第634話 邂逅
ようやくグリムナがドラゴン操作に慣れた頃、ダンとシルフィードと連絡が取れなくなった。仕方がなくグリムナは元の場所になんとかドラゴンを操作しながら戻った。
「上手く扱えた?」
「ダンとシルフィードに連絡がつかん」
え? インカムの故障? そう思ってドラゴンの中に入ると酸っぱい臭いが充満している。二人のケロッピに貰いケロッピをしそうになり、慌ててクリーン魔法で綺麗にする。
ダンは何とか復活したけど、シルフィードは土色の顔でダウンしたままだ。可哀想に・・・
シルフィードを抱き抱えて外に出る。新鮮な空気を吸わせておいてやろう。
「二人はどうしたんだ?」
「ドラゴン酔いだよ。無茶な上昇と下降を繰り返したんじゃない? ダンまで酔うなんてよっぽどだよ」
取り敢えずドアを出してディノスレイヤに繋げてミケ達に問題ないから心配すんなと伝えておく。
シルフィードが復活したのでここの防衛を任せる。西への進行は壁で防いだのでここを防衛してくれていればなんとかなる。
「ぼっちゃんはどうすんだ?」
「父さんとおやっさんを連れ戻しに行ってくる。その後にこの辺り一帯を焼き尽くすよ。普通に攻撃してたらキリがないからね」
認識阻害の魔法陣をオフにして上空へ飛びアーノルド達を探す。きっとこの強い気配に向かって進んでいるはずだ。
しかし、アンデッドが多いな。しかも魔物がやって来ている方角は大N王国がある方面・・・ あの国でスタンピードが発生して国民が巻き込まれたのかもしれん。このアンデッド達は元そこの国の人々だろう。
進んでいる方角にファイアボールが大量に飛んでいる。あれは流星・・・? シャキールが見せた魔法に違いない。いつの間にか応援に来ているのか?
いや、アルの結婚式に参加してたんだ。ここに来れる訳がない。
飛行機を低空に飛ばして行くとアーノルドとドワンが居た。あの流星は二人を攻撃してたのか。しかし、二人の動きが鈍い。凄い魔法だけど発動する前に攻撃出来るはずだ。
ファイアボールを掻い潜り、アーノルドの元へ。
「掴まって」
「おっ、助かったぜ」
アーノルドとドワンが着陸用の足につかまったのを確認して魔法が届かない所まで上昇して空中で停止すると二は2人がよじ登って来たのでキャノピーを開ける。
「よくこの魔物の群れにいる俺たちが分かったな」
「強い魔物に向かってると思ったからね。で、あの魔法攻撃してたやつは魔物?」
「人間じゃ」
「は?」
「魔物の中に人間が混じっとる。アンデッドもな」
アンデッドは俺も確認した。人間がいる?こんな中に?
「そいつがスタンピードを発生させてるの?」
「わからん。アンデッドかと思うておったら生きとる奴もおるんじゃ。あの魔法使いもそうじゃ」
「どいつもこいつもやたら狂暴でな。その上へらへらと笑って攻めて来やがるんだ。剣を持ってるやつを斬ったら血も出るが、痛がりもせずにお構いなしだ」
やたら狂暴? それは瘴気にやられた症状と同じだな。へらへら笑ってるのはなんだろうか? そういやこの魔物達も瘴気を放ってる。
あれ? 魔物から瘴気?
瘴気って魄が腐って放つものだったよな?
取り敢えず皆の元に戻って合流することに。皆にもアーノルド達が見たものを報告していく。
「生きた人間がいるだって?」
グリムナも驚く。
「ぼっちゃん、どういうことだ?」
「俺にもわからない」
ここら一帯を焼き払うつもりでいたが、生きた人間がいるなら話は別、まずは調べないとダメだ。
近付いてくる魔物を鑑定するも全て特変異としか出ない。それを倒しながら自分の頭を整理していく。
瘴気は腐った魂から出る
瘴気は魔物も人も狂暴にする
変異種は強い魔力で変化する
じゃあ特変異種は?
