第624話 どっちを選ぶの?

「ちょっと父さん達の所に行ってくるよ」


イーストランドに行く時に預けられるとしたらアーノルド達の方がいいかもしれない。アーノルド達はもう暇みたいだしな。


「どこにいくの?」


「俺の父さんと母さんにチルチルを紹介するよ」


「ゲイルのお父さんとお母さんは怖い人?」


「強い人だよ」


「ゲイルより?」


「そうだね。二人とも強いよ。悪い魔物もバンバンやっつけちゃうからね」



ディノスレイヤの俺の部屋にドアで移動。座標に飛ばないと高確率でゲイルさんのえってぃぃぃイベントが発生するのだ。なぜこんな時間に風呂に入ってるんだ? という疑問は持ってはいけない。このピンクのドアはそういうものだ。



アイナの治療院にチルチルを連れて行く。


「あら、ゲイルがここに来るなんて珍しいわね。その子どうしたの?」


「魔物に襲われそうなところを保護してね、親が居ないみたいだから俺が育てる事にしたから」


「そうなの。なら、私の孫になるのね・・・」


俺が子供を育てると言ったことより、おばあちゃんになることを心配するアイナ。


「チルチル、アイナママだよ」


そう紹介してやるとアイナもパッと明るくなる。


「あら、ママになるの? そうね、そうよね。おばあちゃんなんて言わないわよねっ♪」


「おばぁ・・」


ムグっ


慌ててチルチルの口を押さえる。強い人から怖い人になるからね。


「チルチル、アイナママだよ。間違えちゃダメだよ」


そういうとうんと頷いた。


「母さん、昼飯なんか作るから後で食堂でね」


ブリックはお料理教室をやってるはずだから俺が作ろう。


厨房に移動してお昼ご飯の準備。


「シルフィ、なんか食べたいものある?」


「うーん、ちょっと甘いものがいいかな」


「ならパンケーキにする?」


「うん」


という事でアイナ、シルフィード、チルチルの分を作る。俺はサンドイッチにした。昼飯に甘いもの食べても食べた気がしないのだ。


パンケーキはすぐに出来るから、自分の分のサンドイッチを先に作る。チルチルも俺とシルフィードしかいないからびくびくが収まっている。


俺とシルフィードが調理をしているのをジーっと見ているチルチル。


「やってみる?」


「うん」


茹で卵をフォークでぐしゃぐしゃと潰すのを手伝って貰う。


「うん、上手だよ。次はこのマヨネーズっていうのを入れるから混ぜてくれるかな?」


誉められて嬉しそうにマヨを混ぜていく。あちこちベタベタになるけど気にしない。後で魔法で綺麗にすればいいのだ。


3人でキャッキャしながら料理して完成する頃にアイナがやって来た。


「ずいぶんと楽しそうね」


そう微笑むアイナだが、チルチルは一気に緊張して固まる。


「さ、あっちで食べようか」


食堂に移動しても緊張したままのチルチル。


「チルチル、こっちにいらっしゃい」


アイナに呼ばれてカチコチになりながら近寄って行く。強者の命令に逆らえないような感じだ。アイナが撫でてパンケーキを食べさせたら、大人しく口を開けた。


「アイナ様からは食べた・・・」


今のチルチルはきっと何を食べても味がしていないだろう。


「チルチル、こっちにおいで」


そういうとタッと俺の所に来てしがみつく。


「ほら、アーンして」


生クリームいっぱいのパンケーキを口に入れてやるとおいひいっと言った。アイナにも同じ物を食べさせて貰ってたがやはり味がしなかったのだろう。


「ゲイルにしか懐いてないのかしら?」


チルチルを保護した状況を説明する。


「なるほどね。チルチルにとってはゲイルとドワンが唯一自分を守ってくれる人なのね」


「今はそうかもしんないね。そのうち皆優しいって理解すると思うよ」


