第654話 ジョンに殺らせる

「ゲイル、久しぶりだな。今なにやってんだ?」


「新しい場所を開発してんだよ。父さん達もベントに領地を引き継いで暇そうだから手伝ってもらってるんだ」


「へぇ」


「ぼっちゃん、また景気のいい話してんなぁ」


「景気もくそもないよ。毎日毎日働き詰めだよ」


「仕事があるってことはいいこった。ここもめちゃくちゃ豊かになったし、色んなもの増えたからなぁ」


俺は超久しぶりに子熊亭に来ていた。常連客から焼き鳥焼いてくれと言われたけど兄弟で飲みに来たからと断ったのだ。


チッチャは結婚して婿さんとここに住んでいる。それでも子熊亭は変わらない。昔ながらに居心地がいいのだ。焼き鳥も旨い。


「で、突然誘ってくれたのはなんか話があるんだろ?」


「いや、エイブリックさんに報告にいった帰りにアルの所に行ったんだよ。で、ジョンが元気ないからっていうもんだからさ、行ってみたらいないから伝言残したんだよ」


「あー、アルに心配かけてたのか。悪いことしたな」


「なんか悩みでもあるのか?」


「いや、順風満帆だぞ」


そう言ってグッと蒸留酒を煽るジョン。


「マリさんは昔から綺麗だったけど、ぐっと大人の美人になったな。久しぶりに会って驚いたわ。同僚から羨ましがられるだろ?」


裸も綺麗だったとは言えない。


「そうだ。自慢の妻だ。よく稼いでくれるしな」


稼いでくれてるとかそんな顔で言われてもなぁ。


「一週間ぐらい休み取れないか?」


「1日くらいならなんとかなるだろうけど、一週間は無理だな」


「いや、ちょっとジョンを連れて行きたい所があるんだよね。1日じゃ無理かなぁ」


「どんな所だ?」


「ファンタジーな世界だよ。俺とおやっさんしか知らない場所だ。そこをジョンに教えてやろうかと思ってな」


「おやっさんが知ってて父さん達は知らないのか?」


「というか俺とおやっさんで発見した場所だからね。ジョンの休みの事はアルに俺から言ってやるよ」


「いいよ、そんなの」


「いや、休みと言うより特訓と言った方がいいかな。ジョンも平和ボケして弱くなってんだろ?」


「ちゃんと稽古は続けてるって」


「命がけでやってるか?」


「いや、そこまではやってない・・・ かな。ゲイルのお陰でどこも平和だしな。だからこうして夜は自由だ。ナルディックさんとかはずっと大公爵様と一緒だったからな」


ナルディックはドン爺の死後、現役護衛は引退し、後輩育成をやっているらしい。


「俺が連れて行きたいところはめちゃくちゃ強い魔物がいてな。倒すと報酬もデカいんだ。ジョンだと倒せないかもしれんけどな」


俺からジョンに倒せないと言われてカチンときたようだ。


「そんなにデカい魔物なのか?」


「いや大きさはこれぐらいだ。但しめちゃくちゃ硬い。俺の土魔法の玉も効かないし、ファイアボールも効かない」


「そんなに強いのか? なんて魔物だ?」


「スライムだよ」


「は?」


「めちゃくちゃ強いスライム。まぁやってみれば分かるよ。良い特訓になるんじゃないか?」


「確かにそんな強いスライムがいるとは信じられんな・・・」


「だろ? だから休み取れって」


「一応聞いてみるわ。アルとミグルは連れていくのか?」


「秘密の場所だからダメ。ジョンも絶対に誰にも言うなよ」


「あぁ、分かった」


そんなに長い間話はせずにお開きに。たまには早く帰れとジョンに言うと渋るのでマンドリンパレスで飲み直して帰った。


翌日の夜に再び訪問し、屋敷の中で3人で飲みながら話す。


「ゲイル、私も行っていいかしら?」


「そこの魔物はめちゃくちゃ強いからダメだよ。新しい開発場所はそのうち招待するよ」


「扉からすぐに行けますの?」


「あぁ、そうだよ。すぐに行けるしすぐに帰って来れる」


