第623話 獣人の村人

「どこから来たかわかる?」


ふるふると首を振る子供。


「名前は?」


「・・・・チルチル」


チルチル・・・  青い鳥を探しにきたんじゃないだろな? 家から出るときにパンくずとか撒きながら来たとか。


「もしかして、兄弟で家を出てきたの?」


ふるふると首を振る。


念のためにミチルがいないかを聞いてみたけど偶然か。


「おやっさん、この子の集落を探しに行こうか?」


「そうじゃの。 このまま連れて帰るわけにもいかんからの」


全くどこから来たのか見当が付かないがそう遠くはないはずだ。気配を探りながら探せば見つかるかもしれない。


この子がいるから俺達が気配を消していても意味がないのでトレントや他の魔物に気を付けながら森の奥へと進んで行った。


分かりにくいが何となく獣道かなというところを頼りに気配を探りながら進んでいくと集団の気配を察知。


「おやっさん」


「あぁ、あっちじゃな」


俺達が近付くと向こうも気配を察知したのか、緊張した気配に変わった。人間が獣人狩りをしに来たと思っているのだろう。いきなり攻撃される恐れがあるので声を出す。


「チルチルを保護したぞー」


大声で何度も叫んでその場で止まり向こうからコンタクトがあるのを待つ。チルチルはカタカタと震えている。もしかしたら違う集落なのか?


すると気配が2つ近付いて来た。


「人族よ、ここに何をしに来たっ」


姿は見せないけど声だけが飛んで来る。木の上からか。相当警戒してるな。


「俺達は冒険者だ。この子が白蛇に襲われそうになっているところを保護した。チルチルの村の人か?」


「何っ? 白蛇守神様はどうしたっ」


守神様?


「討伐した」


「殺したのかっ」


あれ、まずかったのか? もしかしたらあのフォレストパンサーみたいなものだったのだろうか?


「あぁ、襲われたからやむを得ずな」


ザっと二人が俺達の前に姿を表して殺気を放つ。


「なんてことをしてくれたんだっ!」


猫系獣人だ。


「子供が襲われそうになってたんだ仕方がないだろうがっ」


ここは謝らずに逆キレしておこう。例え守神だとしてもここの獣人を襲うならただの魔物だ。討伐対象になっても仕方がない。そう思っていると殺気を放つ目の間の二人がとんでもないことを言う。


「なぜ、チルチルを連れてきたっ? そいつは贄だっ」


は?


「贄って、生け贄のことか? チルチルを蛇の餌にしたってことか?」


「そうだっ。贄を守神に捧げる事によって我々の村を守ってくださるのだ」


ガタガタ震えるチルチル。だから、村の仲間が来た時に怯えたのか。


「あれは魔物だ。守神なんかじゃない」


「うるさいっ」


迷信を信じこんだ村人に何を言っても無駄か。


「とにかく白蛇はもういない。俺達はウエストランドという西の端にある国から来たんだ。お前たちを狩りに来たものじゃない」


「人族には騙されんぞっ。守神を殺した上に何を企んでいるっ」


「単に聞きたい事があってお前らを探してただけだ。奴隷になってる獣人を解放したいんだ。どれくらいの仲間が捕まっている?」


「は?」


「俺達はこの後にイーストランドに行く。仲間が捕まってるなら解放してやると言ってるんだ」


「なぜ人族がそんな事をする必要があるんだっ」


「仲間にハーフ獣人がいるからな。理不尽に奴隷にされてる話を聞いて解放してやりたいと思っただけだ。俺の国には奴隷制度はないからな」


そう説明すると少し殺気が抑えられていく。


「俺達を信用出来ないのは理解する。別にお前たちに何かをするつもりもないし、奴隷を解放したからといって見返りを求めたりもしない。取りあえずこの子をお前たちに返したらこのままこの場を去る」


チルチルはそう言った俺にぎゅうっとしがみついた。


「チルチルは村には戻れん」


は?


