第638話 踊り食い
ぞくぞくとやってくるセントラルからの移民。ドラゴンシティだけで受け入れるのは困難になり、他の領地にも移民の受け入れ打診をするが、方針がドラゴンシティと違いすぎて行きたがらない人ばかりだ。
仕方がないので、ディノスレイヤ領とフンボルトに任せた新領に移住を打診し、ロドリゲス商会に大型馬車を出してもらって運んで貰う。
こっちに来るときには食料や服を運んで貰った。
汚魂はドラゴンゲートでバンバン弾いているから善良な人ばかりだ。
そこで問題が発生。
弾かれた奴等がセントラル側で移民希望者を襲う盗賊と化し被害が出だしたのだ。
半壊したとはいえ他国の土地だからこちらからはなんとも出来ない。セントラルの建て直しは生き残った貴族が中心にやればいいと思っているので俺はお節介を焼きに行ってはいない。こちらは移住を受け入れるだけでいいのだ。
しかし、放置するのもなんだかなと思う。
「ダン、どうすればいいと思う?」
「こっちがなんとか出来る問題じゃねーだろ?」
「そうだよね・・・」
チャンプにプチっとやってもらってもいいんだけど、ずっとあそこで寝てるからな。あいつにとってのちょっと寝てくるちょっとはもう俺が死んだ後に目覚めるくらいの時間かもしれない。
今はあれから半年が経ち、街はだいぶ再建がすすんだ。グリムナが詫びだと言ってエルフ達を投入してくれたのも大きい。主食や野菜を育ててくれた。バンデスもこれからは武器がそんなに売れなくなるじゃろとドワーフ達に違う仕事を覚えろと大工や魔道具職人へ転職を勧めていた。ドワーフの国で採れていた鉱石もだんだん減っているらしい。これも時代の変化だと言うが少し寂しそうだった。
ミケのお腹も目立つようになり、時々触らせてもらってる。ミーシャもだいぶお腹が大きくなり、マリアはしょっちゅう俺が預かっていた。儲かってるんだからメイドを雇えばいいのに。
しかし盗賊どうするかなぁ? あのこってり魂を食べるラムザ達が来てくれるといいんだけど。今ここでこってりラーメンを食べているめぐみも呼び出し方を知らないらしい。ゼウちゃんはなんか忙しいらしく来ていないが。
ちなみに俺はこっさりを食べている。
「お前、よくこってりだけそんなに食べられるよな?」
「なんか嫌なんだけど、やめらんないのよね・・・」
ちょっとわかる俺が嫌だ。
「今度違うラーメン作ってやろうか?」
「どんなの?」
「天・ラーメンだ」
「天・ラーメン?」
「そうだ。早い時間に食べると白菜があんまり煮えてなかったり、遅い時間だとどろどろに溶けてたりするラーメンだ」
「なんなのそれ?」
「食べてみたかったら味を研究しておいてやるよ」
「うん♪」
めぐみはしょっちゅう来るからだんだんとツレみたいになっていってる。なんだかんだ言ってめぐみの我が儘を聞いてやる俺にシルフィードはおもしろくなさそうだけど。俺の中ではシルフィードにも色々としてるつもりなんだけどね。
翌日、昔にダムリンを追いかけて追い詰めた路地に行ってみる。ここで魔力を込めて名前を呼んだら応えるかもしれないからだ。他に接点はないから試せるのはここだけだ。
「おーい、ラムザー」
しーん・・・
何度やっても転移ゲートは開かなかった。
帰ろ・・・
ドアを出して屋敷に帰るまえに試しにラムザと唱えてドアをあけてみる。
「誰じゃ貴様・・・ もしかしてゲイルか?」
いやーんえってぃぃぃにはならなくて残念・・・ いや、そんな事より繋がったじゃねーかっ。
「入っていいかな?」
「お前はゲイルなんだな? ずいぶんと変わったな。さ、こっちへ来い」
ドアを通って魔界へ。
「なぜ大きくなった?」
は?
「あれから何年経ってると思ってるんだよ?」
まさか時間軸が違うのか?
「そうか、人間はすぐに大きくなって死んでいくのだったな」
うん、悠久の時を生きる者達の感覚はこんなもんか。知人が飼ったゴールデンレトリバーみたいなもんだな。次に遊びに行ったら熊かと思うくらいでかかったからな。
「お前が持って帰るの忘れていた実はあそこに置いてあるぞ。これを取りに来たのだろ?」
そんな数年前にもいだ実がそのままなのかすげぇな。
取りあえず全部魔道バッグにしまって汚魂の話をする。
「おぉ、こってりか? こっさりか?」
なんでそんなの知ってるんだよ?
