第652話 イカ三昧

「おぉー、イカってこんなに簡単に釣れるのか」


アーノルドは5個のスッテに全部イカを乗せて大喜びだ。


「アーノルド、数より大きさよっ」


アイナは大型のケンサキイカを釣っていた。


俺たちはドワンに作ってもらった宙に浮く船でイカ釣りを楽しんでいる。波に揺られることもないし快適そのものだ。


俺は釣れ過ぎるイカに飽きてイケスの中のスルメイカとケンサキイカの選別をせっせとしている。


「ゲイル、これはどうやって見分けるの?」


「ここのエンペラっていう所の形が違うんだよ。▲になってるのがスルメで◆になってるのがケンサキ。口の所は触るなよ。指を噛み千切られるからな」


「よく似てるけど、分ける必要あるの?」


「味が違うし、胆の大きさとかも違うしね。帰ったら食べ比べしてみると解るよ」


船のイケスに入れて生かしておく。スルメは攻撃性が強いのであまりたくさん入れるとお互いに喧嘩するから、途中から胆を取って開き干していく。ケンサキの一部は沖漬けのタレにぽいぽいっと。


「生きたままタレに漬けるの?」


「可哀想だけど食べたら解るよ」


ドワンももういいじゃろと言うので陸地に戻る。


スルメの身は全部スルメにして、胆にはクリーン魔法を掛けて寄生虫を除去。


「どうやって食うんじゃ?」


「スルメの胆とケンサキの身を焼いたごろ焼き、沖漬けの刺身、天ぷら、バター炒めとかなんでも出来るよ」


「スルメイカは刺身で食べないの?」


「じゃあ食べ比べもするか」


ダンとミケ達、ミーシャ夫妻と子供達、めぐみとゼウちゃんとラムザを召喚。浜辺で波の音を聞きながらイカづくしの始まり。


ミーシャとミケに子供の面倒は自分で見ろと言っておく。やることがたくさんあってかまえないからだ。


まずは刺身の食べ比べ。


「どっちがどっちと教えないから旨いと思った方を選んで」


皆はどっちも旨いという。


あれ?


「あっ、こっちの方が美味しい・・・」


「どっちも美味しいけど、私もこっち♪」


シルフィード、めぐみ正解だ。


「スルメの方は若干生臭いだろ? さっきまで生きてたからそこまで差はでないけど、甘味を増すために寝かせたらその差は大きくなるからね。これだけ数がいるから、ケンサキをメインに料理するよ。スルメイカはスルメにしたらいつでも酒のアテに出来るし」


次は沖漬けの刺身だ。


「うぉっ、これは日本酒に合うのぅ」


「身の中までタレが入ってる」


めぐみもルンルン♪ で食ってる。


次はごろ焼き。


「ゲイル、旨いっ。魂より旨いぞ」


ラムザの好きそうな味だからな。



で、こいつをアレンジしてやる。


沖漬けの身をごろ焼きにしてニンニクバターを投入だ。


「ぶちょー、美味しいっ♪」


子供達にはあまり喜ばれなかったので、シンプルにバター炒めと天ぷらにしてやる。


「ゲイル、膝の上で食べていい?」


ドゥーンとテディは親が面倒をみているのでチルチルが甘えにくる。


「チルチルだけズルいー。マリアもー」


「マリア、父さんの膝においで」


「いやーパパきらーい」


しくしく泣くザック。


チルチルはもう大きいので膝に乗せるとマリアは乗せれない。さてどうしようか。


「マリア、私の膝に乗せてあげる」


ということでチルチルが俺の膝にのり、その上にマリアが乗った。二人の重みがずっしりとのし掛かる。といっても知れてるが。


右手でマリアに食べさせ、左手でチルチルに食べさせる。俺も器用になったものだ。


それぞれの料理の仕方を教えて後は自分でやって貰うことに。


二人ともお腹いっぱいになったみたいなので膝から下ろして寝かせた。毛布でぬくぬくにしてやると気持ち良さそうだ。ドゥーンもテディも同じように寝かせて大人タイムの始まりだ。



まず熱々ご飯に卵の白身だけを入れてシャカシャカかき混ぜる。これでフワフワご飯の出来上がり。そこにケンサキイカの細造りをわんさか乗せて卵の黄身をON。出汁醤油を掛けて解凍したイクラをちらしてわさびをちょんと乗せたら完成だ。


卵の黄身を割ると透明なイカの身にトロっと掛かりワサビの緑とイクラの赤が映える。実に旨そうだ。いや旨そうなのではない旨いのだ。見ただけで分かる、旨いやつやん!