「なぜだ?」


「そいつの親は死んでもういない。面倒を見れる奴もおらんし、一度贄になったものが帰ってきた事はないっ」


酷ぇな・・・


「じゃ、この子は俺が連れて行ってもいいんだな?」


「構わん」


「おい、坊主。正気か?」


「仕方がないだろ。こんな子供を置き去りにする訳にもいかないし」


ったく、と言われたが、俺にしがみつく子供を捨てていけるほど俺の心は強くない。


チルチルはしがみつきながら俺の顔を見る。


「俺と一緒に来るか?」


「いいの?」


「チルチルが一緒に来たいなら連れて帰るよ。こことぜんぜん違う場所だけどいいか?」


ぱぁっと顔が明るくなって、うんと返事をした。


「じゃ、チルチルは俺達が連れて帰る。あともう一つ聞きたい事がある」


「なんだっ?」


「奴隷になってる獣人をここに連れて来てもいいか?」


「何っ?」


「俺達は奴隷になってる者を解放しに行く。だからここに連れてきて良いかと聞いているんだ」


「どうやって連れて来るつもりだ?」


「それは秘密だ。種族違っても問題ないな?」


「本当に連れて来れるなら構わん。ここまで来たらそれぞれの村に帰れる」


「分かった。じゃ又な」


ここに座標を置き、その場を離れた。


少し進んだ所でドアを出してドラゴンシティに移動。



「で、ぼっちゃんはその子を連れて来たってわけか。どうすんだ?」


ダンに状況を説明した。


「俺が育てるよ」


「は?」


「仕方がないだろ?」


「なぁ、ゲイル。あんた忙しいんやろ? ほならこの子うちの子供にするわ。なぁダン、ええやろ?」


「まぁ、構わんけどよ」


ダンとミケが面倒見てくれるのはいいけど、実の子供が出来たらどうなるかな? 邪険にするわけはないだろうけど、どうしても生まれたての子供に手がかかるから、チルチルはそう取らないかもしれない。さて、どうしたもんか。


チルチルは見知らぬ土地に来たからかびくびくして俺から離れない。


「チルチル、このおばちゃんはミケっていってな、お前と同じハーフ獣人なんだ。お前の親になってくれるってさ」


「誰がおばちゃんやねんっ」


べしっとミケに突っ込まれたのでお姉ちゃんと訂正しておいた。


「・・・ゲイルがいい」


そう言って俺から離れないチルチル。


「なんやねんそれ。ほら、こっちにおいでぇな」


ふるふると首を横に振る。


「坊主は懐かれたもんじゃの。どうするんじゃ?」


「そうだね・・・ しばらく慣れるまで一緒にいるよ」


「ゲイルの子供にするの?」


シルフィードが聞いてくる。


「それでも構わないんだけどね、イーストランドにはまだ行けてないし、留守にすることも多いからミケが見てくれるのが一番いいとは思うんだけど」


チルチルはダンとミケを自分を贄にした獣人と同じように見ているのかもしれないな。また捨てられるんじゃないかと恐怖心があるのかもな・・・


「取りあえず飯にでもする?」


腹も減ったので食べてから考えることに。


手っ取り早い焼き肉にした。飯を食いながらダンに街の様子を聞く。


「家畜は増えてんの?」


「あぁ、相場より高めで買ってるから続々と売りに来てるぞ」


今は金貨で支払う時はスカーレット家と交換したウエストランドの金貨で払っているらしい。ドラゴン金貨は結構手の込んだデザインにしたけど、最終的にウエストランドの通貨と交換する為の物だからほどほどで良かったのかもしれん。


「ほら、焼けたで。熱いからフーフーしてから食べや」


とミケがチルチルに肉を皿に乗せてやっても手を出さない。


「焼き肉食べたことないんか? 旨いから食べてみ」


俺にしがみついたまま食べようとしないチルチル。


「お肉も美味しいから食べな。ほらアーンして」


俺の顔をじっと見てからアーンするチルチル。口の中にフーフーしてから肉を入れてやる。


「おいひいっ」


「だろ? どんどん焼けて来るから食べな」


俺も肉を食べようとするとまたアーンするチルチル。そこにミケがフーフーして食べさせようとするとガチッと口を閉じた。


「何でやねんっ」


しっぽを膨らませて怒るミケ。


「そうやってすぐに怒るから怖いんだよ。いきさつを話したろ? もっと優しくしてやれ。お前が一番この子の気持ちが解るんじゃないのか?」


「そやかて・・・」


初めてのハーフ獣人仲間なのに自分に懐かないチルチルにブクッとむくれるミケ。


チルチルを俺の膝の上に乗せて自分の口とチルチルの口に交互に焼肉とご飯を運んだ。


途中でシルフィードもダンも食べさせようとしたがダメで、ドワンからは恐る恐る食べた。


チルチルにとって俺とドワンは自分を守ってくれる人だと認識しているのだろう。ドワンが上機嫌だったのは言うまでもない。


夜、一緒に寝てやる。じっと丸まって俺のそばから離れないチルチル。少し落ち着いたら浅い眠りに入り、俺の胸をモミモミし始める。ミケもこんなんだったな。



朝起きるとやられてしまっていた。おねしょだ。怖い夢を見たのかもしれない。とても申し訳なさそうな顔で泣きそうなので、クリーン魔法を掛けて何もなかった事にしてやった。


「大丈夫。怖い夢を見たんだろ? 皆には内緒にしててやるから」


グスッと泣きそうになるチルチルは、


「怒る?」


と聞いてきた。


「怒らないよ」


そう答えてチルチルをぎゅうっと抱き締めるゲイルであった。










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