第640話 システムの理解が進む

ミーシャの出産が近付いた。


またそわそわと部屋の前でうろうろするゲイル。マリアも俺の真似をしている。


「ぼっちゃん、落ち着いて下さい。大丈夫ですよ」


端からみたら俺とザックの立場は逆だろう。



この前、めぐみに魂はいつ入るんだ?と聞いてみた。


「魂が入ると生まれてくるのよ」


「そうなのか?」


「ひとつの身体に魂が二つあるのは違和感なの。だから出てこようとするのよ」


へぇ。


「それまでの赤ちゃんには魂がないんだ?」


「そうよ。だからただの肉と同じね」


肉って・・・


流産は魂が上手く入らなかったり、定着出来なかったりしてなるものも含まれるみたいだ。生後も魂が上手く定着出来なかったりすることで、赤ちゃんが亡くなったりするとのこと。その魂は洗浄する必要がないからすぐに他の肉体に入るそうなのだが。人はそんな事知らないからな。流産や死産したら悲しみにうちひしがれるんだぞ?


それを肉って・・・


めぐみの話にドン引きしたが、どこか救われるような気持ちにもなる。死は魂が肉体の交換をするだけなのだと。


記憶はリセットされるから現実には同じではないけどね。



オギャア オギャアっ


「生まれたっ!」


しばらくしてザックとマリアがミーシャの所へ。マリアは俺の子供なんじゃ? とか噂されているのを知っているので先に飛び込まない。一番はザックのものなのだ。


「ぼっちゃん、男の子ですっ」


ザックが呼んでくれたので中に入る。


ミーシャは治癒魔法と回復水のお陰で元気だが顔色は土色だ。


「よく頑張ったなミーシャ」


「はい、マリアの時より楽でした」


今度は予定通りに生まれた事と二人目ということもあって、生まれて来るのも早かった。


「ぼっちゃん、この子はドゥーンです」


「名前を決めてあったのか?」


「はい、男の子だと確信していましたので」


それ、外れた時ショックなんだぞ。


俺には次男が生まれる前に女の子だと確信してたから、がっかりしてしまった後ろめたい記憶がある。


確信とは願望なのだよ・・・


どうぞと言われたのでそっと抱かせて貰う。


「初めましてドゥーン。ぼっちゃまだよ」


自分でぼっちゃまというのもなんだけど、ミーシャとミーシャの子供はずっと俺の事をそう呼ぶだろうからな。


・・・?


ふと気になりザックに聞いてみる。


「ドゥーンって名前はどうやって決めた?」


「いえ、なんか思い浮かんだんです」


俺はさっと鑑定てみた。


なんだよ・・・ そういうことかよ。


ハハハハハっ


「ドゥーン、今度はたくさん遊びに連れてってやるからな。早くおっきくなれよ。その間に冒険の話をたくさん溜めといてやるから」


「今度は?」


ザックが不思議そうに聞いてくる。


俺はなんとも言えない涙で溢れた。


鑑定の結果、ドゥーンは生まれながらにスキルが付いていた。


【スキル】王の威厳


ほら、また会えたじゃんかよっ。ずいぶん短いお別れだったな・・・


おそらくドン爺とミーシャの魂は大昔に縁があったのだろう。王が一介のメイドをあれだけ気に入るとかおかしいと思ってたんだよな。


「ぼっちゃん、ど、どうしたんですかっ」


「いや、この子は立派な跡継ぎになるぞザック。俺が保証してやる。お前なんか足元にも及ばんからな。さっさと跡を譲れよ」


産まれたばかりの赤ちゃんに足元にも及ばなくなると言われて複雑な顔になるザック。


この事は誰にも言えないけど、きっと楽しい人生を送れるだろう。今度は自由な庶民なんだから。



それからしばらくしてミケも出産した。ミーシャと違って超安産だ。もうスッポーーンて感じで産まれて来た。


残念ながら猫熊パンダ)ではなかった。しかしクォーター獣人だからか獣人の容姿を残してるのか、耳は小さく丸い。しっぽもそれに合わせて丸く短い。男の子だけどめちゃくちゃ可愛い。熊の赤ん坊みたいだ。


