第655話 マルグリットのお礼

「ジョン、起きろジョンっ。屋敷に帰って来たぞっ」


「え・・・ あ、うん・・・ はっ!スライムはっ? スライムはどうしたっ?」


「もう終わって帰って来たぞ」


「俺は倒せなかったのか・・・」


俺は大怪我をした時にしか助っ人に入らないと言ってあったので、負けて連れて帰って来られたと勘違いしてるな。


「ちゃんと倒したよ。ほら、あれがジョンの成果だ」


大きな金塊が2つとプラチナが1つ。


「まさかゲイルが倒して気を使ってくれたんじゃ・・・」


「ジョンがやった痕跡がここに有るだろ? ちゃんと急所を貫いて倒したよ。その後に魔力切れで倒れたから連れて帰って来たんだよ」


「本当に俺が・・・」


「見事だったよ。但し、戦いの中で魔力切れでぶっ倒れたのは失格だ。俺が救出しなかったら死んでたからな」


「面目無い」


「でも報酬は報酬だ。自分の力で得たものだから胸を張って活用すればいいよ。このままだと使いにくいからインゴットにしてやろうか?」


「いや、このままでいい。マルグリッドを呼んで来るっ!」


元気になったジョンは部屋を飛び出てマルグリッドを呼びに行った。



「ほら、見てくれっ! 魔物を狩ってこれを手に入れたんだっ」


興奮しながらマルグリッドに純金とプラチナの塊を見せるジョン。


「まぁっ! 凄いですわっ」


「これを家の資産に入れて活用してくれっ。もうマルグリッドが稼ぐ必要ないだろ?」


「そうですわね」


ニッコリそう返事したマルグリッドは曖昧な返事をした。


晩飯をご馳走になり、何度も乾杯をした俺達3人。ジョンのこんなはしゃぎっぷりは久しぶりに見るな。


ジョンは嬉しくて飲み過ぎ寝てしまった。


泊まっていってくれと言われたのでもう少しマルグリッドと話をする。



「ゲイル、あれはなんなのです? あんな金塊見たことがありませんわ」


「あれは魔物を倒した素材なんだよ」


絶対に秘密ねと言ってゴールデンスライムの事を話した。


「そんな魔物がいますの?」


「あぁ、俺も驚いた。恐らく無限に出現するからな」


「そんな場所が他の人にバレたら・・・」


「まず船ではいけないし、万が一上陸出来ても倒せる奴なんていないと思うよ。俺の知ってる限りじゃ父さんとダンぐらいじゃないかな」


「それをジョンが倒したのかしら?」


「毎日戦って研究して、最後は一瞬の攻撃の為に全魔力と体力を使って倒したんだ。まぁ、何度でも出来るもんじゃないね」


「ゲイルは倒せますの?」


「俺は特殊な魔法が使えるからね」


「では金をバンバンと・・・」


「いや、ダンの領地開発と運営に必要な分だけ確保しただけ。金は希少だから価値が高いからね。いくらでも取れると分かったら価値がなくなるだろ?」


「そうですわね」


「だからこの話は内緒だよ。あれどうする? インゴットに加工してやろうか? 塊のままあると不自然だろ?」


「あのドラゴン金貨はゲイルが作ったものなのかしら?」


「そうだよ。でもあれはウエストランドに編入するまでの特殊な事情があって作ったものだからね。あれに加工するのはダメだよ」


「あのドラゴンをデザインしたのは誰ですの?」


「紋章屋のロンだよ。魔女っ娘を描いてるやつ」


「ふふっ、わかりましたわ。ありがとうゲイル」


チュッとほっぺにお礼のキスをされてしまった。ジョン起きてねぇだろうな?


じゃ、お休みと部屋に戻ろうとするとマルグリッドに質問される。


「シルフィードとはどうなってますの?」


「あのままだよ。何も変わってないかな」


「結婚しませんの?」


「シルフィの事は好きだけど、俺は誰とも結婚する気はないからね。本人にもそう伝えてるけど本当に良いのかなとは思ってる」


「その・・・」


「なに?」


「よ、夜の方はどうされてますの?」


「ははっ、それはまぁそれなりに」


「あら、そうなの」


「そうなの」


こんな事を言わせんなよっ。


「お礼は何がいいかしら?」


「もう貰ったよ」


と、ほっぺたを指差しておいた。


取りあえずインゴットにするかはジョンと話してから決めるとの事なので、俺の次の休みの日にもう一度来ることになった。晩飯を一緒にとのことだったので、5日後の夕方にと約束をする。


慣れない部屋で寝付けなかった俺は自分でトントンして爆睡したようで少しお寝坊した。ジョンは俺が寝ている間に出勤し、上機嫌のマルグリッドと二人で朝食を食べた。


マルグリッドのこの様子は昨夜ジョンのエイプが復活したんだろうな・・・



開発地に戻ってドワンにジョンがドワンの剣で見事にスライムを倒した事を伝えるとご満悦のようだった。


「何? 次の休みは釣りなしなのか?」


「お礼の晩餐会に呼ばれたからね。防波堤で釣ったら?」


「あまり釣れんじゃろ?」


「じゃ、南下して夜に太刀魚でも狙らう? バター炒めや塩焼きなら自分達で出来るでしょ?」


「釣れるのか?」


「じゃあ山の調査は一旦止めて父さん達と合流しようか? それでポイント探しを兼ねて南下しよう」


鉱山の調査も着々と進んでいる。鉄はもちろん俺のしらない鉱石とかゴロゴロでるのだ。ドワンがここは宝の山だとか喜んで調査をしてくれてる。砂金が見つかった川もあったがスルー。わざわざ金を探して掘る必要はない。そう、スライム倒した方が効率的だからな。


