第626話 奴隷商
翌日、バルにスパイスの大半を渡してドラゴンシティへ。
「ぼっちゃん、本当にチルチルを連れて行くのか?」
「イーストランドの街にしか行かないから大丈夫だよ。おやっさんもいるし」
チルチルにも治癒の腕輪を付けたし大丈夫だろう。いざというときはドアで逃げればいいし。
砂の国の近くに移動してから飛行機でイーストランドへ。
上空から見ると小さな村とかは戦禍の後がある。全滅してるんだろうな・・・ イーストランドの西側はほぼ壊滅といっていいだろう。
王都っぽい所を発見したので人気の無いところに降りて座標を設置。
「ここからは徒歩だね」
チルチルを抱っこしながら歩いていく。
「門番がいるけどどうするんじゃ?」
「冒険者としてしか入るしかないね」
商人に扮するのが一番いいのだろうけど身分証がないからな。チルチルの身分証は無いけど大丈夫かな?
「身分証を見せろ」
「俺達は冒険者だ。この子は魔物に襲われているところを保護したから身分証がないんだけどどうしたらいいかな?」
「ウエストランド王国で登録・・・?」
俺の冒険者証を見て驚く門番。ギルマスのマーベリックに頼んで、ゲイル・ディノスレイヤの登録からゲイルだけに変更してもらったのを出したから貴族とはわからないのだ。
「あぁ、世界中を旅してるんだ。ここまでずいぶんと遠かったよ」
「まぁ、ええか。それは奴隷商に売るんか?」
こいつはイースト出身ぽいな。
「奴隷商?」
「そいつはハーフ獣人やろ。それ以外に使い道なんてないやろが。それか囮にでも使うんか?」
「俺の国では奴隷制度が無いんだよ。まぁ、この子はどうするか考えるよ」
「お前らは無料やけど、そいつは売りもんちゃうんやったら、ここに入んのに銅貨30枚や」
「イーストランドの通貨持ってないんだけど、ウエストランドのは使えるか?」
「あかん。今はセントラル王都通貨しか使えへんのや」
盲点だったな。純金はまずいかもしれん。下手すりゃ足元を見られるからな。
「なぁ、金の代わりに珍しいもので勘弁してくれないか?」
「珍しいもの?」
「酒とポーションどっちがいい?」
「は?」
「ウエストランドの高級酒と最上級ポーションなら銅貨30枚以上の価値があると思うんだけどね」
「ポーションはなんのポーションや?」
「治癒と魔力、回復だよ。世界中を旅するなら必需品だからな」
見せろと言うので3種類出す。
「本物やろな?」
「試しに飲んでもいいけど、売ったらかなりの金になると思うよ。もし偽物だったら俺達を探して捕まえればいい。この街にいるんだからさ」
「・・・ほなら治癒ポーションで勘弁してやるわ。今こいつが不足してるんや」
「こいつは販売出来るところあるか? ここで使える金が必要なんだよ」
門番はポーション屋を教えてくれたので、チルチルの通行証を貰ってそこに行った。
「何を探してはるんや?」
「いや、ウエストランドからきたんだけど、俺達ここの金持ってなくて、ポーション買ってくれるって聞いて来たんだけど」
「ほなら、ちょっと見せてみなはれ」
バリバリの方言やね・・・
「お客さん、これ・・・ どれも最上級ちゃうか?」
「そう。世界中を旅するならこれは必要だからね。どれでもいいから買い取ってくれないかな?」
「ちょっ・・・」
俺を手招きして耳を貸せという店員。
(あんたら、これ持ってんのバレんようにしいや。いまここはセントラルになっとるさかいな、難癖付けて没収されんで)
と、教えてくれた。今はどんな状況になってるか教えてくれる。ポーションは下級以外全部徴収されてしまったらしい。
「なら、これ持ってるとおっちゃんもまずいんちゃう?」
「ん? あんたウエストランド出身やろ? えらい流暢なイースト弁しゃべるやんか?」
「仲間がこっちの方の出身でな、うつんねん」
「ほなら、そのままイースト弁でしゃべっとき。ウエストの人間やとバレたらまずいわ。この街でイースト弁ちゃうやつはセントラルから来たやつらやからな、気ぃつけや」
治癒ポーションを銀貨20枚で買い取りしてくれ、他にも色々と教えてくれた。親切にはしてくれながらもきっちり足元を見やがった買い取り価格だ。イーストは商売人の街だなこれ。
奴隷を使ってるのは大きな商会と貴族だけらしい。庶民には奴隷は高くて手に入らないし、あんな可哀想なことは出来ないと言っていた。
セントラルになってからもさほど庶民の生活は変わっておらず、王家と主要貴族が断罪され、セントラルから代わりが来たらしい。ただ、金目の物や武器関係は没収されたとの事。
冒険者は武器の携帯は許されてるらしいが、他所から来た冒険者は難癖付けられるかもしれないだって。
アドバイスに従って剣は魔道バッグにしまっておいた。
お礼を言って店を出て、教えて貰った奴隷商に行ってみることに。
「そいつを売りにきたんか?」
「いや、こいつは売らへん。どんな奴隷がおるか見せてくれへんか?」
かなり不潔な所だ。悪臭が漂っている。
檻に入れられた獣人たちはぼろ切れを纏い、諦めた光の消えた目や恨みがましい目で俺達を見ている。
ここにいるのは7人か。
「出来れば子供がええんやけどな」
「愛玩用か?」
「そんなとこやね」
と、違う建物に案内される。
可哀想そうに・・・
犬系2人、猫系2人、犬系のハーフ獣人が1人。チルチルと同じ歳くらいだな
「こいつらはなんぼや?」
「愛玩用はちょい高めやな。1匹金貨3枚、ハーフは5枚や。金は持っとるんやろな?」
こいつは汚魂やな。今にも斬り殺してやりたい衝動に駆られるのを抑えるのに必死だ。
「俺が留守してる間に大分ここらもかわったやろ? いつの間にか金貨も使えんようになったらしいから金で持ってるんや。それで払えるんやったら買うんやけどな」
(どれくらい持ってんのや?)
