第669話 連絡

めぐみは帰ってから一度も連絡をして来なかった。ゲイルも自分との関わりがめぐみへ悪影響を及ぼすんじゃないかと思い、自分からは連絡しなかったのだ。


モヤモヤした何かを吹っ切るかのようにゲイルは開発に力をそそぐ。



「坊主、そろそろ親父達を呼ぶか?」


「そうだねぇ。ザックの所で注文を受けてもらってそれを作ってもらおうか。武器って本人を見なくても作れるもの?」


「数打ちのならな。じゃがそいつの能力を引き出すものなら本人を見なきゃならん」


「じゃ、数打ちの武器や防具とか製作者が分かるようにしておいて、特注を希望する人には職人を指名してもらおうか。で、その職人を俺が運ぶよ」


「面倒じゃぞ?」


「王都とディノスレイヤ領に専門店作って、そこをドワーフの誰かに任せるよ。で、特注品を受けてもいい相手か見極めてもらうとかどう?」


「一つの店で皆の物を売るのか?」


通常、武器防具を売るのはすべて個人店だ。腕の良い職人達の武具をまとめて売る店はない。


「皆嫌がるかな?」


「いや、面白いかもしれん。同じ場所で売れば否応なしに競争になるからな。自分の実力が解っていいじゃろ。より腕を上げようとするやもしれんからの」


ということでドワンと共にハーデス王国に行き、バンデス達と同じ話をする。


「がーはっはっは。面白い事を考えつくのう。さすがは我が息子のゲイルじゃ」


実の息子のドワンを差し置いて俺を息子と呼ぶバンデス。


「じゃ、いつに移動するか決めておいて。ケルベロス達も連れていくよね?」


「あいつらも構わんのか?」


「まぁ、敵はこないから門番じゃなく、ペットとしてだけどね」


「ペットとはなんじゃ?」


「魔獣を自分達の仲間の一員として扱うとかそんな感じかな? ずっとあそこでここを守ってたんでしょ? 仲間と同じじゃない」


「ふむ、それはそうじゃの。しかし、あのドアじゃやつらは大きすぎて行けんじゃろ?」


「ドアを使わなくても送れる方法があるんだよ。魔王に転移魔法を教えてもらって、それを流用すれば可能なんだよ」


「魔王?」


「魔界と呼ばれるところの女王様っていうのかな? しょっちゅう飯食いに来てるよ。おやっさんのお気に入り」


「坊主っ! いらんことを言うなっ」


「ほほぅ、ドワンがのう」


ニヤニヤ笑ってからかおうとするバンデスを止めておいた。また殴り合いになるからな。


「錬金釜とか職人達の道具とか持っていくものは各自に纏めさせておいて。炉とか諦めてもらうものもあるけど」


「まぁ、そんなもんはまた作ればええ。では10日後でいいか?」


「了解」


ドワーフ達の引っ越しは10日後になった。



次はシルフィードを連れてグリムナの所へ。


「そうか、ドワーフはもうすぐ行くのだな?」


「そう。グリムナさん達はどうする?」


「場所を確認したいから一度連れて行ってくれるか?」


という事でグリムナを連れて開発地に戻り、飛行機で上空から候補地を説明していく。


「確かにゲイルの言う通りここは理想的な場所だ。あの山脈を人間が越えて来ることもあるまい」


「だから結界の必要もないでしょ?」


「うむ、じっちゃん達も自由に暮らせるようになるな。家とかは自分達で作らせるからあの海の近くの森がいいな」


「じゃ、いつにする?」


「春になったらでいいか?」


「いいよ」


「ゲイル達はここより南に街を作るのだな?」


「そう。ドワーフはその山側だね。それぞれに道を繋げるし、バイクで行き来き出来るようにするから」


車はどうにも難しく、走る止まるはいいけど、曲がるが上手くいってない。代わりに三輪のトゥクトゥクみたいな物を作り出している。デフギアの仕組みが上手くいかないのだ


ドワーフ達がやって来たら皆で取り組んで貰おうか。



俺の作ってる街は海から少し離してある。津波対策だ。高台まで逃げる時間が必要だからな。


で、近くの海は暖流と寒流がぶつかる場所。とてつもなく良い漁場なのだ。海釣り公園は北から南にあちこちに作る予定にもしてあるし、釣り船もあるからやりたい放題だな。


ゲイルは全てを打ち込むようにドワーフやエルフ達の引っ越しを行い、街を作っていく。



「がーはっは! どうじゃ、ワシのほうが親父のよりデカイじゃろ?」


「数はワシの方が上じゃ」


ドワーフやエルフ達の移住が完了して、釣りとか飯とかもう自分達で勝手にやってもらってる。


ダン達やミーシャ達、アルの所、ディノスレイヤ屋敷に常設ドアを設置して勝手に行き来きもしてもらってるのだ。魔金を大量に使ったドアに魔力残量メーターを取り付けて魔力が無くなりそうなら、俺が補充する。ドアは血の登録をしてあるので限られた者しか使えないけど。



時々携帯に着信がないか確認はするけどずっとあれから鳴らなかった。



「ぼっちゃん」


「ダン、こんな時間に来るなんて珍しいね」


「街の魔力が足りなくなって来たんだけどなんとかならねぇか?」


ドラゴンシティに様子を見に行く。ダンは自分で解決出来ない事だけ俺に聞きにくるからな。


今の俺は自分しか出来ない事に没頭しているので、他は全部皆に任せる生活を続け、皆の俺への依存度を下げるようにしていた。俺の子守スキルが皆を子供化させているからかもしれないからだ。



