第621話 砂の国

製麺所で麺を仕入れてこってりをお供え。お下がりは味が薄くなって俺にはちょうど良かった。



「じゃ、おやっさん行こうか」


今日はセントラルより東、イーストランド王国がどうなってるか調査に出るのだ。


セントラルにやられてどの程度ボロボロになってるのか確認する必要がある。目的はイーストランドの解放だけど、獣人を奴隷にしているような国だから、場合によって国は放置で奴隷だけの解放を目指す。


一応ダンにはここに獣人を連れて来るかもしれないと断りを入れておいた。セントラル出身の移民達は獣人が奴隷になっていることを良く知っている。ミケはハーフ獣人だけど領主夫人だし、天性とも言える愛されキャラがあるので受け入れられたが、本当の獣人はどうだろうか? セントラルに行った時にチラッと働かされている獣人を見たからな・・・


海回りで行こうかとも思ったが、他にも国があるかもしれないので上空に上がって陸地を飛ぶことに。


飛んでしばらくすると、ワイバーンの群れに遭遇。ドラゴンシティに割りと近い場所なので、バルカン砲で駆逐しておく。こんなのがあそこに飛来したら大変な事になる。


「ワイバーンがあんなに群れとるのは初めて見たぞ」


「どっから来たんだろうね?」


「どうじゃろうな。もしかしたら巣立ちシーズンとかあるのやもしれんの」


なるほど。じゃあ、この近くに巣が出来てたのかもしれないな。今までワイバーンが出た所はどこも岩場だったから、てっきり生息域はそんな所だろうと思い込んでいた。気を付けよう。



ゆっくりと飛び続ける。


「あれはまだセントラルの領地だよね?」


上空から見ると村や街が点在している。まだセントラルに近いから他国ではないだろう。そのまま飛び続けると砂漠地帯のような所になったので、高度を落として様子を探る。所々オアシスのような所があり、そこには家らしき物が点在している。もう少し飛ぶと大きなオアシスがあり、街があったので飛行機を止めてバイクで向かう。もうバイクはバレてもいい。徒歩で訪れる方が怪しいのだ。


バイクで街を訪れるとざわつかれた。


「お前らどっからきたんや?それになんやそれ?」


あー、懐かしき関西弁。みんなミケだ。


「これ? 魔道具やで。この辺ではみかけへんやろ?」


「なんや、お前もこの辺のやつらやったんか?」


「ちゃう。ずっと西から来たんや。ここはなんて国なん?」


「国か・・・ ちょっと前までは砂の国とか呼ばれてたんやけどな、今はセントラルになっとるわ」


ここも飲み込まれたのか・・・


「ここでウエストランドのお金って使えるん?」


「はぁ? お前らあんな西の端から来たんか。ひょっとして商人か?」


「冒険者や。世界中を旅して回ろうと思てな、ずっと東に進んで来てん」


流暢な関西弁を話す俺はすぐに受けいれられた。


どうやら通貨はセントラルの物しか使えないらしく、ウエストランドの通貨はセントラルになってから両替すらしてはダメらしい。これは西の商人を潰す為のものかもしれない。


街を散策するとスパイス類が安価で大量に売られている。カレーのスパイスはここで仕入れてたのか。もしくはセントラルが仕入れてそれが流れてたのかもな。


お金はあるのに買い占められないこの辛さよ。スパイスの栽培も始めてはいるが魔法を使っても上手く発芽しなかったり、魔法を使わないと育たないものも多い。この新鮮なスパイスなら発芽するだろうに。


じーっと恨めしそうに露店を見て回る。見たこともないやつもたくさんある。めっちゃ欲しい。


しかし、スパイスは安いけど、水がべらぼうに高い。あのオアシスしか水源がないのだろう。そしてその水源は権力者が押さえてるんだろうな。


「兄ちゃん、見てんとなんか買うていきーな」


露天ではなく、店を構えたスパイス屋みたいだな。そこの店員だろう褐色の同じ年頃の女の子に声を掛けられる。


「買いたいのは山々なんやけどな、ここの通貨持ってへんねん」


「なんや金無しかいな。ほならさっさとあっちに行き。商売の邪魔や」


しっしっとされてしまった。きりっとしたきつめの美人タイプにしっしっとされるのはショックだ。若い頃にキャッチをしていたお姉さんを思い出す。声かけられてお金が無いと言ったらしっしっとされた経験があるのだ。