「じゃ、この屋敷にも座標というのを設置なさいよ。そうすればこうやってすぐに来てくれるのでしょ?」


「いきなり来たら嫌でしょ?」


「ゲイルの部屋を一つ用意致しますわ。あそこのお屋敷はフンボルトに差し上げたのでしょ?」


「まだ部屋はあるけど確かにもうフンボルトの屋敷と言ってもおかしくないね」


「なら、ここの部屋を自分の部屋になさいな。無駄に広いから部屋は余ってますわ」


無駄に広くするから維持費がとんでもないことになるんだろ? とは言わない。スカーレット家の見栄があるからな。


マルグリッドがこの部屋にどうぞと案内してくれたのはめちゃくちゃ良い部屋だった。


「座標を置くだけだから物置みたいなところでいいよ。部屋に住むわけじゃないし」


「いいえ、私もずっとお世話になったのですからお返しですわ。ずっとお好きに使って下さいまし」


コソッとビトーもジョンもそうしてくれと言う。デカいダブルベッドが二つ。バストイレ、キッチン付きのスイートルームみたいな部屋だ。


もしかしたら俺の屋敷にずっと居候をしていた借りを返したいのかな? と思って好意を受けることに。


「ゲイル、これが座標ですの?」


「そうだよ。これを置いておいて指定して行きたい所に行くんだよ」


へぇとマルグリッドは興味深そうに見ていた。


アルは明後日から1週間の休みを許可した。俺がジョンを特訓すると聞いたからだ。ちなみにアルとエイブリックはめっちゃ喧嘩しているらしい。



一旦開発地に戻ってシルフィードとドワンにジョンと特訓に行く旨を報告。アーノルド達には秘密だ。絶対に行きたがるからな。


「坊主が倒すのか?」


「いやジョンに任せるよ」


「無理じゃろ?」


「おやっさんの作った剣とジョンの一撃必殺が決まったらいけるような気がするんだよね」


俺がそういうとドワンは少し嬉しそうな顔をした。


「もしそれで剣が折れても怒らないであげてね」


「そんなヤワには打っとらん」


ということでジョンを連れてファンタジー島に行くことに。座標は魔力スポットのそばに置いてあるからドアで行くのは危険。飛行機で飛んで行くことに。


「おぉ、気持ちがいいな」


「ジョン達は自由な時間が取れないからなかなか誘ってやれないんだよ。ちゃんと休みが取れるならあちこち連れて行けるよ」


「そうか・・・」


「マリさんともどこにも出掛けてないだろ? ちゃんと休み貰ってどっかに出掛けたりする方がいいぞ」


「アルも休みが無ないからな」


「じゃあ、アルも休むように言っておけよ。俺が休んだら・・・ とか思うのは幻想だ。休んだら休んだで誰かがなんとかするもんだよ」


「そんなもんか?」


「そんなもん」


ブラックな環境が当然になってしまうと休むのが不安になるのだ。休んだら休んだでなんとかなる。というかなんとかなる体制を作っていかなければならんのだ。


「あの島だ。海流の加減で船だとまず上陸出来ないからこうやって空から行くしかないんだよ。今からそっと上陸をする。相手はめちゃくちゃ硬い上に高速でファイアボールを撃ってくるからな」


「ゲイルは倒せたんだよな?」


「魔法でだけどね。剣ではやったことがない。多分俺の腕では倒せないかもしれない。アルでも無理だろうな。ジョンの一撃必殺が急所に決まったら倒せるんじゃないかと思ってる。勘だけどな。タイムリミットはこの休みの間。俺はジョンが重症を負った時以外に助っ人に入らないからそのつもりで」


「分かった」


「飯と水は提供してやるからな」


そしてそっと島に近付き上陸した。


(あれだ)

(なんだあのスライムは?)

(ゴールデンスライム。倒すとあれが純金になる。スッゲェお宝だろ?)

(は? 純金になる? ・・・お前まさかその為に・・・)

(しっかり稼いでこいよっ!)


