第650話 ガッデェェェム

グリムナとバンデスに移住の希望があるか聞いてみた。両者とも俺が作る所ならと興味を示し、開発が進みだしたら移住するとのことだった。



「父さん、晩飯を食いに戻る?」


「いや、夕陽が綺麗だからここで食っていこう。夜の魔物も調べんとな」


この辺りは比較的魔物も少なく、魔力スポットも見つけられなかった。魔物は山側から沸いて来てるんじゃないかということで夜に散策して、翌朝から山側にかけて一緒に調査することになった。



ヒソヒソ


(なぁ、ゲイル帰って来ぇへんな・・・)

(ぼっちゃん達になんかあったとは思えねぇからな・・・)


シルフィードはゲイルが帰って来たらちゃんと謝ろうと思っていたのにもう3日も帰って来ない。いつもは戻って来るのはだいたいこれぐらいになると誰かに予定を伝えて行くのに、今回は何も言わずに行ったらしい。


嫌われちゃったのかな・・・



アーノルドはせっかくだからと魔道バッグの肉ではなく、狩った獲物を食べようと言うのでそうしている。こんなのは久しぶりだ。次に来る時はダンも誘うか。


日々魔物討伐をしながら山側へ進んでいく。飛行機ならあっという間でも自力で森を進むと時間がかかる。ディノスレイヤ付近と変わらない魔物や魔獣を倒しては食べて調査を続けた。


「この辺じゃねーか?」


「そうだね。魔物が多いや」


3人でバンバン魔物を倒すとポップアップする場所を発見。デカい魔石を作って魔力を空にしてそこに置いておいた。


「こういうのがいくつもあるんだろうな。今回はこれくらいにするか」


もう1週間くらい同じ事を続けてたのでここに座標を置いてディノスレイヤ領にアーノルド達を送ってからドラゴンシティに戻った。



「ゲイルっ! ごめんなさいっ」


帰るなりシルフィードが泣いて抱きついて来た。


「ど、どうしたの?」


俺がシルフィードを置いて行って帰って来ないからシルフィードに愛想を尽かしたんじゃないかと思っていたようだ。


ドワンからお灸を据えるにしても長過ぎじゃと怒られてしまった。


「ごめん、父さん達と魔物の調査をしてたんだよ。昼と夜で違う魔物が出るかもしれないから夜営しながらね。ごめん予定を言ってなくて」


嫌われたんじゃないと分かったシルフィードはようやく泣き止んだ。


悪いことしちゃったな。


涙を拭いて鼻をチンしてやる。


「次は少し南下して同じ調査するけどダンも来る?」


ゲイルは昔みたいに魔物を倒して食べてをしたことでスッキリして、出ていく時の面倒臭そうな雰囲気が消えていた。


「なんか珍しいのはいたのか?」


「いや、住むところを作るつもりのところはディノスレイヤ領近辺と変わらないよ。獲物もほら」


鹿肉を丸々持って帰ってたのをみせる。


「おっ、鹿肉か。昔はこればっかりだったけど久しぶりだな」


「今日はこれを食う? 丸焼きとかしてみてもいかも」


「丸焼きは時間掛かるんじゃねーか?」


それもそうか。でもなんか塊にかぶり付きたい気もするので、大ぶりに切ってワイルドにそれぞれかぶりつく事にした。


スパイスとニンニクや塩を擦り込んで味付け。炭火で塊をぐるぐる回しながら焼いていくといい匂いだ。


「坊主、ミーシャや女神様と魔王様も呼んでやらんか。全部焼いたら食いきれんじゃろ?」


調子に乗って全部焼いてるからな。


でもなぁ、またあんな雰囲気になるのは・・・


チラッとシルフィードを見るとご機嫌でご飯を炊いていた。


「ゲイル大丈夫やと思うで。お供えするより食べに来てもうた方がええんやろ?」


「そりゃそうだけどね」


「坊主、さっさと呼ばんかっ」


ドワンはゼウちゃんとラムザに会いたいのか。仕方がない。


まずミーシャに鹿肉食うかと聞くとすぐに来ようとするのでザックも連れて来させた。子供の面倒を二人で見てくれ。あの雰囲気は子供の教育上宜しくない。


ラムザを呼んでドワンに任せ、めぐみを呼ぶ。


さ、皆の面倒をと思ったらダンとミケはテディとチルチルを。ミーシャとザックとシルフィードはマリアとドゥーンの面倒をみるらしい。


ゼウちゃんはドワンの所に行き、めぐみは俺の隣に座った。


あれ?


