第646話 人に戻れなくなる

宝物庫で歴史書を読ませてもらう。


ここに王都を移した理由は聞いた通りだったけど、それ以前の歴史が日本語で残されている。所々破けたりぼろぼろになってるので読めない所もあるがなんとなくわかった。


ここに魔力スポットがあり元々魔物が多かった土地のようだ。それを利用して水を作ってたのか・・・


記載されていた所にエイブリックとアル達を連れていく。


「こんな通路があったのは父上も知らなかったと思うぞ」


城の石垣の横を掘ってその下に入っていくと通路があった。日本語の歴史書に地下地図が別にあると記されていたのだ。地図は隠し財宝の地図として保管されていた。


堀当てた地下通路を進むとドドドっと水の流れる音がしている。


そこには地下の湖が出来ていた。これは人工の湖だろう。そこから水が溢れて地下に消えていく。


歴史書によるとこの辺りは今と違って川が無く、水の確保を魔力スポットの魔力を使い水の魔法陣で出していたみたいだな。ウエストランドの先祖はそれを奪ったのか同意の上に手に入れたのかは不明だけど、隠した所を見ると奪ったのかもしれん。エイブリックも何か感じたのだろ。今でも奪った者勝ちの世界だ。当時はもっと激しかったのかもしれん。


しかし、王都の水の豊富さはこれが原因だったか。先代に感謝だな。



「エイブリックさん。ここの入り口は秘密にして閉じてもいいかな?」


「ああ、そうしてくれ」


万が一ここに毒を流されたら王都中が汚染されるからな。


外に出て土魔法でがっちり入り口を塞いでおいた。なんとなくあの水はディノスレイヤまで地下水脈として続いている気がする。井戸の深さもほとんど同じぐらいで吹き出るからな。


これを作った人はもう生まれ変わってるだろうけど、感謝の祈りを心の中で捧げておいた。



翌日はマリアをシルバーに乗せて散歩する。俺が使ってたチャイルド鞍を着けてのんびりだ。もうすっかりお祖父ちゃんになったシルバーにはマリア一人でも安心して乗せられる。目も耳も悪くなってるからもう死期が近いかもしれん。ダンのクロスもいつどうなるかわからない。


