第622話 獣人の森

褐色小娘のオトンとスパイス仕入れの打ち合わせ。純金で支払いOKらしい。どうやら砂の国の通貨は元々金だったらしく、純金はことさら価値があるらしい。


街中ではセントラルの通貨しか使えないけど、なにやらやりようはあるらしい。


「領主って獣人を奴隷とかにしてる?」


「前の領主は断罪されたから今はどうやろな?」


「領主が変わって変化あった?」


「いや、通貨が変わったぐらいやな。そやけどこの通貨が癖もんでな」


と、金貨を見せてくれる。


「これは、うちとイーストランド専用の通貨や」


金貨をよく見てみろと言われるのでこっそり鑑定すると14金と出た。ドワンもじっくり見て重さを手で図る。


「これ、金メッキじゃろ?」


「そうや、俺達の金もこいつに交換させられたんや。よそから来た商人にこれで支払いしようとすると断られる。純金で払ってくれんのは大助りなんや」


「純金で払ってるのバレたらヤバくない?」


「あいつら自分の所に金入ってきたらそれでええから庶民が何してるか見とらん。まぁ、普通に暮らしとるやつらに金貨はあまり関係無いしな。困っとんのはウチみたいな卸しやっとるところと輸入を扱ってたやつらや。セントラルからの輸入はこいつで払うと5倍以上支払いせなあかんから実質イーストランドからしか輸入出来へん」


「何輸入してたの?」


「鍋とか塩やら食料やな。このあたりはあんまり肉類が手に入らんからな。普通は魔物を狩りに行ってそれを食うてるんや」


南に下ると森があるらしいけど、強い魔物が多く旨くもないらしい。砂にすむ魔物、トカゲのデカイのやミミズのデカイのとかを狩るらしい。


晩御飯をごちそうになると、良い取引をしてくれるお礼だと牛肉の干肉をスパイスで煮込んだ物だった。これはこれで旨いけど、最高のご馳走だと言われたら残念な感じだ。


試しにトカゲも食べさせてもらうと、パサッとした硬い鶏肉みたいだ。やや臭みもあるのでスパイスは重要だな。ミミズはもっと臭いらしいので俺には無理だろう。家畜はヤギと鳥。それも貴重らしい。


他にはオアシスに魚がいるらしいけど、庶民には手に入らないほどの高級品らしいので、保管してあったサバを焼いてやる。煙と匂いが出るとまずいので、クリーン魔法を掛けながら焼いた。後は白ご飯。


「こ、こんなんウチ初めて食べた・・・。幸せや」


「これはどこで手に入るんやっ?」


「ウエストランド王国の海があるところ」


「なぁなぁ、こんなん毎日食べてるんか?」


「食べようと思えば食べれるけどね」


「なぁ、ウチを連れて帰らへん?」


「俺達はまだ東に行くんだよ。時々来るときに持ってきてやるよ」


そういうと小娘は喜んだ。名前はシェアラというらしい。オトンはパズール。今度オカンとアニキも紹介したるとか言われたけど別に紹介していらない。俺が欲しいのはスパイスだけだ。


「獣人ってどこに住んでるんだ?」


「ここからもう少し東に行って、南下した森の中に集落が点在しているはずや。たまにイーストの奴等が奴隷にするために荒らしにいきよるから移動してるんちゃうかな?」


「ここにいる獣人は?」


「ここで働いてたらイーストに拐われる事はないからな、逃げて来たような奴等や」


「なるほどね」



昼間はめっちゃ暑かったのに、夜はめっちゃ寒かった。


朝も寒いので豚汁とだし巻き玉子、ご飯にしておいた。それをシェアラはうっとりとして食べていた。


翌日もざっくりと街中を見学して東に進んだ。


「おやっさん・・・」


「獣人を探しにいくんじゃろ?」


何も言わない間にそういうドワン。砂の街近くに座標を置いて東に進んでから森を目指して南下する。


どんな魔物がいるか分からないので調査の為に徒歩で森に入る。珍しいのが居たらミグルのお土産にしよう。



確かに魔物がいるけど虫系で嫌になる。でっかい蚊とか蟻とか。たいして強くはないけど数がね・・・


環境に優しい土の玉でピシピシとやっつけていく。後は猫系と思われる魔獣。じっと潜まれてると気配がものすごく探りにくいのだ。なんか殺すのはミケを思い出して気が引けるのでファイアボールを浮かべて追い払うだけにする。



