第636話 ケリを付けるよ
さて、俺は覚悟を決めなければならない・・・
まず扉を開き、ミケ達と合流する。
「ダンっ」
ミケは泣きながらダンに抱き付いた。チルチルも同じように俺に抱き付く。その後にハーフ獣人たちもわらわらと抱き付いて来た。
「もうだいたい終わったから大丈夫だよ」
その後に本物のドラゴンを見て腰を抜かす。
「父さん、今からドン爺の所に向かうよ」
「おう」
「ダンはミケとここで皆を宜しく」
俺の浮かない顔を見て何かを察したダンはあぁ、としか返事をしなかった。
アーノルドとドワンを連れて王城へいく。
「母さん、ドン爺の様子はどう?」
「あれから目を覚ましてまた暴れそうになったから眠ってもらったわ」
祝宴も終わったようでエイブリック、アル、ミグル、他の王族もここに来ていた。そしてアランティーヌも・・・
温玉!
・・・
・・・・
・・・・・
やっぱり・・・
アランティーヌの魂はべったりと汚れている。そしてドン爺の魂は・・・
「エイブリックさん、俺の事を信じてくれる?」
「何を今更」
「じゃ、ケリを付けるよ」
そう言ってアランティーヌを土魔法で拘束した。
「きゃっ! 何これっ? 離しなさいっ、私は王家の人間なのよっ、こんな事をして許されると思ってるのっ!」
ギャンギャンわめくので口も塞ぐ。
「い、今のはお前がやったのかっ!」
「そうだよ」
「準王家の分際で、王家の人間にこんな事をして許されると思っているのかっ!」
こう叫んだのはエイブリックの次男、ベータランメル。ゴーリキーの調べではアランティーヌに抱き込まれている。魂もアランティーヌ程ではないが汚れていた。
「エイブリックさん、ごめんね」
ベータランメルも拘束する。
「貴様っ! 何をするっ」
同じく口を塞ぎ、俺はドン爺の浄化を試みる。
「ぐっ ううぅっ」
苦しそうなうめき声を上げて目を覚ますドン爺。
「貴様っ、ワシに何をしたっ」
俺にまで飛びかかろうとするドン爺。
「ドン爺、俺だよ。ゲイルだよ」
「ゲイル・・・?」
「そう、ゲイル。ドン爺を助けに来たよ」
「殺してや・・・ ゲイルかよくぞ来てくれ・・ ぐっ」
狂暴なドン爺と穏和なドン爺が入れ替わる。
「めぐみっ! 頼むから来てくれっ」
「何よぶちょー?」
良かったやっと来やがった。
「めぐみ、この魂を見てくれ」
「わぁ、腐りかけてんじゃん」
「これ、浄化したらどうなる?」
「壊れるかもね」
「壊れなかったら?」
「もう死にかけてるから浄化するなら急いだ方がいいんじゃない? このまま死んだらこれ捨てるわよ」
「お前の所で綺麗に出来ないのか?」
「ダメよ、他の魂まで腐っちゃうじゃない。浄化しないと持ってかないからね。じゃ宜しくねー、臭いからここにいるの嫌なのよね」
そう言ってめぐみは帰って行った。
「ゲイル、神様はなんて言ってたんだ?」
「後で話すよ・・・」
「ドン爺、俺を信じてくれる?」
「ゲイルよ・・・ お前はワシを救おうとしてくれておるの・・・じゃな・・・」
「そうだけど、ドン爺の身体はもう持たない・・・ でも絶対に助ける・・・から」
俺はドン爺を見て涙が止まらなくなった。
「泣くでない・・・ わかっておる。ワシがワシでなくなっておるのも・・・ それから助けてくれるのじゃろ?」
「うん、かなり辛いと思うけど頑張って。そうしないと壊れちゃうから・・・」
アランティーヌとベータランメルはうごー うごーと何かを叫んでいるけど、アランティーヌとベータランメルの護衛はナルディック達が抑えてくれている。
俺はドン爺の魂を浄化していく・・・
「う、ぐぉ・・・」
物凄く辛いのを耐えるドン爺。俺を信じてくれているのだ。ドン爺の魔力がどんどん減っていくので魔力補充、回復魔法を掛けながら浄化していく。
少しずつ瘴気が薄れていく。しかし、ドン爺の魔力の減るスピードが速い。
「・・・皆の者、ワシが死んでもゲイルのせいではない。決して罪に問うでないぞ・・・」
苦しみながらドン爺が皆にそれを伝えると一気に魔力の減りが早まった。
「ドン爺っ! 諦めないでっ」
俺を罪に問うなと皆に伝えたことでドン爺は死を受け入れてしまった。このままでは浄化が終わる前に死んでしまう。
「ドン爺っ! ドラゴンに乗ろうっ」
「・・・ドラゴンじゃ・・・と?」
「そう! あのディノをブレス一発で消し炭にするほど強いんだよ。それに乗りに行こうよ」
