第642話 生蕎麦
めぐみ達は夜の間に帰り、ラムザは朝までここで寝ていた。
夜明けまえに目が覚める。みな遅くまで飲んでたから起きたのは俺だけだ。
「うぅ・・・、ゲイル。頭が痛いの・・・」
ラムザが目覚めた。しかし、そんな甘えた声で言うでない。ちょっと可愛いとか思ってしまうじゃないか。
「まずはこれを飲め」
と二日酔い防止ポーションを飲ませる。飲んだ後でも効くのだよこれは。
「魔力が欲しい・・・」
ここはラムザの国より空気中の魔力が薄いからな。それが影響しているのかもしれん。高山病みたいなもんか。
悪魔の実を剥いて食べさせる。
まだ足らないと言うので、どれくらい足りないのか断ってから
魔力100万とかあるのか。9999までしか表示されないめぐみの世界とは違ってちゃんと表示されてる。それが今は60万くらいか。ずっと魔力が減る経験していないから辛いのかもしれん。
魔力水を飲まそうとすると吐くかもしれないと言うので、直接魔力を補充してやると、どんどん顔色が良くなるラムザ。軽い吐息が艶かしい。
「楽になった・・・ ゲイル」
朝っぱらからそんな艶っぽい顔をするな。
まぁ、楽になったと言うことは酒より魔力が減った影響なのかもしれん。
「礼だ。好きにしていいぞ」
こら、両手を出して足を開くな。
「我をそのような目で見ていたではないか?」
「そんな目で見てない、それは鑑定だ」
ということにしておく。
「おはよー」
ビクッ
シルフィードが起きてきた。良かった、今までの事を見られてなくて。何にも悪いことをしていないのに朝っぱらから後ろめたい。
朝食は出汁巻きとアサリの味噌汁。昨日のごはんの残りで焼おにぎりにした。飲んだ翌日はシジミの方が良いけど持ってないからな。次の冬にあの湖に捕りに行こう。もうずいぶんと行ってないから主も寂しがってるかもしれない。
ラムザもそれを食べて又来ると言って帰って行った。
さて、洞窟だ。いつ襲われても良いように万全の体制で臨む。鑑定しっぱなしにしてみる。別に倒さなくてもどんなやつか見たいだけだからな。
ふわっとファントムが現れて鑑定結果が出た。
やはりファントムはスキルを食うみたいだ。なんの為に食うのかわからんけど、ライトの魔法を強くしたら逃げていった。
「討伐したのか?」
「いや、追っ払っただけ。やっぱりスキルを食べるみたいだね」
もう用は済んだので撤退する。おそらくあの系統はクリーン魔法で倒せるけど、ここには誰も近寄らないみたいだし、外にも出ないようなので放置でいいだろう。自分にいやなスキルが付いたら食ってもらわないとダメだからな。討伐してしまってはダメなのだ。
リッチーのいる遺跡は鉱山都市に近いらしいので、先に鉱山都市の見学へ。ダンはそんな旨い物はなかったと言ってたけど、掘り出し物があるかもしれない。
鉱山都市へはバイクで移動する。
「なんかドワーフの国っぽいね」
「鉱石が採れるところはどこもこんな感じじゃろう」
ここにはガラの悪そうな奴らもたくさんいるし、温玉しなくてもこってりとわかる奴もいる。ここはそれでも成り立っているのだから放置することに。
ブラブラと街を見て回るも楽しそうな物はないし、皆が熱狂しているのは闘鶏ならぬ闘ゴブリンだ。ギャンブルに熱狂して負けたらいかさまだぁっとか言ってるけど、俺達は魔物の強さが判別出来るので結果が細工されているようではないみたいだ。細工されてるのは予想している予想屋とかか。強そうに見えて弱いゴブリンとか選んでるんだろうな。
「父さん、俺達が掛けたら全部当てられるよ」
「今さらこんな金儲けする必要ないだろ?」
それはそうだ。銀貨1枚が10枚になってもこの小指の先程の純金より安いからな。
飯を食いに食堂へ行くと肉は全て魔物の肉。パンはそこそこ高い。
えーっと、一番安いのはだんご? なんのだんごだろうとそれを注文。ちゃんとした飯はバッグのを食べよう。
愛想の悪い店員にドンっと出されただんごは灰色をしていた。これ・・・
アーノルド達はミノタウロス肉を食べていた。それが一番高いメニュー。そこそこ旨いのは知ってるけど俺は牛肉の方がいい。
ドワンからそんなものを食うのか? と言われたけど、これ蕎麦がきだよな? ペペっと塩降ってあるだけだからさほど旨くはないけど蕎麦の味がする。
鑑定結果は魔ソバ。これ、めぐみが生そばってのをマソバと読んで魔ソバになってるんじゃないだろうな?
