第628話 まだいる

作業員として奴隷にされてる貴族の屋敷に気配を消して忍び込む。奴隷は外の粗末な小屋で寝てるからそこに行くのは容易だ。


(しっ! 俺は仲間を助けに回ってる者だ。ここから逃げる気はあるか?)


(逃がしてくれるのか?)


(3日後に騒ぎが起こる。その隙に逃がしてやる。どうする?)


何人奴隷がいるか確認をして、記録していく。これを作戦実行日まで各貴族のとこで繰り返した。



「これで全部かのう?」


「調べた分はね」


決行日は明日だ。奴隷商とも時間を合わせた。夕暮れの飯前に作戦決行する事に。獣人を連れて商談に行ってる時にファイアボールをお見舞いしてやる。俺は放火犯になるけどまぁいいや。合法とはいえ奴隷を集めて楽しんでるような奴はどうなってもいい。魂が汚れるかもしれんなとか思うけど、汚れたら自分で浄化しよう。



さて、奴隷商が予定通り貴族の屋敷に入ったからそろそろだな。


しばらく待って、ファイアボールではなく、いきなり屋敷に火を点ける。ファイアボールが飛んでいくのを見られたらまずいからな。


初めはチョロチョロと煙突の上を燃やしてやる。コンロは魔道具と薪を併用しているのがちょうどいい。飯の準備に火を使ってるのだろう。


そこから風魔法で火を広げてやる。もうもうと煙が出始めたので風を止めた。


「火事だぁっ!」


よし、気が付いた。バケツに水を入れた使用人達が出て来て水を掛けるが燃えてるのは上だ。消せる訳がない。このタイミングで気付いてくれたから皆避難出来るだろう。



しばらくすると屋敷から皆が逃げ出してくる。


「奴隷の避難はお任せをっ」


奴隷商は上手く貴族に奴隷を任せてもらう事に成功したようだ。悪い奴は俺と違って演技が上手いのだ。


ぞろぞろと奴隷も出て来て奴隷商の下っぱが逃げられないように管理をする。奴隷商本人が連れてきたのは可愛い猫獣人と犬獣人だった。ハーフではないが遠目でも美形なのが分かる。愛玩獣人として捕まってたのか。可哀想に。


「おやっさん、ここはもう大丈夫そうだから他の貴族達の獣人を逃がしにいくよ」


ドアで直接出向いて皆を逃がしていく。ドワンは森で受けとめる役だ。


最後と思われる獣人を逃がした後にリストと人数が合ってるか確認。よし、全員逃がせたな。


「じゃ、おやっさん。俺は奴隷商の獣人を逃がしに行ってくるよ」


「気を付けろよ」


まずは火を点けた貴族の屋敷に行く。おー、めっちゃ燃えてんなぁ。


一応誰も居ないか気配を確認して誰もいないのでほっとする。当主は燃え盛る自分の屋敷を見て膝を付いて、あぁ、ワシの屋敷が屋敷がと叫んでいた。


奴隷商は奴隷を集めてほくそ笑んでいる。こいつには貴族の屋敷が燃えようが知ったこっちゃないからな。


皆が消火活動をしているなか、奴隷達を檻に入れておきますと移動を開始した。その後、奴隷商の店の檻に奴隷を入れたのを確認して俺は猫仮面を付けて中へ。


「おっ!お前はっ」


「ご苦労」


そこにいた奴等の魔力を一気に吸って気絶をさせた。


「さ、逃げるぞ」


「あ、あなたは・・・」


「神の代行者だ。獣人を解放せよと神の命を受けたのだ。今から森への扉を開く。みなここから森へ行け」


もう説得する暇がないから神の名を語る。あぁ、神様がと感涙を流すが誰もめぐみの名前を呼ばない。残念な神様だ。


どんどんドアの向こうへとやり、最後に一人残る。


「まだ信じられないか?」


「いえ、神の代行者様とは知らずに無礼をいたしました」


「もうそんなのはどうでもいい。さっさと逃げろ」


「私は行きません」


は?


「なぜだ?」


「つ、妻が領主の所に捕まっているのです、それを助けに行かなければならないのですっ」


おーう、領主の元にも居たのか。調べでは領主の名前が出て来なかったんだよな。


「お前と同じ犬獣人か?」


「いえ、狼です」


シルバーの毛並みが美しく、狼の獣人は希少種らしい。愛玩にされてなければいいけどな・・・


「分かった。俺がなんとかしてやる」


「私も一緒にっ」


「ここに捕まってるようじゃ足手まといだ。向こうで待ってろ」


気持ちは分かるがこれは事実だ。俺一人の方がはるかに成功率が高い。


「しかしっ!」


「神の代行者に任せろ。その代わり、妻が帰ってきたら何も聞いてやるな」


こいつも覚悟はしているのだろう。コクりと頷き、お願いしますと頭を下げてドアの向こうに消えていった。奴隷商の部屋に猫仮面を複数隠しておく。奴隷を盗んでたのはこいつらのせいにしよう。



