第675話 時計の針が進む

「ふははははっ。異世界召喚にようやく成功した時になんだこれはと思ったがこうも使える奴とは思わなかったな」


ゲイル達がセントラルと揉めている頃、山脈を隔てた北の帝国が北側すべての国に侵攻を始め、着々と勢力を広げていた。


異世界召喚成功特典はその人物がもっとも得意とする能力をチート化する。



「おいっ、足らんぞ。もっと追加しろっ」


くっくっく、こんなに人の命が軽い世界があるとはな。魔法とか非科学的なものは驚いたが威力も知れているし発動まで時間が掛かる。クソみたいなものだ。


しかし、毒で死んでいくのはつまらんな、ロマンが無い。やはり爆発。爆発こそロマン!


ロマンを語る転生者がいる帝国の実験場には無惨な死体がゴロゴロと転がっていた


異世界人が得た能力、


【スキル】マッドサイエンティスト


それは北側の豊富な天然資源を元に近代兵器を作りだし、剣と魔法の世界に異変をもたらし、奪った者勝ちの世界にとって覇を唱えうる存在になりつつあったのである。



「ほう、ゴルフとはこの玉を穴に入れる遊びか」


「そうそう。一番打った数の少ない人が勝ち」


「こんなもん簡単だろ?」


フンッ


「あーはっはっはっ。1ミリも飛んでねぇじゃねぇか」


空振りしたエイブリックを大笑いするアーノルド。


「次は私ね」


ドゴンッ


ゴルフの音じゃねーぞアイナ・・・


アイナの玉は地面にめり込んでいた。


ドワンはスライスしてOB、ダンはダフってコロコロ。


一番飛んだのはミケ。次にシルフィードだった。


初めての今日は取りあえず好きにやってもらおうと簡単なハーフコースを作ってみて皆で遊んでいる。別荘地ならばこういうのも必要なのだ。


しかし、ハーフで180とか酷いな・・・


ミケが83でトップ、シルフィードが88で次点。老化組は似たり寄ったりだ。打ちっぱなしも作らにゃならんな。


ゴルフクラブはドワーフ達の武具以外の新たな仕事になるだろう。


ちなみに俺はテディの面倒を見ていたので不参加だ。



今日はボウリング。チルチルが結構上手かった。


夜は飲みながらダーツ。グリムナとダンが上手い。弓に通じるのかな?


着々と娯楽施設が増えていく。


今日は砂浜でバーベキュー。


「ゲイルよ。めぐみ達が来なくなって久しいな。寂しいだろ? 慰めてやろう」


そんな事を言いながらラムザがムニュと胸を頭に押し付けて俺の頭を抱き締める。


「あいつがしばらく留守にすると言った段階でもう会うこともないだろうなと思ったから大丈夫だよ。ありがとうラムザ。お前優しいな」


そう言うと真っ赤になるラムザ。俺がやめろバカとか言うと思っていたのだろう。


めぐみが来ないのが当たり前になっても皆が俺に寂しいだろ? と聞いてくる。俺はとっくにもう会うことはないと覚悟はしているのに。しかし、俺はそんなに寂しそうにしているのだろうか?



数年が経ち着々と移住者が増えてきた。移動は大型輸送機を作って俺が運んでいる。魔金でドラゴンシティとここの往復を可能にしてあるからそのうち俺でなくても飛ばせるだろう。エルフもドワーフも獣人も中心地に遊びに来るので様々な人種が行き交っている。じつに宜しい。


後はウエストランドとここを手軽に高速で移動出来る手段を作れば俺の役目もほぼ終わりだな。0系の愛らしさか500系の使徒っぽさか迷うな。空港に行く28号っぽさでもいいし、ニャゴヤタワー終点だからスズメバチっぽいのでもいいな。


