第641話 いざ冒険へ
「ぼっちゃん、付いていかなくて大丈夫か?」
「ダンは俺より優先して守らないとダメな者が増えただろ? これは遅くなったけど出産祝いだ」
テディが産まれた時と同じ重さの熊のぬいぐるみをプレゼントする。産まれた日と体重、名前が書いてあるプレートを22金(ミスリル混)で作って首から下げてある。このプレートだけで庶民の家位買えるかもしれない。将来金に困ったら売るといい。
「めっちゃ可愛いやん。ありがとなゲイル」
「この子は魔力が多いから、無意識に魔法を使うかもしれん。もし吐いて倒れたら魔法水を少し飲ますと大丈夫だから」
妊娠中に魔界の果実をミケがばくばく食った影響か、テディはエルフ並の魔力を持っている。俺がいない時に予想外の事が起きても慌てないように忠告しておく。
「あとチャンプが起きてきたらこの手紙を読ませて。ダン達は会話出来ないだろうから」
「なんて書いてあるんだ?」
「すぐに帰ってくるから、ニャゴヤタワーで待っててと書いてあるんだ」
「すぐってどれくらいだ?」
「チャンプからしたら俺が死ぬ頃に帰ってきてもすぐだよ」
「そりゃ、そうか」
とダンも笑った。スパイスの運搬は砂の国とドラゴンシティに転送魔法陣を設置した。会話機能付きだ。支払い用の水の魔法陣もたくさん用意してあるし、もういらないと言われたらウエストランドの通貨か肉や野菜、酒とかと交換することになっている。
一応人の転移は止めるように言ってある。万が一故障した時のことを考えると怖いのだ。汚魂達はどうせ食われるのだから別にいいけど。
ちなみに砂の国を治めるのはシェアラの父さんになった。これでシェアラも姫だな。いい人と結婚してくれよ。国を治めるのは大変だからな。
「ゲイル、私も一緒に行きたい・・・」
「チルチルは勉強する時期だからな。お留守番だ。ちゃんと強くなったら連れてってやるよ」
「ケチっ!」
その辺に連れていくならいいけど、遺跡探掘だからな。ちょっと今回は無理だ。
「チルチル、お前はテディの面倒を見る仕事もあるだろ? ちゃんと自分でやらないといけないことをやれ」
チルチルは学校の勉強はほとんど必要がなく、俺が作った問題集をやって、テディの面倒を見る仕事で稼いでいた。朝はダンに剣の稽古を付けてもらっている。
「チルチルよ、帰ってきたらお前の剣を作ってやるわい」
「本当?」
ドワンもチルチルには甘かった。
俺、シルフィード、アーノルド、アイナ、ドワンの5人で冒険に出発。やっとこの時が来た。
最初に向かうのはあのミグルのスキルを食ったファントムがいる場所だ。昔、ミグル達が行った冒険者殺しの洞窟。アーノルドが場所を知っているからな。
「なんであんな所に行きたいんだ?」
「興味本位だよ。ファントムだっけ?」
「あぁ、何を奪われるかわからんぞ?」
「攻撃を食らったらでしょ?」
「そりゃそうだけどな」
俺は唯一ウエストランドで行ったことのない地域、北方面へとむかった。
聞く話では北の中心は鉱山都市で犯罪者が数多く送られ出来た街だ。治安は宜しくない。ミスリルを探しに行った時はこの街を避けて北上したからお初なのだ。
犯罪者の数が減り、労働者も増えたから昔ほど治安が悪いわけではなさそうだけど。
粗末な村が点在し、それより山側に鉱山都市がある。
飛行機で移動しているから楽チンだ。
「なぁ、ゲイル。これは冒険といえるのか?」
「目的は冒険者殺しの洞窟と遺跡だからね。移動は楽な方がいいじゃん」
「冒険の醍醐味ってのがだなぁ・・・」
「じゃあ、父さんと母さんは歩いて来る?」
「いや、このまま向かおう」
そう、人は楽に慣れると昔には戻れないのだ。
まずは冒険者殺しの洞窟付近に着陸して飯を食うことに。シルフィードも飛行機酔いしなくなって平気そうだ。
「何食べる? なんでもあるよ」
「焼き鳥でいっぱいやるか!」
「いいねぇ」
飲めるようになった俺はウキウキしながら焼き鳥の準備を始める。串に刺すのは皆でやった。シルフィードはご飯係。
ピーピー
準備が出来たと思ったらめぐみかよ・・・
「ねぇ、何してんの?」
長年付き合った彼女かお前は?
