第677話 前より酷く

ダンやドワン達は前世の事を聞きもせずに今まで通りだ。


「おやっさん」


「なんじゃ?」


「前世の事気にならないの?」


「そんなもんどうでもええわい。坊主は坊主じゃ。それより週一程度にはこっちに帰って来るんじゃろな?」


「多分」


「大物を釣らにゃならんからの。船の操作をしにちゃんと戻って来いよ」


「わかったよ」



「ぼっちゃんにいちいち驚くわけねーだろ? あれ聞いたら今迄となんか変わんのか?」


「変わらないかな・・・」


「じゃ、月イチぐらいでミケの相手を頼みてぇからちゃんと帰って来いよ」


「あ、うん・・・」



「ゲイル、前世の記憶があったんだってな。おかしいと思ったんだよなぁ。最初に教えておいてくれたら素直にお前の言うことを聞けたのに。とんだ遠回りをさせやがって」


「ごめんベント」


「ゲイル、まだ汚魂の処理に出ないんだよな? 次の休みにマリを頼めるか? 又口うるさくなって来たんだよ。マリも今回の事を聞いて、それなら年下なのにと遠慮する事ないと喜んでたぞ」


「え、あ、うん」


俺は前世の話と神の話をしたらここにいづらくなるんじゃないかと思ってたから拍子抜けした。何にも変わらないじゃないか・・・



「ゲイルっ」


「シルフィ、あんまくっつくなよ」


「もう遠慮するの止めたの。こうしてるのが私の幸せなんだから。私に幸せになって欲しいんだよね?」


「あ、うん・・・」


「じゃあ好きにさせて♪」


シルフィードは人目を気にせずベタベタするようになった。



「ゲイル、シルフィードから全部聞いた。あいつの好きにさせてやってくれ。我々と比べてお前の人生は短い時間なのだろ? それぐらい許されるよな? 神様に出来てシルフィードには出来ないとは言わないよな?」


「あ、はい・・・」


「ゲイル♪」


グリムナの圧に負けてハイと返事をしたらシルフィードはますますべったりとくっつくようになった。



「ゲイル、ちょっとお姫様抱っこして下さらない? で、くるくると回って欲しいの」


はいくるくるっ。


「きゃー、目が回りますわぁー♪」


マルグリットは子供の頃に父親にして欲しかった事を次々とリクエストして来た。



「ぼっちゃま、抱っこして下さい♪」


飛び付いてきたミーシャを抱っこしてよしよししてやる。確か二児の母だよな? まぁ、俺もミーシャにこんな事が出来て嬉しいけど。


「お風呂に・・・」


「さすがにそれはダメだ。髪の毛を洗ってやるから」


シャコシャコシャコシャコ


「ぼっちゃま、やっぱりお父さんだったんですねぇ♪」


お前のじゃないけどな。



「ゲイル、膝に座らせて頭撫でてくれへん?」


「これでいいか?」


「ウチにちゃんとした父親がおったらこんなんしてくれたんかな?」


「多分な」


「次は抱っこや」


「お前なぁ・・・」


「ちゃんとダンに許可もうとる。好きな事をしてもらってこいてな」


「ならいいけどさ」


「なぁ、ゲイル」


「なに?」


「なんであの時にウチを拾てくれたんや?」


「行くとこないんだろなぁと思ったからかな」


「それだけか?」


「いや、可愛かったから」


「やっぱりそやったんや。ウチも始めっからゲイルと気いあうと思てん。なんなんやろなこの感覚?」


ミケは俺にくっつきながらそんな事を言う。確かに俺もそう思う。


「うちの魂の声が聞こえたんゲイルだけやろ。ダンですら聞こえへんかったのに」


「不思議だよな」


「多分うちの魂はゲイルが神さんになんの知ってたんちゃうか?」


「そうなのか? まぁ、神じゃなしに代行者だけどな」


「おんなじこっちゃ。ゲイルは魂を導く存在なんやろな。だからうちの魂はゲイルを頼ったんや」


なるほど・・・


「でも良かったな。ちゃんとお互いを見付けられて」


「うん、ありがとう。こんな事しか出来ないけど」


チュッ


えっ? 今のどっちだ?


「礼や。これはダンには内緒やで」


「言えるかっ!」



お姫様から冒険者になったフラン。

陽だまりの匂いのするミケ。


俺は両方からお礼を貰ったのかもしれないな。



「ゲイル、皆ズルい。私にもなんかして」


「何がいいんだチルチル?」


「んー、やっぱり抱っこかな」


「じゃ来いっ」


「私がするのっ」


ムギュ


チルチルの胸に顔を埋められた。大きくなったな色んな意味で。


「って、やめなさいっ」


「こうやったら喜ぶって」


「誰が言ったんだ?」


「ミケ」


あの野郎・・・


「ホンマはウチがしたろと思ったんやけどさすがに怒られるやろ? だからあんたやったりって。おっぱい好きなんだよね? ミケが言ってたよ。乳揉まれたことがあるって。私のも揉んでもいいよ」


「ミケの言うことをまともに聞いてはいけませんっ。あれは事故なんだから」


「じゃあ、一緒にお風呂に入る? よく皆と入ってたって聞いたよ」


「皆勝手に入ってきたんだっ! 風呂は一人で入りたいんだよっ」


「私とずっと一緒に入ってたじゃない? 」


「お前がちゃんと洗えないからだろっ」


はぁ、ミケのやつ面白がりやがって。

おまけにチューした事までしゃべってやがった。しかもダンの前で。


チルチルはダンがお前なぁと笑ってたと言った。熊は大物だな・・・



エイブリックは毎週やって来るがアルはほとんど来なくなった。上手く仕事を押し付けてくるみたいだ。あんたそれドン爺にもしてたよね?



