第644話 リッチー討伐

「皆、俺の後ろに下がって」


「馬鹿もんっ! いくら坊主とて相手はリッチーじゃぞっ」


「いや、あちこちに攻撃魔法の魔法陣が仕掛けられてるから踏むと魔法攻撃が飛んでくるんだよ」


「なんじゃとっ?」


以前にされた多彩な魔法攻撃はこれを踏んだからだろう。詠唱はさっき土魔法で止めたけど、口で詠唱してるのではないと突っ込んだのは失敗だったな。


しかし、こいつにだけ集中してれば対応は可能。先に魔力を吸ってやるか。


「ぬぉぉぉぉっ! 貴様魔力が0の無能力者の癖にっ」


こいつ、こっちを鑑定してやがったのか。グローナ並の鑑定持ちだな。全然気付かなかったわ。


しかし、魔力を吸ってもあまり減らないな・・・ あっ、こいつ魔力スポットから魔力を補充してやがるのか。これキリがないかもしれん。


骸骨の癖に黒髪がフサフサなリッチー。赤く光ってファイアボールを撃って来るのを皆が弾いて対応してくれる。魔力スポットから魔力をどうやって吸収してるのかよく解らない。魔道線が見えないのだ。無線で魔力を補充出来る能力もあるなこりゃ。


「どうした? 焦りの表情が見え隠れしておるぞ無能力な転生者よ。我ほどこの世界で能力があるものはおらんのだっ フハハハハハッ」


こいつ賢いのか馬鹿なのかわからんな。魔力0で魔法を使えた事を疑問に思わんのか? こんなシステムを作っただけあって優秀だったのかもしれんけど・・・


しかし、こいつは討伐しないとダメだな。魂がこんな汚れ方をするのは何をしたか想像がつく。


くそっ魂に普通のクリーン魔法を掛けただけでは浄化も無理そうだ。仕方がない。ゴシゴシするか。


魔道バッグからミスリルを出してタワシに加工。クリーン魔法を流しながらリッチーの魂をゴシゴシする。


「ぎゃぁぁぁぁぁぁっ!」


逃げようとするので土魔法で固定。俺は魔法攻撃を食らい続け治癒の魔石だけでは持たなそうなのでアイナに治癒魔法を掛け続けてもらう。


魂をタワシで直接ゴシゴシすることで記憶が流れこんで来た。やはり、こいつがエルフ達を惨殺してやがったのだ。一層強くゴシゴシしてやると固定されながらも暴れるリッチー。


この汚れ本当にしつこいな。こいつじゃらちがあかん。ミスリルをタワシからヤスリに作り変えて削る。


「ぐっきゃぁぁぁぁぁあっ」


魂をやすりで削られるなんて地獄以上の苦しみだろうが知ったこっちゃない。恐らくグリムナ達の親を殺したのはこいつだ。記憶の中にグリムナに似たエルフが居たからな。魂が消滅したアルディナのかたきも取ってやらねばならん。


「かっ、神に愛された我にこの仕打ちを・・・ ゆっ許さんぞっーーーーっ」


「誰が愛されたてんだ? 嫌われてるからこんな身体になっても生まれ代わらせてもらえないんだろがっ」


「ふざけたっ」


ゴリゴリゴリゴリゴリっ


「ぐっきゃぁぁぁぁぁあっ、ふざけた事を言うなっ! 神に愛されているからこそ永遠の命を頂けたのだっ」


「お前、神を見たことないだろ?」


ゴリゴリしながら問う。


「神に姿はないっ。感じるものなのだっ 今も我を ぐっきゃぁぁぁぁぁあっ」


本当にしつこいなこの汚れ。めぐみが面倒だと言うのもよく分かるわ。あっ、指輪外してやろ。


ゴリゴリゴリゴリゴリゴリゴリゴリゴリゴリゴリゴリゴリゴリゴリっ


物凄い悲鳴をあげてるけど気にしない。皆は耳を押さえているけど、俺は断末魔を聞き慣れているのだ。


おぉ、指輪を外したら汚れが取れて来た。ん? 良く考えたら汚れを取らなくても壊しちゃえばいいんじゃない?