「ゲイル、抱いたってや」


ミケは出産直後から普通と変わらない。獣人の血が入るとタフだな。


ダンは嬉し涙が止まらない。うぉんうぉんと泣いている。


「名前は?」


「テディや」


うん、ぴったりだ。


「良い名前だな。きっと人気者になるぞ」


体重は2900gか。同じ重さの熊のぬいぐるみを作って出産祝いにプレゼントしよう。


二人の出産も無事に終わったので街道と宿場町作りを再開する。


あ・・・、 まだ宿場町がオープンしてないのにもう汚魂ホイホイに掛かってる奴がいる。


ドラゴンゲートみたいに光ったり吠えたりはせず、ゲートをくぐって、こっさり以上だったら牢に行く道に繋がるようにしてあるのだ。罠に掛かると牢のランプが点滅するようにしてある。


「おいっ! なんだよこれはっ! ここから出せっ」


3人か。一応温玉すると3人ともこってりだ。


こいつら何やったんだろ? 尋問するの面倒臭いなぁ。チャンプみたいに魂の記憶が読めたら楽なのに。


ん? 俺にめぐみの代行者のスキル付いたから、俺にも読めるのか?


温玉したまま魂に触ってみる。


うわぁぁぁぁぁっとか悲鳴をあげるけど気にしない。こいつらは汚魂だからな。


おー、記憶読めるじゃん。しかし、こいつら酷ぇことしてやがるな。荷物を差し出した商人を皆殺しか・・・


他の二人も一緒にやってたから見るまでもないな。


「ラムザ!」


カチャ


「お、ちゃんと呼びに来たか」


「いま3こってりあるけどどうする?」


「頂こう」


じゅるるるるる~


「お代わりはあるか?」


「肉とか食う?」


「いや、食わんが旨いのか?」


というので焼き肉をして食べさせてみる。


「おぉ、これもこってりして旨い。こんな物がまだまあるのか?」


「味の濃い食べ物はまだたくさんあるよ」


「よしっ、それはいつ食わせてくれる?」


「また呼びにいくから楽しみにしてて」


礼だと言われてパフパフを食らう。今日は半裸なので余計に刺激が強いわっ。


ついうっとりとしてしまった自分を戒める。次からは気を付けよう。パフパフと下僕が本当にスキルになってしまう。


牢で転がってる死体を焼き、クリーン魔法を掛けておく。


だんだん死体を見ても焼くの面倒臭いなとかの感想しか出てこないゲイル。めぐみの代行者がスキルに昇格したことで、めぐみの思考に近付いていくことにはまだ気付いてはいないのであった。


あちこちの牢に捕まった汚魂をいちいち確認して行くのが面倒なので、あのドアのシステムをどうにか魔力を少なくして改善出来ないか試行錯誤をしていく。


実験の結果、無線で転移や会話をするのには莫大な魔力が必要だが、有線なら魔石で対応出来るぐらいでいけることが判明する。


銅とミスリルを取りに行き、長い長い魔道ケーブルをドワンと作っていく。それをドラゴンシティと砂の国まで設置した。


汚魂ホイホイが反応した奴等はドラゴンシティの生け簀に転送。ある程度貯まったらラムザを呼びに行く。死体はこっさりを一人選んでスライム槽へ捨てることで解決した。


めぐみの思考と魔王の思考に支配されていくゲイルの思考。


「よくこんなえげつない事を考えついたよなぼっちゃん・・・」


俺はダンにドン引きされてふと気が付く。


「これ、俺が考えたんだよね?」


「何言ってんだ。当たり前だろ」


良く良く考えてみると恐ろしいシステムだ・・・


けど、自分の利益の為に人を殺した奴が悪いのだとすぐに自分で納得した。


あっさりは悔い改めるチャンスあり。こっさりとこってりするような奴は生まれ変わっても同じ事をやる。こびりついた汚れは落ちないのだ。多少の汚れは誰にでもあるけど、普通はあっさりまでにもならない。こっさり以上は不要魂だと割りきった。


久々にディノスレイヤ領の森の小屋にシルフィードと獣人達の様子を見に行くとめっちゃ増えてた。


安全かつ、適度に食料が手に入るこの森は繁殖に適しているみたいだ。


前の森は魔物も多く、こんな言い方をするのはなんだけど、適度に間引きされてたのだろう。めぐみがノーマルガチャを再開して魂が増えたのも影響しているのかもしれない。あちこちで出産ラッシュが発生しているからな。


もうすぐここも手狭になりそうだな。


さて、どうしようか。



冒険に出がてら新天地を探してやればいいかな。


ゲイルはアーノルド達とドワンと冒険に行く予定が伸び伸びになっている。ドワンには変わりがないが、人族の老化は早い。アーノルド達がくたびれてしまうまでに冒険に行こうと心に決めたのであった。


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