第647話 あー、もしかして
夜明け朝にぶるっと震えて目が覚める。ミーシャに毛布を剥ぎ取られていたのだ。すぐそばにドゥーンを連れて寝ているから俺の毛布に潜りこもうか悩んだ末に隣で寝たなこいつ?
ドーム内はシンっと冷えているので温風で暖めて薪を足しておく。
外に出ると月明かりが雪に反射して結構明るい。
風呂に張った氷を溶かして水を捨てて湯を張る。ぬるめにして浸かってから熱くしていった。
自分で土のコップを作って水を飲む。
ふぁー気持ちいい。
湖面の氷に月が反射して綺麗だ。
おっ! 氷の下に光が泳いでいる。主だな。
「久しぶり。あまり来れなくて悪かったな。氷が張ってるから無理して飛び出てくるなよ。凍っちゃうぞ」
そう声を掛けたらしばらくぐるぐると回って沖に消えていった。
「あら、あの子珍しいわね」
げっ、いつの間にゼウちゃんが風呂に入ってたんだ?
「ゼ、ゼウちゃん・・・ 恥ずかしいから、女湯作るからそっちに入って」
「気にしなくて良いわよ」
いや、俺が気にするのだ。
「ゲイルくん達が見てるのは幻みたいな物だから気にしなくていいわよ」
「え? どういう意味?」
「めぐみってゲイルくんの好みにドンピシャの見た目してるでしょ?」
「えっ、あー、まーその・・・」
「私達はなんていうのかな?ゲイルくん達みたいな肉体という実体がないの。エネルギーの塊っていうのかな?」
「ん? 肉体がない? でも触れたりするよね?」
「そう感じるだけよ」
「そうなの?」
まぁ、壁すり抜けて来たりポンッと顕れるからその説明は正しいのかもしれない。重さを感じないのはそういうことか。
「でね、一番気に入った魂の理想の姿になるのよ」
え?
「ゼウちゃんは?」
「私もそう。気に入った魂はもう壊れちゃったけどね。もう星の住人に関わらないようにしてるのは前に話したでしょ?」
「うん」
「だからずっとこのままなの。めぐみはゲイルくんがこっちに来たときに今の姿になったのよ」
そうだったのか・・・ 初めてめぐみを見た時にこんな可愛かったのかと思ったからな。俺の理想を具現化してたのか。
「そう言われても裸でいられると恥ずかしいね」
「そんな風に言われちゃうとなんか恥ずかしくなるわっ」
今さら恥ずかしいがらないで。もっとこっちも恥ずかしくなるじゃないか。
「ゼウちゃん達って寝ないとか言ってたけど、よく寝てたよね?」
「私も驚いちゃった。寝るってこんなに気持ち良くてすっきりするのね」
「こうやって具現化して食べたり飲んだりしたらその食べ物も減るから、身体がある者と似たようなこと出来るようになるのかもしれないね」
「お供えしてくれた時はどうなの?」
「物は無くならなくて、こっちに残った物は味が薄くなるんだよ。物によっては不味いからそれ食べるの嫌だし、捨てるのももったいないからこっちに食べに来て貰った方がいいね」
「そうだったのね。お供えの方が楽なんじゃないのかと思ってたのよ」
「いや、手間は一緒だし、こっちに来た方が好きなの食べられていいでしょ?」
「そうね、食べたい物を気にせずに食べられるのって幸せね。ゲイル君の周りにいる人達は私達に何も求めないし」
「皆自分でなんとかしようとするからね。俺には求めるけど」
「めぐみもゲイル君には甘えっぱなしね。あんな嬉しそうにしてるのゲイルくんがこっちに来てからなのよ。だからゲイルくんに言われた通り毎日せっせとノーマルガチャしているわよ。汚れた魂をどんどん減らしていってるんでしょ?」
「落ちない汚れが付いたまま生まれて変わってももっと汚れていくだけでしょ? なら消えても良いかなって」
「そうね、その方が結果的に発展するのかもしれないわね。私の所はもう無理だわ。あれだけの魂廃棄するの大変だもの」
70億位いるんだっけか。汚れてる魂も多いだろうしな。
あ、ダンが起きてくる。
「じゃ、先に帰ったとめぐみに伝えておいてくれるかしら? また呼んでね」
そう言って全裸でふわっと浮かんだゼウちゃんは消えた。
綺麗すぎてぜんぜんイヤらしくないな。芸術作品を見たみたいだ。あ・・・ ゼウちゃんのお気に入りの魂ってヴィーナス誕生の絵を描いた人なんじゃ・・・
今度ホタテ貝に乗った事があるか聞いてみよう
ふぇーいと頭を掻きながらダンも風呂に入りに来た。
「ぼっちゃん、朝は特に寒ぃな。風呂に入ったら生き返るぜ」
「水飲む?」
「あぁ、頼む」
ゴッゴッゴッと水を飲むダンの肩にゼウちゃんの髪の毛が付いていたので取ってやる。ミケに見られたら変な誤解を生むからな。
具現化した幻か・・・
ならなんで髪の毛抜けるんだ? とか不思議に思うゲイルであった。
ドームに戻って朝飯を作と匂いにつられて皆起きてきた。
定番のだし巻き玉子とアジの開きの和定食。
「ぶちょー、だし巻き玉子って美味しーね♪」