「どうするつもりなの?」


「しばらくこのまま一緒にいて様子をみるよ。皆の所に連れていってる間に慣れるだろうし」


パンケーキを食べさせながらアイナと話をし、その後街をブラブラすることにした。ついでに肉を仕入れよう。


ミートの所に行く。


「もしかしてぼっちゃんか? ずいぶんとでかくなったじゃねーか」


ここに来るのも久しぶりだ。


「おっちゃんとこも店がますますでっかくなったね」


「おう、お陰さんでな。忙しくてしょうがねぇってもんだ。しかし、いつの間に子供が出来たんだ?」


「俺の子供じゃないよ。魔物に襲われてたのを保護したんだよ」


「なんでぃ、驚かすなよ」


「勝手に勘違いしただけだろ?」


「はっはっは、違ぇねぇ。で、何買ってくんだ?」


「売れるだけ売ってくれない」


「は? そんなに肉がいるのか?」


ドラゴンシティのことを説明した。


「ほー、そんな事になってんのか。ならあるだけ用意してやるよ。屋敷に届けたらいいのか?」


「いや、持って帰るよ。魔道バッグってのに全部入るから。これだけ店が大きくなると商品の管理難しそうだね」


「あぁ、思ったより売れない時のロスがどうもな」


「冷凍と解凍の魔道具作ってあげようか?」


「おう、あのバルの魚に使ってる奴か。あんな高ぇ魔道具買える訳ねーだろ」


「いや、俺が作ってやるよ」


「は?」


「あの魔道具は俺が作ってんだよ」


「そうなのか?」


「だからただでいいよ。ここには世話になってるからね」


「馬鹿いっちゃダメだ。世話になってんのこっちだっての」


「いいのいいの、俺はめちゃくちゃ儲かってるからもうお金必要ないんだよ。領地も人に任せるくらいだからね」


「領を他の奴に任す? 子供出来たら跡を継がさないのか?」


「その予定無いしね。もう食べていくにも困らないから別にいいんだよ。明日にでも作業しにくるよ」


それならホルモンを大量に処理しておいてやるよ、とありがたいことを言ってくれたので明日はドワンを呼んで作業したら小屋でホルモンパーティーだな。エール飲んじゃお。



夜にアーノルドとベントにチルチルを紹介する。サラは結婚するまではとこの食堂では飯を食わなかった。相変わらずそういうところは固いな。


「贄か・・・ まだそんな風習があるんだな」


アーノルドはそういう風習があるところを昔に見たことがあるらしい。俺と同じようにその魔物を討伐したそうだが。


「で、チルチルを連れてきたなら、ちゃんと最後まで面倒みろよ」


犬や猫拾ってきたみたいな言い方すんな。


「で、これからどうすんだ?」


「チルチルが落ち着いたらイーストランドに行ってみるよ。酷い状態だったら解放運動するし、そうじゃなかったら放置する。理不尽に奴隷になってる獣人を解放して終わりかな」


「解放してどうするんだ?」


「元の村に返す」


「気を付けろよ。また狩られる可能性が高いからな。獣人達の行き場が無いようならここで引き受けてやる。ベントいいな?」


「うん」


ハーフ獣人ならまだしも、獣人は人族の姿から離れている。ドラゴンシティや王都よりディノスレイヤ領の方が確かにいいかもしれん。ここは何でもありだからな。


「まぁ、人族はかなり警戒されてるから来ない可能性の方が高いけどね。でも希望するならお願いするよ」



翌日ドワンを連れて肉屋の冷凍室と解凍庫を作った。購入用の肉は牛、豚、鳥とどっさり用意をしてくれ、各種ホルモンも大量だ。ベーコン、ソーセージも山盛り。


代金は冷凍室の礼にいらないと言われたがそうはいかない。在庫全部出してくれたんじゃないかと思うぐらいあるからな。


通常価格は金貨3枚くらいかな?


