第661話 好きだよね?

シルバー達の骨を拾い小瓶に入れた。マリアも欲しいとのことだったのでマリアにはシルバーとクロスのを入れて渡した。


ダンを送り、目を真っ赤にしたマリアをミーシャの元に送り届けた。


「シルバー達は逝っちゃったんですね」


「あぁ、最後をちゃんと見届けてやれて良かったよ。あとマリアは火魔法を使えるようになってるからイタズラしないように気を付けてくれ」


「マリアに魔法を教えたんですか?」


「シルバー達を送ってやるのにな。ミーシャも火魔法使えたから筋が良かったよ。何もアドバイスしなくても発動したからな」


ぼっちゃま、シルバーの追悼でご飯食べに行きましょうと言うので、街の焼肉屋に食べにいく。さっきシルバーが焼ける匂いを嗅いだからではない。ミーシャが希望したのだ。


「自分で焼く店だから好きなのどんどん頼んで良いぞ」


とは言ったけど、こんなに食えるのか?


どっちゃりと皿に盛られた肉をドゥーンを片手に抱きながらのせていく。端から見たら俺とミーシャは若夫婦に見えるのだろう。俺の事をよく知らない店員が、ご飯の普通盛は奥様で大盛は旦那様で宜しかったですか? と言った。ミーシャもニコニコして特に否定しない、大盛ご飯はミーシャだけどね。



「ぼっちゃまはかーさまの旦那様なの?」


「旦那様はザックだよ。パパのザック」


「ぼっちゃまは?」


「ぼっちゃまはぼっちゃまだよ」


俺とマリアのやり取りにクスクス笑うミーシャ。


「私の方がずいぶんと歳上なのにぼっちゃまが旦那様に見えるんですねぇ」


「ミーシャは童顔だからな。他の人から見たら同じ歳くらいに見えるんだろ」


「そうですか? エヘヘ」


まぁ、旦那以外が赤ん坊を抱いてマリアの世話をしながら肉焼いたりせんだろうからな。


「だんなさま、ソーセージ焼いて」


「マリア、だんなさまじゃないぞ」


「じゃ、パパって呼んでいい?」


「それはダメだ。ザックが悲しむ」


「だってパパ臭いんだもーん。ぼっちゃまの匂いはすきー」


それシルバー達の焼けた匂いじゃないよね?


「ぼっちゃま ぼっちゃま」


「なんだマリア?」


「かーさまはパパのお嫁さんなんだよね?」


「そうだぞ」


「ぼっちゃまのお嫁さんは?」


「いないぞ」


「どうして?」


「それはな・・・・」


「うん」


「マリアがいるからだー」


コショコショコショコショ


「きゃーっ キャハハハハっ」


マリアめっちゃ大喜びだ。


「も、申し訳ございません旦那様、他のお客様のご迷惑に・・・・」


「あっ、ごめん」


ついいつもの調子でやってしまった。店でマリアと飯食うの初めてだからな。


「じゃぁ、マリアがぼっちゃまのお嫁さんになってあげるー」


「そっかー、それは楽しみだなぁ」


「うん♪ じゃ、あーん」


焼けたソーセージを俺の口に押し付けてくる。熱そうだな・・・


我慢してパクっといったら口の中でぶちゃっと熱々油が吹き出した。


ンゴゴゴゴとなるけど吐き出さない。治癒の魔石が瞬時に火傷治してくれるからな。


「美味しい?」


「美味しいよー。じゃ、これはマリアにあーん」


とふーふーしてから食べさせてやる。


「おいしー♪」


「ぼっちゃま♪」


何あーんしてんだミーシャ、お前に店の中で出来る訳ないだろ?


「ザックに怒られるからな。ちゃんと自分で食べなさい」


そう言われてシュンとなるミーシャ。なぜ皆俺にあーんをしてもらおうとするのだろう?


