第637話 後始末
まずはエイブリックが宝物庫に瘴気の確認に向かうと中に入るまでもなく、扉から瘴気が溢れ出て来ていた。
すぐさまゲイルと宝物庫に入る事が許されている者を呼んで来いとエイブリックが命令する。
王家直系で成人している者達が集まり、エイブリックが事の顛末を皆に話す。アル、ミグル、カール君ことガンマランメルも来ていた。
「ここは瘴気に満たされているが短期間なら問題ない。アルお前ならわかるな?」
「はい、父上」
アル以外の瘴気を感じ取れないものでもなんとなくおどろおどろしい物を感じるようだ。瘴気におかされ始めたらこれすら分からなくなるのだろう。
ドアを開けるとブワッと瘴気が出たので浄化をしながら中へ入っていく。俺が倒した蛇からは瘴気は出ていない。
奥のディノの所に近付くに連れて瘴気が濃くなる。
温玉していないのに腐敗臭が漂っている。
ディノの前まで来ると保存魔法が掛かっているはずのディノ身体は腐り始めていた。
「魔石が外されておるの」
ミグルが指摘した所は保存の魔法陣が組み込まれているのだろう。魔石をセットすべき所に魔石は入っていなかった。試しに魔石をセットするとちゃんと起動して光ったので保存の魔法陣で間違いない。
ガラスの壁で密封してあるはずなのになぜ腐敗臭が漏れだしたのか・・・? 宝物庫内の瘴気を浄化してから温玉!
こっちからか・・・
ガラスケースの分かりにくい所に穴が開けられている。ここから瘴気を徐々に漏れだすようにしてあったのか。
グリムナの兄は瘴気の正体を知っていたのだろう。魂の腐らせ方も知っていたからあの魔薬草を作ったんだろうしな。
ディノを見ると魂が二つある。一つは腐ってどろどろになりけた人の魂っぽいのがディノの腐った魂にまとわり付いている。あそこに捨てられた魂がディノの魂に同化を試みたのかもしれない。よっぽど強い意思を持って悪の限りを尽くした魂だったのかもな。俺が初めて見た時に感じたあの威圧はこの魂から発せられた物だったのかもしれない。こんな異常な魂を持つディノをよくアーノルド達は倒したな・・・
「ゲイル、どうだ?」
「うん、このディノに腐った魂が残ってる。今から浄化をするよ」
指輪を外して一気に浄化をすると魂は二つともどろどろに溶けて壊れ、そのまま浄化をして消し去った。ガラスケースがあるにも関わらずえげつない臭いがしたが、腐魂の臭いに慣れたのもあってなんとか堪えられた。
「エイブリックさん。このディノはもう焼いた方がいいと思う。身体も腐ってきてるからね。浄化は終わったからもう瘴気は出ないよ」
その後にアランティーヌとベータランメルの魂の浄化を王家の皆の前ですることに。
まずはベータランメル。物凄く苦しそうなうめき声を上げて苦しむが魂が壊れる事はないだろう。
浄化が終わったベータランメルは自分の犯した罪を白状した。俺がエイブリックに話した内容の通りだった事に他の王族達は驚く。
「アランティーヌよ、大公爵殺し及び国家転覆を図った罪で死罪とする。せめてもの情けだ。弟の俺が首をはねてやる」
魔剣にゴウと炎を纏わせるエイブリック。ダメだ。肉親、それも実姉を殺せばエイブリックの魂には取れない汚れが付いてしまうかもしれない。
「待ってっ!」
「止めるなゲイル。これは父上の敵討ちでもあるのだっ」
「俺が殺る」
「何っ?」
「いかなる理由でもエイブリックさんに肉親を殺させる訳にはいかない。その役は俺が引き受ける」
「ゲイル・・・」
「殺ると言っても魂の浄化をするだけだけど。ただここまで汚れてたら魂は浄化に耐えられずに壊れるから首をはねられるより重い罪になる」
「貴様のせいでっ」
アランティーヌは屈辱まみれにした俺を鬼の形相で睨む。
「アランティーヌさん。俺は怒ってるんだよ。あんなに優しかったドン爺をあんな風にしやがって・・・」
エイブリックも辛そうな顔をする。
「エイブリックさん、お願いだから俺に任せて。最後の爺孝行させてよ」
「分かった。父上があんな穏やかな顔で逝けたのはお前のお陰だからな。お前に託す」
「ありがとう」
「何をする気なのよっ」
「魂を浄化するだけだよ。汚れが酷ければ酷いほど苦しむ事になる。その苦しさがお前の罪の重さだと知れ」
「ぐっ、ぎゃぁぁぁあ」
ベータランメルとは比べ物にならない悲鳴と形相で暴れようとするアランティーヌ。土魔法の拘束さえ壊しそうだ。でも浄化は止めない。
ゴキンっ
激しく暴れようとして自分の腕を自分で折ってしまったアランティーヌ。魂の痛さに加え肉体の痛さが加わる
「ぎぃやぁぁぁぁぁ。お、覚えていなさい・・・ ゲイルっ 生まれ変わっても ぐっ 必ず仕返しを ぐぁぁぁぁぁ」
脅しても無駄だ。お前は生まれ変わることはない。ここで魂が壊れるのだから。
「グっ ぎぃやぁぁぁぁぁーーーー」
アランティーヌの魂は最後の断末魔の叫びを上げてこの世から消滅した。
ドサッとその場に崩れ落ちたアランティーヌの形相はこの世の物とは思えなかった。
エイブリックはその目を閉じてやる。こんな事になってしまっても姉は姉だ。複雑な心境なのは当たり前だ。