「いつ・・・じゃ?」
「今から。だから頑張って。俺が連れて行くからっ」
「・・おーおー、今す・・ぐにドラゴンに乗せてくれるの・・か? それは楽しみじゃ」
良かった。魔力の減るスピードが落ちた。
「エイブリックさん、一緒に来てくれるかな?」
アーノルド達にはここで待っててもらう。ドラゴンが飛来するから皆にパニックにならない様にと伝えてもらう為だ。
ドン爺を抱き抱えてドアでドラゴンシティへ。
「ぼっちゃん・・・」
ダンはゲイルとドン爺を見て一瞬で状況を把握する。
「うん、今からドン爺とチャンプに乗って来るよ」
「そうか。思う存分飛んでもらえ」
「チャンプ、お願いがあるんだ。俺とこの二人を乗せて東まで飛んで欲しいんだ」
「構わんぞ」
ドン爺を抱き抱えたまま、エイブリックにも浮遊魔法を掛けてチャンプの背中に乗る。緩やかに浄化は続けているからかなり魂が綺麗になってきた。
ふわっとチャンプが飛び上がり、暗闇を東に向かって飛んでいく。暗いからよくわからないけど物凄いスピードが出ているのだろう。
もうすぐ夜明けなのでそれまで浄化を続ける。意識がないまま苦しそうなうめき声を上げるドン爺。もう少しだから頑張って。
空が白んで来たからドン爺を起こす。
「ドン爺、朝だよ。起きてっ」
「おぉ、ゲイル・・・か。ワシは夢を見ていたんじゃ。ドラゴンに乗る夢をな」
「夢じゃないよ。今ドラゴンに乗ってるから良く見てっ」
「おぉー! おおー! ここはもしかして空の上かっ」
「そうだよ、今から夜が明けるから、ほらっ」
水平線から旭が出てきた。
「ふむ、見事じゃ。まるでゲイルの紋章と同じじゃのう・・・ 実に清々しい」
ドン爺の魂に掛かっていた最後の瘴気が旭に浄化されるように晴れていった。
良かった。魂は壊れずに済んだ。しかし・・・
ドラゴンに乗った感激でなんとか持ちこたえているけど、魔力は減っていく。急ごう。
チャンプに西に向かって飛んでもらう。東から西へとずっと日の出を背負って飛ぶ。
あれが東の国で、あれが砂の国でとドン爺にどんな所か説明していく。空から見る景色と俺の説明を物凄く嬉しそうに聞き、頷くドン爺。もう自力で立てないので俺とエイブリックで支えている。ドラゴンの上はGも風もないからこれで大丈夫。
「あれはセントラル・・・王国なのか?」
「半壊したからもうウエストランドに攻めて来る事はないよ」
「そうか、そうか。また安心して暮らせる国に戻るのじゃな。良くやったゲイルよ。ありがとう」
「いや、あれはドラゴン、このチャンプがやったんだよ」
「なんとっ チャンプ殿、心より感謝申し上げる」
俺がドン爺の言葉を通訳してやった。
「あそこに不思議な物があるがあれはなんじゃ?」
あっ、串刺しにした飛行船忘れてた。後で解除してやろう。
「ここはなぜこんなに荒れておる?」
「魔物が大量に出てね。殲滅した跡だよ。せっかく作ったドラゴンシティも余波でダメになったからまた作り直しになっちゃった」
そのままウエストランドを上空から見て回る。
「おーおー、ここが我が国か、冬だと言うのに実に美しい・・・」
あっ・・・ドン爺の魔力がもう・・・
俺はエイブリックにドン爺を抱き抱えてもらった。最後は俺より息子の腕の中の方が良いだろう。
チャンプにはそのまま王城の中庭に降りてもらった。
「エイブリックよ・・・ 後は頼んだぞ」
「父上っ!」
「ゲイルよ、ありがと・う」
「ドン爺、大丈夫。また会えるよ」
俺は涙を堪えて笑顔でそう答えた。
「そうか・・・ また・・・会え・・るか・・・では・・また・な」
ドン爺はドラゴンの上で満足そうにまたなと言い残して逝った。
「めぐみっ」
「何よっ! あっ、ドラゴンじゃない。あんたどこに居たのよっ?」
「ずっとおったぞ 女神殿」
「ゲイル、誰と話している?」
「めぐみ、エイブリックさんの魂に触って」
ハイハイとエイブリックの魂にペロンと触るめぐみ。
「うぉっ」
「神様のめぐみだよ。見えたでしょ?」
「は、初めまして・・・」
こんな時にめぐみを見てキュンとしてんじゃねー。お陰で堪えた涙が引っ込んだわっ。
エイブリックの好みと俺の好みは似ているからな。今の反応は何かすぐに分かってしまったのだ。
「めぐみ、この魂なら大丈夫だろ? 丁寧に持って帰ってくれ」