その後に急いで領主屋敷に向かう。

どこにいるのかわからないけど、愛玩なら領主の部屋の近くか、秘密部屋だろうな。


広いから外からだとどの気配か分からんな。忍び込むしかないか。


気配を最大限まで消して浮いて屋根に登る。気配を探って誰もいない場所を発見して中にはいる。もう聞いた方が早いな。


屋敷の中を見回っている護衛を後ろからいきなり襲い、ドアで奴隷商の店に連れていく。


「誰だお前はっ!」


「怪盗キャッツ。獣人がどこにおるんか素直に吐いたら堪忍したろ」


「貴様っ」


「ほなら死んどき、代わりに聞く奴はなんぼでもおるさかいにな」


ノーマルの剣を喉元に当てる。魔剣だと身バレする可能性があるからな。しかし、自分でしゃべっててなんだけど、こんなベタベタな関西弁で話すことは今時ない。ビジネス関西人の村上君ぐらいだ。


「ま、待ってくれ」


「待ったったらどないするん? 時は金なりやで」


「獣人は領主様の部屋にいる」


「自分、おもろい嘘吐くなぁ。獣人が領主の部屋におるわけないやろ?」


「う、嘘じゃないっ。行ってみればわかるっ」


「さよか。ほならここで寝て待ってり」


魔力を吸って気絶をさせる。ついでに奴隷商たちにももう一度軽く魔力を吸っておいた。





ドアで領主邸の屋根に移動をして部屋を探す。


ここか・・・ 一際大きな部屋に護衛がたくさんいるし、ドアの前にも護衛が立ってるから間違いないだろう。


さて、どうするかな。護衛は兵士だろうから、気配を消してても目の前を通ればさすがにバレるだろう。


明かりのライトの魔石から魔力を吸うか。


一つのライトの魔石から魔力を吸うとフッと消える。


「おい、魔石を交換してこい」


護衛が一人魔石を取りにいった。次にドアの前のライトに魔力を思いっきり流してやるとポフっとショートして消えた。


「わっ!」


「っち、故障か。早く取り替えろ。こんな粗悪品をさっさと替えておかないからだっ」


ドアの前に立つ護衛が先ほどから指示してるからリーダーだな。あいつを消すか。


リーダーの魔力を吸ってやるとドサッとその場で倒れた。


「頭っ、頭っ、どうされましたかっ? おい、頭が倒れたっ。すぐに運べっ」


その隙に忍び込んでドアから中へ。


部屋にいる護衛の魔力を吸って倒していく。領主と獣人はどこだ?


気配を探って隣の部屋へ。


カチャっ


「誰だっ! ノックぐらいせんかっ」


「これは失礼こきました。そちらの獣人を取り返しに・・・」


あぁ、最悪だ・・・ 子供が生まれている。


見事な毛並みの美人狼獣人の手にはハーフ狼獣人の赤ちゃん。領主との間の子供だろう。


「えーっと・・・ 助けに来たんやけどどうする?」


もうこう聞くしかない。無理やり襲われて子供が出来たのか、そうではないのか判別が付かないのだ。


「なぜ、猫系が私を助けにきたのかしら?」


領主がわめこうとするので、土魔法で口をふさいでおく。


「いや、旦那さんに頼まれたんやけどね。もしかして幸せ?」


「主人がっ? 主人はどこにっ」


「奴隷商に捕まってたのを助けたからもうここにはおらん。一緒に来る言うててんけど、俺に任せろ言うて先に逃がしたんや」


「主人が捕まって・・・ 私を騙したのねっ!」


訳を聞くと、この領主が来た時に犬獣人の村に奴隷狩りが来て、自分が大人しく捕まれば犬獣人には手を出さないと約束したらしい。この奥さんは犬種族の女帝だったみたいで相当強いみたいだ。


「他の犬獣人の子供達も全員救出した。手を出さへんって言うのは騙されたんやな」


「なんですってっ!」


牙を剥いて領主を威嚇する狼獣人。


「どないする? 二人とも逃げられるけど」


「猫獣人の者よ。主人に伝えてくれるかしら?」


「なんて?」


「私は死んでいたと・・・」


・・・

・・・・

・・・・・


「あんたこいつを殺して死ぬ気なんか?」


「私はこいつの子供を生んでしまった・・・ もう主人に合わせる顔はないわ」


「子供はどうするんや? その子には罪はないで」


「親のいないハーフ獣人なんてどこに行っても面倒を見るものはいない。二人で天に帰ります」


「あのな、一緒に死んだからいうて一緒に天に行けるわけちゃうねんで。そんな親のエゴの巻き添いにしたらあかんわ」


「しょうがないでしょっ!」


「ちゃんと旦那さんに相談してみぃや。それで許さへんって言うなら、俺の所で二人とも面倒みたる」



ドンドンっ!


「おい、体当たりで開けろっ」


おっと、ドアが破られそうだな。誰も入って来れないように土魔法で固めておく。


「猫獣人の・・・ そんな事が許される訳がないでしょっ」


「まぁ、話は後や。こっから抜け出して話は後でしよ」


「どうやって抜け出すというのっ」


ドアを領主に見られたらまずいので魔力を吸って気絶させて猿ぐつわの土魔法を解除。


ドアを開けて二人を先に出してドンドンされているドアの土魔法も解除しておいた。



「わっ、びっくした。ぼっちゃん。それは誰だ?」


「こ、ここは?」


「俺の仲間の家」


「えっ?」


「で、それよりさっきの話の続きをしよう」


「ゲイルっ」


俺の声を聞いてチルチルが走ってきて抱きついた。ワンテンポ遅れたシルフィードは出した手のやり場に困っていたのであった。


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