第620話 ドン爺喜ぶ
「わーはっはっはっ、どうじゃエイブリック! ワシの方が大きいじゃろっ」
ドン爺は大きな鯛を釣ってご機嫌だ。機嫌の良いドン爺は昔のドン爺と同じだった。
俺達は大型船を借りて釣りに来ている。エイブリックも来たのは誤算だったが、ドン爺の事が心配だったのかもしれない。
ポーション研究所で開発した乗り物酔いの酔い止めは眠くなる成分と回復薬を混ぜて作ってある。眠気成分だけが三半規管に作用し、眠気は回復薬で止める優れもの。バフォンガの屋敷の眠り薬が役に立ってくれている。
「マリアは乗り物酔いしないみたいだな」
ドン爺の為にミーシャとマリアも連れてきた。ドン爺がご機嫌になるのは必然だった。
マリアはドン爺の釣った鯛を見てキャッキャと喜び、眠くなってくると俺にぎゅぅとしがみつく。もう可愛くて心臓が飛び出しそうだ。
ゲイルは釣りをせずにマリアを抱いて操船に専念していた。
鯛はそこそこ釣れたので、岩礁地域に移動して青物を狙う。カンパチを食いたいのだ。
金脈を探すのに使ったレーダーは魚群探知機にも使えた。ただ、対象の魚をセットしないと反応しないので、餌のアジを釣ってセット。アジが大量にいるポイントで落とし込み釣りをやるのだ。
マリアをミーシャに返して、やり方を皆に教える。
「この仕掛けを下まで落として行くと、アジが食い付くからそのまま底まで落として。で、少しずつ巻いて反応を探ってね。大物がアジに近付いたらアジが逃げるから、そこで巻くのを止めて大物がアジを食うのを待ってね」
手本を見せながら先ずアジが食うと穂先がこんな感じとやりながら説明。底まで付いてゆっくり巻いてくるとピクピクがびくびくびくっに変わる。
「この動きは今、大物に狙われてアジが逃げてるんだよ。だから巻くのを止めてやると・・・」
ぐっと穂先が水面に突き刺さるように引き込まれる。
「来たっ!」
カンパチだと根に潜られるので、一気に煽って底から引き離して巻く。力と体力勝負だ。
「ふんぬっ」
気合いを入れて釣ったのは立派なカンパチだった。血抜きして海水氷に付けておいた。
皆さっそく釣り始める。ちなみにドン爺のは魔道リールにしてあるし、ナルディックに補助を頼んであるから大丈夫だろう。
俺はアジを確保しようとするとシルフィードもサビキを投入。二人で夕食のアジを確保していく。良型のサバも釣れるのでミケのお土産に。
俺はあまり好きではないけど、〆サバも作ろう。多分ダンが食うだろうからね。あ、バッテラと焼きサバの棒寿司も作ろう。焼きサバの棒寿司は好きなのだ。
魚屋ブリックも連れて来たので遠慮なく釣っていく。サバは首を折ってクリーン魔法をかけて海水氷へ。その後に保存魔法を掛けたのでまず食中毒の心配はない。
皆もたくさん釣って満足したようなので帰港する。
マリアに生魚はまだ怖いので塩釜で蒸し鯛を作ってやる。その間にサバの刺身を味見する。さっきの岩礁ポイントはサバもアジも居着き型、つまり金サバ、金アジのようでめちゃくちゃ旨い。
ブリックに〆サバとバッテラ、焼きサバの棒寿司を教えていく。シルフィードには鯛飯を炊いて貰った。もちろん刺身、タタキ関係もバッチリだ。
皆の分とは別に2皿余分に作り、日本酒と共にお供えしておいた。呼んでも良かったんだけど、ドン爺やエイブリックにまた説明するの面倒だからお供えで済ます。
お下がりを一口食べると味が薄かったので、申し訳ないけど夜サビキの撒き餌にしよう。〆サバは明日以降が食べ頃だろうから、ドラゴンシティでダン達と食べる時に呼んでやればいいか。
ドン爺は終始ご機嫌でミーシャに釣った鯛自慢をしてたので、その鯛を塩釜蒸しにしておいた。ドン爺がマリアにそれを食べさせている。釣りをしている光景や今のシーンをビデオとカメラに撮っておいた。ビデオは気軽に見れないから写真をアルバムにしてドン爺にプレゼントしてやろう。これで寂しい時間を埋める事が出来るかもしれない。