「ゲイル、嫌な役目をさせてしまったな・・・」
「いや、俺の自己満足だよ」
そう答えるしかなかったゲイルであった。
後日、ドン爺の国葬が行われる事になり、俺はその間に大N王国の浄化に向かった。漏れ出てくる魔物はアーノルド達が倒してくれ、沸いて出てくるのはチャンプがゴウっとしてくれる。俺はチャンプに乗りながら上空から全体を浄化していったのであった。
瘴気が消え去った後も魔力はそのままなので魔物は大量に生まれてくる。チャンプが魔力を吸い取ると言い大N王国跡地で寝てしまった。
ドン爺の国葬に参加し、肉体が煙に変わって天に昇って行くのを見送った。アランティーヌが謀反を起こしていたことは伏せられ、ベータランメルは離宮で一生幽閉されることになった。
ドン爺の葬儀の前にエイブリックはひっそりとディノとアランティーヌを荼毘に付したらしい。
これで一区切りは付いた。
グリムナの様子を見に行くのにシルフィードと二人で向かう。
小屋に出て、護衛に俺が来たことを伝えに行ってもらう。すぐに案内され屋敷の中へ。
「ゲイルよ、この度は愚孫が迷惑を掛けた」
ダークエルフの名前はアルディナ。この里に閉じ籠る事を決めた時に反発して出て行ったグリムナの兄だった。最後はグローナ長老夫妻とグリムナに見送られて逝ったらしい。3人ともアルディナのやったことを詫び、そして死に目に会わせてくれてありがとうと言っていた。
次は砂の国。魔物を倒してくると言ったきり消えた俺を心配しているかもしれない。それにチャンプが領主達をプチっとしたからな。混乱しているだろう。
シルフィードにはグローナ夫妻とグリムナの心の傷を癒してやってと伝えて置いていく。
なんとなくシェアラに会わせたくないのだ。浮気とかそんなんじゃないけど連れて行きたくない。こういう心理は男性陣は理解してくれるだろう。
砂の国に行くとやっぱり心配されていた。ムチューは寸前でかわしておく。ここでも俺は後ろめたいのだ。なんにも悪い事をしていないのに後ろめたいのだ。
案の定、領主達が消え、水をどうしていいかわからずに困ってたらしい。
セントラル王国が魔物に壊滅させられた事、ここの領主は魔物に殺られて死んだ事をシェアラとその父に伝える。
「ホンマかそれ・・・」
「だから誰が治めるか皆で決めたら? 水はオアシスをもう少し掘ってみるよ」
ということでぞろぞろと皆でオアシスに移動。
万が一にも石油が出ないように慎重に掘ってみる。精製出来ない石油なんて迷惑なだけだからな。
うん、池の底を掘っても水が沸いてるかどうかわからん・・・
オアシスの近くに穴をあけ直す。慎重に慎重に。王都やディノスレイヤならもう水が吹き出してるんだけどな。もう少しもう少し・・・
ジョボジョボっと水が出始めたのでもう少し掘り進むとぶっしゃぁぁぁと水が吹き出した。
歓声が上がり、みなはしゃぐ。
「離れてくれる?」
皆全身で水を浴びているところ悪いけど池を作らないとな。
噴水のように吹き出る水の回りをどんどん掘り広げていってオアシス2を作った。心なしかオアシス1も水が増えたような気がするので向こうも水が出ているのだろう。
オアシス2は溢れたら困るので魔法で水を足し満杯にしてみる。そして溢れなくなるまで深く掘っていったら増水が止まった。水圧と吹き出る圧の均衡がとれたのかな?
「もしまた枯れたら違う方法考えてみるよ。ここは魔石は手にはいるよね?」
大型のトカゲやミミズから採れるとのことなので、水の魔法陣を作ってきてやるか。
「パズールさん。スパイスの支払いは水の魔法陣でもいいかな?」
「水の魔法陣は・・・」
「もう領主いないから気にしなくていいんじゃない?」
「あっ!」
「だろ? だから水の魔法陣を持ってきてやるよ。魔石さえあれば水に困ることないし」
という事でこれからは皆に行き渡るまで水の魔法陣とスパイスを交換することになった。
シェアラが俺にここの国王をやれとまた言い出す。そしたらウチが王妃になるしとか勝手に俺と結婚するかのような事を言い出したので激しく断っておいた。
スパイスだけ安定供給してくれればいいから。
その後はシルフィードを迎えに行ってドラゴンシティの再建を急ぐ。セントラルから難民のように続々と人が押し寄せてきたのだ。ドラゴンゲートに弾かれる者も結構いるけど。
ニャゴヤタワーはチャンプが乗れるサイズに作り直し。ここに来たのは金ぴかに惹かれたみたいだからな。ニャゴヤタワーがチャンプの休憩場所になってくれればいいな。
セントラルから家畜達も一緒に避難していたので建物と野菜や小麦とか育て直せばいい。ドラゴンシティは予定通りウエストランドに編入されたので、防衛の報償金として莫大な資金援助があった。まぁ、純金は俺が提供したのだけれども。建前は王家の純金資産を通貨に替えるとの理由で通貨発行を行ったのであった。
ふぅ、ドラゴンシティの再建が終わったら俺の役目もほぼ終わり。自由な生活を送らせてもらいましょうかね。
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