そういや開発地の名前どうしようか? 最近ゲイルの国を略してゲイの国とか呼ばれててイヤなんだよね。それをもっと略してGの国とかなったらどうすんだよ。



早いものでチルチルが成人した。ささやかながら仲間内でお祝いをしている。宴会が終わってだらだらと二次会がスタート。


「ゲイル」


「なんだ?」


「お嫁さんにしてくれる?」


「ちょっとっ! チルは何を言い出すのよっ!」


「だってシルフィとは結婚しないんでしょ? 私はもう子供じゃないよ。こんなに胸も大きくなったし。ねぇダメかな?」


「むっ、胸の大きさなんて関係ないでしょっ! 私だって少しはっ」


「ねぇ、ゲイル。めぐみさんももう来ないんでしょ?」


「ダメーっ、ぼっちゃまはマリアのなのっ。お嫁さんにしてくれるって言ったもん」


あー、あんな小さい時の話を覚えてるのかマリアは。


シルフィード、チルチル、マリア。みんな可愛い。俺も大好きだ。


しかし・・・。


ここはもう黙っているのが限界なのかもしれない。このままでは普通の寿命のチルチルとマリアまで巻き込んでしまう。



「チルチル、お前の気持ちは嬉しい。だけどな俺は誰とも結婚するつもりはないし、しちゃダメなんだ」


「どういう事?」


「うん、この際だから皆にも言っておくよ」


・・・

・・・・

・・・・・


「結婚しないと言ったのは俺の気持ちの問題だ。 ・・・・・・・俺には前世の記憶がある」


「えっ」×全員


「前世で結婚して子供も居た。もうその人達は居ないけど、俺の記憶の中では生きてる。だから俺の気持ちは既婚者なんだ」


「そ、そうだったの・・・」


「だから、シルフィもチルチルもマリアも俺にとっては娘みたいな感じなんだよ。心の底から好きだと言える。ただ、それは女性としてではなく家族としてなんだ。前世の記憶の事はずっと黙っておこうと思ってたんだけど。シルフィもチルチルもマリアもごめんな。特にシルフィ。俺は何度もどうするんだと聞きつつお前を離さなかった。俺はお前の気持ちに甘えてたんだ。それでも側に居てくれるかなって。縛り付けててごめん」


「ゲイル・・・」


「父さんも母さんも今まで黙っててごめんね。なんか言いたくなくてさ。言わないでおくつもりだったんだけど、こうやって皆が本気で好きだと言ってくれるのに答えてあげないとダメかなって」


「お前、そんな・・・ 謝るなっ」


「あとさ、俺、人間じゃなくなってるかもしれないんだよ。めぐみがここに来なくなったこともそれに関係している」


「ゲイル、どういうことだ?」


エイブリックが俺に問う。


「俺には神の代行者という役目が付いている。魂が見えたり汚れた魂を処理しているのはそのためなんだよ。めぐみはいい加減で面倒臭がり屋だからさ、一部俺がその代わりをしてるんだ。汚れた魂をほっとくと生まれながらの犯罪者になる。産んだ親も子供も周りも不幸になるからね。いくら才能がある魂でも落としきれないぐらい汚れた魂は消滅させた方がいい。こんな考え方は人のものじゃないんだよ」


「坊主のしていることは間違っておらん、その方がこの世界の為になるんじゃろがっ」


「でもそれは神が決めることだろ?」


「そうかもしれんが・・・」


「そして俺は人の身のまま神になりかけてる」


「は?」


・・・

・・・・

・・・・・


「その分めぐみが人間に近付いたかもしれない」


「えっ?」×全員


「神様ってほとんど重みがないんだよ。それに眠らないはずのめぐみ達が寝るようになり、あげくの果てに起きなくなった。その時に起こそうと抱き上げたら重くなってたんだ。これは人に近付いてる証拠なんだと思う。だからもう来るなと言ったんだ」


「そうじゃったのか・・・」


「めぐみは俺の言った事が本当か調べに行ってる。だから今この世界の魂を管理しているものは居ないはずなんだ。新しく生まれてくるのには支障がないようにしてくれてるみたいだけどね。でも汚れた魂がそのまま生まれてくる可能性が高い。俺はここでやるべき事をやったら神の代行者としてそれを処理しに行ってくるよ」