めぐみには段々とムカつくことも無くなってきた。こいつに慣れたのもあるけど、こう飯を旨そうに食って、美味しーね♪ という顔を見てるからなんだろうなと思った。ニコニコと飯を食う姿は確かに可愛いわ・・・
ラムザには玉子掛けご飯を教えてやると気に入って何杯もお代わりをする。朝飯を食わずに帰ったゼウちゃんにもお供えして、それは俺が食った。
めぐみとラムザが満足して帰った後にまたマリアとチルチルと雪合戦をしてドアでドラゴンシティと王都に戻ったのであった。
あれからマリアは俺がいない時でもシルバーとクロスに乗って乗馬の練習をするようになり、シルバー達ととても仲良くなっていった。
春になり、予定通り、獣人達の新天地を探しに出ることに。シルフィードとドワンの3人で飛行機に乗って西へと飛んだ。
「おやっさん、瘴気の森より西の山脈の向こうに何があるか知ってる?」
「いや、あの山の向こうには行ったことがないのぉ」
という事だったので西に飛んでいるのだ。
西の山脈は南から北まで延々と続いている。その山は高く飛行機で越えようとすると酸素が薄くて頭が痛い。これ、早く越えないとヤバいな。
気温は温風でなんとかなるのだが、酸素の薄さと気圧の低さが俺達を襲う。
全速力で山越えをして、高度を山ギリギリに保ってなんとか乗り越えられた。
「あっ! 海が見える!」
シルフィードの言う通り、山脈を越えたら海が見え南北にずっと土地が広がっている。
海の近くに飛行機を着陸させた。
「山を越えるとこんなところがあったんじゃな」
海の反対側は南北に山脈が延々と続き、海側はそれと同じように土地がある。まるで南米の太平洋側みたいな感じだ。
ここに座標を起き、調査の為に最南端まで飛行機を飛ばし続けた。最南端まで来ると熱帯気候になり、イナミンの南の領地より暑い。植物の形態も全然違う。古代の原生林みたいな感じだ。ちなみにここまで人の気配は無く、魔物しかいなかった。
魔物も草食系だろうと思われる奴は俺たちが居ても意に介することなくムシャムシャと植物を食べている。人を見たことがないから警戒しないのか?
「ゲイル、ここ暑くてダメ・・・」
暑さに弱いシルフィードはダメそうだ。少し北上するとココナッツがワンサカと生っているのでそれを採り、魔剣でスパッと切ってコップに入れる。ストローが無いので飲みにくいのだ。
魔法で冷やしてシルフィードに飲ませてやる。
「あ、ちょっと薄いけど美味しい」
俺とドワンも飲んで水分補給してここで夜営をすることに。晩飯はヤシガニのココナッツミルク煮だ。めちゃくちゃデカイので1匹で十分だ。
「ふむ、変わった味じゃの。釣り公園で食ったカニの方が旨いとワシは思うぞ」
俺もそう思う。ヤシガニは少し身がパサッとした感じなのだ。
翌日にリベンジするために汽水域を探すとマングローブがあったのでその根元らへんを魔法で掘り起こしていく。
いた!
土魔法の篭に入れるとその土の篭を挟んで破壊するんじゃないかと思う力でギリギリっと挟んだ。
「こいつはなんじゃ?」
「マッドクラブ。ノコギリガザミというカニだよ。絶対おやっさんはたくさん食べるからもう一匹捕まえよう」
かなりデカイけど、昨日のリベンジもあるからな。シンプルに蒸した物とチリソース味にしよう。
2匹捕獲してまた北上する。カニは手を縛ってそのまま篭で運んだ。夕暮れ前に夕食タイム
「坊主、神様達は呼ばんのか? これは旨いんじゃろ?」
俺もそう思ったけど、ゼウちゃんの面倒はドワンがみてくれるだろうけど、めぐみの面倒は俺がみないといけない。そうするとシルフィードが張り合ってくる ・・・うん、面倒臭い。
「まだ調査段階だし、3人で食べよう」
まず1匹はシンプルに蒸して、もう一匹はチリソースで煮込む。
「さっ、食べよう」
カニの甲羅を外してやるとカニ味噌が・・・
いそいそと日本酒を注いで味噌と日本酒をキュっ。
おーおー、たまらんわ。
ドワンも同じようにして恵比寿顔だ。
シルフィードは苦手みたいなので普通に爪の身をほじって食べ出した。
「このカニ味噌と日本酒は魔王が好きそうじゃの」
確かに。ラムザの好む味だろう。でも呼ばない。こうやって何も気にせずに食って飲みたいときもあるのだ。
次はエールとチリソースだ。手がべたべたになるけど気にせずに手掴みで食べて飲んでをしていく。3人とも口の周りがきちゃないけど、食べ終わるまで綺麗にしても無駄なのでそのままだ。
無言で食べて飲んでをしていく。旨い!
旨いけど・・・
ぶちょー、美味しーね♪ の顔がふと浮かぶ。
あー・・・・・ 俺もしかして・・・
3人は蒸しカニとチリソース煮を堪能したのであった。
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