第676話 シルフィとゲイル

魔道列車の製作はドワーフ達が取り組んでいる。浮遊石を使ったリニアモーターカー方式だ。浮くと動力が伝わるようにしてある。スピードが乗れば惰性で走れるから魔力が節約出来るのだ。


列車そのものはドワーフ達に任せ、俺は浮遊石と魔金作り。魔法陣はリッチー討伐の戦利品のPC魔道具だ。こいつは非常に便利。チルチルに操作方法を教えるとあっさり覚えた。さすが同郷の魂だ。プリンターもあるので魔法陣なんてバンバン作れる。


前世の記憶の事は皆触れて来なかったがアーノルドとアイナにはキチンと話しておいた。


「普通の子供じゃなくてごめんね」


「お前、ずっと黙ってるの辛かっただろう」


「辛くはなかったけど後ろめたかったかな。特に子供時代はね」


「俺達はダメな親だからな。ずっとお前に頼りっぱなしだ。悪かったな」


「いや、俺は父さんと母さんの子供に産まれて幸せだったよ。大切な事をたくさん教えてもらったし、大切な人にも巡り合わせてくれた。感謝しかないよ」


「ゲイル」


「何? 母さん」


「あなた子供がいた記憶があるのよね?」


「うん」


「もし、その子に前世の記憶があったらどうしてた?」


「え? まぁ驚くけど、どんな人生を歩んできたか聞きたいかな」


「それで、自分の子供じゃないとか思うのかしら?」


「いや・・・ それは無いね」


「でしょ? 私達も同じよ。ゲイルに前世の記憶があろうがなかろうが自分達の子供なのよ。何を気にしてるのよ、馬鹿ね」


そう言われてみればそうだな・・・ 自分の子供に前世の記憶があって中身がじいさんだろうが異世界から来てようが関係ないな。俺は何を気にしてたんだ・・・


「父さん、母さん。ごめん。もっと早く言ったら良かったね・・・」


「ゲイル、いらっしゃい」


そう言ってアイナが手を出す。もう抱っこされるような体格ではないのでアイナを抱き締めるような形になる。


「大きくなったわね。アーノルドと同じぐらいかしら?」


アイナは俺の腕の中にすっぽりと収まるくらいだった。


「母さんって、こんなに小さかったんだね」


「ふふっ、そうよ。ゲイルにはどんな子供がいたのかしら?」


「娘が欲しかったんだけど、男3人でね」


ゲイルは記憶の中の子供達の話をしていった。


「だから、ミーシャや女の子達を娘のように甘やかしてたのね」


「そうだね。夢を叶えさせてもらったんだ」


「良かったわね」


「あとさ、俺、母さんみたいな顔立ちの人好みだったんだよ」


「なっ・・・! 離れろゲイルっ!」


「なんだよ、親子なんだろ?」


「それとこれは別だっ!」


「安心してよ。血の繋がりがあるとやっぱり母親の匂いなんだよ。女の人の匂いじゃないんだ。不思議だね」


「おばさんの臭いってことかしら?」


「俺はもっと歳いって死んだから、母さんなんてまだまだピッチピチだよ」


「まぁ、うふふふ。ピッチピチなのね」


「そう、特に腹が・・・いでででででっ ち、ちぎれるっ!父さんヘルプっ!」


「自業自得だ。まったく」




シルフィードにも話をしておく。


「どうして言わなかったの?」


「どう思われるか怖かったんだよ」


「記憶があろうとなかろうとゲイルはゲイルなのに」


「そうだね。もっと早くに話をするべきだったね。ごめんねシルフィ」


「もし、前世の奥さんの記憶がなければどうしてた?」


「どうって?」


「わ、私のこと」


「んー、まったく関わりがなかったかもね」


「え?」


「シルフィって俺にとっては現実の人と思えないぐらい可愛いんだよ。なんて言うのかな? 飾っておきたくなるような感じ。だから高嶺の花で声を掛けることもなかったと思うよ」


「知り合って今みたいに一緒に居たら?」


「何にも前世の記憶がなかったら舞い上がってただろね。でもそうだったらシルフィは俺の事を好きにならなかったと思うよ」


「どうして?」


「剣も魔法も使えなかったと思うよ。小さいときに目標持って努力とかしなかったと思う。だからシルフィがボロン村で隠れているように生きてるのをみても暗い娘だなぐらいしか思わなかっただろうからそこでスレ違って終わりだったと思う」