さて、魔道列車も俺のする事は済んでるから、汚魂駆除しにいって時々帰って来た時に続きをやるか。



今夜はビーチで皆でバーベキュー。


ピーピー


「お客様のお掛けになっ・・・」


ブツ


「な、いないって言ったろ?」


「掛けてみんとわからんじゃろが」


「帰って来たら向こうから連絡来るって。さ、食べよ」


「ゲイル、はいあーん」


「シルフィ、俺は自分で好きに食いたい・・・」


「えー、好きにさせてくれるんじゃないの?」


「それはそうなんだけど、飯と酒ぐらいは好きに食べて飲みたいんだよ」


「もー、仕方がないわね」


いや、それ食べさせてと言った時のセリフだよね?


「ラムザは坊主にあれしてくれこれしてくれとはいわんのじゃな?」


「これからゲイルとずっと一緒だからな、それに人目が無い方がゲイルもやりやすいだろう」


「何をしてもらうつもりなのよっ」


「知らない方がいい」


「何よそれっ!」


「シルフィ、また悪い癖出てんぞ」


「だって・・・」


「お前もぼっちゃんに好きにしてんだろ? ぼっちゃんにも好きにさせてやれ。ぼっちゃんがダメだと思ったらやらんだろ」


相変わらずだな皆。



ダンとドワンと3人で風呂に入って駄弁る。


「坊主、ずっと気になってたんじゃが、ジョンがあれを倒したのはどうやったのじゃ?」


「全魔力を身体強化に使った捨て身技だよ」


「ジョンがそこまでやるとはそんなに強い敵なのか?」


「あぁ、強い。まず物理攻撃がほとんど効かない。普通の攻撃魔法もね。一応弱点ポイントがあるんだけど、何度も試してようやく見付けたんだ。そこを攻撃するととんでもない速さで逃げて行くから会心の一撃で弱点をピンポイントで狙う必要があるんだよ。ダンでも難しいと思うよ」


「どれぐらい強化したんだ?」


「俺は魔法が見えるから光の玉みたいになってたよ」


「よし、俺もやってみるからぼっちゃんが見比べて見てくれ。それなら俺もどれぐらいだったかわかるからな」


いいよと言ったらフルチンでやりだしたダン。もう金の玉二つあるじゃねーか。光ってないけど。



「ふんっ」


「おー、凄いけどまだまだだね」


魔力を補充して何度かやり直すダン。


「これ以上なんて無理だぞ」


「意識して出来るもんじゃないと思うよ。極限状態で無意識にやったみたいだからね。ダンが特変異オーガを倒した時みたいなもんだよ」


「そりゃ、今やんのは無理だな。ぼっちゃんなら平時でも同じぐらいは出来るんだろ? ちょっとやってみせてくれよ」


「やだよ、面倒臭い」


「いいじゃねーかよ。こことぜんぜん違う場所にも行くんだろ? 何があるかわからんからやってみておいた方がいいんじゃねーか?」


なるほどね。攻撃魔法だったら危ないから無理だけど、身体強化なら大丈夫か。


「じゃ、やってみるわ」


俺もフルチンでやってみる。このメンバーで今さら隠す必要もないからな。


一応何が起こるかわからないから少し距離を置いてと。


「じゃ、やるよ!」


ふんっ


自分を見てジョンと同じぐらいになるまでやってみる。


「これぐらいだったと思うよ。なんか感じる?」


「おぉ、光って見えるわけじゃねーけどすげぇパワーは感じるぜ」


「坊主、指輪を外してやったらどうなるんじゃ?」


「どうだろうね?」


確かに興味はある。これでパワーを感じるだけぐらいなら大丈夫そうだな。指輪を外してやってみることに。


だーっと強化してみる。


「どうだ?」


「おお、すげぇな。でもまだまだ手加減してんだろ?」


「そうだね」


「チャンプクラスが来たら足りねぇんじゃねぇか?」


「あれは1体しかいないよ」


「いや、それに近いのがいてもおかしくないだろ? そんなやつと戦いになったら魔法で倒せんかもしれんぞ」


ふむ、強敵には最終的には物理攻撃に頼る事になるかもしれんな。剣とかは通用しないだろうから殴って倒す事になるな。


「じゃ、少し本気でやってみるよ」


危ないからもっと離れてやってみることに。



「はぁぁぁぁぁぁっ はーーーっ!」


ドオゥンンンンンン


「うあゎっ!」


風呂ごと吹き飛ばされるダンとドワン。


隕石が落ちてきたようにゲイルの周りが吹き飛びエネルギーの塊になるゲイル。


ヤッベ!


「ごめん、大丈夫?」


「坊主、ワシらを殺すつもり・・か?」


「ぼ、ぼ、ぼっちゃん。なんだよそれ?」


「え?」


魔法が見えないはずのダンとドワンが光輝く俺を見て驚いていた。


慌てて自分を鑑定する。


【種族】スーパーぼっちゃん



おいおい、どうすんだよこれ?


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