【スキル】与えしモノ


なんだよこれ・・・



なんかスキルが一つ付いてからどんどん付いていくな。しかも微妙なものばっかり。


色気耐性、安眠の加護、サバクモノ、与えしモノ


これ、人のスキルじゃないよな・・・


たらふく食べても銀貨2枚ちょっとだったので銀貨3枚でお支払い。レジ係は俺を旦那様と呼んだ女の子だ。お釣りはいいよと言っておいた。擬似家族体験をさせてくれた礼だ。俺はこの世界でこうやって嫁と子供を連れて飯を食いに来ることはないからな。


チップには多すぎますと言われたけどね。


「ぼっちゃまー、またお魚食べたーい」


「じゃあ今度のお休みには一緒に魚釣りしようか?」


「うんっ」


ミーシャは晩御飯の時に呼んで下さいねと子守りを俺に押し付ける気満々だった。


シルバーが逝ったばかりだけどもう悲しくはない。すぐに帰ってくる気がしているからだ。開発地に野生の馬がいるかもしれんな。帰ったら探しにいこう。



ミーシャ達を送り届けて開発地へ。アーノルド達も迎えに行って、シルバー達が逝った事を報告する。


「そうか、ソックスとブラン、ウィスキーも先に逝ったからな。シルバーが一番長生きだったんじゃないか?」


「そうかもしれないね。多分すぐに生まれ変わって来るよ。ここのどこかに野生の馬の生息地がないか探してみるよ」


「おっ、そうだそうだ。野生の牛が居たぞ」


「本当? ミノタウロスじゃなくて?」


「真っ黒で角が小さいんだ。見たことがないやつだな。山の中腹が草原になっててな、そこにいたぞ」


大きさはディノスレイヤ領の牛と変わらないらしい。1トンを越えるぐらいなのかな?



翌日、そこに案内してもらって試しに1頭狩ってみる。人間を怖がらなかったので簡単だ。でも人間に恐怖心を与えないようにトントンして寝かせ、暗くなってからこっそり魔法で運んだ。


「これどうするんだ?」


「ディノスレイヤ領のミートに解体を頼んでみるよ」


「ドアをくぐれんだろ?」


「死んでるから魔道バッグに入れて持ってくよ」


血抜きをしてから冷やした牛をミートの所に持っていく



「ずいぶんと立派な牛だな。こいつを処理すればいいのか?」


「見たことがない品種だからプロに任せようと思ってね。美味しかったら家畜化してみるよ」


「よっしゃ、なら明日様子を見に来てくれ。ホルモンはそん時に渡すわ」



ー翌日ー


「ぼっちゃん、こいつは上等だぜ。肉の中まで脂入ってるしよ、肉の匂いもいい。半月後ぐらいから食べ頃になると思うぜ。預かっておこうか?」


お願いねと頼んで、ソーセージやらベーコン他肉を仕入れて帰った。


「おっ、今日はホルモンパーティーか。久しぶりだな」


「何時頃からするんじゃ?」


まだ昼飯前なんだけど・・・


「昼飯無しにして早めに食べ出す?」


賛成ということなので、ダンとミーシャに予定を伝えにいく。昼飯食ったら食えなくなるからな。



ピーピー


「めぐみ、きょう早めにホルモンパーティーするんだけど」


「行く♪」


そういうなりめぐみが現れた。


「ゼウちゃんは?」


「忙しいから来れないって」


という事でめぐみのみ参加。ゼウちゃんにはお供えしておこう。


ん?


スンスン。


「お前、誰かに焼き鳥お供えしてもらった?」


「ぶちょー以外にお供えしてくれる人いないよ」


なら気のせいか。今準備してる網に匂い残ってんのかな?



「じーっと準備してるの見てて面白いか?」


「別に」


ならなんで隣でずっと見てんだよ?


「ゲイルー、ご飯どれぐらい炊く?」


「たくさん炊いておいて。残ったらおにぎりにするから」


「りょーかーい」


アーノルド夫妻とドワンはバイクで遊んでいる。中年珍走団みたいだな。イデデデデっ


「ぶちょー、バイクで走ろうよ♪」


「俺は飯の支度してんだよ。父さん達に乗せてもらってこい」


「じゃあいい」


なんなんだよ?


俺とシルフィードが飯の準備をせっせとしているなかめぐみはそれ以降ずっと黙って俺の作業を隣で見ていた。


アーノルド達が腹減ったというので、皆を迎えにいく。勿論ラムザも来た。



ホルモンとエールは正義だ。みなモニュモニュしながら食っている。タレ派と塩派に別れるけど、俺は塩とニンニクゴマ油だ。めぐみはタレは自分で、塩ニンニクゴマ油はあーんと口を開けて交互に食べている。


