第665話 本音 その2

「ふんっ」


ボタボタボタボター


「おーっ」


チルチルがジューサーダンに拍手する。なんど見ても便利だよな。


ほれよ、とダンからジュースが回って来たのでマイタイっぽいのを作ってストローを刺して渡す。


注文を取っていた店員がこっちをみてフリーズする。


「お、お肉が宙に浮かんで消えて・・・」


あー、めぐみは他の人の前でも気にせずに食うからな。本人がバレても気にしないならいっか。


「驚かせてすまんな。俺の隣には女神達がいるんだよ。ここの肉も旨いってさ」


「え?」


「他の人には見えないけど、ここに座ってるから触らないようにしてやってくれ」


無言で走っていく店員。



ーバックヤードー


「店長ーっ! 店長ーっ!」


「なんだ、営業中だぞっ」


「かっ、神様が、神様が来てるっ」


「はぁ?」



ー個室大部屋ー


「うちの従業員が失礼を・・・ あれ? ぼっちゃんか?」


「お、久しぶりだねぇ。ここの店はおっちゃんの店だったの?」


小熊亭の常連のおっちゃんだ。名前は知らない。


「ぼっちゃん、でかくなったなぁ。見違えちまったわ。アーノルド様達もご無沙汰しておりやす。その節はご馳走になっちまって」


「小熊亭の事か? 懐かしいな」


「へい、嫁に店を出したらどうだと言われて店を出しやした」


「繁盛してるみたいで良かったね」


「ぼっちゃんが開発したタレのお蔭だな。肉屋のカルヴィンも安く卸してくれるから助かってるぜ。ザックもいつもありがとうな。来てるなら来てるって言えよ」


「言ったら気を使って割引するだろ?」


「当たり前じゃねぇか。開店前から相談に乗ってくれて世話になりっぱなしなんだからよ」


「おっと、おっちゃん。ここに女神が座ってるから気を付けて」


「ほ、ぼっちゃん。うちの奴が神様が来てるって言って来たけど本当かよ?」


「ここに座ってるぞ」


「ぜんぜん見えねえぞ」


「そうだろうね。でもな、めぐみ、はいあーん」


「あーん。うん、ぶちょーに食べさせて貰った方が美味しいね♪」


「に、肉が消えた・・・」


「ここの肉美味しいってよ」


「ほ、本当なんだな? 本当に神様がいるんだな?」


「だから本当だって」


「かぁーっ、ぼっちゃんは相変わらずすげぇな。神様と知り合いなのかよ?」


「まぁ、そんなところ」


「あっちの褐色の人・・・ 角が・・・  ハーフ獣人か?」


ラムザの奴、帽子脱いで胸に挟んでやがる・・・


「あれは魔王。といっても怖くはないよ。悪い奴を滅ぼす存在だ。普通の人には害無いよ」


「神様に魔王とかどうなってんだ・・・?」


「別に良い事も悪いこともしないからただのお客さんだと思っててくれ、あ、あと肉は旨いけどご飯はいまいちだぞ」


「え?」


「シルフィードが炊いてくれた飯のほうが100倍旨いからな。そこは要改善だと思うぞ」


「あぁ、わかった。もう一度研究してみるわ」


おっちゃんはゆっくりしていってくれと言い残して去っていった。


「ゲ、ゲイル。私のご飯の方が美味しい?」


「あぁ、全然違う。もう自分で炊く気しないからな」


「わかった。ご飯は私が炊くね♪」


「ぶちょー、ぶちょー、食べさせて♪」


「どれだ?」


「これとこれと・・・・」


「トイレ行きたい」


マリアがトイレと言い出した。


「じゃパパが連れてって・・・」


「いやー」


「マ、マリア・・・」


「マリア、俺と一緒にいくか、俺も行きてぇからな」


ダンがマリアをトイレに連れてってやるみたいだ。向こうからも外に出られたんだ。



ーバックヤードー


「店長、どうだったんですか?」


「ぼっちゃんが神様が隣にいるって言ってるんだから本当だろう。さっさと仕事に戻れ」



ートイレ前ー


(本当に神様来てるんだって)

(凄いね。神様と一緒にご飯食べてるなんて、やっぱりぼっちゃんは神様なんだよ)

(神様、英雄、ドラゴンシティ辺境伯と比べると、大商会とはいえザック様は見劣りするわよねぇ)

(本当、なんであのメンバーに混ざってるのかしら?)