「ヒック グスグスっ ヒック・・・


怖っ・・・ 微かにどこからか女の子の泣き声らしきものが聞こえて来る。


「おやっさん、こんな鳴き声する魔物っている?」


「いや、知らん。ワシもここは初めてじゃからの」


こんな生い茂った暗い森で女の子の泣き声なんてする訳がない。見知らぬ魔物の罠なのか? とか思ったけど気にはなる。


「ちょっと見に行ってみようか?」


「十分気を付けろよ」


泣き声か鳴き声か分からないが途切れ途切れに聞こえる方向に慎重に近付く。


ガバッ


「うわっ!」


「どうした坊主っ」


木を背中に気配を探っていたらいきなり後ろから抱き付かれた。心臓がばくばくしている。


「坊主っ! 木の魔物トレントじゃ! そいつの魔力を吸えっ」


ドワンも足元から蔦をからめられている。


一気に抱き付かれたトレントから魔力を吸ってボロボロにしてドワンを助けにむかう。そしてドワンに絡み付いた蔦も一気に枯らした。


「ふぅ、助かったわい」


「おやっさん今の魔物?」


「木みたいな魔物じゃ。ほとんど動かんとじっと獲物を待っておるんじゃ。気配もせんから坊主がおらなんだらヤバかったわい」


「あの泣き声はこいつの仕業?」


「いや、違う。あいつらはじっと待つだけじゃ」


そう言われて耳をすますとまだヒックヒックと聞こえて来るので取りあえずそこへ向かう。


「坊主、おるぞ。あやつじゃ」


あやつとはフォレストグリーンアナコンダだ。小さい頃に見た時は怖くて動けなくなったけど、もう大丈夫。俺は強い!


ややトラウマ気味の心に自分は強いと言きかせる。あいつより強い魔物を瘴気の森で倒して来たのだ。


木々が生い茂っているので、今までの愛用してきた短い方の魔剣を構えて泣き声のする方向へそのまま向かう。トレントにも気を付けて・・・


俺達を遠巻きに付いて来た猫系の魔物の気配がザッと離れた。


来るっ。


蛇の気配を察知したのだろう。生臭い臭いも感じ取れる。 止まってドワンと背中を合わせて襲撃に備えた。



「イャーーーっ」


ちっ、泣き声から悲鳴か。蛇はあっちをターゲットにしたなっ。


ダッとダッシュで叫び声がした方向に走ると、どでかいフォレストグリーンアナコンダ?が小さな女の子を食べようとしていた。


チュドドドドドっと土魔法で連射して蛇をこちらに向ける。


「坊主っ、先に子供じゃっ」


ドワンが蛇と対峙した隙に女の子を掴んで待避。ドワンが首をもたげた蛇に斬りかかる。


「おやっさん、避けてっ」


ズンっ。


俺が叫ぶとドワンは斬りかかった体制から横っ飛びしたので、下から土の槍で頭を貫いた。


頭を串刺しにされた蛇は身体をビダンビダンと暴れまくる。周辺の木々がそれになぎ倒されていく。助けた子供は俺に必死にしがみついていた。


10分くらい暴れ続ける蛇を見ているとだんだんと動かなくなった。


「おやっさん、これあの蛇と同じかな?」


ガタガタと震え続ける子供を抱き締めながらドワンと倒した蛇を見る。


この蛇は白蛇だ。よく見るとフォレストグリーンアナコンダと同じような模様があった。アルビノ種なのだろう。


ちょうどいい。ミグルのお土産に魔道バッグにしまっておいた。結婚祝いだと言ったら怒るだろうか?


女の子はシャツとパンツのみ。ミケのような耳としっぽがある。毛なみはイリオモテヤマネコとかみたいな感じだ。


「もう蛇はいなくなったから大丈夫だよ」


そう言っても震えは止まらない。そりゃあんなのに食べられかけたらこうなるよな。


よく見るとあちこち傷だらけなので治癒魔法を掛ける。震える小さな身体は痩せている。どうしてこんな所に一人で居たのだろうか?


また他の魔物に襲われる可能性があるので、土魔法で壁を作って安全を確保する。俺にしがみついていて離れないのでヨシヨシしてやる。


ずっとそうしていると落ち着いて来たので飯にしよう。魚食べるかな? 魔道バックからアジの干物を出してドワンに焼いてもらう。俺はご飯を炊こう。


じっとその様子を見ていると子供はお腹がクウと鳴った。


「もうすぐ出来るからね」


ご飯は食べ方が分からないだろうから、小さめのおにぎりにしてやる。ドワンは焼けたアジをほぐし、骨をとってやっていた。顔に似合わず芸が細かい。


「さ、ご飯食べよ」


そういうと食べていいの? みたいな顔で俺を見る。言葉が通じていないのだろうか?


ほぐしたアジを少しつまんで口の中に入れてやると、耳としっぽがピンっと立った。ミケが初めて旨いものを食べた時の反応と同じだ。


「美味しいか?」


コクコク


言葉は分かってんだな。


その後ガツガツと食べる子供。よっぽどお腹が空いていたのか旨いのかわからんけど、お腹が痛くならんように食えよ。


さて、この子供はどうしますかね? ご飯を食べ終わったら親探しだなこりゃ。


そう思いながらゲイルとドワンもアジの干物をたらふく食べたのであった。

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