「じゃあ前世の記憶があったからこうして一緒にいるってこと?」


「多分ね」


「前世では魔法は使ってたの?」


「俺の居た世界には魔法は無かったよ。物語の中の話だね」


「居た世界・・・?」


「神様にめぐみとゼウちゃんがいるだろ?」


「うん」


「めぐみはこの世界の神様。ゼウちゃんは俺が元居た世界の神様なんだ」


「え?」


「俺が居た世界はこの世界じゃないんだ。元の世界よりこっちの世界の方が才能があるから、こっちの世界に魂を持ってこられたんだよ。才能って魔法のことだったんだけどね。それを使ってこの世界を発展させてくれって」


「そ、そんな酷い・・・」


「いや、俺はこっちの世界の方が好きなんだよね。色々な種族がいて面白いし、父さんや母さんみたいな凄い人の子供に産まれさせてくれたし。元の世界では絶対に経験する事が出来ないものばかりなんだ」


「元の世界にはエルフとかいなかったの?」


「俺が知ってる限りは人族だけしかいない。でもエルフやドワーフ、獣人とかの物語はたくさんあるんだ。魔法も使えない世界だけど物語の中にはたくさん出てくるからみんな知ってはいるんだよ」


「不思議ね・・・」


「多分、ここの世界の魂を俺のいた世界にも持っていったんじゃないかな。それも記憶を持ったまま。俺はめぐみにここが違う世界だよと教えてもらったけど、全員がそうじゃないというか教えてもらったの俺だけなんだろうね」


「そうなの?」


「シルフィのお母さんがそうなんだと思うよ。多分俺と同じ国の人。皆から変わった人だとか言われてたみたいだから、いきなり違う世界に生まれて元の世界の話をしたんだと思う」


「お父さんはこの話を・・・」


「実はグリムナさんにだけはこの話は以前にした。シルフィのお母さんの事を話すのに必要だったから。グリムナさんは俺が居た所の話をお母さんから聞いてたみたいでね、それが本当だと教えてあげたかったんだ。後はシルフィと結婚を出来ない理由としてもね」


「お父さんはなんて?」


「うん、シルフィをちゃんと女性として見てやって欲しい、娘は寿命の事も理解しているからと。自分も先に逝くと解っててもナターシャさんと結婚したいと思ったとね。俺に前世の記憶があろうとなかろうと俺は俺だと言ってくれた」


「お父さんが・・・」


「グリムナさんはあまり語らないけど、よく考えてくれて俺の凝り固まった考え方をほぐしてくれたんだよ。良いお父さんだよね」


「うん」


「グリムナさんの言う通りなんだけど、俺はやっぱり寿命の事は心の中で消化出来ないんだよね」


「わ、私は覚悟が出来てる」


「ありがとう。でもね、嫁さんの前では格好つけてたいんだよ。老いていく自分に対していつまでも若い嫁さん。よぼよぼになって面倒見て貰うの嫌なんだよね」


「そ、そんなの気にしないよ」


「そう言ってくれるのは嬉しいんだけど面倒みられるより面倒をみたい方なんだ。後、俺の格好悪い所はバレちゃうしね」


「格好悪いこと?」


「俺、何でも知ってて色々な物を作ったりするだろ?」


「うん、凄いと思う」


「あれ、俺が考えたんじゃないんだよ。全て元の世界にあった物だから、考えたんじゃなしに知ってただけ。全部借り物なんだ。だから凄くもなんともない。勉強も元の世界じゃ中の下、ここよりもっと勉強が出来る世界なんだ」


「そんなに勉強出来るの?」


「魔法はないけど、様々な便利な物を作ってる世界だからね。ここよりずっと発展しているし人ももっと多い。競争も激しいし、なかなか厳しいんだよ。それでも俺の居た国はとても恵まれた所なんだけどね」


