第671話 人種が増える

めぐみがガチャと電話を切ってから3年。なんの音沙汰もなしだ。お下がりも味が落ちないから連絡しても無駄だな。


開発地はかなり発展した。


建物は耐震免震設計というよりもファンタジーシステムを取り入れた。


全ての建物は基礎を地面にではなく、土台の上に載っている。初期振動を感知したら浮遊魔石で浮かび上がるのだ。津波の際にも空中へそのまま浮く。それ以外にあちこちに高台を作ってあるので外にいるときは逃げられるだろう。


滝には魔力を作るためのタービンを設置し、魔石・魔金の充電を行っている。魔石は一般家庭用。魔金は業務用だ。街中には魔線が張り巡らされ街灯やバイク、トゥクトゥクの魔力補充ステーションへ魔力を供給している。


チルチルは2年で魔法学校を卒業した。魔法陣コースとポーションコースを修得したエリートだ。今13歳だけどもう女性と呼んでいいだろう。


「ゲイルっ。今日休みでしょ? どこか連れてって」


昔みたいにべたっと抱き付かずに腕を組んでくる。胸も立派に育ってんな。


「もう、チルはゲイルにくっつき過ぎっ」


シルフィードは少し成長してチルチルと同じぐらいの年頃に見える。少し幼さの残る可愛らしい少女だな。


両手に華だ。俺は普通に歳を食ってるので二人とも娘みたいだけど。



獣人、ドワーフ、エルフ、人族と・・・


ー3年前ー


「ゲイル様、これは・・・」


獣人達の所に鳥が落ちて来たけど見に来て欲しいと言われたのだ。


「こ、これ・・・ 鳥人族はーぴー?」


「な、何ですかそれ?」


「いや、俺も聞いた事しかないから想像なんだけどね」


怯えて固まってる女の子の背中には羽がある。足先は鳥そのものだ。


鑑定してみる。


【種族】ハーピー

【年齢】1歳

【魔力】3250/3308

【状態】怪我


あー、どっか怪我してんのか。


「言葉は解るか?」


話し掛けるとバサバサっと逃げようとして苦痛に顔を歪める。


「羽を怪我してんのか?」


触ろうとすると酷く怯えるので、先に治癒魔法を掛けてやる。


「ほら、もう痛くないだろ? 自分で飛べるか?」


バサバサと羽ばたいて逃げようとするもまだ上手く飛べないようだ。これ、チャンプで来た時にデカい鳥が逃げてったけど、ハーピーだったのかもしれん。その時に巣から落ちたのかな?


逃げるハーピーを捕まえて抱きしめながらトントン、トントンとしていってやるとスースー寝た。こういうときには便利だな。大人のハーピーならレジストして寝なかっただろうけど。


「ゲイル、どうするの?」


「連れて帰って親を探すよ。人型だから話せば返せるかもしれないし」


野生の動物なら人間の手に渡った段階で見捨てられる事もある。特に鳥は結構ドライだ。こいつは大きくならないとか判断されたら親が巣から落としたりするのもいるからな。



「ゲイル、なんだそれは?」


「ハーピー。鳥型の人間なんだと思うんだけどグリムナさんか長老夫妻は知らないかな?」


「坊主、そいつをどうするつもりじゃ?」


「親元に返してやりたいんだけどね、無理なら面倒をみるしかないね。俺がチャンプとここに来たせいかもしれないんだよ」



その後にグローナ達にハーピーを知っているか聞きに行った。通常は山の中に隠れるように住んでいるらしく他の人間には姿を見せる事はないらしい。言葉を話せるかどうかは不明だ。


ここは人がいない地域だったからな。後から来たのは俺達だ。共存の可能性があると良いけどな。


戻るとまだ寝ていた。鳥肌立ってるけど寒いのか元々なのかわからんな。取りあえず毛布を掛けておくか。


カタカタ震えているので鑑定すると状態が衰弱で魔力が減っていってる。これはまずい。


回復魔法と魔力を同時に流していくと衰弱が消えた。良かった早めに気付いて。餌と言うかご飯が食べられてないのかもしれない。


何を食うんだろな?


胸の先っちょがあるし、歯も人間と同じものだから雑食かな?


ぱちくりと目を覚まして俺を見る。


「元気になったか?」


ピロピロと綺麗な声で鳴く? 話しているけど何を言っているのかまったく分からない。


しかし、怯えた様子は消えて俺に何かをピロピロと訴えかけてくる。


?という顔をするとそのまま抱き付いてきた。


もしかしてインプリンティングしちゃったのか?


チャンプにやったみたいに言語をインストールしてやれるだろうか?


抱き付いてきたハーピーとでこにデコをくっつけて言語を魔力に乗せて流し込んでみる。


「パパっ、パパっ」


あー、やっちまったよ。衰弱から復活したときにインプリンティングしちゃったのかもしれない。怪我と恐怖で元の記憶が飛んだのかもな。


「ゲイル、パパってどういうこと?」


「いま言葉を魔力にのせて覚えさせてみたんだけどな」


「なんじゃと?」


「さっきチャンプにやったら出来たんだよ。だから今やってみたら出来たみたいだ。この子、元の記憶が飛んでるかもしれん。だから初めて俺を見たみたいになって親だと思っちゃったみたいだね」


「どうするつもりじゃ?」


「親を探してみるよ」


「パパっ、パパっ」


「名前はあるか?」


「名前?」


きょとんと首を傾げる。


「じゃ、お前はミューだ」


「ミュー?」


「そう。お前の名前はミュー」


「ミュー! ミュー!」


鑑定では1歳だけど、見た感じは5歳ぐらい。知能はどれぐらいあるのだろうか?


