第663話 帰り道
翌日から豆腐、豆乳プリン、やっと開発出来たゼラチンを使ったゼリー各種、ココアムース等を教えて行く。
「ミントは何に使うんですか?」
「ミントティーとミントアイスだ。乳製品はダメみたいだから豆乳で代用する」
「ミントアイス?」
「チョコが食べられるようになったらチョコも混ぜてもいいぞ。まぁ、胃腸が回復してからだけどな」
思った通りマルグリッドはミントティーとミントアイスを好んで食べた。
ちなみに俺はミントティーもアイスも苦手だ。昔、同僚の女の子と外回りの時にコジャレた紅茶専門的に連れて行かれて、
「ミントティーもミントアイスも苦手とか信じられない。人生の半分損してるよ」
と言われたことがある。お前の人生の半分はミントなのか。ずいぶんとショボいなと言ったらめっちゃ拗ねられた。
「騙されたと思ってここのミントティー飲んでみて」
と無理矢理一口飲まされた。
「どう?美味しいでしょ?」
「うん、お湯に溶いたサ◯ンパス」
それから外回りに同行しても二度と一緒に喫茶店に一緒に行くことがなかった。
「ゲイル、気持ち悪いのがスッキリとしますわ」
「気に入ってくれたようで何より」
俺はポットが持ってきてくれたケーキを受け取り魔道バッグへ。
「明日は来れないから皆で作ってあげてね」
「私も今日は帰らないとダメなので帰ります」
「こんな時間に危ないわよ」
「じゃ、僕が送りますよ」
3人でジョンの屋敷を出た。
「ポット、これケーキの代金」
「いいですよ。新しいレシピも教えて頂いたのに」
「まぁ、いいから受け取れ」
と、ドラゴン金貨を渡した。
「こ、これ・・・」
「金には困ってないようだから記念に持っとけ。もう流通してないみたいだからな」
「こ、こんな高価な物受け取れませんよっ」
「気にすんな。まだ結構持ってるんだよ」
ダンに全部渡したと思ってたドラゴン金貨の箱が一つ残ってたのだ。
「い、いいんですか?」
「いいよ。今までも持ってきてくれた分もちゃんと払ってなかったからな。利子込みだ」
利子が多過ぎですよと苦笑いしていた。
「デーレンのこと頼んでいいのか?」
「同じ方面みたいですので大丈夫ですよ」
じゃ、明日宜しくなと言って俺は屋敷経由で帰ったのであった。
「デーレンさん、ゲイルさんと昔から仲良かったんですか?」
「いいえ、一方的に私が噛みついていただけ。今考えると不敬罪になっててもおかしくないぐらい」
「ゲイルさんはそんなことで怒らないでしょ?」
「えぇ。幼かった私がゴーリキー伯爵の名前を出してお叱りを受けたときもゲイルがその処分を取り消してくれたみたい。ずっとそれも知らなかったの」
「へぇ」
「魔法学校の卒業試験がものすごく難しくなったんだけど、凄い重要な事を教えてくれてストレートで卒業出来たわ。噛みついてばかりの私をいつも知らない所で守ってくれてたみたい。今もね」
「僕もゲイルさんに助けて貰ってばかりなんですよね。当時殿下のお抱えコックだったんだけど、みんな凄い人ばかりで見習いだったんだよ。でもゲイルさんがお菓子を教えてくれてから王家の社交会のデザートを任せて貰えるようになったんだ」
「そうだったの」
「あと、心が壊れかけた時も救ってくれてね。こうやって立ち直れたんだよ」
「心が壊れかけた?」
「ははっ、僕、マルグリッドさんが好きだったんだ。叶わぬ恋だとはわかってたんだけど、ジョン様と婚約するのが決まった時はショックでね、その時も救ってくれて、今の屋敷に引っ越されて顔も見れなくなって心が壊れかけたんだ。いつもそんな時にふらっと店に来てくれて救ってくれたんだよ。本当に俺にとっては神様みたいな人なんだ」
「私はゲイルが好きだったの。ゴーリキー伯爵が隣の領に行かれてうちの立場が貴族街で弱くなったのね、マルグリッド様が私に仕事を下さったんだけど、庶民が貴族街で生きていくのは大変なの。ジョン様の愛人として庇護下に入る覚悟をしたんだけど、ゲイルが全部解決してくれたわ・・・」
そう言ってお守りを見せる。
「それ、ゲイルさんの紋章・・・」
「私を守ってくれる相手が見つかるまでゲイルが守ってくれるんだって。これ国宝ですら霞むくらい凄い物だってマルグリッド様に聞いて驚いたわ。そんな物を一週間くらいで作ってくれたの」
「その紋章を身に付けてたら色々な意味で王都じゃ誰も手を出さないね」
そう言って笑うポット。
「そうでしょ。でも嬉しかった。貴族になんかされそうになったら俺の名前をだせっ! それでもダメならすぐに助けに来てそいつを消滅させてやるだって」
「それ、嘘じゃないと思うよ」
「うん。これ押したらゲイルの所に警報が鳴るようになってるの。目の前で実験してくれたから」
「そんな小さな物に凄い仕掛けがしてあるんだね」
「もっと悪人ならこれぐらい近付いただけで地獄送りになるらしいわ」
すっとデーレンに近付かれてドキっとするポット。
「そ、そんな怖い仕掛けもあるんだね」
「これはまだ実験してないけどね」
そう言って笑うデーレン。
「ゲイルって人じゃないかも知れないんだって。ポットさんの言うとおり本当に神様かもよ」
「そうだね。女神様達と話とかされてるみたいだし」
「それって本当なの?」
「俺のケーキを気に入ってくれてると教えてくれたんだ。目の前で僕の作ったパンケーキが消えていった時は本当に驚いたよ」
「ゲイルが神様や魔王様、ドラゴンが仲間だって・・・」
「全部本当だと思うよ」
「じゃあ、ゲイルは本当に人じゃ・・な・・・い?」
「うん、そんな気がする。僕の心の底の自分でも気付かなかった事も解ってくれたし」
「じゃあ、私達ゲイル神の信者ね」
「そう言うことになるね」
フフフっ
ハハハっ
二人はこうしてゲイル神の信者になったのであった。
ー西の街の焼き肉屋ー
(ねーねー、あそこの親子連れの旦那様が前と違う人だよね?)