可哀想な砂金・・・



「おっ、ジョンの所に飯を食いにいくのか?」


「うん、ジョンもアルもちゃんとした休みが無いから休むように言っておいたよ。休みが取れるようになったらここに遊びにくるんじゃない? もっと南下したらこの時期でも泳げるし」


ついでにエイブリックとアルが揉めていることをアーノルド達に教える


「エイブリックは王を譲るとか言い出しそうね」


「あぁ、言いかねんな」


確かに。もしそうなったらドン爺の国を任せたという最後の言葉を思い出させてやろう。


バイクに乗って皆で南下していく。アイナ、危ないからウイリーとかすんなっ。


潮が当たって急に深くなっているポイントを発見。ここは良さげだ。


「今日は釣りの調査をする?」


ただの遊びだけど、調査と付けると罪悪感が無くなる。皆が賛成と言うので防波堤をかけあがりのポイントまで作っておかっパリでスタート。


おかしいな? 何にも反応がないや。居着きの魚がいなのかな? 回遊魚しかいないと当たり外れが大きいからな。


しかし、潮通しも良いし根も点在して、急深になってるからもっと魚がいてもよさそうなのに。


「あっ、なんか大きいのが跳ねたっ」


おっ、回遊来たか?


ザッパっと飛んだのはイルカだった。


あー、なるほど。条件が調い過ぎるとヤツがくるんだな。


「今日は望み薄だわ。アイツがいると魚が釣れなくなるんだよ」


「アイツは釣れんのか?」


「賢いから無理だと思うよ。あれ魚じゃないしね」


アーノルドが食えるか? と聞くので多分と答える。クジラみたいなもんだろうけど、食うほどのものじゃないだろう。牛や豚の方が旨いからな。クジラはおでんに入ったコロとか好きだけどめちゃくちゃ高いんだよね。肉はハリハリ鍋かカツか。イルカも同じ食い方するんだろうか?


あ、今日は豚肉でハリハリ鍋するか。


夜になったら太刀魚狙いをしてみようと言って早めの晩飯はハリハリ鍋にする。こっちに来て初めてだな。


「ほう、すき焼きみたいなもんじゃな」


「味付けはほとんど同じだからね。卵付けて食う?」


皆がそうするといったので俺も卵付けよ。


〆はうどんにした。これも溶き卵で食う。


夜にライトを点けて太刀魚狙いにすると数は少ないけど、めっちゃデカいのが釣れた。リュウグウノツカイじゃないよね?


調査は終了で本番は次のお楽しみということでこいつは刺身にして酒を飲んで寝ることに。



「じゃ、明日の朝に帰ってくるよ」


「おー、ジョンに宜しく言っておいてくれ」


もう皆は太刀魚を釣りたくて仕方がないみたいで防波堤に行った。徹夜でやるからと昼過ぎに寝て充電したから元気だな。


昼間寝るためにアーノルドやアイナにトントンして寝かせるのは将来介護の予行演習かと思ったのは黙っておく。



さて、行きましょうか。


ジョンの屋敷の座標を設定して、ドアをガチャ


「え?」


「え?」


お互い顔を見合わせる。


「デーレンか?」


「あんたはゲイル・・・?」


「ひ、久しぶりだな」


「きゃぁぁぁぁぁっ! ゲイルさんのえってぃぃぃぃっ!」


ぶあっしゃーんとお湯を掛けられてしまった。


なぜにデーレンの風呂場に繋がったのだ?


デーレンかな? と確認するのに真っ裸をガン見してしまった。立派に成長されたようで何より。って、そんな事はどうでもいい。


ドアが壊れたのか?


魔力を流して魔法陣を確認して見ると異常は無い。


あれ?


しばらくなぜだ? と考えるけ分からない。


もう一度座標をジョンの屋敷に合わせてノックしてみる。返事はないのでそっと覗くとジョンの屋敷だった。


さっきのはなんだったのだ?


取りあえず部屋を出て食堂に向かう。


「ゲイル、遅かったわね。さっき来たのでしょ?」


クスクス笑うマルグリッドの横でデーレンが真っ赤な顔をして俺を睨みつけている。


「さっきなんか風呂場に繋がったんだけど?」


「座標って動かすとやっぱりそっちに繋がるのね」


マルグリッドがイタズラしたのか。なんてことをしてくれるんだ。


「このお礼は気に入って下さって?」


は?


「お礼?」


「新鮮なおかずが必要なんじゃないかと思いましたのよ」


なんてアダルティーなお礼だ。それにおかずとか言うなよ。


「デーレンがおかずになる訳がないじゃないか」


つられて俺も変な返しをしてしまう。


「どういう意味よっ。汚れの無い乙女の身体をガン見しておいて」


「いや、デーレンかな? と思って見ただけで別に・・・」


「それはそれで腹が立つわっ! ちゃんと欲情しなさいよーっ」


何を言ってるんだお前は?


「マリさん、デーレンの同意の元にイタズラしたの?」


「さぁ? デーレンもゲイルなら問題ないのでしょ? ゲイルは結婚するつもりがないみたいだから愛人ということになるのかしら?」


は?


「そそそそそそれはっ。わ、私は庶民なので、べべべべ別にそれでもっ」


嫁もおらんのになんでいきなり愛人を作らにゃならんのだ・・・




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