「今から焼き鳥でいっぱいやるんだよ」
「じゃ行く♪」
ポンとゼウちゃんとやって来た。
アーノルド達ももう驚かない。電話が鳴ったらだいたい来るからな。
「ねぇねぇ、焼き鳥にもこってり系はあるの?」
肝のタレとかそれになるかな? あ、アーノルド達にラムザを紹介しておこうか。
「ラムザを呼ぶけどいいか?」
「いいわよー♪ きったないの食べてくれてるから最近楽なのよねぇ」
それで頻繁に来るようになったのか。
「ゲイル、ラムザって誰かしら?」
「魔王だよ。人殺しとかしたやつの汚れた魂を食ってくれてるんだよ」
は?
アーノルドは驚く。
「ゲイルはのぅ、魔法陣のゲートで犯罪者どもを捕獲して魔王に食わせてるんじゃ。理由を知らんかったら悪魔の所業じゃぞ」
ドワンもあのシステムにはドン引きしていた。みなだんだんと慣れていってるけど。
よくよく考えると今までやって来た事と変わらないのだ。盗賊に出くわしたら討伐してたし、南の領地に行くところに居た盗賊団とか殺した挙げ句に首を晒してたからな。違いは生まれ変われないようにしていることだけなのだ。
「父さん。魔王は半裸の女性だから見とれないでね。母さんに殴られるよ」
と忠告をしておく。
「ラムザ!」
ガチャ
「きゃあぁぁぁぁぁ 。ゲイルさんのえってぃぃぃぃぃ」
バタン
なんで親がいるときに限ってイベントが発生するんだよっ! あっ、めぐみがここに居るからか・・・
きっと再放送でも見てきたに違いない。
ラムザの裸を思いっきりみてしまった。繁殖しないはずなのになぜ先っちょもあるのだ・・・
もういいかな?
「ラムザ!」
コンコンっ 無駄かもしれないけど先にノックをしてみる。
ガチャ
「おぉ、ゲイル、さっきはなぜか変な言葉が出てしまった。すまんな」
いや、それはこっちが悪いのだ。
ラムザはブラを止めながら俺と会話をしていた。
何も言わないのにこちらにくるラムザ。アーノルドとアイナに紹介をする。
アーノルド、見てる見てるっ! 胸に目がいってるっ!
案の定、アーノルドはアイナに脇腹を引きちぎられていた。
シュワシュワと治癒の魔石から光が出てアーノルドの脇腹が治った所で飯を食べ始める。
「おぉ、特にこの肝とボンジリというのはたまらんな。こういうものがあるのならわざわざ魂を食う必要もないかもしれん」
ラムザ達は魔力のみで生きているから何も食べる必要はない。魔界の実も魔力を補充するサプリメント的な物であり、食べ物らしきものはあれだけ。そりゃこういうのを食べたくなるよな。
もう串に刺すのは面倒なので、網にどちゃっとのせて勝手に焼いて食べて貰うことに。
めぐみは俺に焼いて♪ と言うけど。
「さっきから何を飲んでいる?」
「エールだよ。めぐみ達が飲んでるのはリンゴのお酒。父さん達が飲んでるのはウィスキーという蒸留酒を炭酸で割ったものだよ」
「旨いのか?」
「旨いかどうかは人によるね。どれか飲んでみる?」
と聞くとうむと俺のエールを飲む。
シルフィードは間接キスした・・・ とか言うけど、この世界の人は誰もそんなの気にしないよね?