生そばはキソバって読むんだぞ・・・
まぁ、蕎麦なのは間違いないだろう。
店員にこれの粉を売ってるところを聞くと嫌な顔をしたので、銀貨1枚握らせるとめちゃくちゃ笑顔になって教えてくれた。
その店に行き、すでに粉になった物と挽く前の物を購入。めっちゃ安い。勝手に生えているものを採ってくるかららしい。
他には見るところがないので鉱石都市を後にした。
夜営している時に皆は焼き肉を食べているなか、蕎麦打ちに挑戦してみたけど素人に十割蕎麦は無理だな・・・。小麦粉を混ぜて二八蕎麦で再チャレンジ。
何となく蕎麦っぽくなったので、出汁を作ってザル蕎麦にしてみる。
うん、素人の蕎麦の味がする。ポソポソだ。しかし蕎麦が手に入ったのはラッキーだった。俺はこれをマスターしようと心に誓う。俺は天そばを食いたいのだ。あとカレー蕎麦とか寄せ鍋の出汁で食う〆の蕎麦とかめちゃくちゃ旨い。鍋の〆の麺はラーメン、うどんが多いけど、俺は蕎麦をしゃぶしゃぶして食うのが好きだ。
ドワンにちょっと食わせてみろと言われたがまだまだダメ。これを食ったら蕎麦は不味い物と認識されてしまうからな。
「まだ下手くそだから上達したらご馳走するよ」
本番は冬の鴨鍋の時だな。鴨の脂が溶けだしたこってり醤油味の鍋と白髪ネギに蕎麦を入れて食うのだ。あ、ジョージに蕎麦焼酎を作ってもらおう。きりっと冷やした蕎麦焼酎に氷を入れて、ザル蕎麦をずぞぞぞっと・・・ これは夏の楽しみだな。春には南の領地に行くあの山の宿場町で山菜蕎麦に・・・。
一人蕎麦の食べ方を妄想してじゅるるるとヨダレを垂らしていたのか、いきなりシルフィードに口元を拭われて我に戻った。
「そんなにお腹空いてるならちゃんと食べればいいのに。はい、あーん」
いや、親の前で恥ずかしいからやめて・・・
こらっ、アーノルド、アイナ。そんな微笑ましい顔で見るなっ。
断るとシルフィードが悲しそうな顔をするだろうから、それだけ食べて後は自分で食べた。うん、焼き肉とエールは正義だ。
翌日からはせっかく冒険に出たんだからと徒歩で遺跡まで行くことに。こうやって駄弁りながら行くのもいいだろ? とアーノルドに言われたからだ。アイナもそうそうと同意していた。
2日ほど歩いたらアイナがバイクで行きましょうと言い出した。駄弁りながら行く醍醐味はどうしたんだよ?
バイクに乗ってまた2日くらい移動して遺跡に到着。歩いてたらかなり時間食ってただろうな。
洞窟というより岩の裂け目といった方が正しいところに入っていく。入るなり魔物が多いわ。
自然の岩から人工的な物へと変わった所で内部が広くなる。遺跡ってこんなんなのか・・・ というより、元の世界の建物によく似ている。天井に付いてるのライトの魔道具だよな?
形は蛍光灯に似せてあるからアーノルド達にはそんな風に見えないみたいだが。
上に上がるのは非常階段だろうか?
結構あちこち崩れているのが怖い。魔物はアーノルド達が倒してくれてるので部屋のドアを開けたりして中を見ていく。
「ゲイル、この辺は発掘済みで何もないぞ」
何もかも持ち出しのだろう。がらんとしているから見ても無駄かもしれん。が、俺にしかわからない物もあるかもしれない。
時間はたっぷりあるから別にいいじゃんとアーノルド達に伝える。
ヘッドライトとライトの魔法を点けてるから暗くはないけど、この建物のライトが点けば見やすいのになと思う。
「さっきの階段上ってきたけど、下に降りたら何があったの?」
「頑丈な扉があってな、先には進めん」
「じゃあ、一番下から見ようよ」
「扉があると言っただろ?」
「俺なら開けられるかもよ」
ということで一番下まで降りることにした。
崩れかけた階段は土魔法で修繕しながら降りていく。
「ここだ。な、びくともせんだろ?」
確かに銀行に設置されてるようなばかでかい丈夫そうな扉が鎮座している。取手もハンドルとかも何も無いから普通には開けられなさそうだな。錬金魔法で溶かせると思うけど、防犯装置がセットされてる気がする・・・
扉をどうこうする前に何かヒントが無いか探してみようか。
ゲイルはライトの魔法を強くして周辺をよく見るのであった。
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