第635話 君臨

 「さっきの爆発は貴様がやったのか?」


「そうだよ。巻き込んで悪かったね」


「いや、別に構わん。ワシを狙った訳でもなさそうだっからな。しかし、人間があんな事が出来るとは少し寝ている間にかわるものだな」


ドラゴンの少しってどれくらいなんだろうか? 日本語で話すところをみると古代文明から存在しているのは間違いないだろうけど。


「で、ドラゴンさんはなぜここに来たの?」


「あぁ、ピカピカ光る物があったから気になってな。しかし、ワシを操ろうとしていたヤツが西へ行けと言うから上手く飛べんでな」


「テイムは解けたの?」


「あの衝撃の時に跳ね返してやったわい。ガッハッハッハ」


ドラゴンって笑うんだな・・・


あのダークエルフは強烈なテイム魔法が自分に跳ね返ってハウリングみたいなことで魂が壊れたのだろうか? それともこいつがやったのかな?


「あのダークエルフの魂が壊れかけてたのはドラゴンさんがやったの?」


「む? 魂が壊れかける? なぜ魂の事を知っておる?」


「神様に腐った魂の浄化をさせられたんだよ。その時に魂を見えるようにされたんだ」


「何?  鑑定るぞ。いいか?」


「どうぞ」


ドラゴンは鑑定も出来るのか。グローナと同じでまったくわからんな。


「ふむ、読めん」


あ、日本語じゃないからな。ちょっとこのいい加減なシステムに笑える。


「まぁ、いい。そこまで知っているのなら本当だろう」


「ドラゴンさんはどういう存在なの?」


「知らん。ただ生きて腹が減ったら寝て魔力を食うだけだ」


この世界を管理しているとかじゃないんだ・・・


「ごめん、もう少し話してたいんだけど、魔物が残ってるから退治しに行かないとダメなんだ。また今度話そう」


「どこに向かう?」


「あっちだよ。人が魔物に襲われているはずだからね」


「なら、乗れ。こうして話すのは久しぶりだからもう少し色々と聞きたい。話ながらやればいいだろう」


メカドラゴンから本物のドラゴンに乗るのか。もうこれでこの世界でファンタジー要素コンプしたんじゃないか?


「父さん、ちょっとセントラルと東の方に向かった魔物を討伐してくるよ」


「は? 一人で行くつもりか?」


「いや、このドラゴンが連れてってくれるって。上空から魔法を撃つから問題ないよ。避難した人達をお願いね」


「おっ、おいっ!」


俺はドラゴンの背中にふわっと浮いて乗った。


ドラゴンが浮き上がって飛んでも上昇のGが掛からないし、風も来ない。なんだこれ?


《この世の理を越えた存在》


グリムナの言葉が脳裏を過る。


これ、どんな攻撃しても効かないかもしれない。敵対しなくて本当に良かったと思う。


セントラルまで行くと案の定、魔物に飲み込まれた町や今も逃げ惑う人々。そこに飛んでもらい攻撃をしようとすると


「あの辺りを吹き飛ばせばいいのか?」


「いや、魔物だけ。人間には攻撃しないよ」


「そうか。ならこう回り込んで」


ぶほぉぉぉぉぉおっ


おう、一撃で薙ぎ払ったよ・・・ 建物も全部消滅したけど。


ドラゴンが飛来したことで阿鼻叫喚になる人々。


「もうここは大丈夫だから東に飛んで」


もうすぐ砂の国という所の上空でワイバーンが群れている。


「あれ落として」


ゴウッ


一撃で炭になるワイバーン。


地上の魔物達はまだまだ砂の国に到着しないけど、ワイバーンはすぐ近くまで飛んでいた。間に合って良かった。


「あのオアシスの所に降りてくれる?」


逃げ惑う人々が居たので、大丈夫と伝えに降りると大パニック。


ドラゴンにちょっと待っててとシェアラの所に走っていく。


「あっ、ゲイルっ。ウチを助けに来てくれたんかっ! 嬉しいっ」


ムチュー


いきなりキスをされるとは思ってなかった・・・


これは事故、これは事故、野良犬に噛まれたと思っておこう。こらっ、将軍っ反応するんじゃないっ。


「ワイバーンは全部退治した。今から魔物の群がこっちに向かって・・・」


ゴウッ


わっ、ドラゴンの所から火柱があがった。もう魔物が来たのか?


