第660話 サヨナラは別れの言葉ではない
冬の間に獣人達の住みかの開発が終了し、皆を移住させていく。開発地の住民第一号は獣人達だな。
「安全性とかに問題がないか父さん達にしばらく一緒に住んでもらうよ。いいかな?」
「はい、宜しくお願いします」
獣人達は高台ではなく、森の中に住むらしい。水は川から汲んで自分達でなんとかするらしいので井戸は掘らなかった。あちこち移動してみて居心地が良い場所を見付けたらそこに落ち着くとのこと。
「じゃあ、父さん達宜しくね」
ドラゴンシティに移動してここに住む獣人達に移住するか聞いてみるとすでに人族と良い仲になっているようでこのままここに住みたいとのことだった。ハーフ獣人が増えそうだな。心の傷も癒えたようで何よりだ。人族に恨みを持たなくて良かった。
「ぼっちゃん、エルフやドワーフ達はどうすんだ?」
「まだ先だね。おやっさんがドワーフの住む場所を選定してるよ。鉱石がゴロゴロ採れるからどこにするか迷ってるみたい」
「贅沢な悩みだな」
「でも、物を作っても売り先が無いからね。住民が増えないと意味が無いかも」
「そりゃそうだな」
バンバン作ってウエストランドに売りに行ってもいいんだけど、同じ物で競合になるからな。供給より需要を増やすのが先だ。
開発地はものすごく広いから未知の場所も多いし数年は調査優先になるけど。
シルバー達も開発地にくるかな? ゆったり自然の中で余生を過ごせるかもしれん。もうだいぶおじいちゃんだからな。
南の領地で魔力草を採取してシルバー達に会いに行く。
「ぼっちゃん元気そうだな」
「コボルト達とシルバーの面倒みてくれてありがとうな」
「マリアが毎日乗りに来てんぞ。シルバー達が賢いのもあるがちゃんと乗りこなしてるのは大したもんだ」
今もマリアがシルバーに乗ってポコポコ歩いている。マリアが乗るときにシルバーがしゃがみ、クロスがお尻を鼻で持ち上げて乗せてやるらしい。
シルバーとクロスがマリアを乗せたままこちらに来る。
「もー、こっちじゃないって・・・ あっ、ぼっちゃまー」
「マリア、上手になったな」
「うん!」
シルバーの上から手を出すマリアを抱き止めてやる。
「ねー、ぼっちゃま」
「なんだ?」
「シルバー達、最近元気がないの」
「もう歳だからな」
「ううん、そんなんじゃなくて元気がないの」
え?
「ジャック、シルバー達に異常あるか?」
「いや、ずっとこんな感じだけど異常はねぇと思うんだけどな」
「シルバー、しんどいのか?」
ふるふるっと首を振るシルバー。
「クロス、お前は?」
フンフンと首を振る。これはどっちの返事だ?
「お土産持ってきたんだ。マリア、これをクロスにあげて」
魔力草をシルバー達に与えてみる。喜んでるけど食べるスピードがものすごくゆっくりだ。
「シルバー・・・」
直接魔力を与えてもすぐに減っていく。一定の所まで下がったらそれ以上急激に減ったりはしないのだが。
もう危ないのかもしれない・・・
「シルバー、明日からここにずっといるよ」
そう言うと首をブンブンと振って喜んだ。クロスも
夜に開発地に戻って、しばらくシルバーの元で寝泊まりすると伝え、ダンにもクロスの状況を伝える。
「ぼっちゃん、あとどれぐらいもちそうなんだ?」
「わからないけど、もう長くないと思う」
「そうか。ミケ、俺はしばらくぼっちゃんと一緒に王都に行くわ。ここは任せてていいか?」
「うん、ちゃんと最後まで面倒見たり」
「ミケ、これはお前のだ。なんかあったらここを押せ。すぐに来る」
「なんや、ウチを守ってくれるんか?」
茶化してニヤニヤするミケ。
「ダンがいない時だけな。お前は俺の家族だからな」
そういうとなんとも言えない顔をしてギュッと俺に抱き付き、
「昔からずっと守ってくれておおきにな」
そう呟いた。
それから俺とダンはシルバー達の小屋の横に寝泊まりする場所を作った。