(あー、あれはロドリゲス商会のザック様と奥様だよ)
(えっ?あの大商会の?)
(そうよ)
(この前の旦那さんは?)
(多分、通称ぼっちゃん。この街の領主様。今は他の人が代行でやってるけど、西の街をあっという間に発展させた凄い人なのよ。王族なのに全然偉そうにしないし)
(えー? めっちゃ若いじゃん)
(当たり前よ。10歳くらいで領主になって5年もしない間に王都イチというか貴族街よりも発展させたのよ。あと板芝居とか歌劇とか全部作ったの。それにエルフとドワーフの王族でもあるのよ)
(そんな凄い人だったのね。でもあの女の子と本当の親子みたいだったけど?)
(しっ! あの奥様はぼっちゃんの専属メイドだったのよ。だからあの子供の本当のパパは・・・)
(それってヤバくない?)
(だから誰も何も言わないの。気付いちゃダメなことなの)
(わかった。でもいい人だったわ。子供がはしゃいでたから注意したらすぐに謝ってくれたわよ)
(ぼっちゃんは庶民に怒らないからね。タチの悪いのには恐ろしいみたいだけど)
(どういうこと?)
(盗賊とかバンバン討伐してるから、紋章見ただけで悪いやつは逃げたすの。だからロドリゲス商会の馬車にでかでかと紋章入れてあるでしょ)
(なんでロドリゲス商会の馬車に?)
(ほら、奥様が・・・)
(あー、なるほど。だからずっと守ってるのね)
(そう言うこと。だから知ってても黙ってるのがこの街の暗黙のルールよ)
(本当は愛してるのに一緒になれなかった理由があるのかな?)
(エルフの姫と婚約したからじゃない? ほら、うちの国ってエルフとドワーフと同盟結んでるでしょ? あれもぼっちゃんがやったのよ)
(えっ?その為に婚約したの?)
(多分ね。国を守る為に愛する人を諦めてエルフ姫と婚約したのよきっと)
(なんか泣きそうになるね)
(あと、王子がハーフエルフと結婚したじゃない? あれ、王子がハーフエルフに惚れてね、でも身分差があったから自分の養子にして王子の身分と合わせてあげたのよ)
(そうなのっ?)
(この国がセントラルに勝ったのもドラゴンをテイムして一人でやっつけたとか、もう伝説だらけなんだから)
(そんなのまるで神様じゃん)
(そういうこと。ぼっちゃんのお父さんは英雄、お母さんは聖女。神様が生まれても不思議じゃないわ)
(へぇ、じゃあ本当に神様かもしれないね。今度会ったら拝んどこ)
開発地に戻るともうみんな寝ていたので、ちょっと海岸線を散歩する。
俺の種族が《?》になってるのはなんだろうな?
砂浜に座ってもう一度
【種族】
《?》すら無くなってる・・・
ピーピー
「何?」
「ちょっと聞きたい事があるんだけどさ、俺って人間だよな?」
「当たり前じゃない」
「なんか種族が空欄になってんだけど、なんだよこれ?」
「えっ?ちょっと行くわ」
ポン
「本当ね」
「人には変わりないんだよな?」
「魂が人なんだから当たり前でしょ」
「わかった。じゃ気にしないでおくわ。呼び出して悪かったな。明日、魚釣りして喰うつもりだけど来るか?」
「行く♪」
「あと、ケーキたくさん貰って来たから先に選ばさてやろうか? それとも明日のお楽しみにしておくか?」
「選ぶっ!」
ケーキを見せてやると、
「これとこれ」
もっと選ぶかと思ってたけど2つか。
「は今食べる」
は?