「パパの悪口言わないでっ!」


「え?」


「パパは見劣りなんてしてないっ!」


「おいおい、こんな所で客のヒソヒソ話なんてするなよ」


「謝ってぇぇっ!」


「も、申し訳ありません・・・」



ー個室大部屋ー


ん? マリアがなんか怒鳴ってるな?


あ、戻って来た。


マリアが泣きながらザックにしがみつく。


「ダン、なんかあったのか?」


「いや、それがよ・・・」


「パパはっ、パパは見劣りなんてしてないよねっ?」


マリアがめっちゃ怒ってるな。何があったんだ?



ーバックヤードー


「子供の怒鳴り声が聞こえたけどなんかあったのか?」


「店長・・・。申し訳ありません。実は・・・」


「バカヤローッ!」



ー個室大部屋ー


ん?おっちゃんの怒鳴り声だ。いったい何がおこってるんだ?


「申し訳ございませんっっっ」


「おっちゃん、どうしたの?」


凄い勢いで土下座しながら詫びるおっちゃん。


取りあえず意味が分からんから頭を上げてもらった。そしてダンとおっちゃんがいきさつを話してくれた。


「お嬢ちゃんすまないっ」


「パパは見劣りなんてしてないからっ!」


「そうだ。ザックは凄いんだ。うちの従業員が下らない事を言ってすまない」


「もう頭を上げて下さいよ。ここにいる人達に比べたら従業員の人達の言う通りなんだから」


「何言ってやがるんだっ! 最近出来た店は全部ザックが相談に乗って成功してるじゃねーか。仕入れの内容や売値とかどんな事をやったらいいとか。全部お前のお蔭じゃねーかっ。どこが見劣りすんだっ! 凄いことやってるじゃねーかっ」


「パパは凄い?」


「あぁ、凄いぞ。この国で一番大きい商会なのにちっとも偉そうにもしないし、頼って来た人を皆助けてやってる。おっちゃんも助けて貰った一人だ。ぼっちゃん達は確かにすげぇが、ザックも同じぐらいにすげぇんだ。嬢ちゃんのパパは凄い人なんだぞ」


ほぅ、最近の新しい店はザックがアドバイスしてたのか。それをやってたらなかなか他の人に仕事を振れないのも分かる気がする。


「パパは皆を助けてるの?」


「そうだ。ザックは皆を助けてくれる神様みたいな人なんだよ嬢ちゃん。凄いパパだ」


「うんっ」


「ぶちょー、あーん」


うん、君はそのままでいいよ。なんか和んだわ。


その後でヒソヒソ話をしていた従業員の女の子が土下座をしてマリアとザックに謝りに来た。


「おーし、そこまで頭を下げるなら許してやる」


マリア、どこでそんなのを覚えたんだ?



おっちゃんはお詫びに代金はいらないと言ったがザックがちゃんと払ってた。



ー閉店後の焼き肉屋ー


「申し訳ありませんでした」


「お前ら本当にとんでもないことをしてくれたな。ぼっちゃんもザックも懐が深いから許してくれたがよ、他の貴族ならその場で首をはねられてもおかしくないんだぞっ」


「本当に申し訳ありません」


「ぼっちゃんが処分するなよと言ってくれたからこれで許してやるが、次はないぞっ」


「はい・・・ 店長はぼっちゃんと知り合いだったんですか?」


「小熊亭ってあるだろ? 元々あそこの立て直しからこの街の発展が始まったんだ。ぼっちゃんが潰れかけた宿で焼き鳥焼きだしてな、俺達は常連だったんだ。当時のぼっちゃんはちっこい癖に俺らみたいな口の悪い住人相手の客さばきは見事なもんだったぜ。途中からミーシャちゃん達も手伝ってよ」


「ミーシャちゃんて、ロドリゲス商会の奥様ですよね?」


「今はそうだ。元々はぼっちゃんのメイド、というか家族みたいな関係だな。ハーフ獣人の娘と小熊亭手伝ったりしてた。アーノルド様達が来たときは全員に奢ってくれたりとかもしてくれたしな。護衛のダンもずっとぼっちゃんを守ってて、ぼっちゃんはミーシャちゃんを守ってとか。ディノスレイヤ家って皆仲がいいんだよ」


「なぜザック様はその中に入ってるんですか?」


「あいつはぼっちゃんが鍛えた商人だな。ディノスレイヤ領時代からの知り合いみたいでな、昔はよく怒られたり助けてもらっていたらしい。未だに頭が上がらないって言ってたよ」