「取り敢えずき魔物を退治してくるから皆に大丈夫だと伝えてっ」


急いでドラゴンの元に戻るとあたりが消し炭になっていた。


「もう魔物が来たの?」


「いや、人間どもがチクチク攻撃してきおってな、こうプチっと」


セントラルから来た領主とその兵か。跡形もない・・・


「あ、オアシス干上がってんじゃん。ダメだよっ! ここの人達の命の水なのにっ」


「む、水などどこにでもあるではないか」


「ここの場所では貴重なんだからダメなのっ」


「怒っておるのか?」


「いや、次から気を付けてね。ドラゴンさんのブレスの威力は凄いんだから」


そういうと少し嬉しそうにした。


取り敢えず水を貯めておこう。

ドバッ


おっと、指輪を外したままだった。危うく洪水になるところだ。


「じゃ、こっちに向かってる魔物を退治しようか」


うん、ここもブレス一発だ。もう凄すぎて驚きもせん。


「後、大N王国って所が魔物の発生場所なんだけど、西へ戻ってくれる? 途中で南に突き出た所があるはずだから」


「その名前は奴の記憶にあったな」


「奴?」


「ワシを支配しようとしたやつじゃ」


「記憶なんて見れるの?」


「テイムを跳ね返した時に奴の記憶が流れ込んできてな、何をしておったか全部分かった」


ドラゴンはダークエルフが何をしていたか全部話してくれた。


魂があんな色になるわけだ。人間に両親を殺されてつもり積もった恨みがそうさせたんだな・・・ 元々悪いのは人間だ。ダークエルフは魂が壊れてもう生まれ変わることもない。やったことは許せないけど、元凶を作った奴を見付けたら敵討ちぐらいはしてやらんとな。まぁ、何百年か前の話だから無理だけど。


大N王国まで来ると甘い匂いと強烈な魔力、それに瘴気が漂っている。これがダークエルフが作り出したもの。秘草と呼んだ物の正体、魔薬草か。研究したら薬になるかもしれないけどこんな物が世の中に存在してはいけない。


「ここ全部焼き尽くしてくれる?」


そういうと上空からごーーーーーっと焼き払ってくれた。しかし、魔力と瘴気は残ったままだ。


「ありがとう。瘴気は明日浄化するよ。もう日が暮れたし」


「ふむ、ブレスをたくさん吐いたから少し腹がへったぞ。あそこの魔力を吸ってくるか」


やめて・・・ 万が一瘴気にやられて凶暴化したらこの世界が滅びる。


「魔力なら後で補充してやるから戻ろう」


という事でドラゴンシティに戻った。


避難民達が戻りつつあるので土魔法で簡易住宅を作っていく。寝具も何もないからせめて壁を二重にしておこう。


だーーっと長屋を作っていく。


「ゲイル、終わったのか?」


アーノルド曰く、ディノの気配も消えたとのこと。


「ドラゴンさんが全部灰にしてくれたよ」


「ぼっちゃん、この短時間でか?」


「大N王国はもう跡形もない。瘴気と魔力は残っててまた魔物が出ると思うから、明日浄化しにいってくるよ」


「人間よ、貴様はゲイルなのかぼっちゃんなのかどっちだ?」


「ゲイルだよ」


「ふむ、ゲイルだな。よし覚えた」


「今日はありがとうね、魔力を今から補充するから」


俺はドラゴンの身体に魔力を注いでいく。


「ふむ、まずまずだが、もう少し強く流せるか?」


と言うので指輪を外して流し込む


「おぉ!ゲイルよ、素晴らしいぞ!」


「これぐらいの勢いで大丈夫かな? えーっと名前はドラゴンさんでいいのかな?」


「ふむ、ワシはエンシェントドラゴンとか古竜と呼ばれる事が多い」


「それは名前じゃないよ。人間に人間というのと同じ呼び方だね」


「ふむ、ではゲイルが決めよ」


なんかこの姿を見ているとおどろおどろしい名前しか思い浮かばんな。ゴ○ラとかでもいいんだけど・・・


あ、この世のチャンピオン。チャンプでいいか。


「じゃ、チャンプで」


ポワッ


あっ! しまった。魔力流しながら名付けちゃったよ・・・


「ふむ、チャンプか。どういう意味だ?」


「一番強いって意味だよ・・・ ごめん」


「何を謝る事がある。いい名前だ。ワシは気に入ったぞ」


「いや、テイムしちゃったかも・・・」


「何っ? うぉっ、本当じゃ。ゲイルの従魔になっているではないか・・・ まぁ、良い。ゲイルの魔力はとても心地がいいというか旨い」


いいんだ・・・


「どうせ、ゲイルはすぐに死ぬのだろ?」


「チャンプと比べたらね。あと50年生きてるかどうかだと思うよ」


「そんな一瞬か・・・ 千年くらいは生きれんか?」


「無理だよ」


「そうか、わずか50年しかこの魔力は食えんか。それは残念だ」


まぁ、悠久の時を生きるドラゴンと人間では生きる世界が違い過ぎる。人間から見たセミの成虫みたいなもんだろう。



「ぼっちゃん、ドラゴン様と何を話してるんだ?」


「いや、うっかりテイムしちゃってね」


はぁーーーーーー? ×全員


こうしてここにエンシェントドラゴンが君臨し、本物のドラゴンシティとなるのであった。



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