コボルト達はまだ元気いっぱいでシルバー達の面倒をよく見てくれている。


「ぼっちゃまー、マリア上手い?」


「上手だぞー。でもシルバーの上で暴れるな。落っこちるぞ」


マリアはどんどんお転婆で生意気になってきた。俺が甘やかしすぎるからだとザックに文句を言われたけど別にいいじゃん。


「ミーシャ、あの湖にマリアを連れて行っていいか?」


「真冬に行くんですか?」


「シジミを捕りに行きたいんだよね。後は鴨鍋とかもしたいし」


「楽しみですねぇ」


ドゥーンと一緒に来るつもりか・・・



飛行機に乗って出発だ。ダンはテディどうすんの? とミケに言われて諦めた。領もまだまだ大変だからな。チャンプはあれからまたずっと寝てるし。


俺、シルフィード、ドワン、ミーシャ、マリア、ドゥーン、チルチルをのせて出発。


到着すると真冬の湖はめちゃくちゃ寒くて氷が張っていた。雪も積もってるし。これ、釣りもシジミ捕りも出来んな・・・


仕方が無いのでかまくらドームを作って暖炉も設置。マリアとチルチルのテンションは上がりっぱなしだ。


「ゲイルっ、雪合戦しよー」


チルチルは猫系なのに寒くても元気いっぱいだ。皆で雪合戦をして雪だるまを作り、目一杯遊んだ。


あ、晩飯にダン達呼べばいいじゃん。


ドアでドラゴンシティに行って、


「鴨鍋するけど食べる?」


と聞いたら喜んでこっちに来た。


シルフィードに鍋の準備を頼み、俺は蕎麦を打つ。あれからずいぶんと上達したので皆にも披露しよう。


「さっ! 食うぞ」


「はい」


ミーシャにドゥーンを渡される。


「ほなウチもハイ」


「おいっ、ダンがいるだろっ」


「もう飲んどるやん。酔っぱらいに怖うて任せられへんやろ?」


二人同時かよ・・・


ピーピー


「はい・・・」


「ぶちょー、どこにいるのー?」


「湖・・・ 来る?」


「行くっ♪」


ええい、ヤケだ。ラムザも呼んでやるっ。


ドゥーンとテディにアバアバしながら、白髪ネギを食いたいというダンの為に白ネギを育てる。


「ぶちょー、これ焼いても美味しい?」


「ネギマにしたら旨いぞ」


「焼いてっ♪」


串に刺すのはダンにやらせた。


ドームを改造して煙突を足し、風魔法で煙を排出しながら中で鴨のネギマを焼いていく。


「ほう、塩焼きというのも旨いな」


ラムザ、半裸で寒くないか?


俺も焼きながら食べていく。めぐみもミーシャも両手に串持って食うなよ・・・


ドワンはゼウちゃんに鴨を串から外してやっていた・・・ そんなことしてるの初めて見たぞ。


「ゲイル、魔力を頼む」


ハイハイ。魔力を注ぐと軽い吐息を漏らすラムザ。もうなんとも思わん・・・ 自分の耐性が憎い。


ようやくドゥーンとテディが寝たので、かも鍋を・・・。くそっ。


まぁ、そばがあるからいいか。蕎麦を湯がいて水で〆てしゃぶしゃぶっと。旨っ!次は白髪ネギを・・・


シュッシュッ。なんであんなに作ったのにもう無いんだよっ


さ、蕎麦を・・・


ガッデェェェェムっ


お前ら食うの早いんだよっ!


もう一度蕎麦を湯がいて、水で〆て白髪ネギと・・・


ふぎぁぁぁぁ


「ゲイル、テディ起きたで」


お前ら・・・


テディが泣くからつられてドゥーンも起きる。二人のオムツを替えて二人同時にトントンしながら子守唄を唄う。


ぼうやぁ 良い子だねんねしな♪


「あら、日本語で歌ってあげるのね?」


「こっちの言葉だとメロディと合わないんだよね。これしか知らないし」


テディとドゥーンは日本語覚えるかな?


「ゲイルー、私もトントンして」


チルチルはもう学校に行っているのに二人が寝たのを見計らって膝に乗って来た。赤ちゃん返りしているのだろうか?


軽くお腹をトントンしてやるとスースーと寝だしたのでマットに寝かせる。


マリアもぼっちゃまぁと抱き付いて来たので抱っこして背中をトントンしてやるとすぐにダウン。二人とも昼間ハシャギまくってたからな。


「ぶちょー、鴨焼いて♪」


「ダンが焼いてくれてたろ?」


「ぶちょーが焼いた方が美味しいのよね」


ダンはそう言われて苦笑いをした。


ミーシャもまだ食いそうだな。


ラムザは肝を焼いてくれか。


さっき湯がいた蕎麦は・・・ もう無いな。残ってた鴨鍋の汁も雑炊にされてしまってる。


ミーシャ、めぐみ、ラムザに鴨のネギマと肝を焼きながら俺もようやくエールを飲み始めるとシルフィードもやって来た。


「ゲイルはいつもきょぬーの人にしか優しくしないからズルいっ」


酔ってやがる・・・ こっちはまだシラフなんだぞ。


「ハイハイ、ここに座れ」


と隣の席をポンポンと叩く。


「抱っこ」


は?


「抱っこして。マリア達にはしてたでしょ」


いや、あなたもう大きいでしょうが?


「早くっ」


仕方が無いので抱っこするとマリアと同じ抱きつき抱っこだ。


俺の首に手を回して抱っこされるシルフィードの背中をトントンしてやるとスースー寝た。飲み過ぎなんだよ・・・


そのまま寝かせに行く。


「私もぼっちゃまに抱っこしてもらいましょう」


ミーシャ、君とは抱っことは言わん。もう二児の母なんだから我慢しなさいと止めさせた。


「ねーねーぶちょー、抱っこされると眠くなるの?」


「抱っこされて眠くなるんじゃないよ。眠いから抱っこして欲しくなったりするんだ」


「ふーん。やってみて」


は?