「うん、これはなかなか・・・」
ゴッゴッゴッゴ、プハーーッ
「なんなのだこれはっ」
「他のも飲んでみる?」
とリンゴのお酒とウィスキーのソーダ割りを出す。
「うむ、うむ、どれも旨いがゲイルのが一番旨いな」
俺を味見したかのような発言はやめてくれ。
それから肝→エール、ボンジリ→エールのコンボをガンガン行くラムザ。
まぁ、めぐみ達もいくら飲んでも酔わないし、ラムザも魔王だから大丈夫だろ。
俺も焼き鳥とエールを堪能したので、鶏の刺身とタタキで日本酒でもいきましょっかね。
一応クリーン魔法を掛けて、ササミを刺身とさっと表面を炙ったタタキにする。刺身はワサビ醤油、タタキはネギポン酢だ。旨っ! 日本酒も旨いねぇ。
「何食べてんの?」
「ササミの刺身とタタキだよ。食べる?」
と聞くと俺の箸からパクンと食べるめぐみ。
「美味しっ♪」
「わっ私もっ」
口を開けるシルフィード。
めぐみとシルフィードが口を開けるので交互に口に入れていく。ヒナに餌をやる親鳥の気分だ。
あっちはあっちで、ゼウちゃんとラムザを交えて飲み比べとかやってる。皆楽しそうで何より。ダンとミケも飯の時に呼んでやればよかったかな? いや、そうするとテディを連れてくるし、同時にチルチルも付いてくる。
きっとミケは俺にハイとテディを渡すだろう。マリアの時の事を知ってるからな。で、俺はテディを抱きながら
ダン達を呼ぶ時には神と魔王はなし、神と魔王がいるときはダンなしだ。これで行こう。ドゥーンがもう少し大きくなったらミーシャを入れて3交代制にするか。
そんなことを思いながら、めぐみとシルフィードにひょいぱくさせてるとフラフラっとラムザがこっちに来る。
「ゲイル、なんかフラフラする。なんなのだこれは・・・」
そのままこてんと俺の肩に頭を乗せる。
痛い痛い痛いっ
ヤギの巻き角が肩に刺さってるわっ!
ぐったりしたラムザを抱き抱えて寝かせにいく。
「ラムザって、魔王なのに酒に酔うのな?」
戻ってめぐみ達に聞く。
「あの娘はΠΦιθλの星の娘でしょ?」
ん? 一部聞き取れない。しかし、日本語で話したというのとは他に聞かれたらまずい話なんだな。
「そうなの?」
めぐみが驚いたから俺が聞き取れなかった部分は神語なのだろう。めぐみ達と同じような存在かと思ってたけど、他の星を作ろうの住人だったのか。
ん? 待てよ・・・
「ゼウちゃん。他の星の世界とこの世界の住人は行ったり来たり出来るの?」
「元々は出来なかったのよ。魂のやり取りも禁止だったし、私とめぐみはこっそりやってたけど」
「元々は?」
「いつの間にか召喚システムってのが搭載されてて、条件を満たすと他の星から魂を肉体ごと召喚出来るようになってたのよねぇ」
おーう、異世界召喚ってやつか。
「条件って?」
「膨大な魔力よ。だから私の星からは召喚出来ないわ。持ってかれるだけ。まぁ、そんなに頻繁にある訳じゃないし、召喚もランダムだから気にしてないけど」
「持ってかれたら周りの人びっくりするじゃん」
「その人に関する記憶を持った魂からその記憶がデリートされるのよ。だから星の住人には影響ないの」
「俺の場合は?」
「大丈夫よ。召喚システムを使ってないから」
「俺が使ってるドアは?」
「自分で自分を召喚してるのよ」
「魔王の国に行っても皆の俺の記憶が消えてないよね?」
「自分の意思で召喚されたら記憶は消えない転移扱いになるわ。あと同じ星で移動する場合も同じ。召喚じゃなくて転移」
「俺がドアを開けて、同意無しに誰かをラムザの所に連れてったら回りの人からその人の記憶が消えるってこと?」
「さぁ、どこまでが自分の意思と判断されるかやってみる? その辺の人間捕まえて試してみたら?」
ゼウちゃんもサラッと恐ろしい事を言うよな。
「もし俺が元の世界に行ったらどうなるの?」
「いけると思うけどもうこっちに帰れなくなるわよ」
「どうして?」
「魔法が使えない世界だもの」
なるほど・・・ 聞いといて良かった。
ゲイルとして元の世界に行っても変人扱いされて終わりだ。もし妻や息子達に会えても気付かないだろうし、魔法に慣れきった俺は元の世界にもどっても何も出来ないからな。
ずっと日本語で話してるからみんな変な感じになってるな。めぐみはちんぷんかんぷんだし。
その後、ゼウちゃんに汚魂ホイホイの話をしたら、私も少しは魔法を使える星にしておくんだったと言っていた。
神様にとって勝手に星の住人が汚魂を処理してくれたり、こうやってご馳走してくれるのは夢のような状況みたいだった。
ゼウちゃんは嬉しそうにシルフィードと焼き鳥食ってるめぐみを見て、あの娘が一番星を作ろうで成功してるわねと言っていた。
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