果物、肉、魚、野菜を見せてどれを食べるかみてみる。


「好きなの食べていいぞ」


きょとんとするので、ブドウを一粒口に放り込んでやるとがつがつ食べた。何が食べられるか様子を見るか。



一週間ほど様子を見て飛行機で大きな鳥が逃げた所を中心に探していく、認識阻害オンにしているから警戒されにくいだろう。


そうすると山肌に隠れるように作られた集落を発見したので、一度戻り、ミューを連れてそこに向かう。



そっと近くに降りてミューを抱いたまま集落に向かった。



「パパっ、パパっ♪」


喜ぶミュー。ここに覚えがあるのかもしれない。ミューの声に気付いたようで集落がピロピロ騒ぎだした。


「この子を保護している。親は誰だ?」


その場で止まって声を掛ける。言葉通じないだろうな・・・


「何者だっ?」


あれ? 言葉通じるじゃん。


「俺はゲイル。この子が森に落ちてたから保護した。この前ドラゴンに驚いて逃げた時に落ちたんだろ。驚かせて悪かった。怪我も治してあるからもう大丈夫だ」


「パパっ、パパっ」



「シンシアーっ!」


きょとん?


鳥のおねーさんがこちらにバインバインしながら走ってくる。目のやりどころに困るわ・・・


「お母さんかな?」


「シンシアっ」


手を出すバインバインのおねーさん。


「パパっ、パパっ」


俺にしがみつくミュー。


「あー、ごめん。この子恐怖で記憶飛んだのかもしれないんだよ。怪我して衰弱してたから魔法で治したんだけど、その時に俺を親だと思っちゃったみたいでね・・・」



「人族よ。あのドラゴンとはどういう関係じゃ?」


長老っぽいのが出てきた。


「あのドラゴンは初めの生命、エンシェントドラゴンのチャンプって言うんだけどね、俺の仲間なんだよ。攻撃しない限り何もしないから大丈夫だよ。この前はここに人が住んでるって知らなくて驚かせたみたいでごめんね」


「やはりエンシェントドラゴン様・・・」


「知ってるの?」


「空を飛ぶ者の神様じゃ」


なるほど。そういう扱いなのか。なら何で逃げたんだろう?


「神様なら何で逃げたの?」


「他のドラゴンは我々の天敵。神がここに来るとは信じられなかったのじゃ」


「呼んで来てやろうか?」


「そ、そんな恐れ多い・・・ 人族よここにはどうやってきた?」


「飛行機って空飛ぶ魔道具だよ。あと何十年かしたら人族が空を飛ぶ時代になると思うよ」


「くっ、詳しく話を聞かせてくれまいかっ」



中に案内されると巣みたいな家だ。


「パパっ、パパっ」


ぎゅうと嬉しそうにしがみつくミュー。シンシアって名前あるのに悪いことしたな。


人族同士の争いやチャンプと仲間になった経緯、エルフやドワーフ、獣人がここに移り住んで来ることを話す。


「ごめんね、何回か誰も住んでないか確認したんだけどここに気付かなくてさ」


「この地をどうされるつもりか?」


「俺達は海側に住むからこっちには来ないようにするよ。ご飯って何食べてるの?」


「なぜそのような事を聞く?」


「この子に何食べさせていいかわかんなくてね。色々と食べさてみたんだけど、問題なかったかなと思って。あと皆が食料を取りに行くところを知らずに荒らしちゃ悪いだろ?」


「我らをどうするつもりじゃ?」


「出来たら共存したい。ここに移り住む人達にもここや皆に手出しさせないし、もし天敵のドラゴンがきたらやっつけてやるよ」


「人族がドラゴンを?」


「俺達強いからね。多分大丈夫だと思うよ。もし無理ならチャンプにプチっとしてもらうよ」


色々と話を聞くとハーピーは一夫多妻らしく、オスは少ないらしい。子育てから食料確保までメスがやって男はなにもしないとのこと。


「ミュー、お前の本当の名前はシンシアだ。ごめんな間違えてたよ」


「シンシア?」


「そう。シンシア」


「シンシアー!」


良かった上書き出来たか。


「お母さんの所にお帰り」


「パパっ、パパっ」


ぎゅうと抱き付く。これ以上いると俺も情が沸いてしまう。元の所に帰れるなら帰った方がいい。


トントンとしてシンシアを寝かせる。


「シッ、シンシアっ!」


「大丈夫。寝ただけだから。はい、お母さん」


寝たシンシアをバインバインのお姉さんにわたす。


「元の所に帰れるなら帰った方がいいからね。もしなんかあったら俺達が住んでる所に来て。絶対に誰にも攻撃させないから」


他の者は警戒して出て来ないので俺は飛行機に乗って帰ったのであった。


こうして開発地に鳥人族が加わったのであった。



ー後日ー


「ゲイルー」


むぎゅ。


「こら、シンシア。いきなり空から来たらびっくりするだろうがっ」


「えへへへへ」


「シンシアっ、邪魔っ! 羽が邪魔なのっ! 畳んでっ」


「ごめーんチル」



ゲイルの子守スキルは今日も絶好調だった。





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