「神様が帰ってくる可能性も残っとるじゃろが」


「めぐみと俺達の時間感覚はぜんぜん違うんだよ。あいつのちょっと前が200年前だった。さっきが3年前とかね。今回はしばらく留守にすると言った。多分100年単位の期間だろうね。だから、俺が生きてる間にめぐみに連絡が付くことはないと思う」


「坊主、全部お前の想像じゃろがっ」


「おやっさん、俺、加護を与える側になってるんだよ」


「どういう意味じゃ?」


「安眠スキルが付いているんだけどね。正式には安眠の加護というスキルなんだ。加護ってね神が人に与えるものなんだよ」


「なっ・・・」


「だから俺の推測はあながち間違いじゃないと思うんだ。まぁ、いい加減なめぐみの作った世界だから適当に加護とか付けてるだけかもしれないけどね」


「坊主・・・」


「神でもない人でもない存在のまま子供が出来たらどうなるか怖くてさ、だから、結婚しちゃいけないんだよ」


皆黙ってしまった。そりゃそうだよな・・・


「ゲイルっ。こんな話をしなくちゃいけなくなったのは私がお嫁さんにしてと言ったから? ごめんなさいっ、もうお嫁さんにしてなんて言わないからどこかに行っちゃわないでっ」


「チルチル、ごめんな。お前の祝いの日にこんな話して。それに俺はどこかに行くんじゃない、お前達が将来生む子供を守りに行くんだ。俺の大好きなお前達が生む子供には綺麗な魂が入るようにしたいんだ」


「ゲイル・・・」


「大丈夫。ちゃんと帰ってくるよ。お前達の子供を甘やかしたいからな。ラムザ、汚魂の殲滅に付き合ってくれるよな?」


「勿論だ」


「ゲイル、私も行く」


「シルフィ、冒険なら一緒に行こうかと言うんだけどね。これは人のする仕事じゃない。それにお前にもうあの断末魔を聞かせたくもないんだ」


大きな声を出すわけでも怒るでもなく、淡々とそうシルフィードに告げるゲイル。シルフィードはもう何も言えなくなってしまった。


あぁ、ゲイルは自分から離れて行くのだと理解してしまったのだ。


「帰ってくるよね・・・?」


「だいたい終わったらね」



チルチルのお祝いをとても重い雰囲気にしてしまった。非常に申し訳ない。


「チルチル、これ、お前にお祝いだ。欲しがってたろ?」


プレゼントは魔導バイクだ。


「え? 危ないからダメって・・・」


「まぁ、成人したしな。自分の行動には責任がつきまとうということを理解しろよ。人のいるところではスピードを出すなよ」


「ありがとうっ」


ぎゅうと抱き付いてくるチルチル。お前の親役は今日で終わりだ。


「明日乗り方を教えてやるよ」


「うん」



あの後皆は俺に何も聞いて来なかった。というよりは聞けなかったのだろう。


翌日、チルチルにバイクの乗り方を教える。


乗ること自体は運動神経がいいので問題ない。こうやったらこけるとか、飛び出しや死角とか安全に関する事を教えていく。砂浜でやってるからわざとこけさせたりとかした。怪我は治癒魔石で何とかなるからな。問題は相手を怪我させたときだ。年寄りや子供をはねて即死させたらどうしようもない。


「もう夕方だから帰るぞ」


「わかったー」


夕日が沈むなかをバイクに乗って街に戻る。


足元に絡み付く夕日に照らされた波をけってゲイルが叫ぶ


「チルチルっ」


「なにー?」


「お前、凄く可愛くなったぞー!」


「本当ー? 前世の記憶がなかったらお嫁さんにしてくれたー?」


「シルフィと出会ってなければな」


「何よっ! じゃあどうせ無理だったじゃんっ」


「皆が良いなら全員と結婚したぞーっ」


「めぐみさんはー?」


「もう女神も魔王も全部だっ」


「うわっ、最低っ!」


「そうだ俺は最低なんだよ。でもな、お前らの未来は必ず守ってやるからなっ」


「うんっ」

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