「そんな昔からの知り合いだったんですか・・・ だから子供を託してるんですか?」


「は? なんの事だ?」


「あの子供はぼっちゃんの子供なんですよね?」


「はーーー? お前何言ってやがるんだっ? そんな訳ねーだろっ」


「この前来られた時に親子だと思うぐらい子供の面倒みてましたし、そういう噂がありますし・・・」


「あのなぁ・・・ ぼっちゃんがそんな事するわけねぇだろうが。ぼっちゃんは人の面倒みるの上手いんだよ。子供大人関わらずにな。ミーシャちゃんが思いっきり飯食えるように子供の面倒みてやってたんだ」


「でも・・・ 本当の親子みたいで」


「ザックはな、ミーシャちゃんを嫁に貰うのにぼっちゃんと決闘したんだぞ」


「え?」


「何度も腕とか叩き折られてぶちのめされたらしい。最後はわざと負けてくれたとかザックは言ってけどな。ぼっちゃんはミーシャちゃんをザックに託せるか試したんだろよ。父親代わりとして」


「なんですかそれ?」


「ぼっちゃんの方がだいぶ歳下だけどな、あの二人はそんな感じなんだ。ぼっちゃんが父親、ミーシャちゃんが娘だ。この前来た時に本当に親子みたいだといったが本当にそうか? ミーシャちゃんは実家のお父さんに子供を預けているような雰囲気じゃなかったか?」


「そ、そう言われてみれば・・・」


「あのぼっちゃんが自分の子供を人に渡すわけねぇだろ。他人ですら守ろうとする奴なんだから」


「エルフ姫と婚約したからなんじゃ・・・」


「あの娘も昔からずっとぼっちゃんが守ってる。姫かどうか知らんがな」


「あの色気ムンムンの人は・・・」


「魔王だとよ。悪い人間を消滅させる存在らしい。魔王っていっても神様と変わらんな」


「なんなんですかぼっちゃんって?」


「ぼっちゃんはぼっちゃんだ。昔からぼっちゃんのする事は疑問に思っちゃダメなんだ。あぁ、ぼっちゃんだからな。これで済ませろ」



ー帰り道ー


「ザック、お前店の開発の手伝いやってたのか?」


焼き肉屋から歩きながら帰っている。ザックは寝てしまったマリアをおぶっていた。


「いや、そんなことをするつもりはなかったんですけど、いつの間にかそうなってまして。フンボルトさんともよく打ち合わせしてるんですよ」


「そうか、そのうちホーリックからも相談されそうだな」


「あはははは」


もうされてんだな。


「お前、ちゃんと休みの日を決めろ」


「え?」


「先に休みの予定を入れておけ。それをフンボルトとホーリックにも伝えろ。開発の相談に来る人にもな」


「そ、そんな事をしたら・・・」


「いいからやってみろ。何も問題無いはずだ。それでその時間をミーシャとマリアにやれ。マリアはお前に遊んで欲しいんだ」


「最近は臭いとかキライとか言われてますけど・・・」


「ミーシャ、ザックは臭いか?」


「そんな事無いですよ」


「な、マリアはお前が構ってくれないからそんな事を言うんだ。しかしマリアが思春期になったら本気でクサイと言い出す」


「え?」


「それはお前とマリアの血の繋がりがあるからだ。お前もマリアの事を女臭いと感じるようになるから分かると思うぞ。今はまだ臭いとは思わんだろ?」


「はい」


「それまでの期間は短いぞ。本気で臭いと言われるまでちゃんと遊んでやれ。マリアの本音はそこにある。まぁ、どうしても休めない時やお前が一人の時間が欲しい時は俺が預かってやるけどな」


「わ、分かりました」


「ねー、ぶちょー」


「なんだ?」


「今日も髪の毛洗ってくれる?」


お前、みんなの前で何を言い出してくれてんだっ?


「ゲイル、どういうこと?」


「いや、その、めぐみが焼き肉臭くてさぁ・・・」


「いつの話? 一緒にお風呂入ったの?」


「入ってないっ」


皆がジト目でみるので全力で否定する。


「坊主、これはその為のものか?」


「あっ、そうそう。ここにこの魔法陣を仕込んだら完成なんだよ。小屋で試そうか?」


ドワン、ナイスだ。ナイスなタイミングだ。


俺達はザック達を送り届けて小屋に移動したのであった。


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