(ここの奴隷全部買えるくらいはある。ちょっとええもん見つけたからな)
「ほなら、それでええわ」
「今は持ってへんから明日持って来るわ。予約しといてくれるか? これは手付けや」
と、小石ほどの純金を渡す。
(明日持ってくるんはこれとおんなじもんか?)
(そやで)
(こんなぎょうさんの奴隷をなんに使うんか聞かんといたるけど、他にも必要か? それやったら1週間待ってくれたら他の所から全部仕入れといたるわ)
(そんなん出来るん?)
(当たり前や。そやから他の奴隷商にはこのこと内緒にしといてくれ)
なるほど、純金を独り占めする気か。
じゃ仕入れといてくれと言ってその場を後にした。
「坊主、どうする気じゃ?」
「さっきの所に座標を置いた。集まったら夜中に忍び込んで解放する。集まるまでの間は今雇われている奴を調べておいて順次解放する準備をする」
「セントラルの奴等はどうするんじゃ?」
「民衆はそこまで圧迫されてる感じはないから解放運動はまだ必要ないね。獣人解放が先だよ」
「ゲイル、皆を助けてあげてくれるの?」
「そのつもり。逃げたい人だけだけどね」
奴隷商を出たあと、街中を探して周り、奴隷として働かされている獣人に目星を付けていく。
夜にドラゴンシティに戻って、チルチルをダン達に預ける。
「チルチル、明日の朝に必ず迎えに来るから、今日はミケと寝てくれるか?」
「一緒に居たい・・・」
「今から獣人を助けに行かないといけないんだ。あいつらを助けてやりたいだろ?」
「うん」
「なら、ここで待っててくれる事がチルチルの仕事だ」
「待ってるのが仕事?」
「そうだ。チルチルの大事な仕事だ」
「分かった。頑張って待つ」
「良い子だ。ミケ、チルチルを頼む」
こそっと、おねしょするだろうけど怒らないように言っておく。ダンは俺に無茶するなよと言うけど、1週間が勝負だからそうも言ってられないのだ。
ドワンと共に応急で仮面を作る。
猫の仮面だ。
奴隷を盗む怪盗キャッツ。服はレオタードではない。
イーストに戻って気配を消して、目星を付けた奴隷の元へ。
(おいっ)
「わっ! なんだお前らはっ」
(騒ぐな。ここから逃げたいか?)
「何を言ってるんだっ! そんな事が出来る分けないだろうっ」
(大きな声を出すなっ。バレるだろうが。俺達は怪盗キャッツ。仲間の獣人を解放しに来た。逃げたいかこのままここで奴隷をするか今選べっ)
(本当に逃げられんのか?)
(お前が希望するならな)
(頼むっ)
ドアを出して獣人の村に繋げる。
(これを通れば猫獣人の村の近くに出る。後は自分で逃げろっ)
繋がれていた首輪を錬金魔法で溶かし、獣人から外した後に元の通りにしておく。
(今何を・・・)
(早く行けっ)
ドンっと背中を押してドアを閉めた。
その夜は5人解放した所で夜明けとなったので終了。昼にチルチルを連れて街中の奴隷を探して回り、夜に解放をし続ける。
3日目あたりから奴隷が消えると噂になっていた。今までは馬小屋みたいな所に寝かされていたから簡単だったけど、もう屋敷の中に隠されるかもしれないな。
明日からの解放はちょっと苦労しそうだなと思うゲイルであった。
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