「ゲイルっ」


チルチルが飛んで来て俺に抱きつく。いきなり自立をさせるのではなく少しずつ距離をおくようにしていたのだが寂しいのにはかわりがないのだろう。


「チルチル、来年から魔法学校だろ? 寮に入らないといけないのにこんなに甘えん坊のままでどうするんだ?」


「ゲイルは半年で卒業したんだよね?」


「そうだ。普通はもっと掛かるけどな。最短で3年くらい掛かるぞ」


「絶対にすぐに卒業する。卒業したらゲイルの所に住んでいい?」


「ここが嫌なのか?」


「嫌じゃないけど、ゲイルのそばに居たいのっ」


「別にいいけど、俺は忙しいからあまりかまってやれんぞ?」


「いいのっ」


「じゃあ、好きにしろ」


「うんっ」


チルチルは魔法学校の魔法陣コースを満点で合格した。俺は魔法実技0点だったから魔法学校の受験の歴代最高記録ホルダーだ。1年くらいで卒業するかもしれんな。



「ダン、魔力不足なのはチャンプに吸われたままだからだよ。ここのスイッチ切らないとチャンプの所に魔力流れっぱなしじゃないか」


「あ? そうだっけか?」


「じゃ、切るよ」


バチン


余剰魔力をチャンプに吸ってもらうための回路スイッチを切る。余剰はドアの魔石に流れるようにしておこう。


チャンプはあのニャゴヤタワーの上で寝てから一度も起きて来ていない。魔力が止まったら起きるかもな。



「ぼっちゃん、下らんことで呼んで悪かったな」


「いやそんな事気にすんなよ」


「なぁ、ぼっちゃん。あれから女神様から連絡あったのか?」


「いや、ないよ。お下がり不味いからちゃんと食ってんだろ」


「呼んでやらないのか?」


「眠り続けた原因がわからないからね」


「連絡ぐらいしてやればいいじゃねーか?」


「あいつの時間感覚は俺らと違うんだよ。3年がついさっきとかだからな。今連絡したら、ついさっき調べるって言ったところじゃないっとか言うんだよ」


「はー、そういうもんなのか?」


「そうそう。俺らの感覚で考えてたらアホらしくなるから考えたらダメだ。チャンプもちょっと居眠りしただけとか言うと思うぞ」


「そうか? あれからずっと寝てんだぞ」


その時にぐぁぁぁあと大きなドラゴンの咆哮が聞こえた。チャンプのあくびだろうな。


ぶぁっさとこちらに飛んでくる。


「ぶちょー、ついうとうとしてしまったぞ」


「なんて言ったんだ?」


「ついうとうとだって」


「マジかよ・・・」


「な、まともに考えたらバカらしくなるだろ?」


「違いねぇな」


「チャンプ、俺を乗せて飛んでくれ」


「おやすい御用だ」


「ダン、もう帰るわ。じゃな!」


「ぼっちゃん、次の日の休みは一緒に釣りしようぜ」


「りょーかーい」



「ぶちょー、どこにむかうのだ?」


「このまま西に向かって飛んでくれ」


ヒュオオオオッとスピードを上げるチャンプ。開発地へもあっという間だな。


チャンプの上はGも風も来ない。山脈の上でも寒くも息苦しくもないから凄いな。


チャンプに開発地の南から北までゆっくり飛んで案内してやろう。


