第678話 それぞれの戦い

「ぼ、ぼっちゃん。金色に光ってんぞ。もう分かったから魔力流すの止めてくれ」


「も、もう流してない・・・」


「坊主、本当か?」


「ど、どうしようこれ?」


「何があったっ」


アーノルド達が走ってきた。


「ゲイル、なんだそれ? 何をやったんだ?」


「ゲイルっ! 大丈夫・・・キャアっ」


暗がりの中、フルチンで光輝く俺はシルフィードにバッチリ見られてしまった。金の玉は光モザイクで無事だったけど。


慌てて3人とも服を着て皆の元へ。



「止めなさいっゲイル。ヒトに戻れなくなるわよ」


「母さん、もう何にもしてないんだよ」


まだ俺は光ってる。頭も金髪だし、目も金色らしい。今の俺はピカピカに光ってぇとか歌っている場合ではない。


「さっきよりはマシじゃからそのうち収まるじゃろ」


俺もそう思う。徐々に収まって来ているからな。


それからしばらくして俺はフッと元に戻った。


【種族】ぼっちゃん


俺はスーパーぼっちゃんに変身可能になってしまった。とんだファンタジーだな・・・ 鳥◯明先生に訴えられるんじゃなかろうか?



「シルフィ」


「な、何かな?」


「見た?」


「みっ、見てないっ」


本当だろうか? さっき、湖の時と違うと呟いた気がしたんだが。


あの時は俺はまだ幼虫だったからな。今はちゃんと脱皮して将軍に昇格しているのだ。


・・・ぶつぶつとあの頃はとか言ってんじゃねぇ。やっぱり見えてたんじゃないか。光モザイクが薄かったのかもしれない。気を付けよう、教育上宜しくない。


(あの頃は可愛かったのに・・・)

ぶつぶつぶつぶつ


ふっ、あの頃の俺は坊やだからさ。

今の俺は幼虫とは違うのだよ幼虫とは。


「ぼっちゃん、何ぶつぶつ言ってんだ?」


「あ、いや、なんでもない」



数日後、


「ゲイル、いつ頃出るのだ」


「来週には出るよ。ラムザは魔界で待ってる? 暫くは俺が見付けてヤギ借りるだけで済むと思うから」


「いや、共に行くぞ。オラ、ワクワクしてっからな」


誰だお前? 本当に訴えられるぞ。


その時ダンが駆け込んで来た。


「てぇへんだ、てぇへんだっ!」


「どうしたハチ?」


「ハチ?」


「いや、気にしないで」


お前がそんな言い方で入ってくるからだろ。


「いや、それよりこれを読んでくれ。砂の国からだ」


ダンに手紙を渡される。シェアラから転送魔法陣で送られてきたらしい。


えっ?


<イーストランドが空から攻撃を受けている。次はここに来るかもしれない。助けて>


「砂の国に行ってくるっ」


「ぼっちゃん、俺達も行くぞ」


「いや、空からの攻撃にはダンには対応無理だ。最悪スパイスの転送魔法陣でドラゴンシティに避難させるから受け入れ体制を頼む」


「分かった」


「我が共に行こう。戦いなのだろ?」


「ありがたい。ラムザ、一緒に来てくれ」


シルフィは私もと言いかけたが、空からの攻撃には何も出来ない事を理解してその言葉を飲み込んだ。


「気を付けて」


「シルフィ、ここも警戒しておいて。何が来てるか分からないから。ダン、チャンプは?」


「どこかに行ったキリだ」


「くそっ、役立たずな奴め」


ドアを開けて砂の国へ行く。


「ゲイルっ! 助けに来てくれたんかっ」


「抱き付いている暇はない。事情を教えてくれ」


「イーストランドから逃げて来た人が大きな鳥みたいなものが空から何かを落としたら爆発したって言うてんねん。どんどん人がこっちに逃げてきてんねん」


「わかった」


まだこっちには被害は出てない。


「攻撃の音がしたり、空から何かが飛んで来たら魔法陣に乗って避難しろ。俺はイーストランドに行ってくる」


「これ人が乗ったら危ないんやろ?」


「攻撃されるよりマシだ。避難するときは一度にたくさん乗ってから起動してくれ。わかったな?」


「わかった。ゲイル、死なんとってな」


「僕は死にましぇんっ」


「ん? 噛んだん?」


「いや・・・ ラムザ行くぞ。乗れ!」


魔道飛行機を出して全速力でイーストランドへ



「なんだあれは・・・?」


イーストランド上空に浮かぶのはヘリというかドローン型の飛行物体。なんだよこれ・・・?


ドローンから爆弾のような物を落として街を破壊している。地獄絵図だ。


認識阻害をオンにしてバルカン砲で撃ち落としに行く。



ビーーーーーーーっ


けたたましく電話の警報が鳴り響く。


えっ? と思って電話を見るとデーレンの表示。クソッこんな時にっ!


「ラムザ、この飛行機の操作は分かるか?」


「何度も見てたからな。これを押せば弾が飛ぶのだな?」


「後はこいつを握って魔力を流し続けてくれ」


「これか?」


ぎゅうっ


「誰が俺の将軍を握れと言ったんだ。操縦桿だっ」


「ふむ、立派だ。こんな時でも縮こまらんとは大したものだ。ここは任せておけ。魔王と呼ばれる者の力を見せつけてやろうぞ」


「頼ん」


ビーーーーーーっ


今度はマリア!?


くそっ、王都が危ない。


「頼んだっ」



ー召喚されしものー


「クックック、あーはっはっは! 素晴らしいっ! やはり爆発はロマンだ。いや美しい。さっきまで動いてた奴らがゴミのように飛び散っていく」


あーはっはっはっ!