「ダン、夜には街に帰れよ。朝に迎えに行くから」
「夜になんかあったらどうすんだよ?」
「俺がここにいるから呼びに行くよ。お守りがあってもミケが寂しいだろうし、子供はあっという間に大きくなるからな。毎日ちゃんと見とけ」
それから毎日ダンを迎えに行く前に魔力草を採取してシルバー達に与え、昼間はマリアを乗せてポコポコ。マリアはお馬さんの歌を歌いながら乗馬する。シルバーとクロスもこの歌が好きなようで、マリアが歌うとしっぽを上げ下げしてリズムを取っていた。
しかし、シルバー達は日に日に魔力が回復しなくなっていく。
こんな生活が1ヶ月ほど続いた後にとうとう立てなくなってしまった。
「シルバー、クロスっ どうしたのっ」
「マリア、シルバー達は疲れてるんだ。このまま寝かせてやってくれ。ここを撫でてやると喜ぶぞ」
マリアは一生懸命シルバー達を撫でてやる。2頭とも嬉しそうだ。
翌日は2頭とも苦しそうにしている。魔力が尽き掛けているのだ。
「シルバーっ、クロス。いやー、目を開けてよーっ!」
マリアが泣いて2頭を撫でる。
俺とダンはシルバー達の顔を膝に乗せてやると少し目を開けた。
「シルバー、大丈夫だ。また会えるさ」
そう言うと涙を流したシルバー。もうかなり苦しそうだ。
「シルバー、少しだけサヨナラだ。もうゆっくり寝ていいぞ。それで起きたら俺を探せ。ちゃんと見付けろよ」
そう言って、シルバー達にトントンしてやると苦しそうなのが止まり、眠るように逝ってしまった。
シルバー達の魂が光となって天に帰っていく。
「うわーーーんっ。シルバー、クロス死なないでーーーーーっ」
号泣するマリア。
「ぼっちゃん・・・」
「あぁ、今帰って行ったよ」
シルバーとクロスの
「マリア、これはお守りだ。もし悪い奴が来たらここを開けてこのボタンを押せ。シルバー達と俺がマリアを助けに来る」
「ぐすっ ぐすっ 本当?」
「本当だ。でも遊びで押しちゃダメだぞ。シルバー達がびっくりしちゃうからな」
「シルバー達はどこに行ったの?」
「神様の所に休憩しに行ったんだ。しばらく休んだらまた帰って来るさ」
「絶対?」
「あぁ、絶対だ」
シルバーとクロスは仲が良かった。俺とダンがずっと一緒に居たからシルバー達もずっと一緒だったからな。だから逝く時も一緒に逝ったのだろう。というよりシルバーが頑張ってクロスを待っててやったような気がする。
そしてマリアにお別れというものを最後に教えてくれたんだな。ありがとうシルバー、クロス。
「マリア、今からシルバー達の身体を天に返してやらんとダメだ。手伝ってくれるか?」
「ぐすっ ぐすっ どうやるの?」
「身体を天に返すのは燃やしてやるんだ。ぼっちゃまが今からマリアと一緒にやるからちゃんと自分も燃やしてると思うんだよ」
「わかった」
シルバーとクロスを魔力草を敷き詰めた上に並べてやり、俺はマリアの手を前に伸ばさせて後ろから抱え込んだ
「いいか、今から身体を燃やしてやるからな」
マリアの身体を通じてゆっくりと魔力を流してやる
「いくぞっ」
ゴォウウウウウウッ
マリアの腕の前から炎が出てシルバー達を燃やしていく。その後は直接炎をシルバー達に出して行った。
マリアが赤く染まっているから火魔法を使えているようだ。シルバー達の身体を燃やして天に送ってあげたいとの気持ちが魔法を発動させているのだろう。俺はマリアを
「お馬の親子は・・・なかよし・・・・ぽっくり・・・」
マリアはシルバー達を泣きながらも歌を歌ってやっていた。ダンも涙を溜めて炎の魔剣を振ってやっている。
サヨナラ、シルバー。クロス。
俺は泣きながらも燃えているシルバーは旨そうな匂いがするなと思ってしまい、自己嫌悪に陥ったのであった。
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