分かったわ、と魂をポケットに入れる。丁寧にと言っただろうがっ。
「あのさぁ、ドラゴンが魂の記憶が読めたらしいけど、どうやったら読んでもらえるか知ってるか?」
「こいつはねぇ、この世界の一番初めの生命なの。星を作ろうを始める時のスペシャルガチャで当たった超々々々レア魂なのよっ。だから能力てんこ盛りだし、こいつがすぐに発展させると期待してたのにすぐにどっかに行ってなんにもしないのよ。とんだ役立たずだったわ。期待ハズレもいいとこ。カスよカスっ」
酷ぇ・・・
チャンプもめぐみにボロクソに言われてシュンとしてしまった。
「そんな事ないよ。今回俺達を助けてくれたし、もう強いのなんのって。さすがこの星のチャンピオンだよっ」
「ゲイル・・・お前という奴は・・・」
あ、ドラゴンって泣くんだ。
「で、魂の記憶の読み方を教えてくれ」
「この役立たずが魂に触れば読めるわよ。あんたっ、ぶちょーの言うことを良く聞いてちょっとは役に立ちなさいよねっ! 私の事を知ってる癖にお供え一つもしないし グチグチグチグチ・・・」
可哀想だからやめろ。最強の生物が説教食らってシュンとする姿なんか見たくないんだよっ。
「エイブリックさん、お姉さんと次男をここに連れて来てくれるかな? あと、ドン爺を静かな所に寝かせてあげて」
土魔法に拘束されたままの二人が連れて来られてドラゴンの前に座らされた。
二人は恐怖のあまり失禁する。
「ぶちょー、こいつらを踏めばいいのか?」
踏むな。それとぶちょーと呼ぶな。
「魂に触って記憶を見てくれないか?」
壊さないようにそーっとねと注意しておく。
グイッ
「ふごぉぉぉぉぉっ!」
爪っ、爪が食い込んでるっ! チャンプの爪が魂に食い込み激痛が走る二人。
「何よ? こんなこってりしたの持って帰るのいやよ?」
「俺が浄化するから」
アランティーヌのは持って帰りたくないというめぐみ。ベータランメルのくらいならと仕方がないと言ったけど。
「チャンプ、読めた?」
「うむ、さっき死んだ人間がよく見ていた魔物の毒を浴びるようにしていたなこいつは」
「男の方は?」
「そこの部屋の前に立つ奴等にこの女が入るのを口止めしているな」
「なぜこの女の人がその毒の事を知っていたかわかる?」
「ふむふむ・・・ おっ、ワシを操ろうとしてた奴等の関係者から聞いたみたいだな」
これで全て繋がった。
「ありがとう。これで解決するよ」
俺達の会話は日本語でしていたから皆にはわからない。俺が説明してもめぐみは他の者には見えてないし信用されない恐れがある。自白させるか。
「エイブリックさん、喧嘩した門番を処分したと言ってたけど殺したの?」
「謹慎させているだけだ」
なら呼んで来て欲しいと伝える。
ドラゴンがいる事によって王城にいた貴族達も集まって来ている。
連れて来られた門番達は軽く瘴気におかされるているがこれくらいなら大丈夫。
一気に浄化してやり、尋問を始める。
「いいか、今から聞くことに正直に答えたなら謹慎を解いて貰うように王に進言する。もし嘘を吐いたり誤魔化したりしたら、このドラゴンには分かるから踏み潰される。それを覚悟をして答えろ」
門番達は素直にアランティーヌが宝物庫に出入りしていたこと、ベータランメルがそれを口止めしていたことを吐いた。
「エイブリックさん、お姉さんと息子がドン爺をこんな目に合わせたんだ。いま、宝物庫は瘴気で満たされているはず。エイブリックさんなら瘴気を感じとれるから確認して。それから後で俺も連れてって。浄化するから」
「父上は病気ではなく瘴気にやられていたのか?」
「両方かもしれない。でも凶暴化したのは瘴気のせいなのは間違いない。それをやったのがお姉さん。ドラゴンに魂の記憶を見てもらった。その情報を教えたのがセントラル王国。お姉さんと次男がセントラルと通じてたんだよ」
「うほよー」
「へらはめをいふなぁ」
そういう予感がエイブリックにはあったのだろう。実の父親を利用して国家転覆を企んだ姉と実の息子に憎悪の光が灯った。
「ゲイルよ。大儀であった」
エイブリックは俺の進言を公の立場として受け入れてそう言った。
「ねぇ、ぶちょー、こってり食べたいんだけど♪」
「あ、うん。後でね・・・」
こんな時でもめぐみはめぐみだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます