第648話 なんか楽しくない

夜営したポイントに座標を置いて北上していく。春だからこの辺でも寒いわ。


山側には大きな滝がいくつもあったけど、ここはひときわ大きな滝だな。上に何があるか飛んでみると大きな湖が山に囲まれるようして存在している。山々からの雪解け水とかここに流れ込んで出来た湖みたいだ。次に来たら釣りしてみよう。見たこともないような大物がいるかもしれん。


また陸地側に戻り北上していくとまだたくさん雪が残ってるのでここで調査は打ち切り。夏に再調査だな。


大きな滝の所に戻り、その川をゆっくりと海まで見ていくと湿原が広がり花が咲き始めていた。


「うわぁ、綺麗・・・」


陽が湿原に反射してキラキラと光り、その中に黄色や白、ピンクの花が咲き乱れている。上から見ていると楽園だなここ。



「坊主、腹が減ったぞ」


色気のないドワンの一言で飯の準備をすることに。


少し南下して気温が落ち着いた所に着陸。


「ここ水温が低いと思うから釣り公園と違う物が釣れると思うんだよね。なんか釣って食べる?」


ということで釣りをすることに。


土魔法でごろた浜に足場を作って防波堤にしていく。


何が釣れるかわからない所はメタルジグだ。シルフィードには錘だけ付けたサビキを投げさせる。


「わっ! なんか来たっ」


早速シルフィードに当たりがあり、巻き上げると大きなメバルだった。


「ゲイル、これ何?」


「メバルだよ。美味しいからこれを狙おう」


今日はメバルの煮付けだな。


ドワンは大物を狙うということなのでそのままメタルジグ。俺はジグサビキに切り替えた。


シルフィードはメバル連発。


俺が釣ったのはクロソイ。メバルがたくさんいるのでそっとリリース。メバルの方が旨いからね。


カサゴはキープ。刺身と唐揚げにしよう。


「よし来たぞっ!」


ドワンも何かを釣ったようだ。


「なんじゃこいつは?」


アイナメ? クジメ? いや違うな・・・ あっ、ホッケか?


鑑定したらやっぱりホッケだった。生きてるの初めて見たな。


「おやっさん、これ軽く干物にするからたくさん釣って」


小型なんだろうけど、元の世界より何でも大きいから立派だ。ホッケの開き食べたかったんだよね。あぁ、懐かしき居酒屋メニュー。


ドワンはホッケが入れ食いになり、俺はせっせとそれを処理していく。今日の晩飯は確保出来ているので処理が先だ。


次にメバルを処理して煮付けの準備。カサゴは薄造りと唐揚げだ。


肌寒いから熱燗でいくか、麦焼酎のお湯割か迷うな・・・


唐揚げが揚がった所で飯スタート。


ドワンはまためぐみ達を呼ばんのか? と聞いて来る。それをまだ調査だからと断った。なんとなくめぐみに会うのが怖い。俺には元の世界で結婚して子供が居た。その記憶はずっと残ってるし消えても薄れても欲しくない。シルフィードには誰とも結婚するつもりはないと言い続けている。そんな俺は今めぐみに会うのが怖いのだ。


「メバルの煮付け美味しいっ」


「おぅ、何度か煮付けは食ったがメバルの煮付けは旨いのぅ。あのホッケとやらは食わんのか?」


「干してあるから明日食べよう。ざっと見て回ったし、一度帰ってからまた来ない?このホッケ干した奴をミケに食べさせてやりたいし」


「そうじゃのぅ。ワシもミケに自慢するか。ガッハッハッハ」


結局俺は麦焼酎のお湯割にして、今日の獲物達を堪能したのであった。


一応、今日の晩飯セットはめぐみとゼウちゃんにお供えをして、お下がりは醤油を掛けて食べておいた。



ドラゴンシティで居酒屋ゲイルを開催。アーノルド達も呼んだ。


戻ったあとせっせと仕込んだのだ。ミーシャとミケには調理があるから自分達で子供の面倒を見ろよと釘を刺しておく。ベビーベッドみたいなのを二人の横に据えてあるから飲み食いしながら面倒みれるだろ。


