第664話 本音 その1
朝起きるとめぐみはいつの間にか帰ったようだ。
ドアでダン達を迎えに行き、ザックのところへマリアを一緒に迎えに行く。
「ようザック、朝から忙しそうだな」
「あ、ダンさん、ぼっちゃん。マリアを迎えに来てくれたんですか? いつもすいません」
「お前も飯だけじゃなしに遊びにも来いよ。ぜんぜん休んでねぇだろ?」
ダンは今日明日と夫妻で連休にしたみたいでザックにも休めといっている。チルチルも学校を休んだみたいだ。まぁ、義務教育で学ぶことは入学前に終わってるからな。
「え? パパも遊びに行くの?」
「いや、仕事が・・・」
マリアはザックに来て欲しそうだな。
「ザック、他の奴に任せるのも重要なんだぞ。休めそうなら一緒に来いよ」
「そうしたいのは山々なんですけど・・・」
「パパも行くの?」
「マリア、パパは仕事がね・・・」
・・・
・・・・
・・・・・
「ふーん。ぼっちゃまー、遊びに連れてってー!」
「ザック、お前は本当に来ないのか?」
「すいません・・・」
「ぼっちゃま、行こっ。パパはマリアと遊ぶよりお仕事の方が好きなんだって」
従業員が増えたんだから、お前が1日休んだくらいでどうってことないだろうに。
「ミーシャはどうする?」
「そうですねぇ、私もお留守番してますね。でも晩御飯には呼んで下さいね。えへへ」
「いつもすいません。マリアを宜しくお願いします」
「じゃ、晩飯の時にまた呼びにくるわ」
ここでドアを出せないので屋敷に戻ろう。ザックとミーシャが手を振っていってらっしゃいしてたけど、マリアは振り向かなかった。
部屋でドアを開けると、ブフォホと風が入って来る。昨夜はこんなことなかったのに天候が一気に変わってる。取りあえず開発地に行くけど釣りは無理そうだな。
「お、マルグリッドの様子はどうなんだ?」
「つわりが酷いね。ミーシャもつわりがひどかったけど」
「ぼっちゃま、つわりってなに?」
「マリアがミーシャのお腹にいるときにしんどくなったりするんだよ」
「かーさまがしんどくなるのはマリアが悪いの・・・?」
「違うよ。マリアを守る為にミーシャはしんどくなったんだよ。今無理して動いたら危ないよっていうのを身体が教えてくれてるんだ」
「しんどくなるほうがいいの?」
「子供を守るのに必要だったりするんだよ。マリアがちゃんとお腹の中で大きくなるようにってね。マリアと一緒にいる為にしんどくなるんだよ。少しの間だけどね」
「じゃあ、パパもしんどくなればいいのにね」
あー、そうなるか。ザックのやつ休んでないからマリアをどこにも連れてってないんだろな。
シルバー達にベッタリだったのは寂しさを埋めてくれる存在だったんだろうな。ドゥーンが生まれてからミーシャも赤ちゃんの方に手が掛かるからな。
「坊主、どうするんじゃ? この風じゃと防波堤でも子供には危ないじゃろ?」
「そうだね。もしやってもこの風じゃ釣りが難しすぎるね」
「えー、お魚釣りしたかったのにー」
「ちょっと待っててね、南の海釣り公園をみてくるよ」
ガチャと開けたらこっちも風が強い。無理だな。
「南も同じだね」
「あの湖はどうじゃ?」
「この季節は人が多いと思うよ。いつもみたいに好き勝手出来ないと思う」
「じゃあ、仕方がないわね。今日は釣りを諦めましょ」
「そうだな」
「なんや、せっかく連休にしたのに無駄やったな」
「えーーっ」
マリアは不服そうだ。そりゃそうだろうな。
「変わりに王都の板芝居見に行こうか?」
「えっ? 連れてってくれるの?」
「ん? 見たことないのか?」
「近いからいつでも見れるでしょって言ってたのに一度もないの」
「じゃ、見に行こうか。父さん達はどうする?」
「パスだな」
「何言ってるのよ? 行くわよ」
「おやっさんは?」
「ワシは遠慮するわい、街のドワーフにそのまま街に残るか移住するか聞いてやらんとダメじゃしな」
「なら、こういうのを作っておいてくれない? おやっさんならすぐに出来ると思うんだ」
ったく、お前はと怒られたけど、ドワンに頼むが一番早いのだ。
チルチルも板芝居を見たことがないのでしっぽがパタンパタンしていた。楽しみなんだな・・・
王都に戻って板芝居のステージへ。
魔女っ娘と新作の龍玉か。ロンのやつもう描いたんだ。
まずは魔女っ娘から公演だ。新しい話はそこそこ面白い。
「ぼっちゃまー、あの魔女っ娘はシルフィードお姉ちゃんとミケお姉ちゃんなの?」
「しっ、内緒だからみんなに言っちゃダメだぞ」