南の端に行こうとした時にハザバサっと大きな鳥が団体で逃げてった。驚かしたみたいだな。


ぐるっと回って北の方へ向かうとまた大きな鳥がバサバサっと飛んで行く。チャンプで山の近くを飛ぶのやめておこう・・・



「お、ゲイル。ドラゴンを連れて来たのか?」


「さっき起きたからここを教えてやろうと思って乗せて来てもらったんだよ」


アーノルドだけはチャンプの言うことを少し分かるみたいだけど、今の言葉を話せないと不便だよな。


「チャンプ、今の言葉を覚える気あるか?」


「ぶちょーと話せたらそれでいいのではないか?」


「他の人とも話せた方が便利だぞ。めぐみがチャンプは能力盛り沢山って言ってたからすぐに覚えられるんじゃないか?」


「ふむ、ぶちょーが教えてくれるのなら構わんぞ」


「ちょっと試してみるわ」


【スキル】与えしモノ


これが上手く発動するなら、今の言語をチャンプにインストールしてやれるかもしれない。


「チャンプ、今から俺が持ってる今の言語能力をお前に流してみるから」


「そんな事が出来るのか?」


「お前が受け入れるならいけるんじゃないかと思う。ダメだったら普通に教えてやるよ」


今のここの言葉をパッケージ化するイメージで魔力に乗せてチャンプに流してやる。


「うーむ、やはりぶちょーの魔力は心地が良い」


「いいから集中しろ」


しばらく魔力を流してから今の言葉で話し掛けてみる。


「わかるか?」


「いや、何も変わりがないぞ」


「これは?」


「いや、同じだ」


「初めに話したのが今の言葉だ。後のは古代語だ。言葉のインストールは出来たみたいだけど区別がつかないようだな」


とても不思議だけどチャンプは話し掛けた言語で返事をする。しかも無意識にだ。


「父さん、母さん。ちょっとチャンプに話し掛けてみて」


「ようチャンプ、ずっと寝てたみたいだけどやっと起きたな」


「うとうとしただけだぞ」


おー、成功だ。


「私の言っていることは解るかしら?」


「解るぞ」


「じゃ、私達を乗せて飛んでくれるかしら?」


「構わんぞ」


「チャンプ、飛ぶなら山の近くは避けてくれ。さっき馬鹿デカイ鳥を脅かしたみたいだからな」


「わかった。乗るなら早く乗れ」



アーノルドとアイナはチャンプに乗って飛んでった。


アーノルドとアイナはチャンプを自分の物にしそうだな・・・




ピーピー


ドキッ


「もしもし」


「あっ、ぶちょー。自分達で調べても分かんなかったから、星を作ろうを作ったやつに聞きに行ってくる。しばらく居なくなるから電話くれても繋がらないから。なんか分かったら連絡するねー!」


ガチャ


やっぱり・・・


しかし、しばらく居なくなる、か。もしかしたら俺が死ぬまで連絡無いかも知れんな。あいつのしばらくは100年とかだろうから。



その夜、髪の毛を洗ってリンスをしてるとめぐみの匂いだなとか思うゲイルであった。






  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る