マリアとチルチルは俺の所に来たそうにしていたががっちりキープされていた。


取りあえず乾杯して好きな部位を選んで食べる。俺はヒレだ。


「ねーねー、ぶちょー、これはどこが美味しいの?」


「好みだな。柔らかいのがいいなら、俺と同じところ。脂分は少ないからあっさりだな。脂っこいこってり系ならあばら骨の所だ。肉々しいのが良ければモモを選べ」


「じゃ、ぶちょーと同じところ♪」


ハイハイと選んで取ってやる。


「んー、なんか思ってたのとちがーう」


「それ選んだんだからちゃんと食えよ」


俺はまず塩コショウがっつりのをエールで食っていた。


「ねーねー、もっと美味しくならないの?」


しょうがないので、ガーリックバター醤油ソースを作ってやる。


「ほれ、これ付けて食べろ」


言われた通りにちょいちょいと付けて食べるめぐみ。


「んーーっ! 美味しい♪」


満面の笑顔で食うめぐみ。ガーリックバター醤油はなんでも旨くする魔法の味付けなのだ。


もりもり嬉しそうに食うめぐみを見て俺も同じようにして食う。うん、塩コショウも良いけどガーリックバター醤油は正義だ。


(やっとゲイル笑ろたな)

(そうだな。たまにはゆっくり食わしてやろうや)

(ゲイルの所に行きたい・・・)

(ダメだ。今日は俺達と食え)


チルチルはダンにむんずと捕まれていた。


「ぼっちゃまの所にいくのーっ」


「今日はお父さんもいるでしょっ」


「パパきらーい」


「マッ マリア・・・」


ん? ザックの奴は何を泣いてんだ?


「ねー、ぶちょーあばらの所は美味しいの?」


「これはバーベキューソースを塗ってあるから、こう切ってな、骨持ってかぶり付け」


「じゃ切って♪」


ハイハイ。


何本か切り分けてめぐみに渡して俺も食う。今日はシルフィードはドゥーンの面倒をみててこっちに張り合いに来ないな?


「ぶひょー ほれもおひいね♪」


食ってからしゃべれ。しかし、こいつ本当に嬉しそうに食うな。


・・・

・・・・・


「・・・なぁ、めぐみ」


「なーに?」


「なんで俺の好みの姿になったんだ?」


「え? なんでって・・・」


・・・

・・・・

・・・・・


「そんなの決まってるじゃない・・・」


ドキッ


めぐみは俺を見つめて真面目な顔をする。


・・・

・・・・

・・・・・


「好みの姿になったらなんでも言うこと聞いてくれるようになるからに決まってるじゃない♪ どゆあんだすたん?」


・・・

・・・・

・・・・・


ワナワナワナワナワナ・・・


「めぐみっ! てめぇ・・・」


「ちょっとおーっ。何怒ってんのよーっ」


「そこに正座しろっーーー!」


そうだ。こいつはこういうやつだったんだ。俺は何をドキドキしたんだバカ野郎!見てくれが可愛くてもめぐみはめぐみだ。のーたりんのアホ神じゃねーかっ


ガーーーーーーーッ



「なんじゃなんじゃ?坊主がめちゃくちゃ怒り出したぞ?」


「どっ、どうしたぼっちゃん?」



グリリリリリッ


「痛っぁーーーっ! なんで骨をほっぺたにグリグリすんのよっ!」


ベシベシベシベシッ


食べた骨を投げて反撃するめぐみ。


ゲイルとめぐみはしばらくそうやってバトったのであった。


「ミ、ミケさん。わ、私のせいかな?」


「今回はちゃうやろ。神さんがなんか言うてゲイルを怒らしたんちゃうか?」


「でもめぐみさんも反撃してるよ・・・」


「しっ! あんま見んな。瘴気の森でもあんな感じで揉めてたからな。見たらバチ当たるぞっ」



めぐみはゲイルに骨バトルに負け、日本語で説教を食らっていた。


「ゼウ様、坊主は何を怒ってるんじゃ?」


「あれはめぐみが悪いわ。後で私も叱っておくわ」


ゼウちゃんにはゲイルとめぐみの会話が聞こえていた。



あーあ、めぐみもちゃんと言えば良いのに。あんな言い方したらゲイルくんが怒るのも無理無いわね・・・


ゼウちゃんはゲイルに説教を食らってるめぐみをやれやれと見ていた。






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