チルチルは目をパチクリさせてミケを見ている。
シャッシャッとやってみせて勝ち誇ったような顔をチルチルにするミケ。
次は龍玉。おっ、王都一武闘会のシーンか。もう何度かやってるみたいで、必殺技、ファ・イ・ア・ボーーールっのシーンを子供達が声を合わせて同じポーズでやっていた。
マリアが食い入るようにそれを見て
「ファ・イ・ア・・・」
やべっ! 慌ててマリアの口を押さえて止めさせる。赤く光ってたので危うく発動するところだった。
魔女っ娘は万が一の時の為にファイアボールを出せないようにしていたけど、バトル物だとこういうの必要だしな。子供達が発動しないのを祈るしかない。
発動した時の為に後で治癒の水をたくさん作ってステージにおいていこう。
「ぼっちゃま、へのへのかっぱって何?」
なんでそんなの知ってるんだ、龍玉の歌を作ったやつ・・・・
「さぁ、なんだろうねぇ?」
昼飯は何がいいか聞いたらラーメンだと。この人数は絶対に入れないだろう。店の人に頼んで裏庭に入れてもらいそこにテーブルと椅子を設置して食べることに。
「ぼっちゃん、無理矢理だな」
「この時間に皆で食べるには仕方がないじゃん」
まぁ、ラーメン屋は直営だからなんとでもなるのさ。
それぞれ好きな物を頼んでいく。
俺はこっさり、チャーハン、餃子、唐揚げとエールという素晴らしい組み合わせを頼む。
「ねぇ、シルフィードお姉ちゃんとミケお姉ちゃんは魔女っ娘だったの?」
「そやで、でも内緒にしとかなあかんねん。悪いやつらにバレたらあかんからな」
「そ、そうなのっ。バレたらたらまずいのっ」
「すっごーーい! マリアも大きくなったら魔女っ娘になるっ」
チルチルもひっそりとフンっと鼻を鳴らしていた。
「ぼっちゃん、晩飯はどうする? 小屋で食うか?」
なんかこうやって人の作ったもの食べてると、晩飯も作りたくないな。
「いや、もう今日は王都で食べよう。ここなら徒歩で移動出来るし」
ダンはりょーかいと返事をした。
「ぼっちゃん達はこれから歌劇見るんだろ? うちはテディが泣くかもしれんから遠慮しとくわ。晩飯何でも良かったら予約いれといてやろうか?」
とダンが気を利かせてくれたのでお願いしておく。
歌劇は小さな恋の物語だった・・・
「これ、ぼっちゃまとかーさま?」
「違うよ・・・」
夕飯時間になったのでザックの所にいく。ダンともここで待ち合わせだ。
「ダン、飯はどこにしたんだ?」
「新しく出来た焼き肉屋だ」
この前行ったとこらしい。ミーシャが希望したみたいだ。
ーめぐみの世界ー
「私から焼き肉の匂いがするの嫌なんだって。何度もスンスンされたけどね」
「じゃあ、何がいいかしら?」
「でね、焼き肉の匂いが嫌だからって髪の毛洗ってもらったの。気持ちよかったー」
「一緒にお風呂入ったの?」
「ううん、こう仰向けになって髪の毛だけ洗ってもらったのよ」
「へぇ、そんなに気持ちいいの?」
「うん、その後トントンされてないのに寝ちゃったのよね」
「へぇ、ゲイルくん私にもしてくれるかしら?」
「今日も呼んでくれるみたいだから言ってみたら?」
「あ、もしかして焼き肉の匂いが嫌でリンスの匂いなら良かったのかしら?」
「まだ焼き肉の匂いするからって洗われたからそうかも」
「じゃ、その匂いにしましょ」
「なんだよ、この前も来たのかよ?」
「ミーシャが肉って言うからな。ミーシャに聞いたらそうなるだろ?」
「そうだな」
俺とダンは聞く相手を間違えたなと思っていた。
「大部屋の個室にしてあるから神様達呼んでも大丈夫だろ? 魔王様はどうする?」
「服はあるけど角がなぁ。先に行ってて、帽子買ってくるわ」
皆を先に行かせたけど、マリアはザックにツーンってして無視だ。ザックもそんな悲しそうな顔をするならちゃんと構ってやれよ。
シルフィードと二人で帽子を買いに行ってからラムザを呼び出す。
「我にプレゼントをくれるのか?」
「今日は街中での飯だからね。人にじろじろ見られんの嫌だろ?」
「まったく気にせんが、ゲイルからのプレゼントだからありがたく受け取ろう」
(今日は大勢だね)
(あのカッコよくてダンディな人が英雄アーノルド様、その隣の可愛らしい奥様が聖女アイナ様。おっきい熊みたいな人はぼっちゃんの護衛だったんだけど、今はドラゴンシティって新しい街の領主なのよ。奥さんはハーフ獣人だけど、めちゃくちゃ凄い売り子だったのよ)
(へぇ、ぼっちゃんは来ないのかな?)