そもそも魂が腐るのはめぐみが汚魂を捨てて放置したから腐ったんだよな? なぜこんな急に瘴気が出た? めぐみがあの国にも大量の魂を捨てていたのか?
「おい、魔物に混じって人間どもも近付いて来おったぞ。どうするんじゃ?」
人間を鑑定してみると名前の後ろに特変異種と出た。なんだよこれ・・・
しかも瘴気まで放っている。これはもしかして・・・
温玉っ!
うげぇぇぇぇ
あの臭いに反応してケロッピをしてしまう。それに耐えながら人間や魔物を見ると特変異種と出た者は全て魂が腐っていた。
特変異種は魂が生き腐れしたものだったのか・・・
どういう理由で生き腐れするのかまではわからないが、理由は分かった。アンデッドの特変異種の魂はすでにどろどろだ。特変異種になってないアンデッドには魂は無い。ただの変異種だ。
試しに人間の魂を浄化してやると魂がぐずぐずに溶けてアンデッド化した。中には耐えて元の魂になるヤツがいるかもしれんけど、可能性は低い。瘴気の森ではそうだったからな。
浄化には時間が掛かるし、この数だとどれだけの時間が掛かるかわからない。応戦もしないとダメだ。仕方がない。生きている人間優先、たとえ生きていようと腐った魂の持ち主は魔物と割りきることにした。
「今からあの魔物の群れを消失させる。どんな余波が来るかわかんないから皆は王都かディノスレイヤに避難して」
「馬鹿かお前、ゲイル一人にそんな危ない橋を渡らせる訳にはいかんだろ。俺達は一連托生だ」
はぁ、まったくアーノルドは・・・
「じゃ、壁を作るから後ろには隠れてね。あと口を開けて目をつぶって耳を塞いでおいて」
「なぜじゃ?」
「そうしないと衝撃波で目ん玉飛び出るから」
壁はドーム型にしておいた。俺も魔法を放ったらそこへ逃げ込む事に。ドアを開けて逃げられたら一番いいんだけど、間に合わなかったらドアの向こうの人を巻き添えにするかもしれんからな。それに途中で壊れたら身体がすっぱり引き裂かれてしまう。
爆発地点を強く意識して集中していく。遠くに放っても熱と衝撃波がこちらに伝わって来るだろう。万が一の為に壁を3重にしておく。住民たちは避難して結構離れているから大丈夫かな。
再度集中しだすと、流星が襲ってくる。さっきのやつらか?
誰か気になるので鑑定すると
【人間】特変異種
【名前】ジャンバック・スカーレット
【名前】ルーラ
ん? スカーレット? それにあの二人はなんとなく見覚えが・・・
あっ!銀の匙メンバーの! 魔法を使ってるのは男の娘の・・・
ジャンバックはスカーレット家の者だったのか。特変異種になっているということは腐魂になっているからもう救えない可能性が高い・・・
初めて出会った時にオークを食えないのか坊や? とか言われたのを思い出す。仲が良かったわけじゃないけど、顔見知りを手に掛けるのか俺は・・・
しかし、俺は子供達を守らなけらばならない。マリアとチルチル達の未来を。
「さらば銀の匙っ!」
ファイアボール避けの屋根を作って集中していき、指輪を外した。
「ン ギャァァァァァアッ!!」
えっ?
上空から突如として巨大な生き物が現れた。
ほ、本物のドラゴン・・・
こいつから放たれる強者の威圧は本物だ。しかし、何故こんなに近くに来るまで気付かなかったのだろう?
ぶぉぉぉぉお
物凄い炎のブレスを吐くがどこに向かって吐いたのか見当違いの所に火柱が立つ
「くそっ、こっちじゃないっと言っているだろうがっ」
ドラゴンの威圧は背中に向けて放たれている。だから気付かなかったのか。それに誰か背中に乗っているようだ。もしかして操られてんのか?
