第629話 とりあえず一件落着
「えっと、俺はゲイル。名前は?」
「ナターシア。この子はフェンリー」
フェンリー? まさか伝説のフェンリルになるんじゃないだろうな?
ダン達もそれぞれ紹介していく。
「あなたは猫獣人じゃなかったのね・・・ 人族が私達をどうするつもりなのかしら?」
うっすら敵意を出すナターシア。
「元の村に送ってもいいし、ここか俺の実家の領地に送ってもいいし。好きな所に運んでやるよ」
「イーストの人間でもないのね・・・」
「ウエストランドの人間だよ。獣人は居ないから初めは皆の注目を浴びるとは思うけど、みなもすぐに慣れるさ。ドワーフやエルフもいるし、ハーフ獣人のミケも住んでたからね」
「どうしてそんな様々な種族が共に生活しているのかしら?」
「ウエストランドはエルフとドワーフと同盟を組んでるからね。奴隷制度もないから安心して暮らせると思うよ」
・・・
・・・・
・・・・・
「なぁ、ナターシア。子供はここで面倒見たろか? ほんであんただけ旦那の元に帰ったらええねん。黙ってたらわからんやろ」
ミケ、バレると思うぞ。
「・・・・・ 私はこの子の親なのよ」
「そやかて、連れて帰られへんのやろ? 自分だけ一回帰って旦那と話したらええねん。旦那が許してくれるんやったら子供連れに来たらええし、許してくれへんのやったら自分だけこっちに来たらええねん。うちもこの子とおんなじ立場やったから状況は分かっとる。親代わりはここになんぼでもおるし、ゲイルは赤ちゃんの面倒みんの上手いねん」
未婚なのに子供だけ増えていきそうだなとゲイルは思った。捕まってたハーフ獣人も連れてくるかもしれないからだ。
「でも・・・」
「ぐちゃぐちゃ考えとってもしゃーないやん。取りあえず子供預かってたるからはよ行ってき。旦那さん心配してはんねやろ?」
ミケの言う通りだな。ドワンもやきもきしているだろう。
「俺は仲間を待たしてるから取りあえず行って来るわ」
「待って、私も行きます。ミケさん。フェンリーをお願い出来ますか?」
ミケはええでと言って子供を受け取った。
「私も行くー」
「わ、私も」
というので、チルチルとシルフィードも連れて行くことに。
「坊主、遅いぞっ! 一度ドラゴンシティに戻る前にこっちに来んかっ」
チルチルとシルフィードを見て怒るドワン。
「ナターシアっ!」
「あなたっ」
二人はガシッと抱き合うがこの後の話を考えると気持ちが重い。
「本当に全員逃がしてくれたのか?」
「まだ誰か足りないなら探しに行ってやるよ」
「いや、恐らくこれで全員だ。村に案内するから来てくれ」
ついに猫獣人の村に案内して貰う事に。村は普通のボロい村だった。
猫獣人と犬獣人が集まっている。
奴隷になっていた者達は俺を神の代行者として崇めていた。
「この度は我々の仲間を救いだして下さり誠にありがとうございます」
猫族の長だろう人が謝意を述べる。
「いや、好きでやった事だから気にしなくていい。それよりこれからどうする?」
「これから?」
「また奴隷狩りに来るかもしれんだろ? 今の奴隷商は潰れるように仕込んでおいたけど、領主自らナターシアを取り返しにくる可能性もあるからな。ここは安泰じゃない」
「しかし、ここ以外に我々は行くところが・・・」
「ウエストランドで良いなら全員移住しろ。街に住むもよし。ここみたいな森に住むもよしだ」
ざわざわとなる犬と猫。他にも種族がいるみたいだが、集団で暮らしているのはこの2種族だけみたいだ。後は個別で暮らしててあちこち動いているからどこにいるかわからないとのこと。
「本当に住むところを与えて下さるのですか?」
「街と森、どっちがいい?」
皆森というので、俺の小屋の森を解放してやろう。適度に獲物もいるし、あの辺り一帯は俺の土地だから間違って冒険者に狩られる事もない。
「あとハーフ獣人の面倒はお前達でみてやれるのか?」
・・・
・・・・
・・・・・
「分かった。身寄りのない者はこっちで面倒をみる。チルチルと同じようにな」
チルチルにはちゃんとした服も着せているし、しっかり食べているから毛艶もいい。みなと暮らすより良い暮らしが出来るだろう。
「申し訳ございません」