「おっちゃん、珍しい金貨で払うよ」


ドラゴン金貨を3枚渡した。


「なんだこの金貨?」


「ダンが領主になるんだけど、今は国として開発してんだよ。だからこれはそこの通貨。このままでも使えるし、金としてはこっちの方が価値があるんだよ」


「ほぅ、ドラゴン金貨か。カッコいい金貨だな。新しくてピカピカだし。いいのか?本当に払ってもらって」


「いいよ。こっちこそ在庫ほとんど出してくれてありがとう」


気にすんなって、みなにどんどん解体させるぜと言ってくれた。ディノスレイヤ領の畜産は順調のようで何よりだ。



小屋でホルモンパーティーをするのにダン達とミーシャも来るかな?


皆を呼び集めてホルモンパーティーだ。


このメンバーならめぐみを呼んでやってもいいかな?



ピーピー


「何よ?」


「ホルモンと焼肉パーティーするけど来るか?」


「行く♪」


ベントは忙しいし、明日も早いのでパスらしい。ブリックもごめんなさいだって。もしかしたら彼女でもできたのだろうか?



めぐみとゼウちゃんにアーノルドとアイナ、チルチルに触ってもらって視覚化する。


「ゲイルがいつもお世話になってありがとうございます」


アーノルドとアイナはめぐみとゼウちゃんにキチンと挨拶した。



「ねぇ、ぶちょー、このぶよぶよしたの何?」


「ホルモンってやつでな。内臓の肉だ。塩ニンニクゴマ油で味付けしてある。エールに合うけど苦手なら普通の肉にしとけ。お前好きだろ?」


食べてみると恐る恐る口に入れる。


ムグムグムグムグ・・・


「ぶひょー、これいふのみこへはいいの?」


「飲み込みたいときに飲み込め。もしくはエールで流し込め」


そういうとエールで流し込んでは食いを繰り返しだした。ゼウちゃんにはドワンが説明している。


「ぼっちゃ、ぼっちゃ」


マリアが俺に抱っこをせがむ。今はチルチルが膝の上に座っているのだ。


「チルチル、めぐみと一緒に焼肉食べておいで。あいつは神様だから怖くないよ」


神と聞いてビクッとする。


「あの白蛇は神様じゃない。こっちは本物だから安心しろ」


と言っても俺の膝からどこうとしない。


「あら、この子・・・」


ゼウちゃんが何かを言い掛ける。日本語だから聞かれたらまずい話なのか?


「あら本当ね、えーっとどれどれ」


めぐみはこっちの言葉だ。本当に気が利かない。


「めぐみ、ヤバい話なんだろ。日本語で話せ」


「この子、ゼウちゃんとこから来た魂ね、魔法の才能あるのよ。こっちに来てから何回も死んでるから才能育ってないけど」


「は? どういう事だ」


チルチルを膝に乗せながら、マリアを片手抱っこしてめぐみに聞く。


「魂に生まれ代わり履歴てのが記録されるんだけど、この娘は何回もすぐに死んでるわね」


そうなのか・・・ 今度はちゃんと人生をまっとうさせてやりたいな。俺への異常な懐き方も魂が影響してるのかもしれん。


「元の世界で俺と縁があった魂じゃないよな?」


「多分無いわよ。違う国の魂だもの」


ゼウちゃんが補足してくれた。


マリアがぼっちゃぼっちゃと俺を叩く。チルチルが膝に乗ってるのが気に入らないのかもしれない。


チルチルはぎゅっと俺のズボンを掴んだままじっとしている。ここはどかないって意思表示しているみたいだ


この状態ではどうすることも出来ないのでミーシャにマリアを渡そうとするとイヤーと泣く。


「ゲイル、モテモテね」


アイナはそう笑うけどどうすんだよこれ? 俺もホルモンでエール飲みたいのに・・・


皆がばくばく食うなか、俺は赤ん坊と子供からどっちを選ぶの?状態になったのであった。


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