「ゲイル、焼き鳥はある?」


「串に刺すの面倒だから手羽先でいいか?」


「いいよー」


手羽先をドドドッと網に乗せる。塩焼きのつもりだったが、なんとなくタレ焼きにしてしまった。シルフィードは焼き鳥はタレの方が好きだしな。


チルチルがミケを振り切って俺の所に来る。


「私も鳥食べたーい。あーん」


と口を開けるので手羽先の先をちぎって口にふーふーして口に入れてやる


「ちゃんと噛んでろよ」


で、骨をスルンと抜いてやった。


「かひらなふてひひんだへ」


食ってからしゃべれ。


「マリアもパパの所に行くー」


「マ、マリア。パパはここに・・・」


テテテッと走って俺にパパァッと抱きつくマリア。止めなさい。ザックが青ざめてるだろ。


「マリア、ぼっちゃまはパパじゃないぞ」


「じゃ、マリアの旦那さまー」


やめたれ。ザックが泡吹いてんじゃねーか。


「ゲイルは私のだからねっ」


張り合うチルチル。君のものでもないぞ。


「違うっ!」


シルフィード、子供に張り合うな。


「そうだ、シルフィードの言う通りだ」


ラムザ参戦。


「どうしてよっ?」


チルチルが魔王にメンチを切る。


「私のだからだ。ゲイル、発情期はまだか?」


いや、もう普通に飯食わしてくれよ・・・


俺がうんざりした顔をすると、ドワン達がラムザを回収、チルチルとシルフィードをダンとミケが回収、マリアはザックがパパくさーいと言われながら回収していった。


「ぶちょー、手羽先食べさせて」


プチっと先をちぎってめぐみの口へ入れ骨を引き抜く。ちぎった方は俺ががしがしと皮を削り取って食う。きちんと食べてやるのが命を奪った者の責任だからな。


「食べ方わかったろ? 次から自分で食べろ」


箸やスプーンで食べさせるのと違って手羽先は手が唇に当たるからなんか恥ずかしいのだ。


えー、とか文句を言わずに次からそうするめぐみ。なんかいつもと雰囲気が違うけど・・・ ま、いっか。


ホルモンのタレ、塩ゴマ油ニンニク、手羽先と酒各種をゼウちゃんにお供えしてお下がりは俺が食べた。


「ぶちょー、焼き鳥の匂い好きだよね?」


「好きだな。それがどうした?」


「別に。聞いてみただけ」


それからしばらく食べ続けてめぐみは帰って行った。なんか様子が変だったな?


ラムザにはヤギ召喚の魔法陣を教えてもらう。言語は魔界文字とでもいうのかな?


「ラムザ、お前はここの言葉を話せてるよな? 魔法陣は言語が違うのか?」


「どうだろうな? 覚えたものではなく、初めから使えたからよくわからん」


ほぅ、誕生と共にインストールされてたみたいな感じなのか。


「これ、ヤギはランダムに出てくるのか?」


「ランダム?」


「ヤギってたくさんいるだろ? どのヤギが出てくるのか決まってるのか?」


「あれは全部で1匹だ」


は?


「どういうこと? 合体でもするのか?」


「いや、どのヤギも意識が統一されておるとでもいうのかな。全部同じやつだ」


いまいち意味が分からんけど、感覚共有をするとか、あれは端末で本体が別にいるとかなのかな? まぁ、ヤギを呼び出せるならどうでもいいか。後はどんな魔力を流しているのかやってもらおう。空中に魔法陣を描くとかやったことないからな。


「ラムザ、俺の腕を持って魔法陣を出してみてくれないか?」


ラムザは俺の背中に密着して腕を持つ。当たってる当たってるっ! 男のロマンがむにゅんと背中に当たってる。


やりにくいから少ししゃがめと言われる。そして


「ゲイル、いく・・・ぞ」


と耳元で囁かれる。やめろっゾクッとするじゃないか。


ラムザから強烈な魔力が俺を通して流れ魔法陣が出現。ずるんとヤギが出てきた。


「ありがとう。これで使えると思うわ」


感覚を教えてもらえると使えるのは早い。送還の魔法陣は自分でやってみてヤギを返す。そんな寂しそうな顔で帰んなよ。


ラムザはフフッと笑って礼には及ばんと言っていた。


あー、バレたな。



ゾクッとした時に将軍が馬に乗ったのであった。




ーめぐみの世界ー


「ゼウちゃん、フンフンされたの1回だけだったよ」


「おかしいわね。ゲイルくんの好きな匂いなのに。じゃあ、次はこれね」


めぐみとゼウはゲイルに無臭だなと言われて、ゲイルが好きな匂いが出るようにアップデートをしていたのであった。





















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