第627話 華麗なる三文芝居

「警戒されとるの」


「そうだね」


「どんな作戦でいくんじゃ? 残すは貴族街じゃぞ」


「騒動を起こして奴隷商を巻き込むよ」


という事でチルチルにはドラゴンシティで作戦終了までお留守番をしてもらう。ダンは俺が信頼する仲間だとチルチルに言って聞かせたことによって少し打ち解けてくれたから大丈夫だろう。ミケも可愛がってるからな。



この前の奴隷商の所に俺一人で行く。ドワンには情報収集を頼んだ。



「おっ、約束の日より早いで。もう少し待ってくれ」


「それより俺の連れてたハーフ獣人の子供はここに売られて来てへんか? おらんようになってしもたんやっ」


「あんたもやられたんか? 最近ここら辺の獣人がどんどんおらんようになっとるらしいんや」


「マジか・・・」


ドワンに情報収集を頼んだのは俺の三文芝居を見られたくなかったからだ。


「なぁ、怪しい奴に心当たりないか? 獣人集めとる貴族とか怪しいと思うんやけど」


「そいつが盗んだっちゅうんか?」


「可能性はあるやろ。あいつら金やら武器やら庶民から取り上げとるんやから」


「なるほど・・・」


「お前らの商品もそのうちやられるんちゃうか? 他の奴隷商にも被害でてへんか聞いてみいや。まだやったらさっさと集めて早う俺に売れ。俺はそいつら買うたらおらんようになる前にさっさとこの街を出ていくから」


「分かった。ちょっと急がせるわ。明後日来てくれるか?」


という事で1日前倒しになる。


ドワンも情報収集をちゃんとやってくれてたようで、作業員以外に趣味で獣人を集めてる貴族を調べておいてくれた。


そいつの屋敷を気配を消して調べにいく。


「地下室ありそうだね。下からも気配がする」


「そうじゃな。見張りもおるし潜入するには難儀じゃの」


「いや、大丈夫。奴隷商の獣人を解放したら騒動を起こすから」


他の貴族の奴隷は作業員。それもセントラルの奴等らしい。まさかそいつらに歯向かう奴がここにいるはずがないと警戒は薄い。そっちは後まわしだ。最悪戦闘になってもいいからな。



それから庶民街で獣人マニアの貴族が庶民から奴隷を盗んでいるらしいと噂を流していく。奴隷が突如として居なくなる噂の新情報とあって瞬く間にその噂は広がっていった。


約束の日の前日、奴隷商の見張りの水瓶に眠り薬を入れておいた。急に眠くなる量ではないので怪しまれないだろう。


夜中、見張りはうとうとして眠りに入ったのを確認して中にドアで入る。



(お前らここから逃げたいか?)


「なんだっお前らは?」


(しっ、仲間だ。逃げるのを希望するなら逃がしてやる)


(俺達を騙そうってのか? もうその手には乗らんぞ)


こいつは頑固そうなので後回し。先に子供を逃がそう


檻を溶かして中に入る。


(おいで、村に帰ろ)


ガタガタ震えながら皆で固まっている。


(ほら早く、この扉から出たら村の前まで行くから。あの人と一緒付いていくんだ。このままここにいると酷い目に合わされちゃうからね)


ドワンには向こうで子供の守りをお願いした。村に付く前に魔物に襲われる心配があるからだ。


(坊主も終わったらさっさと来いよ)


子供達は怯えて動けないので、ドワンが抱えてドアの向こうへ。残りは俺が掴んでドワンへと投げていく。


「子供達をどうするつもりだっ!」


(だから騒ぐなって言ってるだろ。森の村へ送ったんだよ。他に逃げたい奴はいるか?)


(お願いしますっ。村には子供がっ)


という女性を逃がしてやる。


(もう時間が無い。希望者はさっさと手を上げろ)


続々と手を上げたので順番に逃がしていった。初めの頑固者だけ残して。


(お前はどうすんだ? もう見張りの交代が来るから時間が無いぞ)


「騙されるもんかっ。上手いこと言って連れだそうとしやがって」


(大声出すなって言ってんだろっ)


「誰やっ!」


ちっ、気付かれたか。こいつは諦めるしかない。


俺はわざと落とし物をして、飛び込んで来た見張りをするりとかわして逃げた。


「逃げたっ! 追えっ」


気配を消してドアを出して獣人の森へ。



「遅かったのぅ?」


「頑固者が一人居てね。そいつは置いて来た。後は上手く行ったよ」


逃がした獣人達に回復魔法と治癒魔法を掛けてやり、隠れて様子を探っている村人に声を掛ける。


「おいっ、迎えに来い」


そういうと前に対峙した見張りが出て来た。


「今回は子供がいるからちゃんと村に連れてけよ」


「どうやって獣人を逃がしているんだ?」


「俺は魔法使いなんだよ。これくらい朝飯前だ」


「本当に仲間を逃がしてくれてるだけなのか?」


「初めからそう言ってるだろ。まだ捕まってる人がいるんだ。俺達はイーストに戻るから後は頼んだぞ」


と、もうドアを見られてもいいので、ドアを開けて宿に戻った。外は騒然としている。怪盗キャッツを血眼になって探しているのだろう。


「おやっさん、寝ようか。最近まともに寝てなかったし」


「そうじゃの」


俺もくたくたなのでドワンのイビキも気にせずに爆睡したのであった。



翌朝、奴隷商に向かう


「す、すまんうちもやられたわ。奴隷集まんの見計らってやられてもうた。大損やっ」


「お前んとこもやられたんか?」


「そうや、1匹残して全部やられてもうた・・・」


ざまぁと心の中で舌をだす。


<奴隷商人に生まれ変わったけど、1匹残して全部盗まれました>


こんな物語書いたら流行るかな? だいたいこういうのは残った奴がチート持ちだったりするんだけどな。


「そやけどな、怪しい奴が逃げよる時にこいつを落として行きよったんや」


「なんやそれ?」


「貴章いうやっちゃ。あんたが言うてた通り、獣人集めしとる貴族のやつや。猫獣人つこて盗んどったんや」


「猫獣人?」


「そや、逃げた奴が猫獣人やったんや。すばしっこいやつでな、すぐに追うたんやけど逃げられてしもたんや」


「で、どないすんねん? 相手は貴族なんやろ?」


「あそこには奴隷を搬入したことあるさかいにな、どこに隠したかは検討が付いとるねん」


「そやかて、忍びこめへんやろ?」


「それが問題やねんなぁ・・・」


「手伝うたろか?」


「は?」


「取り返すんやろ? だから手伝うたろか言うてんねん。こいつ1匹だけ買うてもしゃーないからな。こいつを売りに行け、その時に俺が騒ぎ起こしたるからその隙に盗まれた奴取り返したらええねん」


「騒ぎてどないすんねん?」


「俺はファイアボールを撃てるから屋敷に火ぃ付けたる。火事になったら皆逃げ出すやろ?」


「そんなん見つかったら重罪どころか殺されんで」


「そやから、火付けたら俺は逃げる。ほんでお前から奴隷買ったらとっととこの街から逃げるわ」


「門番にバレるやろ?」


「そこはお前が根回ししといたらええねん。金でなんとななるんちゃうか? ちょっとの間だけ目ぇ見えへん病気とかあるやろ?」


・・・

・・・・

・・・・・


「報酬はなんぼや?」


「捕まえた奴は半額で売れ」


「そんなんしたら、うちが丸損やがな」


「ほなら諦めえ。売上0になるだけや。俺も危ない橋渡んねんからな。これくらいしてもらわな割に合わへんやんけ」


「ムムム・・・ ほんまに全部買うてくれるんやろな?」


「俺は元々どんな奴がおったか知らんからな。お前が仕入れたより増えとってもわからんやろなぁ」


俺がそういうとニヤッと笑う奴隷商人。


「そやな、俺が仕入れた奴隷はめっちゃ多いねん。純金ぎょうさん用意しとってや」


「こんなけあったら足りるやろ?」


と純金のインゴットを見せる。


「ま、まぁ、足らんかもしれんけど、そいつで手ぇ売ったるわ」


足らん訳ないだろが。しかし、これで純金に目が眩んだこいつは必ず実行するだろう。


門番の根回しも含めて3日後に作戦決行することになった。



その間にこちらも準備を整えることに。


まずは門番の所に行く。


「おぅ、もうどっかに行くんか? ん? あの子供は売ったんか?」


「いや、盗まれた。奴隷商が怪しいと思って行ってみたんだけとね」


「お前も盗まれたんか。災難やったな。で、奴隷商におったんか? どこの奴隷商に行ったんや?」


あいつの所と言うと。


「あいつ、たち悪いからなぁ」


やっぱりか。


「でな、色々調べたんだけど、他の奴隷商とぐるになってヤバいこと企んでるみたいなんだよね」


「ヤバいこと?」


「貴族の所にも騒ぎを起こして盗む計画をしてるんだよ」


「なんやてっ?」


「近々、門番にもワイロを渡して一旦奴隷をぞろぞろと外に連れ出すらしい。で、また捕まえて来たフリする作戦みたいなんだよ」


「俺らがそんなん受け取るわけないやろっ」


「いや、受け取って領主に証拠として報告した方がいいと思う。あいつ悪い奴なんだろ? いつの間にか門番に責任擦り付けるかもしれん」


「そんなこと考えとるんか?」


「俺が調べたところはね。俺も奴隷商を訪ねてしまったから余所者に罪を擦り付けられるかもしれない。だからここに来た履歴を消してくれないかな?」


「そんなん出来るわけないやろっ」


「あの奴隷商人がワイロ渡しに来たら信じてくれるかな? 門番さんの安全の為にせっかく調べた情報を教えてあげたんだけどね」


「ムムム、本当に渡しに来たら考えといたるわ」


考えといたるは信じては行けない。断りの言葉なのだから。


「じゃ、俺が領主に先に報告するよ。なんか褒美を貰えるかもしれないからね」


「褒美?」


「そ、俺達には金をくれるかな? 門番さんが報告したなら出世だろうけどね」


「出世てほんまか?」


「うちの国なら確実にそうなるよ。ここの領主はどんな人か知らないから約束は出来ないけどね。まぁ、新領主に重要情報を提供したということで覚えは確実に良くなるとは思うけど」


「分かった。ほなら、ほんまにワイロ渡しに来たら履歴消したる。そやから先に報告せんとってくれ」


「いいよ。じゃ、俺達は物騒な事になる前にもう街を出るよ。門番さんも元気でね」


「は? 出て行くのか?」


「せっかく保護した子供を盗まれたんだ。けったくそ悪いってやつ? もうここにいるのはこりごりだよ。面倒に巻き込まれる前に他の国に行くよ」


「そうか、悪かったな、こんな街になってしもて」


「いや、悪いのはセントラルと奴隷商だろ? そのうち皆で国を取り戻して奴隷制度とかなくなってるのを祈ってるよ」



ゲイルの華麗なる三文芝居はドワンのツボに入っていたのであった。



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