フフッと笑ってジョンは飛び出して行った。


スライムもジョンに気付き、ノッソノッソした動きから素早く戦闘体制に入り、高速でファイアボールを撃ってくる。


それを避けたり斬ったりしながら応戦するジョン。今のところ防戦一方だな。時折、ギィンッと剣の当たる音がするが効いてない。手打ちの当てる事を重視した剣に意味はないのだ。


俺はジョンの戦い方をビデオで撮影をする。飯の時に反省会をしよう。タイムリミットがあるから効率よくやらないと倒せないかもしれないなからな。


初日はジョンの負け。ぼろぼろになっただけだった。


近くの島で夜営。ここに座標を置いて皆の所に行って飯を食おうか? と行ったら緊張感を保ちたいとの事で野営をすることに。ここは冬でも温暖だから寒くはない。


ビデオを見ながらゴールデンスライムの動きや攻撃の癖を確認していくジョン。戦いながらしかわからないこともあるし、こうやって客観的にみないとわからないこともある。


ジョンは遅くまで何度も何度もビデオを見ていた。


2日目、確認した動きや攻撃の癖が本当にパターン化されているか試すように昨日と同じように攻撃をするジョン。今日は倒す気がなさそうだな。


また夜遅くまでビデオを確認。


3日目、今日はジョンが押している。しかし倒せる様子はない。その夜、ビデオを確認していたジョンが何かを見つけたようだ。


「ゲイルこれを見てくれ」


ゲイルがビデオを早回してその場面でスローにしてホラと言う。


「本当だ、特定の場所を隠すように動くね」


「そこが急所なんじゃないかと思う。明日は倒しにいくぞ」


4日目、ジョンはフェイントを織り混ぜ、急所を目掛けて攻撃を放つ。


ゴインッ


何時もの剣が当たった時と違う鈍い音が響いた。


よしっ!


ざっっ


あっ!ゴールデンスライムはとんでもな速さで逃げて行った。


「くそーーーーっ!」


大声を上げて悔しがるジョン。その後、ゴールデンスライムは現れなかった。スポットに連れて行くのは危険なので明日リベンジすることに。体力回復も立派な作戦だ。


こんな早い時間から眠れるかと言うのでトントンしてやった。毎晩遅かったからな。今日は寝ろ。


5日目、またもや逃げられたので、島の中にジョンはゴールデンスライムを探しに行ったので俺は上空から様子を見ておく。


いた。草むらで休んでいるスライムを発見したジョンは気配を消して忍びよる。


すっと急所を斬るジョン。


ゴインっ


スザザザザッ


あっという間に逃げられてしまった。これクリティカルヒットを急所に当てないと倒せないな。



最終日。


「ゲイル、もっと数がいるところはないのか?」


「あるけど、死ぬほどいるから危ないよ。ゴールデンスライムだけじゃないし」


「何っ?」


「プラチナやシルバーのもいるんだよ。癖も急所も違う可能性があるからね」


「構わん。ここまで来て収穫なしに帰れんからな。ゲイルは俺とマルグリッドの状態を聞いてここに連れて来てくれたんだろ?」


「まあね。余計なお世話かなと思ったんだけど、真面目なジョンの事だからこういう解決方法しか思い付かなかったんだよ。俺が純金のインゴットあげても受け取らないだろ?」


「本当に良く出来た弟だ。不甲斐ない兄ですまない。心遣いを感謝する。必ず倒すからそこに連れて行ってくれ」


「分かった」


覚悟してねと言ってドアを開けるとスライムのモンスターハウスだ。


「頑張って」


と叫んで俺は飛行機を出して急上昇する。


ギィンッ ギィンッ ギィンッ


ジョンはスライムが多過ぎて急所を狙えない。急所に当たらないからスライムも逃げない。ヤバいなこれ・・・


ジョンは攻撃をやめて避けることに専念しながら、身体をどんどん強化していく。まるで光の玉みたいになっていくジョン。


「デェェェェェッイ!」


火の玉のように輝いたジョンはゴールデンスライムの急所を突いて倒し、後ろのスライムも同じく一撃。白金スライムを倒した所で力尽きた。魔力切れだ。


慌てて急降下し、錬金魔法で残りを倒す。まためちゃくちゃ金銀白金が手に入ってしまった。


ジョンが倒したのは剣の跡が残ってるのでちゃんと区別が出来る。


全部魔導バッグに入れてスライムがリポップして来る前に離脱。ケロッピのジョンにクリーン魔法を掛けて魔力を補充してやるも目を覚まさない。


鑑定すると疲労と出た。回復魔法を掛けて起こそうと背中をトントンと叩いた。


グガーっ!



あ、寝かせてしまった・・・ 使い所難しいなこのトントン。


仕方がないので野営ポイントに降り、ジョンを担いでジョンの屋敷の座標を設定してドアを開けて帰ったのであった。




















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