皆はゲイルを拝みだした。
もう大丈夫そうだな。ここの復興より先に砂の街に安全だと伝えてからドラゴンシティに行かねば
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