目前には魔物群れが近付いている。取り敢えずこいつをなんとかしなければ。
「ドームに入って! 今から撃つっ」
グリムナはドラゴンを見上げたまま動かない。ドワンがそれに気付きバッとドームに入れたのを確認して爆発魔法を放った。
「エクスプロージョンっ!」
ふとめぐみの名前が浮かんだのでつい魔法を放つのに叫んでしまった。俺の魔力は底なしなので、ぶっ倒れておんぶしてもらう必要はない。
カッと光った瞬間にドーム内に駆け込み身体強化をしてシルフィードに覆い被さる。
どーーーーーーーーーっん
ぶっほぉぉぉぉぉぉっ
今まで聞いたことがない音の後に衝撃波がドームを襲う。熱が伝わって来たので中にもう一枚ドームを追加。
どぉんぉんぉんぉんんんと地面が揺れた後に衝撃波も収まった。
ドームの外に出ると辺り一帯は溶岩の様にどろどろに溶け、メカドラゴンは中のゴムが溶けて鱗が落ち、骨組みだけになっていた。魔道バッグにしまっておくんだったなと激しく後悔する。
せっかく作ったドラゴンシティも衝撃波で壊滅だ。ニャゴヤタワーはそのまま建っているが、金箔はとけ、反対側だけかろうじて残っている。まぁ、人さえ無事ならやり直せる。
「ダン、ごめんよ。フランの丘もなくなっちゃった」
「いや、あれだけの魔物を一掃するには仕方がねぇ。それにフランはもういないし、ミケがいるからな。何も問題はねぇから気にすんな」
まだ遠くには魔物の気配はあるけど、こっちに向かって来たのは殲滅完了。
「あのドラゴンはどこへ行った?」
グリムナは慌ててドラゴンを探す。
「今のに巻き込まれて死んじゃったかもね」
「いや、ドラゴンは熱や衝撃で死ぬわけがない。この世の理を越えた存在なのだから、それと・・・」
グリムナの言った通り、向こうの方からドラゴンが飛んでくる。そして、どさっと人を俺たちの所に落とした。
ん? こいつは?
「やっ、やっぱり・・・ 兄ちゃん・・・」
「うっ・・・ぐっ・・・ その声は・・・」
ぼろぼろになった褐色のエルフをグリムナは兄と呼んだ。治癒魔法を掛けてやると傷は直ったが回復しない。温玉で魂を見ると魂にひびが入り割れ掛けていた。俺には魂を治す事は出来ない。それにこの魂の汚れ具合は・・・
「兄ちゃん、兄ちゃん! しっかりしろっ、なんでダークエルフなんかになったんだよっ!」
グリムナとそっくりな褐色のエルフは魂が汚れてダークエルフになったのか。
「グリムナさん、治癒魔法は効かない。残念だけどもう俺には助ける術がないんだ。魂が壊れ掛けてる」
「なんだとっ?」
「こうなったら神様でも修復は無理なんだ・・・ グローナさんの所に送ろうか?」
「お前でも無理なんだな・・・?」
「ごめん・・・」
「じっちゃんの所にドアを開けてくれるか?」
俺はうんと頷いてドアを開けた。グリムナは兄と呼んだダークエルフを抱き抱えて向こうに消えて行ったのであった。
アーノルド達はドラゴンと対峙しているが攻撃はしていない。ドラゴンも攻撃の意思がないようだからだ。
「やぁ、ドラゴン。何しに来たんだ?」
取り敢えず話し掛けてみる。
「今、なんて言ったのだ? 人間よ」
日本語?
「これならわかるか?」
「ほう、話せるなら初めからその言葉を使え」
いや、日本語話すなんて知らないし・・・
ダンはまただとか言ってるけど、俺のせいじゃないからね。
俺はそのままドラゴンと会話をしていくのであった。
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