「ゲイル、それなんなん?」


「イカ丼」


「ウチにも一口頂戴っ」


「おまえこの前もうイクラ見るのも嫌やって言ってたじゃん」


「もう別腹や」


旦那がいるのに大きく口をアーンするミケ。ダンも苦笑いだ。


一口と言ってもミケの一口はデカいのだ。丼ごと渡すとすべていかれてしまうだろう。箸で食べさせると足らないとなり、もっともっととなるに決まっているので、レンゲにミニイカ丼みたいにして食べさせた。


「うわっ、全部知ってる味やのにぜんぜん違うわっ 当たりや!」


引き続き口を開けるのでダンに作り方を教えてあとは任せる。


「ゲイル、私にも」


アーンするシルフィードの口にも入れてやるとめぐみがちょこんと俺の膝に乗ってくる。


「ここに座ってたら食べさせてもらえるのよね? アーン」


お前ら・・・


子供が寝たのに何も状況が変わらない。めぐみの口にも入れてやるとこっちに振り向いて美味しいね♪ だってよ。


右手でめぐみ、左手でシルフィードに食べさせる。


「何をやってるんだあいつは?」


アーノルドは呆れている。


「アーノルド、ハイ、アーン」


アイナにアーンされるアーノルドに呆れた目で見返してやった。


ちっとも自分が食べられないのでめぐみをひょいと膝から下ろし、希望者を聞いて同じ事を物を作っていく。


こらっ、ラムザっ 首に手を回して横向きに乗ってくるな。恥ずかしいだろっ


「なぜ食べさせてくれんのだ?」


「俺も食いたいんだよっ。ラムザが好きそうなのを作ってやるから」


めぐみと違ってラムザは重みがあるから生々しいのだ。


鉄板に薄力粉を出汁で溶いて乗せる。イカの短冊にぺぺっと薄力粉を振りかけて卵をその上に乗せて取手の付いた鉄板でジュッとプレス。これにソースを塗るだけでもいいんだけど、ごろ焼きを包んでやった。


「ラムザの好きそうな味だから食ってみろ」


そのまま手掴みで行くラムザ。


「おぉ、旨いぞっ」


「じゃ、おやっさん後は宜しくね」


某百貨店の地下名物イカ焼きはドワンに任せる。


ぶちょー、私にも作って♪ とめぐみも言うのでドワンの所で食ってこいと答えた。取手付き鉄板はドワンの元にあるのだ。


ふー、やれやれやっと食える。


シルフィードが焼酎の水割りを作ってくれた。


「レモンかなんか入れる?」


「いや、何にも入ってない方がいいから。ありがとう」


我ながら特製イカ丼旨いなぁ。


「ゲイル、どうして卵の白身だけ先にご飯に混ぜたの?」


「別に全卵を溶いて掛けてもいいけど、この方がイカの味も薄まらないし、見た目も綺麗だろ?」


「なるほどっ。ちゃんと理由があるんだね」


「同じ物でも組み合わせ方で味が変わってくるからね」


この前シルフィードを寝かせて置いていってからめぐみに焼きもちを焼かなくなった。まぁ、さっきみたいにめぐみが膝に乗ったりした時は見ないようにしているみたいだけど。置いて行った時にダン達になんか言われたのかもしれないな。


「ねーねー、ぶちょーが焼いてみてっ」


めぐみがドワンから鉄板を取り上げて持ってきた。


「おやっさんが焼いてくれてただろ?」


「んー、でもちょっとやってみて」


ハイハイと焼いてやる。


「うん、ぶちょーが作ってくれた方が好き♪」


ドワンは苦笑いだ。


めぐみにあと何枚食うか聞いてその分を焼いて、鉄板をドワンに返してこいとめぐみに言い付ける。


「材料同じなのに差なんてないだろが?」


「なんかちょっと違うのよねぇ」


鉄板プレスは誰がやっても同じ味だと思うがね。


「でね、食べさせて貰うともっと美味しいのっ♪」


とまた膝に乗るのでひょいと横に下ろす。


「ケチッ」


「俺はゆっくり飲みたいんだよ」


「じゃ私も飲もうっと♪」


おいっ、焼いたイカ焼き食えよっ。



もう俺もお腹が満足したので、イカ焼きはいらない。と思ってたらミーシャが、では私がと持って行った。ミーシャ、その腹3人目いないよね?


何もアテがないのも寂しいので、イクラに大根おろしを掛けてアテにする。


おっさん連中とゼウちゃんが同じものを希望したので、アーノルドに大根おろしは任せた。俺は飲みたいのだ。


「ゲイル、これも美味しいね♪」


シルフィードはめぐみと同じように嬉しそうにそれを食う。うん、こうやって皆が楽しく食ってくれるのは大歓迎だ。


さ、明日の朝は塩をしておいた胆とケンサキの身で塩辛作りましょうかね。ドワンやラムザが好きだろうからな。


自分は塩辛はあまり好きではないが喜んで食う人の為にゲイルは翌早朝から塩辛をせっせと作るのであった。






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