「坊主、ほれ見てみろ」


重そうな荷物を獣人が運んでいる。ハーフのミケと違ってちゃんと動物の顔だ。手とかも人間の手ではない。


「なんや獣人が珍しいんか?」


さっきのしっしっとした小娘にそう言われる。


「うちの国には獣人がおらんからね。あれは奴隷なん?」


「奴隷とはちゃうけど、似たようなもんやな。あいつら計算とかでけへんし、力仕事くらいしかさせられへんねん」


奴隷ではないのか・・・


「ちっ、もう水無いやんか・・・」


獣人を見ていると小娘が水瓶の水を飲もうとして残りがないのを知って水瓶を蹴る。


「ここは水が高いんやね」


「当たり前やん。領主の所でしか買えへんからな。稼いでも稼いでも水代でほとんど消えんねん。せんない話やで」


せんないって物凄く久しぶりに聞いたな。


「このスパイス全部売ったらこの水瓶何杯くらいになるん?」


「スパイスなんてどこでも売ってるやろ?この出してるやつ全部売って水瓶1杯くらいにしかならんねん」


「なら、その水瓶満タンにしたら、このスパイス全部くれたりする?」


「えっ? あんたら水なんて持ってへんやんか?」


「俺は魔法使いなんだよ。飲み水ぐらい出せるよ」


「なんや、急に変な喋り方して。ウチを騙そうとしてるんちゃうやろな?」


「なら、試しにそのコップ貸してみ」


胡散臭気な顔をしてコップを出す小娘。


じょろじょろと水を入れてやる。


「わっ、ホンマや。これ飲めるんか?」


「軟水やから飲みやすいで」


軟水? とか聞いた事が無い言葉にハテナマークが浮かぶけど飲む小娘。


「なんやのこれ・・・ こんな旨い水生まれて始めて飲んだわ」


どうやらここの水はオアシスの水をそのまま飲むらしい。そりゃ池の水なんてまずいだろ。山の中の湧水とは違うんだから。


コソッ


(なぁ、ホンマにここのスパイスを全部あげたら、この水瓶いっぱいにさっきの入れてくれるん?)


急に小声になる小娘。


「いいよ」


(ほな、こっちに来て)


店の中に通される。


「どうしたん?」


「あんたら知らんみたいやから教えといたるけどな、ここで勝手に水出したらあかんねん」


え?


「水出せる魔法使いも魔道具も庶民には禁止されてんねん」


「なんで?」


「そんなん決まってるやん。偉いさんが水の利権持っとるからや」


「なら、俺が水出したのバレたらまずいやん」


「あんたらこの事知らんのやったら初めてここに来たんやろ? ほならバレへん。バレても1回目は注意されてしまいや」


ホンマに大丈夫なんやろな? と確認して、店の中にあるさっきのより大きめの水瓶を満タンにしてやった。


「こんなにおもいっきり水飲んだん初めてやわ」


「氷入れたろか?」


「そんなんまで出来るん?」


ゴロゴロっと氷を入れて水を注いでやる。


「ふわぁ、こんなん初めてやわ。おおきにな。ここにあるスパイス全部持って行き。店先のが全部無くなったら怪しまれるよってな」


やっぱりまずいんじゃねーか。


「ほんなら、支払いはこれでしたということにしとき」


小さな純金の塊を差し出す。


「あんた、これ金ちゃうん?」


「純金やで。これぐらいで足りるか?」


「足りるどころかめちゃくちゃ多いわっ。こんなん商品全部渡しても多いし、釣りもだされへん」


「釣りはいらん。その代わりお願いがあんねんけど」


「何っ? まさかウチの身体寄越せっていうんちゃうやろな?」


「ちゃうわっ。お前、秘密を守れる人か?」


こっそり温玉したら綺麗な魂をしていたので大丈夫かもしれないと思って聞いてみる。


「なんの秘密や? 水のことやったら絶対にしゃべらへんで」


「いや、時々ここでスパイスを大量に買いたいんやけど、純金で支払いさせてくれへんか?」


「そら、商売やからかまへんけど。大量てどれくらいなんや?」


「毎日今の分くらい」


「は? そんなんどないして持って帰んねん?」


「魔道バッグいうてな、これくらいなんぼでも入んねん。そやけど、毎日毎日大量に買ったらそっちも怪しまれるやろ? なんかええ方法ないか?」


「ほんまにそんな大量に買うてくれるんか?」


「俺の国ではスパイスがほとんど手に入らんねん。だから大丈夫や。まぁ、実際には毎日は来られへんから月イチとかになるけど、そんときに大量に用意しておいて欲しいんや。で、支払いは純金でいけるか?」


「ウチのオトンに相談してみるわ。ウチのオトンはスパイスの卸をやってるさかいにな」


変なことせえへんという約束でここに泊まっていけと言われた。小娘は実家の卸問屋に行って父親を呼んでくるらしい。


今夜はここで宴会になりそうだな。







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