ひょいっと2つ取って食べるめぐみ。
「あとはこれとこれと」
慌てて参加人数を数える。
「めぐみ、あと3つだけだ。数が足らんくなる」
「えー、じゃあ、これとこれとこれ。ぶちょーはどれにすんの?」
「俺は最後に残ったのでいいよ」
「じゃ、それもちょーだいね♪」
ケーキは一人2個換算。すでにめぐみに俺の分を1つあげる計算で3つ選ばせてやったのに・・・
「ぶちょー、バイク乗せて♪」
夜も遅いのに。まぁ、呼び出したの俺だしな。
「ちゃんと掴まってろよ」
ぎゅっと俺にしがみつくめぐみ。
ん? スンスン。
「めぐみ、お前、風呂入ってるか?」
「無いのに入るわけないでしょ?」
「この前食った焼き肉の匂いがまだしてんぞ」
「焼き肉の匂い好きでしょ?」
「そういう問題じゃねぇっ! ひとっ走りしたら風呂に入ってから帰れっ」
焼き肉の女神とか聞いたことねぇぞ。
だーっと砂浜を走ってから風呂を作る。
俺もついでに入ろう。
男湯と女湯を分けて作って、シャンプーとリンス、石鹸の使い方をもう一度教える。また真っ裸で聞きにくるかもしれんからな。
湯船とシャワー用のタンクにお湯を貯める。
ふぃー、波音を聞きながらの風呂はいい。
ここは下水システムを作ってないから、排水もちゃんと貯めるようにしてある。最後にクリーン魔法を掛けないとな。
ザバザバっと髪の毛と体を洗って終了。
めぐみはまだ入ってるからお酒のんじゃおっかな。ちょっと甘めの酒を・・・
めぐみが髪の毛べっちゃべちゃのまま出て来た。
タオルで拭いて温風をかけてやる。リンスの匂いと・・・
スンスン
「ちゃんと洗ったか?」
「洗ったわよ?」
まだ焼き肉臭い。服か?
フンフンと服の匂いを嗅ぐけど、やっぱりめぐみ本体だな。
頭をフンフンすると髪の毛からもする。
美容院にあるような洗面台と椅子を作る。
「洗い直しだ。ここに仰向けに寝ろ」
髪の毛ひとつまともに洗えないとか子供かお前は?
「何するの?」
「髪の毛を洗い直すんだよ。まだ焼き肉の臭いが付いてんじゃねーか。女神がいつまでもそんな臭いさせてんなっ」
「焼き肉の匂い好きでしょ?」
「だからそんな問題じゃねぇっていってんだろ? おまえから焼き肉の臭いしてんの嫌なんだよっ」
そう言ってめぐみの髪の毛を洗っていく。
「こらっ、目を開けて見てんな。なんか恥ずかしいし、目にシャンプーとか飛んだら痛いぞ」
痛いと聞いてパチと目を閉じるめぐみ。
「ぶちょー」
「なんだ?」
「洗ってもらうのって気持ちいいね♪」
「嫌いな人もいるけどな」
俺はさんざん子供の髪の毛を洗ってきたから、子供が嫌がらない洗い方をマスターしているのだ。
シャンプーを流してリンスしてタオルで拭いてやる。温風で・・・フンフン
まだする。
「めぐみ、臭い染み付いてて取れんぞ」
「この匂い嫌?」
「臭いが嫌なんじゃない、お前からしてんのが嫌なんだ。お前に魔法は効かんだろ?ゼウちゃんに匂いの落とし方教えてもらえ」
「わかった」
「もう遅いから帰るぞ」
「えー、せっかく来たのにぃ」
「あー、もうっ。いっぱいだけ飲んだら帰るぞ」
「うんっ♪」
前のと同じのがいいと言うのでマイタイを作ってストローを刺してやる。
美味しい♪ と言いながらご機嫌のめぐみ。
俺も同じ物を飲んで夜の潮風を楽しむ。星座を見ているとあー、違う空なんだとか思う。
コテン
え?
すーっすーっ
こいつ寝やがった。トントンしてないのに。お前ら寝なかったんじゃなかったのか?
ん? 焼き肉の臭いが消えてる。リンスの匂いしかせんな。潮風が消してくれたのだろうか?
めぐみにもたれ掛かれても重くないから別にいいけど、帰れんじゃないか。
それに風に当たり続けてたら湯冷めで寒くなってきたな。
「おいっ、めぐみ。起きろ」
すーっすーっと寝たまま起きない。弱ったな。こいつは寒くも何ともないのだろうけど。
ドアで拠点に帰ったら皆を起こすだろうから屋敷の部屋で寝るか。
めぐみを抱き抱えて部屋に戻る。今はどの部屋が誰が使ってるか知らないからここしか使えんな。ま、めぐみのこと見える人いないしいっか。
めぐみをベッドに寝かして、床にマットをおいて寝たのであった
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます