第649話 ダンのせいだった
アーノルド達を送りがてら獣人達に移住する気があるか聞く事に。
シルフィードは起きなかったのでダンに任せ、ドワンには釣り船の作成を頼んだ。釣り船といっても漁船ではない。浮遊式釣り船だ。海に浮かべるのではなく宙に浮くのだ。どんな荒浪でも揺れない夢のシステム。シーアンカーを使えばバッチリなはず。
船底は平らで問題ないから簡単に出来るだろう。俺は時間を作って
アーノルドとアイナも暇だと言うので小屋まで付いてきた。
森の中に入り声を出しながら獣人達を探すとすぐに出てきた。
「人数が増えてここも手狭になるだろ? 新天地に移住する気はあるか?」
「どんな所ですか?」
「誰も人の居ないところ。これから開発して全部俺の土地にするつもりなんだけどめちゃくちゃ広いんだよ。南北に広がってるから気候も選べるよ。後はこれからどれぐらいの強さの魔物がいるか調査するつもりなんだけど」
「誰も住んでないのですか?」
「今はね。そのうち様々な人種が住むかもしれないけど、悪い奴は弾くから安全だとは思う。強い魔物がたくさんいるなら駆除するけどね」
先住の魔物には悪いけど共存出来ないようなら排除しよう。そうこの世界は奪ったもの勝ちなのだ。
「安全なら是非お願いします」
「ゲイルもそこに住むつもりなのか?」
「んー、多分。全部一から作れるし、国も関係ないから自分の好きに作れるでしょ?」
「自分の国を作るのか?」
「まぁ、そんな感じかな。ディノスレイヤ領の国版みたいな感じかな」
「もしかしてエルフやドワーフも呼び込むつもりか?」
「向こうが希望するならね。ほら特にエルフの国はずっと結界張っててグローナさん達動こうとしないじゃない? 襲撃の心配が無いところならそんな事しないで済むし」
どんな所か連れて行けというのでアーノルドとアイナを連れて行った。
「山の向こうはこんな所だったのか・・・」
ドアで移動してから飛行機で飛んで回る。
「海も陸も南から北まで続いてるんだよ。ディノスレイヤ領側とは山脈で隔離されてるから、誰もここまでたどり着けないだろ? 魔物をなんとかしたら安全で何でも手に入る場所になりそうなんだよね」
「ウエストランドに根付いてる奴等はどうすんだ? 置いて行くのか?」
「知り合いはドアで行き来すれば問題ないから来たいときに来ればいいんじゃない?」
「なるほどな・・・」
「アーノルド、私達もここに移住しましょ。もう好き勝手してもいいと思うのよね」
「そうだな。領はベントに引き継いだしな。ここには見たこともない魔物とかいるかもしれんし」
「多分父さん達はそういうと思ったよ。俺は住むのに適した場所をこれから数年掛けて開発しようと思うんだけど、魔物の調査と魔物スポットを探してくれないかな?」
「おぉ、良いぞ。その役引き受けた」
「住めそうな事を確認出来たらグリムナさんとバンデスさんに声を掛けてみるよ。ただ・・・」
「ただなんだ?」
「この地形は恐らく100年とかの単位だとは思うんだけど地震と津波の危険が付きまとうと思う」
それはなんだ? と聞かれたので地震が発生する仕組みと津波がどういう物か説明する。
「するとその津波が来たら何もかも飲み込まれる可能性があるのか?」
「そこまで大きいのは千年に1回とかかもしれないけどね、その危険はあると思う」
「そんな所に住んで大丈夫なのか?」
「まぁ、対策と教育はするよ」
耐震・免震の建築、津波が来た時の避難場所としての高台作りとか必須だろな。アイデアはあるけどそれには膨大な魔力が必要になる。魔力スポットの他にあの滝とか利用すればなんとかなるかもしれない。
「ゲイルは? ゲイルはどこに行ったの?」
ゲイルがアーノルド達とディノスレイヤ領に行った後すぐに目を覚ましたシルフィード。