飯の後に順番に風呂に入る。ドン爺ははしゃぎ過ぎたようで疲れているみたいだからナルディックと初めに入ってもらった。アーノルドやドワンは今からまだ釣るというので、俺は当然の如くマリアと風呂に入る。
キャッキャと喜ぶマリアと風呂を楽しみ出るとミーシャは自分と入るとお風呂に入りたがらなかったりすることが増えて来たのにと言っていた。もうイヤイヤ期なのか。早いもんだ。
下に降りるとアーノルド達が釣りを止めて飲んでいた。
「ゲイル、父上を連れて来て良かったぞ」
「楽しそうだったよね」
俺もリンゴのお酒でお付き合いする。
「王は最近元気がないのか?」
ドワンはまだドン爺の事を王と呼ぶ。
「あぁ、ボーッとしたりすぐに怒りだしたりとかだな」
「人は歳を取るとそうなるのか?」
アーノルド達は早くに両親が死んでいるのでそういう経験はない。
「どうだろうな。俺にもよくわからん。が、今日は昔の父上と同じだった。もっと早くにこういう機会を作るべきだったのかもしれん」
エイブリックは蒸留酒の水割りを飲みながらそうしみじみと言う。
「ゲイル、父上を時々お前の所に行ってもらうようにしてもいいか?」
「ぜんぜんいいよ。前にも言ったけど、うちに住んでもらってもいいと思ってるぐらいだから」
「そうか。お前には世話になりっぱなしだな」
「こっちもお世話になってるからね。何にも気にしなくていいよ」
翌日、短いお遊びは終わり俺達は王都に戻ったのであった。
俺とシルフィード、ドワンはドラゴンシティに向かう
仕事を終えて皆が結婚することをダン達に報告したあと飯に。
めぐみとゼウちゃんも呼んでみた。
「この〆サバって美味しい♪」
「本当ね。バッテラというのも美味しいわ。日本酒との相性もバッチリね」
「おう、ぼっちゃん。〆サバって旨ぇな。なんで今まで作んなかったんだ?」
「俺、これ嫌いなんだよ」
「は?」
「酢で〆た魚ってダメなんだよね」
「ヒラメの昆布〆ってやつも酢で〆てあんだろ?」
「あれは昆布〆。酢は使ってなかったろ?」
「ウチもサバは焼いた方が好きやな。この棒寿司ってのもめちゃくちゃ旨いわ♪」
ちなみにシルフィードは〆サバ好き派だった。
「ねぇ、ぶちょー」
「何?」
「こってりが食べたいんだけど」
「は? お前、こっさり派だったろ?」
「そうなんだけどさぁ、ゲッとか思ってたけど、なんか無性に食べたくなるのよね・・・」
ゼウちゃんもうんうんと頷いている。
あれにはまると普通の食えなくなるぞ?
「今日は麺がないから無理だな」
「えー、ケチっ」
「しょうがないだろ。魚あんのにラーメンの用意なんてしてるかよ。帰ったらお供えしてやるから我慢しろ」
フンと拗ねやがるので、作ってあったラムレーズンを使ってアイスクリームを作ってやる。
「ほら、デザート作ってやったから拗ねんな」
「何これ?」
「アイスクリーム。ラムレーズンを入れてある。嫌いだったら他のフルーツにしてやるから」
「わっ、お酒の味がする」
「嫌いか?」
「好きっ♪」
・・・
・・・・
・・・・・
ダメだっ。こっちを向いて好きっと笑顔になっためぐみにちょっとキュンとしてしまった。ダンもドンっとミケに肘鉄を食らっている。
ゼウちゃんも美味しいわぁと手を頬にやって呟くとドワンも赤くなっていた。
シルフィードは俺がキュンとした事に気付いたのかプクッと脹れていた。
いかんいかん、見てくれは可愛いけど、めぐみはあれだ。そう、あれなのだ。すぐにイラっとさせるに決まってる。
「明日から毎日これをお供えしなさいよねっ」
べしっ
「痛ったぁ・・・! 何すんのよっ」
「調子に乗るからだ」
ほらな。
「いいじゃない。ケチっ」
「帰ったらこってりをお供えしてやるって言っただろ。何がケチだ」
「こってりお供えしてくれるの。やった♪」
うん、のーたりんは扱いやすくて良い。
その後何度もラムレーズンアイスを食っためぐみとゼウちゃんなのであった。
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