(ほら、ザック様がいるからじゃない?)
(でもアーノルド様達いるのよね?)
(それもそうね)
「いらっしゃいませー」
「大部屋を予約してあって、先にみんな来てると思うんだけど」
「はっ、はい。こちらでございますっ」
(ちょっとちょっとー、ぼっちゃんが連れて来たの誰? めちゃくちゃ可愛い娘と色気ムンムンの人なんだけどー?)
(あの可愛い娘はエルフの姫だと思うんだけど、色気ムンムンの人は知らないわ。愛人かな?)
ピーピー
「めぐ・・・」
ポン
「あれ? ここどこ?」
「ゲイルくんこんにちは~」
「予定変わって焼き肉になったんだけどいいか?」
「焼き肉の匂いが嫌なんじゃないの?」
「焼き肉の匂いが嫌いなんじゃない。お前から焼き肉の臭いがするのが嫌だといったろ」
こいつ、まだリンスの匂いしてんな。昨日ちゃんと洗い流せてなかったのかな?
「ゲイル、めぐみさんの匂いを嗅いだの?」
「嗅いだんじゃない、臭ってきたんだよっ」
俺達は後から入ったからいつもと違う並びに座わる。シルフィード・ゼウちゃん・俺・めぐみ・ラムザだ。他の人が見たら俺の両隣は空席に見えるだろう。ぎゅうぎゅう詰めなのにとんな嫌われ方してるんだ?とか思われないだろな?
みな先に飲み始めてたので、俺達もエールを頼んでもう一度カンパーイだ。
(ねぇ、ぼっちゃんの隣誰も座ってないんだけど)
(そりゃ、あの奥様、エルフ姫、愛人がいるのよ。誰が隣に座るかもめるに決まってるじゃないっ)
(でも、空席にもエール置いたわよ)
(え?)
あー、ザックがドゥーンをアバアバしてるからマリアは背中向けてミーシャの方しか見てないな。チルチルはミケにシャッシャッってどうするのか教えてもらっている。今日は席の移動もしないだろうから、子守はなさそうだな。その代わり女神ズを世話することになるだろう。
自分で好きな物を頼んで焼いて食っていく。この前食った白飯はなんか違ったので肉と酒にしておこう。
「大盛御飯は旦那・・・も、申し訳ございませんっっっっっ」
何を謝ってんだ?
「大盛飯はミーシャだろ?」
「はい、ぼっちゃま」
「俺はエールをおかわり。めぐみとゼウちゃんはどうする?」
「この前のが飲みたいなぁ」
「わたしもっ♪」
あれは店には置いてないだろうな。
「ここ、持ち込みの酒飲んでも大丈夫?お金は払うから」
「えっ? あ、聞いて参ります」
注文はそれぞれしているので、声が店員に聞こえない女神ズの注文は俺が担当だ。
「だ、大丈夫とのことです」
「じゃ、グラスだけ貰えるかな? その分を代金に持ち込み料としてつけといて」
「か、かしこまりました・・・」
グラスを持って来るのを待つ間にジューサーダンに活躍してもらったのであった。
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