「ぼっちゃんはアーノルド様達とディノスレイヤ領に行ったよ」
「何で私を置いてったのっ」
「うっとおしかったからちゃう?」
ズバッと言うミケ。
「えっ?」
「多少の焼きもちは可愛いけどな、度が過ぎるとうっとおしぃんやと思うで」
「こらっ、ミケっ」
「そやけどちゃんと言うといたらなゲイルはシルフィードと距離置くようになんのちゃうん? 現にシルフィードを寝かして置いてったやん」
「そ、そんな・・・ 私がうっとおしい・・・」
感受性が高いミケはゲイルの心理を見事に見抜いていた。
「よう考えてみ、昔はミーシャ、今は神さん相手にずっと焼きもち焼いてるやろ? 皆が楽しい食べて飲んでる時にあんな態度されてたらゲイルはしんどいんちゃうか?いっこも楽しそうに食べてへんやん」
「だって・・・ それはミーシャちゃんやミケさんが子守りを押し付けてるから・・・」
「それはウチも悪かったけど、マリアの世話は好きでやってるやん。ゲイルは昔っからずっと皆の世話してくれとったけど楽しそうにしてたやろ? それが昨日は楽しそうちゃうかったやん。原因はあんたやで」
「嘘っ! そんな事ないもんっ。新しい所探してる時は楽しそうに食べてたもんっ」
「それでか・・・」
「ん? おやっさんなんかあったのか?」
「いや、ワシら3人で獣人達が暮らせる土地を探してる時にじゃな、ここで食べたカニとか先に食ったんじゃ」
「それで?」
「坊主が女神様達を呼ぶ時はだいたい皆が集まって旨いもんや新しい物を食うときじゃろ?」
「だな」
「ワシら3人の時に女神様を呼ぼうとせんから呼ばんのか? と何回か聞いたんじゃが坊主は頑なに呼ばんかったんじゃ。お供えはしとったがな」
「ぼっちゃんはお下がりは不味いから直接呼ぶ方がいいと言ってたじゃねーか」
「じゃろ? だから不思議に思っておったんじゃ。今回もアーノルドが言わんかったら呼ぶつもりなかったじゃろな」
「なるほどなぁ、ゲイルはシルフィードが焼きもち焼くのがしんどいから呼びとうなかったんやな」
「じゃろうな」
「わっ、私が悪いのっ?」
「そやで。ミーシャとかに焼きもち焼いてたんはまだ分かるわ。でもな神さんにまで焼きもち焼かれたらそらしんどいやろ」
「だって・・・ だって・・・」
「確かにあの神さんは可愛い。飯食うときも嬉しそうに食うからな。ゲイルは嬉しそうに飯食う人見んの好きやねん。それは男も女も関係なしにや。ミーシャも嬉しそうに食うやろ? ゲイルはいっつもそれ見て嬉しそうにしてたやん」
「あぁ、そうかもしれん。自分は後回しにして皆の飯作ったり、飲まん酒作ったりしてんのもそうなんだろうな。ぼっちゃんが求めるものは美味しい物を皆で美味しく食べる事だからな」
「だって、だって・・・ 他の人ばっかり優しくするじゃないっ」
シルフィードはぼろぼろと泣いている。
「何言うてんねん。あんたも十分優しくされてるやん。あんたのお父さん探すのに命がけで手伝ってくれたんちゃうん? 他にもぎょうさんあるで。ハーフエルフやと気にしとったあんたをずっと守ってくれてたやんか。耳を気にしてるなら帽子を買うてくれて、危ない所に付いていことするのを最後まで渋ったり・・・ ずっと自分が優先されて来たん忘れたんか?」
「だって・・・ だって・・・」
「坊主はシルフィードが嫌がるから女神様達を呼ばんかったんじゃ」
「み、皆で私のせいにしてっ」
ダッとシルフィードはその場を去った。
「あっ、言い過ぎてしもたかな?」
「いや、今言わなかったらミケの言う通りぼっちゃんはシルフィードと距離を置いたかもしれん。ちょっと話して来るわ」
泣いているシルフィードを見つけたダンは隣に座ってしばらく落ち着くのを待って切り出した。