「私達眠くなること無いのよね」


「寝ないの?」


「寝ないよ」


これは驚きだ。


「ラムザは?」


「人間程ではないが寝るぞ。ずっと寝ている時もあるしな」


チャンプみたいな感じか。


「ねー、ぶちょー。試しに抱っこしてみてよ」


「あのなぁ、あれは子供の話で」


そう言い掛けた時にひょいと俺の膝に乗るめぐみ。ぜんぜん重くない不思議な感じだ。


「さっきの娘みたいにやってみて」


ぎゅっと抱き付かれてドキッとする。色気耐性があるはずなのに・・・


背中をトントンするとスースー寝るめぐみ。


「ゼウちゃん、めぐみ寝ちゃったんだけど? 二人とも寝ないんだよね?」


「あら、本当! 驚いちゃったわ。私にもやってみて」


は?


俺からめぐみを引き離して抱き抱えてマットに寝かせるゼウちゃん


戻ってきて同じように抱き付いてくる。同じくドキッとする。あぁ、これ神のスキルなのかもしれん。


ゼウちゃんをトントンするとゼウちゃんも寝たのでめぐみの横に寝かせる。重さをほとんど感じないから不思議だ。


ラムザも試すと言って乗って来た。神様達と違って重さを感じる。ぎゅっとされると甘い香りが鼻腔をくすぐる。耐性があってもヤバいかもしれない。


背中をトントンするとラムザも寝たので、よいしょっとめぐみ達の横に寝かせる。


なんだこれ?


自分を鑑定るとスキルが増えていた。


【スキル】安眠の加護


は?


しかも加護ってなんだ?


「なぁ、ぼっちゃん。何をやったんだ?」


「いや、俺が背中をトントンすると皆寝ていくんだよ」


「マジか?」


「今の見てただろ?」


ダンにもやってみてくれと言われたが熊を抱っこするのは嫌なので断った。ミケもやって欲しいと言うが、旦那の前ですることではないだろ? いや前でって・・・ 見てないとこでもだめだ。


これで世話を焼くのはミーシャだけになったけどミーシャも眠そうだからドゥーンとマリアと寝て来いと言っておいた。ついでにミケもテディと寝ろ。


起きてるのは男3人だ。


「俺、風呂で蕎麦食いながら飲みたいんだけど」


いいぞと言うので湖畔に風呂を作ってそこで食いながら飲むことに。


蕎麦を湯がいてザル蕎麦を準備。出汁には鴨を焼いて入れた。


「ぼっちゃん、これ北の街で食ったのと同じとは思えんな。いくらでも食えるぞ」


「こうやって風呂に浸かって食うのは乙なもんじゃな」


「蕎麦ってちゃんと打てないと旨くならないんだよ。誰か職人育てないとダメだね」


焼いた鴨を入れた出汁は旨い。蕎麦の実があればいつでも新蕎麦が食えるから、10割蕎麦も上手く打てるようになりたいな。


蕎麦焼酎はまだ出来てないので、日本酒だったが十分堪能出来た。


かまくらドームに帰ると皆スヤスヤと気持ち良さそうに寝ているから風呂は入らんだろな。


全員にクリーン魔法をかける。


めぐみとゼウちゃんは寝てて大丈夫なんだろうか?


気持ち良さそうに寝ているから起こすのも可愛そうだからこのままでいいか。


暖炉に薪を足して俺たちも寝る事にした。



マットに寝転びながらもう一度鑑定してみる。


あっ・・・


【種族】?


なんだよ?て。人じゃなくなってるじゃねーかっ!


なんかスキルに加護とか付いてるから嫌な予感してたんだよね。俺、神になるんだろか・・・


なんか複雑な気持ちになり、なかなか眠れないゲイルなのであった。




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