汚魂を浄化する以外に壊しかたあるのかな? 無ければこのやり方しかないけど。


リッチーはまだ神に愛された我をとか言ってるから現実を教えてやるか。


「おいっ、めぐみっ」


ポンっ


「何? こってり作ってくれたの♪」


呼べばすぐに顕れるめぐみ。まるで都合の良い女だな。


「げっ、何よっ! こってりはこってりでもこんなこってりは要らないわよっ!」


「こいつさぁ、ゼウちゃんとこから持って来た魂だろ?」


「こんなに汚ったなかったらそんなの分かんないわよっ」


「これ汚れが酷すぎて浄化出来ないんだよね。それとこいつ、お前に愛されてるとか言ってるぞ」


「はぁーーー? こんな汚ったないの見るのも嫌よっ!」


「なら、直接そう言ってやれよ」


「グギギギギッ 貴様・・・ 何を訳のわからんことを」


「お前、ここに神様来てるの見えてないだろ?」


「神は感じるものだといっただろうがっ グギギギギっ」


感じ取れてねーじゃん。


「めぐみ、ちょっと触って見えるようにしてやれよ」


「嫌よっ!」


「俺がちゃんと手を拭いてやるから」


「絶対嫌っ!」


「じゃ、これラムザに食わすぞ。ゼウちゃんとこからの魂でもいいな?」


「いいわよっ。こんなこってりこってりしたのはどうせ洗っても取れないしっ」


めぐみと話ながらもゴリゴリゴリゴリゴリし続ける俺。止めるとこいつは魔法攻撃をしてきやがるからな。


「ラムザっ」


片手でゴリゴリゴリゴリゴリしながらドアを出してそう唱える。めぐみがいるから少しだけドアを開けて覗かないようにして


「おーい、ラムザ。ちょっと来てくれ」


そう呼ぶとひょいと濡れたラムザがドアから上半身を出した。


ブッ 丸出しだ丸出しっ!


「ラムザっ ブラぐらいして出て来いっ」


「ん、別にゲイルに見られても気にせんぞ?」


「こっちがするんだよっ」


アーノルドはアイナにノックアウトを食らい、ドワンは真っ赤になって横を向き、シルフィードは自分の胸を押さえていた。リッチーは断末魔だ。


一度ドアの向こうに引っ込んだラムザはちょっとしてからいつもの半裸で出てきた。濡れた髪が悩ましい。



「こいつを食うのか・・・ 以前なら食っても良かったんだが、ゲイルの飯を食った後は食指が動んなぁ。もう少しこってりを少なく出来るか?」


と言われたので全力でゴリゴリゴリゴリゴリとする。先程のラムザの丸出しを記憶から消さねばならんのだ。このままでは下僕がスキルになってしまう危険があるからな。


スキルになって、踏まれたい衝動とか出だしたらどうすんだよ。


しかし、ドワンが女体に反応するなんて初めて見たな。ラムザはめぐみの可愛さとゼウちゃんの綺麗さを足して割ったような感じだ。それに肌はドワーフぽい色だからドワンに取っては生々しく感じたのかもしれん。ゼウちゃんはこう別世界の人って感じだけど、ラムザは魔王なのになんだか現実的なのだ。溢れ出る魔力で甘い匂いもするし・・・


俺もゼウちゃんは綺麗だなと思うけど、それだけだ。しかし、ラムザは違うのだ。シルフィードが居なかったからフラフラと引き寄せられた可能性がある。鑑定した時に状態と魔力しか見てなかったけど、【スキル】魅了 とか持ってるのかもしれん。アイナ一筋のアーノルドも見とれたからな。


「ぶちょー、ゴリゴリしてるところだけ剥げて来たよ」


「ここなら触れるか?」


「もう、しょうがないわねっ」


めぐみが部分的に綺麗になった所を触るとリッチーにもめぐみが見えたっ


はい、拭いてと指を出すめぐみ。そこ汚れてなかっただろが?