マリアとチルチルは俺の横にちょこんと座る。


「ゲイル、手伝うよ」


チルチルがそういうので簡単な調理(コーンバター)をお願いする。揚げ物は先に揚げておいたから後は焼き物を目の前で皆に焼いてもらう。煮付けは自分で鍋から出して食え。


「ゲイル、神様達は呼ばないのか?」


アーノルドまで・・・


確かにこんな時はいつも呼んでたから呼ばないってのも変だよな。


ピーピー


「居酒屋やってるんだけと来るか?」


「行くっ♪」


ガチャ


「ラムザ。飯だぞっ」


勢ぞろいしたのでカンパーイ。


帰る前にマッドクラブも追加してきたのでそれも出した。


めぐみはひょいと俺の隣のマリアを避けて俺の隣に座る。


「おい、マリアをどかすなよ」


なんて酷い神様なんだよっ。むくれるマリアにおいでおいでして膝に乗せる。


ラムザとゼウちゃんはドワン達が面倒をみてくれるようだ。


チルチルも負けじとぎゅっと俺の腕にしがみ付く。こらっ飯が食えんだろ。


「ぶちょー、ホッケ美味しーね♪」


俺を見ながらホッケをニコニコと頬張るめぐみ。


「はい、ゲイル。ご飯」


「あ、ありがとうシルフィ・・・」


大盛白飯をドンと俺の前に置くシルフィード。なんとなく俺の心境の変化に気付いているような気がする。女性の勘って鋭いからな。


「マリア、魚の骨取ってやるからな」


と何事もなかったようにホッケとメバルの煮付けを食べやすくほぐして別の皿に乗せてやる。


「私のも」


チルチル、君はミケと一緒で骨とか平気でそのまま食べるよね?


そんな事を言ったら拗ねるのでチルチルにもやってやる。


「ぶちょー、私のもやって♪ こう、がーーって食べたいの」


・・・皿で一気にがっつくのか。


めぐみのもほぐしていく。


向こうではがーはっはっはとドワンがご機嫌でラムザとカニ味噌と日本酒をやっている。ゼウちゃんもそれに参加だ。ドワンが上機嫌になるのも分かる。


「チルチル、おまえこっちに来い」


ダンはそう言ってひょいとチルチルを持ち上げて自分とミケの間に座らせる。シルフィードを俺の隣に座らせてやれとの配慮だろう。


シルフィードはお酒を持って俺の隣に座る。ミーシャはアーノルド達と昔話に話が咲いているようだ。


右手にめぐみ、左手にシルフィード、膝の上にはマリア。両手どころか3方に華だが嬉しくない。


俺はマリアに愛を注ぐことにした。


マリアにこのホッケはドワンのおじちゃんが釣ったんだぞーとか言いながら食べさせる。


「ぶちょー、これ他に食べ方ないの?」


「他にもあると思うけど、これが一番旨いんじゃないかな? あ、レモンをちょっと絞っても旨いぞ」


「じゃ、搾って♪」


「私のも」


君たちレモンくらい自分で搾れるだろ。それにどっちのを先に搾るのよ? と試されているみたいだ。こんなの楽しくない・・・


なぜこんな思いをしながら飯を食わねばならんのだ。ちょっと一人になりたいかも・・・


子供の頃もこんな感じの事はよくあったけどおままごとみたいだった。今は成人して稼ぎも資産もあるから結婚というのが現実的になっている。その気は無いと言ってても皆はあまり信用していないだろう。常にシルフィードと一緒にいるしな。


めぐみは俺に対してというより、恋愛感情そのものが無いだろう。気に入ってる=便利なやつぐらいな感じだろうからな。俺も俺に合わせて作られた幻を見て可愛いとか思うのも間違ってるだろう。


俺は心が疲れてるのかもしれない。無心になるのにあの地域の開発をしばらく一人でやるか。整地とか俺にしか出来んから立派な言い訳が立つ。


さて、マリアはお腹いっぱいになったのでおねむだ。そのまま抱っこして寝かせにいき、一緒に寝てしまう事にする。


風呂がわりにクリーン魔法を掛けて隣でトントンしてやるといちころだ。そんなにスキルの威力があるのだろうか?