大人達は頭を下げた。獣人同士の子供は複数生まれるのが当たり前で、成長も早い。そこに人族の血が混じると人族寄りの成長の仕方になるみたいで、面倒を見なければならない期間が長くて大変みたいだった。また肉体的な能力も低く、森で生きていくには向いてないとのこと。
後は愛玩にされてた二人だな。
「お前達はどうする?」
他の獣人たちも腫れ物のように扱っており、目の光が消えたままだ。誰も返事をしないので、この二人も引き取ることに。
まず、座標を森の小屋に設定して皆を移動させる。そこにはドワンに行ってもらった。
次にハーフ獣人の子供と目の光が消えた二人をドラゴンシティに連れて行く。付き添いはシルフィードにお願いした。
残すはナターシアと旦那だ。
「話はついたか?」
「神様・・・」
「俺は神じゃない。代行者だ」
「代行者様。ナターシアと子供を救って頂きありがとうございました」
「で、どうする?」
「ナターシアの子供とあの娘二人、そしてハーフ獣人と共に参りたいと思います」
「そっか、なら帰ろう」
俺はナターシア達と一緒にドラゴンシティに帰ったのであった。
ーイーストランドー
「吐けっ! お前ら奴隷をどこにやった?」
バシンっ
「しっ、知らん。俺らも盗まれたんやっ」
「しらばっくれるなっ。証拠はあがってるんだ」
「ほんまに知りまへんねんっ。そやから証拠なんてあるわけがおまへんやろっ」
「門番からワイロを渡されたと報告が上がっている。それに屋敷で騒ぎを起こして奴隷を盗む計画がされていたとの証言もあるんだっ」
「そ、それは奴隷を買いに来たやつにそそのかされてっ」
「ほぅ、ならば証言は本当のようだな。奴隷を盗んだ上に貴族の家に火を放ち、領主様の屋敷まで入り込み、希少種を盗んだわけだな?」
「そんなん知らんがなっ。俺は嵌められたんやっ」
「じゃ、なぜこの仮面がお前の部屋から出て来てきたんだろうな?」
「そっ、それは・・・」
「やはり見覚えがあるようだな」
「そやっ! 奴隷を買いに来た奴が怪しいねんっ! いきなり全部奴隷をくれとか言うてきたんや。あいつがやったにちがいないんやっ」
「ここ最近は余所者が出入りした記録なんてないぞ。いい加減な事を言うなっ」
バシッ バシッ
「嘘やっ。俺は嵌められたんやーーっ」
その後、奴隷商は拷問の果てにこの世を去った。他の奴隷商も同様に。
領主は希少種の獣人を兵達に探させるが抜け殻となった森からは一人も獣人を見つけだせることはなかった。
領主は希少種を愛していたわけではない。単に珍しい獣人とハーフ獣人を手土産に王都に返り咲きたいだけなのであった。
ーディノスレイヤ領ー
「そうか、お前の森に住まわしたのか。ドラゴンシティにいるやつらはどうする? セントラルから来たやつらばかりだから風当たりが強いだろ?」
「そうなんだよね。ハーフ獣人の子供はミケで慣れたからいいんだけどね。獣人は難しいかも。あと愛玩にされてた二人は心が壊れかけてるし、もっと静かな所の方がいいかもしれないね」
「イナミンに頼んでみるか? 釣り公園なら他の奴らも来ないだろうし、魚釣ってりゃ食うもの困らんだろ?」
「そうしたらずっとあそこから出られなくなるだろ? 自由に生活出来ないのもどうかと思うんだよね。取りあえずミケと一緒に面倒を見るよ」
「お前にその覚悟があるならそうしてやれ。うちに連れて来てもいいがな」
「うん、無理だったらお願いするかも」
その後ドワンと合流してドラゴンシティへ
ハーフ獣人の子供達はおどおどしているけど、チルチルがリーダーになってご飯を一緒に食べるようになっていた。
ただ寝る時は怖いのか俺とみな一緒だ。いきなり5人の父親になってしまった。
翌日、エイブリックにイーストランドの状況を報告する。
「もう戦力としてはあてにならんのだな?」
「敵にも味方にもならないね。軍やそれをまとめる貴族もいない。主要貴族はセントラルから来てたからね」
「なら、放置だな。あとイーストと砂の国の通貨は使えないと通達を出しておく」
これで取りあえず今やらないといけないことは終わった。ドラゴンシティの発展とこの子達が将来普通に暮らせるようにしてやらないとな。
しかし、本当にあと数年で楽になれるのだろうかと不安になるゲイルであった。
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