「シルフィ、ぼっちゃんはお前になんて言ってる?」
「別に何も言われてない・・・」
「誰とも結婚はしないと言われてないか?」
「それは言われた・・・」
「ぼっちゃんはちっちゃい頃からずっと誰とも結婚しないと宣言してたんだ」
「うん・・・」
「シルフィはそれでもいいんじゃなかったのか?」
「でも・・・」
「ぼっちゃんはシルフィとは寿命が違う。同じハーフエルフのミグルも200年以上生きてやっと大人になりだしだろ? シルフィがどれくらいで大人になるかわかんねぇが、ぼっちゃんはもう大人だ。シルフィの成長を待ってる間に老いて死ぬ。それは理解してるだろ?」
「私がいるから他の人とゲイルが結婚出来ないと言いたいのっ?」
「いや、シルフィが居なくてもぼっちゃんは本当に結婚どころか誰かと付き合ったりとかもしないだろうな」
「どうして?」
「ぼっちゃんは結婚出来ない理由があんのじゃねーか?」
「えっ?」
「生後半年で普通にしゃべりだし、誰も教えてない魔法を使い、誰も知らない古代語を話す。魔法陣を作る能力とかも異常だろ? ぼっちゃんだからと皆当然のように受け止めてるがこれは異常なんだよ。はっきり言って」
「何を言ってるの・・・」
「俺はぼっちゃんが神様なんじゃないかと思ってる。というか神になったんじゃねーかな?」
「え?」
「多分、神の生まれ代わりとしてこの世に生を受けたんだ。で、あの死にかけた時に試練を乗り越えて神になったんじゃねーかな? あれからだろ女神様や魔王様が頻繁に来るようになったの」
「あっ・・・」
「瘴気の森の浄化は女神様が出来なかった事をぼっちゃんがやって、あの時に女神様をぼっちゃんは説教してたんだよ。人間が女神様に説教とかするか普通?」
「しない・・・」
「それに世界に一体しか居ないと言われている伝説のドラゴンでさえぼっちゃんに下った。悪人どもを今までは討伐をしていただけなのに全然減らない悪人どもに業を煮やして今は魔王やその使徒を使ってバチを当ててるだろ? あんな事が人に出来ると思うか?」
「出来ない・・・」
「だろ? だから人とは結婚出来ないんじゃねーかな?」
「じゃああの女神様と・・・」
「神様と神様が結婚をするかどうかは知らねーが、それもねーんじゃねーか? ぼっちゃんは人と同じように成長してるからな。この世に人として生活して皆を導いてんじゃねーかな?」
「どういう意味?」
「皆が楽しく旨い飯食って暮らせるようにしていってるじゃねーか。ディノスレイヤ領、王都の庶民街、南の領地、東の辺境伯、砂の国、皆そうなっていってるだろ?敵対した奴や国は壊滅したしな。あれはバチってやつだろ」
「じゃ本当にゲイルは・・・」
「まぁ、例えそうだとしても俺達にとってぼっちゃんはぼっちゃんだ。ぼっちゃんも神様扱いされるのを望んでるわけじゃねーだろ」
「・・・」
「ミケの言った通り、ぼっちゃんは人が嬉しそうに飯を食ってるのを見るのが好きだ。それが
「女神様は・・・?」
「女神様や魔王様にも同じ事を望んでるんじゃねーか? めぐみと呼ばれる神様はぼっちゃんの飯を嬉しそうに食うだろ?」
「うん」
「だからぼっちゃんはシルフィにも同じように焼きもちを焼かずに嬉しそうに飯を食って欲しいんじゃねーかな? それが出来なくなったからシルフィが居るときに女神様達を呼ぼうとしなかったんだろ」
「やっぱり私のせい・・・」
「シルフィもそうだが、俺達はぼっちゃんの庇護下に入ってるんだ。
「わかった・・・」
「そうか。でもこの話は皆にするな。
「うん」
こうしてゲイルは仲間から神様認定されたのであった。
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