試しに自分をトントンするとフワァと眠気が襲ってくる。すげぇな俺。


これはいいかも。神経が高ぶって寝られない時もこれで安眠が可能だ。


このまま完全に寝たらマリアを押し潰すかもしれない。今の俺はアーノルドと変わらんぐらいのデカさになってるからな。マリアと隣のベッドに移り意識を手放そうとすると誰かが話し掛けてくる。あーもーうるさいよ。トントン。まだ誰かうるさい。はい、トントン。ぐぉーー。



早く寝たせいもあって夜明けよりだいぶ前に目が覚める。


なんだこれ?


俺の目の前にめぐみ、後ろにシルフィード。いつの間に俺と一緒に寝てたんだよ・・・


ムクッと起き上がるとゼウちゃんとラムザ以外みんなここで寝ていた。


めぐみの鼻をむぎゅっと掴んで起こす。


「あれ? おはよー」


「お前いつ寝にきたんだ?」


「ぶちょーがどこ行ったのかな? と思って来たら寝てたから起こそうとしたら抱っこしてトントンしたんじゃない。まだ食べるつもりだったのにっ」


俺は寝ぼけてそんな事をしたのか・・・

うっすらと記憶が甦る。もう一人うるさい誰かをトントンしたな。多分それはシルフィードだ。俺が二人をここに一緒に寝かせたのか。


だし巻き玉子焼いて♪ とめぐみが言うので夜明け前から朝飯を作っていく。


そうするとアーノルドが起きてきた。


「夜には帰ると言ってあったのに先に寝ちまいやがって。お陰で泊まるはめになっただろうが」


そう言いながら朝飯を食おうとするアーノルド。


昨日の晩の事をアーノルドが教えてくれた。まずめぐみが俺を起こしに来て寝かせた所まではめぐみに聞いた。


二人が部屋から出て来ないのでシルフィードが見に来ると俺がめぐみを抱き締めて寝ていたので騒ぐ、皆がその声で見に来たところで俺がシルフィードを抱き寄せてトントンして寝かせたらしい。


あんなに騒いでたシルフィードがスッと寝たのを見てアーノルド達が驚いたのでドワンがこの前もあんなんじゃったと説明したらしい。


「お前睡眠魔法とか使ったのか?」


「いや、いつも子供達を寝かせ付けてただろ? それがスキルになったんだよね」


「なんだそれ?」


「俺がトントンすると眠くなるんだよ。試しに自分をトントンしたら寝ちゃってさ。自分にも効くのに驚いたよ」


「抱き締める必要はあるのか?」


アーノルドと話してると先にだし巻き玉子をせっせと食べるめぐみ。


「どうだろね? 自分は抱き締めてないからトントンだけでいいのかもしれない」


やってみろと言うのでアーノルドの背中をトントンしてやるとぐらついた。


「うおっ、これヤバいな。一瞬で寝ちまいそうになるぞ」


「だろ? めぐみとシルフィードを寝かせたのは不可抗力なんだよ。寝いりっぱなだったからうるさいのを無意識に寝かせたんだと思う」


「はぁ、満足♪  まったねー」


あ、食うだけ食ったら帰りやがった。聞きたいことあったのに。


「ゲイル、そういう能力付いたからって、女神を抱き締めて寝るのはどうかと思うぞ」


俺もそう思う。次から先に寝るの止めておこう。


ぞろぞろと起きてきたので玉子を焼き直した。シルフィードは朝から機嫌が悪いのでもう一度トントンして寝かせたゲイルなのであった。


お前酷いことするなと言われたけど、機嫌を取るのもう面倒なんだよ。









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