という事でまずは屋敷に移動。こんな半裸のねーちゃんを人前に連れていけん。
ミサに服を見繕って貰おう。ミサが帰ってくるまで部屋で待機してラムザと色々と話をする。
主にラーメンの話だ。それも食べてみたいということなので、汚魂を食べてからごちそうすることに。先にお腹いっぱいになられたら困るからな。
コンコンッ
「ゲイルっ、ミサが帰って来たよ」
ガチャっ
「ヤッホー! ミサちゃんが帰って・・・あーーーっ!」
「どうした・・・、きゃーーっゲイルのえってぃぃぃ!!」
いや、ここでそんなイベントは発生していないだろ。
「シルフィ、ミサ。落ち着け。この人はラムザ。魔族の女王、魔王だ」
「ゲイルは神様だけでは飽きたらず魔王にまで手を出してるなんて・・・」
めぐみにもラムザにも手なんて出してない。
シルフィードはワナワナしながら。
「やっぱりきょぬー派なのねっ」
確かにめぐみもラムザもきょぬーだ。ミーシャもそうだな・・・
「胸なんか大きくても小さくてもどうでもいいんだよっ! それよりミサ、ラムザに合う服用意してくれ。今からドラゴンシティに行くのにこの格好だとお前らみたいな反応になるからな」
ミサが店に走って服を取りにいってくれた。
シルフィードはまだぶつぶつ文句を言っている。
シルフィードにはあれから何度か誰とも結婚するつもりはないけど、これからどうするんだと意思確認はしている。これだけ俺は順調に成長しているのだ。魔力が多いから長生きする説は外れだ。長生きするから魔力が多くなるといった方が正しい。おそらく寿命は種族特性。肉体による違いだろう。シルフィードもミグルもエルフの血を濃く受け継いでいると思われるからな。
シルフィードはまだ子供みたいだ。大人に成長するまでに俺は死ぬだろう。俺の気持ちの問題もあるし、シルフィードと結婚をすることはない。それでもいいと言うからずっとこのままなんだけど・・・。
まぁ、俺が死んでから結婚する人を探しても間に合うからいっか、このままで。
ぶつぶつ言うシルフィードの横顔を見ながらそんな事を考えているとミサが服を持って帰ってきた。全速力だな。
持ってきてくれた服を試していくけど、どれも胸がキツそうだ。
「うむ、これなら大丈夫だ」
最終的に選んだ服は胸元を紐で調節出来るタイプのフレア形ワンピース。
ちゃんと着れてるけど破壊力抜群だな。
魔族の国で見たラムザは紫掛かった肌色に見えたけど、こっちの世界に来ると褐色っぽく見える。ドワーフ達に近い感じだ。あと砂の国のシェアラとか。
「ミサ、ありがとう。じゃドラゴンシティに行ってくるよ」
「夜だよ?」
「盗賊は夜に出るからな。ちょうどいいんだ」
もちろんシルフィードも付いて来た。
「ぼ、ぼ、ぼ、ぼっちゃん。新しい女か?」
新しいも古いもおらん。
「この人はラムザ。魔王だよ。盗賊どもの魂を食べにきて貰ったんだよ」
「は?」
お互いを紹介し、ラムザがどういう存在なのかを説明する。
はぁっ? と驚くダンの目はこぼれ落ちそうなきょぬーに釘付けだ。ミケがそれを見てシャッとした。そうそう、嫁さんが妊娠しているときに浮気をする奴が多いのだ。
ぽわっと治癒の魔石で治るダン。無駄遣いすんなよ。
「じゃ、行ってくる」
「私も行く」
「付いてきてもいいけど、楽しくないよ?魂を食われる断末魔を聞かなきゃならないから」
「いいのっ」
シルフィードは俺とラムザを夜道に二人っきりにさせたくないらしい。
きょぬーのおねいさんと可憐な少女を連れた男一人。格好の獲物だ。あちこちの茂みにいる盗賊が狙ってる。
さて、ラムザが食うスピードがどれくらい早いかわからんな。逃げられんように壁で囲っておくか。
そーっとこの辺り全体を壁で囲っていく。これで逃げられんな。
「へっへっへっ、ご馳走様だなにーちゃん」
それはこっちのセリフだ。
「ラムザ、後宜しくね」
俺がそう言うと唇をぺろんと舐めるラムザ。
「遠慮したらバチがあたるな。有りがたく頂こう」
いや、あんたがバチそのものだよね?
「何をぐちゃぐちゃと ぐきやぁぁぁぁ」
えげつな・・・・
温玉して見てたら肉体から魂を無理やり引きちぎってズルズルっといった。魂の踊り食いだ。
「こってりとこっさりがあるから好きに食べてて。この辺は壁で囲ってあるから」
生け簀に閉じ込められた盗賊達は魔王に狩られていく。ラムザは楽しみながら魂を引きちぎってはすする。逃げまどうシロウオを箸で食ってるみたいだ。
魂を器に入れておいたら噛まずに飲むんだろうな・・・ ポン酢とかいるかな?
魂が見えないシルフィードもおぞましい状況が理解できているのか、俺の腕にしがみついて離れない。だから楽しくないよと言ったのに・・・
魂を無理やり引き裂かれて魔王に食われる盗賊達の断末魔が辺り一帯に響き渡っていた。
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