「もっとだ。もっとロマンを俺に見せろっ」


ドローンに搭載されたカメラから送られてくる画像を見ながら恍惚とした表情を浮かべる召還されし者。


「いや、素晴らしい。素晴らしいぞ。これで世界を統一し我が物に。そして真の皇帝になるのだ。醜い南側のやつらなんぞいくら死んでも構わん。我らの美しい血だけが居ればいいのだ」


あーっはっはっはっ



ゲイルは一瞬悩んだ。ほぼ同時にデーレンとマリアからSOSが入ったのだ。


「デーレンっ!」


マリア達の家には開発地への扉がある。最悪そこから逃げられると判断して心が張り裂けそうな思いでゲイルはデーレンの元へ行く。


「ゲイルっ!」


「話は後だっ、ジョンの屋敷に行けっ! ここからだったらすぐだから間に合う。俺の部屋に扉があるからそこへ逃げろっ」


「ゲイルの部屋っ?」


「お前を抱き締めた部屋だ。ポットも連れて行けっ!」


まだ王都への爆撃は始まってはないがもうドローンが見えている。時間が無いっ。


「早くっ!」


「わかった!」


「マリア!」


「ぼっちゃまぁ! なんか怖いのが飛んでくるっ」


「逃げろっ」


ドアを開けてマリアを開発地に投げ込む。プロペラの音が近いっ。


何か黒い物を投下されたのが目に入ったゲイルは指輪を投げ捨てた。


「はぁーーーーーーっ!」


凄まじい光に包まれるゲイルは空に飛び上がり投下された爆弾ごとドローンを吹き飛ばした。


「俺の大切な者を壊そうとしやがってっ。絶対に許さんっ」


マリアを危険にさらしたやつらにゲイルはぶち切れた。ゲイルはさらに光り輝いていく。髪の毛と目が金色になり、全身が人の物ではなくなっていく。全ての感覚がゲイルが守ると約束した者達に降り注いでいくかのように光は飛び散り出した。



「ゲイルはいるかっ 応援を頼むっ」


ディノスレイヤ領には空と陸地から敵が迫っていた。ベントは応援を求める為に開発地に飛び混んできた。


「ゲイルは他に向かっている。行くぞアイナっ ドワンっ。誰かグリムナを呼んで来てくれっ」


「私も行きますっ」


「よし来いシルフィード!」



くそっディノスレイヤ方面、ドラゴンシティへも。


「チャーンプっ。どこで寝てんだカス野郎! さっさと来やがれっ」


膨大な魔力を込めた叫び声はエンシェントドラゴンを呼び覚まし、すぐさまゲイルの元に飛んで来た。


「チャンプ、こことドラゴンシティに飛んで来ている虫を消滅させろ。撃ち落とすんじゃないぞ。消滅だ。魂ごと消し去れ」


「はっ。ご命令のままに」


命令を受けたチャンプは王都に近付いて来ていたドローンを強烈なブレスで消滅させていく。そしてゲイルは王都と新領地を巨大な土魔法のドームで覆った。キャーっと悲鳴が聞こえたけどこれでチャンプが撃ち漏らしても問題はない。こことドラゴンシティはチャンプに任せる。



ゲイルはそのまま飛んでディノスレイヤ領に向かった。


上空には膨大な数のドローン。下には戦車部隊と歩兵団。本命の攻撃は西からか。東と中央を爆撃してこっちから制圧するつもりなのだろう。


ギリっ


ゲイルのボルテージはますます高まっていく。


この世界に戦車はない。知らずにそれに向かって行ってるのは冒険者を従えたアーノルド・・・ それにアイナとドワン、シルフィードっ?


「やめろっ!戦車に敵うわけないだろうがっ!」


ゲイルは届かぬ声を上げた。




ー星を作りし者の世界ー


「ブッ! なんだこいつはっ?」


「どうしたの?」


「いや、なんでもない。それよりもっと旨いものとはどんな物なのか聞かせてくれ」


星を作りし者はめぐみを説得するのは諦めて時間を稼ぐ作戦に変更していた。めぐみが嬉しそうに話すのを、ほー、それでそれで? と延々としゃべらせていたのだ。


「でねっ、でねっ、ぶちょーが作ってくれるパイナップルとオレンジとか混ぜたお酒をストローってので飲むのよ。ストローって知ってる? どぅゆのう?」


「いや、ストローとかしらないな。それで飲むと美味しいのか?」


「そー、そー。それ飲んでぇ、ぶちょーにあーんして貰ってぇ。頭洗って貰ってたり、トントンして寝かせて貰ったりするの。もー天国みたいでしょっ」


星の住人が言う天国ってここなんだけどなとは口を挟まない。


(しかし、さっきのはなんだ? 光ったかと思ったらスーパーなんとかに種族がかわったような・・・)


さっきは何が起きたのか気になり、めぐみ達に見えないようにしていたモニターをついチラ見してしまった。


「あーーーっ! ぶちょー、凄いことになってる。ねーねー、ゼウちゃん見に行こうよっ」


「そうね・・・あら?」


ヤバいっ。


「ちょっと、あなた何勝手にめぐみの星の時間を早めてんのよっ! なんてことするのよっ!」


「えっ?」


「めぐみっ! こいつ、勝手にあんたの星の時間早めてんのよ。すぐにぶちょー死んじゃうわっ」


「クソッ」


ピピピピピっ


「あーーーーっ! 何やってんのよっ止めなさいよっーーーーーっ」


デーレン化しためぐみは星を作りし者の首を締めたのであった。



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