「国ってたくさんあったの?」


「196ヵ国だったかな? くっついたり離れたりするから変わったりするけどね。貧しい国や戦争の多い国とか色々だよ」


「凄いね」


「この世界もまだたくさん国があると思うよ。俺達が知らないだけで。だからそういうところも探して汚魂を消しにいかないとダメなんだと思うんだ」


「そうなんだ・・・ ねぇ、もう一度聞いていい?」


「何を?」


「私の事をどう思ってる?」


「好きだよ」


「仲間や家族として?」


「・・・シルフィは女性として好きだよ」


「ゲイルの好みはめぐみさんみたいな人じゃないの?」


「めぐみの見た目は俺の理想なんだよ」


「やっぱりそうなんだ・・・」


「何でだと思う?」


「え?」


「めぐみは実体が無いんだよ。あれは幻なんだって。この世界を発展させる魂の持ち主の理想の姿を幻で作ってるんだよ」


「え?」


「その方が言うこと聞いてくれるでしょ?だって。酷いやつだろ? あの姿は俺を働かせる為のものなんだよ」


「そんなの酷い・・・」


「俺も酷いとは思ったんだけど、めぐみ達はこっちの世界に何か出来る訳じゃないんだ。発展を願うけど自分達には何も出来ない。だから俺達にやってもらうしかないんだよ」


「その為に人の気持ちを弄ぶなんて酷いじゃない」


「弄んでる訳じゃないみたいなんだ。俺はせめてもの礼なんだと思ってる」


「お礼?」


「単に喜んでくれるかなぁ? みたいな感じ。悪気はないみたいなんだ。めぐみの感覚って俺達には理解出来ないし、俺達の感覚もめぐみには理解出来ない。それをあいつは理解しようとしだした。だから人間に近くなってしまったんだと思う。俺もめぐみを理解しようとして人間から離れていったのかもしれない。俺とめぐみは近付き過ぎたんだよ。俺は人でなくなろうがあと数十年で死ぬ。だからほんの短い間のバグみたいなもので済むけど。アイツは違う」


「どう違うの?」


「あいつはこの世界の魂の管理者だ。それが出来なくなってしまう。それはこの世界の滅びの始まりなんだよ。だからもう来るなと言ってめぐみの世界に戻らせたんだ」


「そうだったの・・・」


「めぐみ達は永遠に存在するもの達。終わりがないし、たいして楽しみもない。それがずっと続く。自分の管理する星が発展していくのを見るのが唯一の楽しみなんだ。シルフィも想像してみて、自分がずーっと見てるだけの生活を」


「耐えられない・・・」


「だろ? それを聞いた時に俺が生きている間のほんの僅かな時間ぐらい何かしてやれないかな? と思ったんだ。めぐみ達は飯も食わなくていいけどこの世界の物を嬉しそうに喰うだろ?」


「うん」


「初めてなんだって、美味しいもの食べるの」


「だからゲイルは・・・」


「ほんのちょっとの間ぐらい我がまま聞いてやりたくなっただけなんだ。俺、誰かを甘やかすの好きだしね。自分に娘が出来たらおもいっきり甘やかせるのが夢だったんだよ。前世は息子だけだったからそれも叶わなくてここでそれをやってるに過ぎないんだ。めぐみも子供みたいだろ?」


「わ、私は皆みたいに甘やかせてもらってない・・・」


「初めはそうじゃなかったろ?」


「え? あ・・・うん」


「俺は娘を甘やかすのが夢だったんだ」


「どういうこと?」


「そういうことだよ。でも、それは俺の心の中にしまっておく。やっぱり今の人生で結婚は出来ないからね。それに神の代行者としてめぐみが戻って来るまでこの世界を守らないといけないから」


「そんなのゲイルだけがしんどいじゃないっ」


「これが出来るのは俺とラムザ、ヤギだけだからね。それにしんどくもないよ。汚魂達は滅したいと思ってるから。ちゃんとシルフィ達が産む子供は俺が守るよ」


「他の人の子供なんて産まないっ」


「ダメだよ。ちゃんとシルフィをずっと守ってくれる人を探してくれ。出来れば父さんみたいに一途な人をな」


「それはゲイルがしてくれたらいいじゃないっ」


「守ってくれる人って言ったろ? 俺は人じゃなくなってるかもしれないし、ずっとシルフィを守り続けられるほど生きていられない」


「短い期間でもいいのっ」


・・・

・・・・

・・・・・


「シルフィ、ありがとうなそこまで思ってくれて。俺は幸せ者だよ。これだけでこの世界に来た価値がある。だから幸せになってくれ。俺はお前の未来を守るから」






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