約束でしょと言われたので仕方がなくハンカチで指を吹き吹きしてやる。


「かっ、神様・・・ なんとお美しいっ」


めぐみを美しいと褒めるリッチー。


「うわっ・・・ きっしょ」


一瞥するめぐみ。


「へ?」


「ぶちょー、もうこいつ気持ち悪いからさっさと処理してよ」


「ラムザ、これでどう?」


「うーん、ヤギに食わすか。それでもいいか?」


「いいわよ。こんな気持ち悪いのさっさとやって頂戴」


「わ、神に我は愛されて・・・」


「お前の魂が汚過ぎてめぐみが回収しなかっただけだ。だから肉体が滅んでも魂は天に帰れなかったんだよ」


「で、では・・・ わざわざ我を迎えに・・・」


「そんな訳ないでしょっ。あんたはこれから家畜の餌になるのよっ」


転送ゲートが開いてずるんと気持ち悪いヤギが出て来た。


ヒッとリッチーは怯える。アーノルド達もブルッと震えた。


ヤギは超こってり魂にヨダレを垂らす。


おぞましい雰囲気を出すなこのヤギ。初見だったらお漏らししたかもしれない。この世界の魔物でこんなのがいたら厄災だ。


「食って良し」


ラムザがそう許可を出すとヤギは人の歯を剥き出しにして魂にかぶりつく。


「うっぎゃぁぁぁぁぁぁあっ」


そのままかじり取るのではなく、ヤギが牧草を食うように租借しながら魂を貪っていく。ラムザの一気にズルルルっといかれる方がまだマシだ。


魂を咀嚼されている間リッチーの断末魔が聞こえ続け、ようやく魂は消滅した。おやつをくれた俺にヤギが嬉しそうに懐いてくる。


ごめんね、君は愛せないかもしれない。


近くに来ると俺を襲わないと解っていても魂が震えるのだ。これは本能的な物より深い反応だから抑えられない。


「じゃ、用事は済んだな。また呼びに来てくれ。楽しみに待っている」


そう手を振ってラムザはヤギを連れて帰った。


俺もバイバイしてると、シルフィードにいつまで手を振ってるの? と怒られた。今消えたばっかりじゃんかよっ。



「ねーねー、ぶちょー。ここで何やってたの?」


「いや、あの汚ったない魂を処理しにきたんだよ」


「そーなのー?  ぶちょー、優っさしー」


そう言って俺に抱き付くめぐみ。やめろっ、シルフィードが見てるっ。


まったねーと上機嫌でバイバイして消えためぐみはシルフィードに不機嫌という置き土産を残していった。


横で不機嫌なシルフィードから甘いかおりがする。しかし、ラムザの大人の甘い香りではなく、赤ちゃんの甘い香りだ。ちなみにめぐみとゼウちゃんは無臭だな。


なるほど、シルフィードに働く庇護欲はこの香りも影響しているのかもしれん。


「何?」


不機嫌そうに俺にそう聞くシルフィード


「いや、いい匂いだなと思って」


そう言うと馬鹿っ 変態っ! と真っ赤になって怒られた。


しまった。女の子に匂いの話をするのは厳禁だった・・・


しかし、例え赤ちゃんっぽく感じてもいい匂いと思うのは相性は悪くないのだろうなとかゲイルは思っていたのであった。



リッチーが消えたあとの部屋を調べて見る。手帳があったけど日記みたいなので読むのは止めた。日記はプライバシーの塊だし、ろくでもないことを書いてあるような気がしたからだ。これは焼いておこう。


「読まんのか? 坊主なら読めるじゃろ?」


「どうせろくな事を書いてないよ」


そう答えて日記は焼き払った。他に見付けたのはIDカード。名前は俺でも知ってるIT界の風雲児。わずか14歳で様々なシステムを開発した有名なやつと同姓同名だ。その後に危険なシステムを裏で開発しているのがバレて消えたけどこっちに来てたのか。めぐみが初心者応援システムで過去に送った魂なのは間違いないな。リッチーの鑑定も同じ名前だったからな。


このIDやノートパソコンみたいなものとかスマホやタブレットみたいなものは貰っていこう。調べたら俺にも作れるかもしれん。あとプリンター。これがあれば魔道具量産が飛躍的に出来る。パソコンで魔法陣を作ってプリントアウトすればめちゃくちゃ楽だしな。縮小も出来るから様々な物が小型化出来る。俺に取ってはお宝の山だ。


隠し金庫には金のインゴットがたくさん入ってた。アーノルドとアイナはやったーと喜んでいたがドワンと俺は光が消えた目でそれを見ていた。


それ、全部あげる・・・


階段を降りながら各部屋を散策する。珍しい剣とかの防具はなく、調度品や絵画とかは貰って、金目の物はアーノルド達に。俺が飛び付いたのはボールペンとシャーペンだった。


「これでこの遺跡は踏破したわね」


「他の所はどんなの?」


「まぁ、色々だ。それはまた今度行こう。この財宝はダン達にも分けてやらんとな。さ、帰るぞ」


一応、ここの入り口に座標を置いてドラゴンシティにドアで帰ることに。


あれ? 冒険の醍醐味はいいのか?


アーノルドもアイナも歩く気はなく、さっさとドアを出せと言ったのであった。

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